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アンティーク風で台付きの日時計がヤフオクに出品されていたので、迷った挙句に入札期限ぎりぎりで購入した。
僕にとっては宝物なのだが、理数系マインドを全く持っていない家族(特に母親)にとってはガラクタ同然の邪魔物なのだ。迷っていたのはそのようなわけである。
高さ80cm、円盤の直径は37cm。こういう青銅色のが前から欲しかったので、たびたびネットオークションで検索していた。青銅色ではあるがアルミ製である。実用になるかどうかよりも、家のベランダに置くインテリア(屋外なのでエクステリアか)としてぴったりだ。
幸い僕のほかに入札した人はいなかった。世の中広いし、こういうのが大好きな人っていそうなものだけど。。。
届いた日時計を組み立てて設置したのが記事トップの写真。2002年に実家を新築するとき、天体観測したりバーベキューしたりするようになるかもしれないから、ベランダの半分は広くして、屋根をつけていなかった。
文字盤に刻まれた時刻の配置も本物っぽい。いちばん外側の細かい目盛は15分刻みだ。インチキ製品だと時刻目盛が等間隔にふられてしまっている品もある。(写真はクリックで拡大するようにしておいた。)
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ノモス(三角板)の角度をiPhoneで見つけた角度測定アプリで計ってみると35度。東京の緯度に一致していることを確認。ノモスの先がちょうど天の北極を指すように日時計を設置する。
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円盤上には月の名前と数字が書かれている。これは読み取った時刻に対して分の単位で補正をするためのもの。つまり「均時差」の補正だ。時刻の数字はせっかくローマ数字で書かれているのに月の名前は英語表記。ラテン語表記だったらカッコいいのにと少しだけ思った。
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たとえばFEB(2月)の欄のDAYSには「3 14 27」、MINSには「10 10 6」、その下には「ADD MINUTES」と書いてある。ノモスを真北に向けて日時計を設置し、2月14日のときはノモスの影が指す時刻に10分を足すと正しい時刻が求められることになる。
この補正は「均時差(Equation of time)」というもので、年間を通じてこのグラフの黄緑色の曲線のように最大±15分の範囲で変化する。(CASIO計算サイトで均時差を計算)
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正しい時刻(平均太陽時)は次の計算式で求められる。
平均太陽時 = 視太陽時(真太陽時)- 均時差
均時差は次の2つの理由で生じる。この2つの影響を足すと均時差のグラフが得られる。
1)地軸が約23.45度傾いているため。(この影響は上のグラフの青線で表示。)
2)地球の公転速度が一定でないため。(この影響は上のグラフの赤線で表示。)
1)地軸が約23.45度傾いているため。(この影響は上のグラフの青線で表示。)
太陽をまわる地球の公転面に対する地球の自転軸(地軸)の傾きが垂直でなく、公転面の法線に対して約23.45度傾いている。
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地球の赤道を天球に投影したものを「天の赤道」と呼び、地球から見た太陽の位置を天球上に投影し、その軌跡のことを「黄道」と呼ぶ。地軸が約23.45度傾いているので、天の赤道と黄道は同じ角度だけ傾いている。(黄道傾斜角)
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そのために時計の進みに利用する「平均太陽」と実際の太陽の進み、つまり「真太陽」の天球上の位置は1年を通じてこのようにずれる。横方向(経度方向)のずれが時刻のずれとしてあらわれてくる。
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2)地球の公転速度が一定でないため。(この影響は上のグラフの赤線で表示。)
地球はケプラーの法則に従う楕円形の公転運動をしている。
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そして一定時間に地球と太陽を結ぶ直線が動いてできる領域の面積は等しい。(ケプラーの第2法則)
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つまり太陽に近いところでは角速度が大きく、太陽から遠いところでは角速度が小さくなる。また地球の自転の角速度はいつも一定だ。
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公転と自転の両方の効果が足されることで地球から見た太陽の動きは年間を通じて変化する。平均速度に対して遅くなったり速くなったりするのだ。
本来楕円を描いている地球の軌道だが、私たちが時計に使っている平均太陽時を地球の円軌道であらわし、均時差を使って地球の軌道を大げさに描くと次のようになる。上に掲載した直交座標で描いた均時差のグラフを極座標表示にしたものともいえる。これが平均太陽時と真太陽寺の違いをあらわし、均時差が0の日が1年に4回あることがわかる。(点線と実線が交わる4つの点)
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ところで小学校の理科で学ぶように、地上から見た太陽の日周運動は季節によってこのように違っている。
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1日の太陽の高度の変化も季節によってこんなに違う。
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太陽は毎日正午に南中するわけではない。それは均時差の2つの要因によって、見かけの太陽の進行に進みや遅れがでてくるからだ。(CASIO計算サイトで南中時刻を計算)
そのために毎日同じ時刻に太陽の位置を記録すると、その軌跡は大きな「8の字」を描く。この8の字曲線は「アナレンマ」と呼ばれている。これを見ると均時差で時刻の補正が必要なことが一目瞭然だ。
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均時差の補正計算(つまりアナレンマ)だけでなく大気差まで補正し秒単位の精度を誇る前代未聞の超高精度多機能大型日時計がある。上原秀夫氏が開発したもので「天文精密日時計」として知られている。
多摩六都科学館(東京都西東京市)に設置された天文精密日時計(写真クリックで拡大)
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目盛り盤はこのようになっている。
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そしてこの日時計のミニチュア版は「組立 精密日時計」として市販されているのだ。
そして次は3Dプリンターで作ったデジタル日時計だ。日時計ではないが、先日は「書き時計」が話題になったがこのデジタル日時計もすごいと思う。詳細は以下のホームページでわかるが、自分で作ってみたい人のために3Dプリンター用の「デザイン・ファイル」がダウンロードできるようになっている。
3D-Printed Sundial Engineered to Display Time like a Digital Clock
http://www.mymodernmet.com/profiles/blogs/mojoptix-digital-sundial
さて、せっかく手に入れた日時計なので実際に使って正しい時刻が得られるか調べてみた。写真はクリックで拡大する。
僕の日時計は自由に回せるのだから、わざわざ向きを真北に合わせて時刻を読み取った後で均時差補正しなくても、最初から時計に合わせて日時計をおけばよいだろう。均時差のことをこれだけ詳しく解説してきたのに、安直に済ませてしまうところが僕らしい。
午前10時: 実験開始。台を回して10時ぴったりに位置を合わせた。
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午前11時: よしよし!影はぴったり11時を指している。
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正午: 12時だ。電波ソーラーの腕時計を置いてみた。ついでに充電もできる。どちらもソーラー時計なのがミソ。
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日時計の影を読み取るタイミングを腕時計で確認し、日時計の影が指している時刻を腕時計で確認する。1時間ごとこれを繰り返しているうちに自分が何をしているのか混乱してきた。なんだかソロカルのようなことになっている。
ソロカルは電卓とそろばんを組み合わせた清貧のことで、電卓が大衆化し、そろばんに代替する中、そろばんに慣れていた人は足し算はそろばんで、かけ算を電卓で計算したりした。また、電卓が正しい計算をしているか自信がないため、そろばんで確かめたりもした。ソロカルは、 こうしたそろばんから電卓への変わり目に生まれた電卓である。元気だった頃のシャープ(株)の製品だけに「目のつけどころがシャープな製品」のうちのひとつだ。
午後1時: 曇ってしまった。「心の眼」で見ると影が見えてくる。
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午後2時: 天気が回復した。正しく2時を指している。
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午後3時: 太陽が少し雲の中に入りつつある。ぎりぎり撮影できた。影も3時を指している。
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この後は完全に曇ってしまったのだが、もし晴れていたとしても今回の設置場所だと3時半以降は日時計が日影に入ってしまうので撮影はどのみちできなかった。
とりあえず、まっとうに使える日時計であることが確認できたのがよかった。
購入を考えはじめた方のためにリンクを作っておこう。据え置きタイプだけでなく腕時計タイプの物もある。
日時計: Amazonで検索する ヤフオクで検索する
腕時計タイプ: Amazonで検索する ヤフオクで検索する
関連ページ:
日時計(英語版ウィキペディアの翻訳)
http://asait.world.coocan.jp/kuiper_belt/sundial/sundial.htm
日時計(CITIZENのサイト)
http://citizen.jp/pr/hidokei.html
小原式日時計
http://www17.plala.or.jp/hidokei-ohara/
カルテクの日時計:人が立つと自分の影で時刻が分かるようになっている。(卒業生の寄贈)
http://web.gps.caltech.edu/~asimow/AlumniAssociationSundial.htm
関連記事:
「太陽光線ネタ」の記事は、これまでに2つ書いている。
東の窓から西日が。。。
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f97ca7040ce6512eed1cc6d3896eaa6c
ソーラー充電器のテスト
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0e5fbaf30b6a9505887a87d185e52211
また「時刻の測定ネタ」の記事も書いている。
江戸で物理学を説く: ニュートン力学 (其之弐)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c3ce5ada2f0d2b520c3bb488ddee2c09
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アンティーク風で台付きの日時計がヤフオクに出品されていたので、迷った挙句に入札期限ぎりぎりで購入した。
僕にとっては宝物なのだが、理数系マインドを全く持っていない家族(特に母親)にとってはガラクタ同然の邪魔物なのだ。迷っていたのはそのようなわけである。
高さ80cm、円盤の直径は37cm。こういう青銅色のが前から欲しかったので、たびたびネットオークションで検索していた。青銅色ではあるがアルミ製である。実用になるかどうかよりも、家のベランダに置くインテリア(屋外なのでエクステリアか)としてぴったりだ。
幸い僕のほかに入札した人はいなかった。世の中広いし、こういうのが大好きな人っていそうなものだけど。。。
届いた日時計を組み立てて設置したのが記事トップの写真。2002年に実家を新築するとき、天体観測したりバーベキューしたりするようになるかもしれないから、ベランダの半分は広くして、屋根をつけていなかった。
文字盤に刻まれた時刻の配置も本物っぽい。いちばん外側の細かい目盛は15分刻みだ。インチキ製品だと時刻目盛が等間隔にふられてしまっている品もある。(写真はクリックで拡大するようにしておいた。)
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ノモス(三角板)の角度をiPhoneで見つけた角度測定アプリで計ってみると35度。東京の緯度に一致していることを確認。ノモスの先がちょうど天の北極を指すように日時計を設置する。
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円盤上には月の名前と数字が書かれている。これは読み取った時刻に対して分の単位で補正をするためのもの。つまり「均時差」の補正だ。時刻の数字はせっかくローマ数字で書かれているのに月の名前は英語表記。ラテン語表記だったらカッコいいのにと少しだけ思った。
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たとえばFEB(2月)の欄のDAYSには「3 14 27」、MINSには「10 10 6」、その下には「ADD MINUTES」と書いてある。ノモスを真北に向けて日時計を設置し、2月14日のときはノモスの影が指す時刻に10分を足すと正しい時刻が求められることになる。
この補正は「均時差(Equation of time)」というもので、年間を通じてこのグラフの黄緑色の曲線のように最大±15分の範囲で変化する。(CASIO計算サイトで均時差を計算)

正しい時刻(平均太陽時)は次の計算式で求められる。
平均太陽時 = 視太陽時(真太陽時)- 均時差
均時差は次の2つの理由で生じる。この2つの影響を足すと均時差のグラフが得られる。
1)地軸が約23.45度傾いているため。(この影響は上のグラフの青線で表示。)
2)地球の公転速度が一定でないため。(この影響は上のグラフの赤線で表示。)
1)地軸が約23.45度傾いているため。(この影響は上のグラフの青線で表示。)
太陽をまわる地球の公転面に対する地球の自転軸(地軸)の傾きが垂直でなく、公転面の法線に対して約23.45度傾いている。
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地球の赤道を天球に投影したものを「天の赤道」と呼び、地球から見た太陽の位置を天球上に投影し、その軌跡のことを「黄道」と呼ぶ。地軸が約23.45度傾いているので、天の赤道と黄道は同じ角度だけ傾いている。(黄道傾斜角)
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そのために時計の進みに利用する「平均太陽」と実際の太陽の進み、つまり「真太陽」の天球上の位置は1年を通じてこのようにずれる。横方向(経度方向)のずれが時刻のずれとしてあらわれてくる。
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2)地球の公転速度が一定でないため。(この影響は上のグラフの赤線で表示。)
地球はケプラーの法則に従う楕円形の公転運動をしている。
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そして一定時間に地球と太陽を結ぶ直線が動いてできる領域の面積は等しい。(ケプラーの第2法則)
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つまり太陽に近いところでは角速度が大きく、太陽から遠いところでは角速度が小さくなる。また地球の自転の角速度はいつも一定だ。
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公転と自転の両方の効果が足されることで地球から見た太陽の動きは年間を通じて変化する。平均速度に対して遅くなったり速くなったりするのだ。
本来楕円を描いている地球の軌道だが、私たちが時計に使っている平均太陽時を地球の円軌道であらわし、均時差を使って地球の軌道を大げさに描くと次のようになる。上に掲載した直交座標で描いた均時差のグラフを極座標表示にしたものともいえる。これが平均太陽時と真太陽寺の違いをあらわし、均時差が0の日が1年に4回あることがわかる。(点線と実線が交わる4つの点)
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ところで小学校の理科で学ぶように、地上から見た太陽の日周運動は季節によってこのように違っている。
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1日の太陽の高度の変化も季節によってこんなに違う。
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太陽は毎日正午に南中するわけではない。それは均時差の2つの要因によって、見かけの太陽の進行に進みや遅れがでてくるからだ。(CASIO計算サイトで南中時刻を計算)
そのために毎日同じ時刻に太陽の位置を記録すると、その軌跡は大きな「8の字」を描く。この8の字曲線は「アナレンマ」と呼ばれている。これを見ると均時差で時刻の補正が必要なことが一目瞭然だ。
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均時差の補正計算(つまりアナレンマ)だけでなく大気差まで補正し秒単位の精度を誇る前代未聞の超高精度多機能大型日時計がある。上原秀夫氏が開発したもので「天文精密日時計」として知られている。
多摩六都科学館(東京都西東京市)に設置された天文精密日時計(写真クリックで拡大)
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目盛り盤はこのようになっている。

そしてこの日時計のミニチュア版は「組立 精密日時計」として市販されているのだ。
そして次は3Dプリンターで作ったデジタル日時計だ。日時計ではないが、先日は「書き時計」が話題になったがこのデジタル日時計もすごいと思う。詳細は以下のホームページでわかるが、自分で作ってみたい人のために3Dプリンター用の「デザイン・ファイル」がダウンロードできるようになっている。
3D-Printed Sundial Engineered to Display Time like a Digital Clock
http://www.mymodernmet.com/profiles/blogs/mojoptix-digital-sundial
さて、せっかく手に入れた日時計なので実際に使って正しい時刻が得られるか調べてみた。写真はクリックで拡大する。
僕の日時計は自由に回せるのだから、わざわざ向きを真北に合わせて時刻を読み取った後で均時差補正しなくても、最初から時計に合わせて日時計をおけばよいだろう。均時差のことをこれだけ詳しく解説してきたのに、安直に済ませてしまうところが僕らしい。
午前10時: 実験開始。台を回して10時ぴったりに位置を合わせた。
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午前11時: よしよし!影はぴったり11時を指している。
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正午: 12時だ。電波ソーラーの腕時計を置いてみた。ついでに充電もできる。どちらもソーラー時計なのがミソ。
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日時計の影を読み取るタイミングを腕時計で確認し、日時計の影が指している時刻を腕時計で確認する。1時間ごとこれを繰り返しているうちに自分が何をしているのか混乱してきた。なんだかソロカルのようなことになっている。
ソロカルは電卓とそろばんを組み合わせた清貧のことで、電卓が大衆化し、そろばんに代替する中、そろばんに慣れていた人は足し算はそろばんで、かけ算を電卓で計算したりした。また、電卓が正しい計算をしているか自信がないため、そろばんで確かめたりもした。ソロカルは、 こうしたそろばんから電卓への変わり目に生まれた電卓である。元気だった頃のシャープ(株)の製品だけに「目のつけどころがシャープな製品」のうちのひとつだ。
午後1時: 曇ってしまった。「心の眼」で見ると影が見えてくる。
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午後2時: 天気が回復した。正しく2時を指している。
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午後3時: 太陽が少し雲の中に入りつつある。ぎりぎり撮影できた。影も3時を指している。
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この後は完全に曇ってしまったのだが、もし晴れていたとしても今回の設置場所だと3時半以降は日時計が日影に入ってしまうので撮影はどのみちできなかった。
とりあえず、まっとうに使える日時計であることが確認できたのがよかった。
購入を考えはじめた方のためにリンクを作っておこう。据え置きタイプだけでなく腕時計タイプの物もある。
日時計: Amazonで検索する ヤフオクで検索する
腕時計タイプ: Amazonで検索する ヤフオクで検索する
関連ページ:
日時計(英語版ウィキペディアの翻訳)
http://asait.world.coocan.jp/kuiper_belt/sundial/sundial.htm
日時計(CITIZENのサイト)
http://citizen.jp/pr/hidokei.html
小原式日時計
http://www17.plala.or.jp/hidokei-ohara/
カルテクの日時計:人が立つと自分の影で時刻が分かるようになっている。(卒業生の寄贈)
http://web.gps.caltech.edu/~asimow/AlumniAssociationSundial.htm
関連記事:
「太陽光線ネタ」の記事は、これまでに2つ書いている。
東の窓から西日が。。。
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f97ca7040ce6512eed1cc6d3896eaa6c
ソーラー充電器のテスト
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0e5fbaf30b6a9505887a87d185e52211
また「時刻の測定ネタ」の記事も書いている。
江戸で物理学を説く: ニュートン力学 (其之弐)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c3ce5ada2f0d2b520c3bb488ddee2c09
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