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多次元空間へのお誘い(14):DNAの複製について

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DNAの複製メカニズムに新たな発見(2011年)

DNAの複製について

二重螺旋 完全版: ジェームズ・D. ワトソン」の紹介記事にも書きましたが、DNAはとてつもなく長い分子です。1つの細胞の中にあるDNAを1本にして伸ばすと2メートルの長さにもなるそうです。細胞分裂するたびにこれが複製され、絡まらないで2つの細胞に分かれることは1953年にDNAの二重らせん構造が発見されたとき、大きな謎として残されました。

DNAの複製は「半保存的複製」と呼ばれているものですが、メセルソンとスタールが行った実験によってこれが証明されたのが1957年のことです。この実験は当時開発されたばかりの超遠心機を用いて高分子を比重によって分離する密度勾配遠心法を使ったもので「生物学でもっとも美しい実験」と評価されました。

けれども、この実験は「半保存的複製」が行われているという事実を確認しただけのことで、DNAが絡まないで複製されるメカニズムが理解されたわけではありません。

二重らせんが分離するしくみが数学のトポロジー理論を使って解決されたのは1995年のことです。その論文はここにPDF公開されています。

Sumners, AMS Notices, 1995:
http://homepages.math.uic.edu/~kauffman/sumners.pdf

すべて理解しようとするならば、この論文や「DNAトポロジー」というキーワードで検索して出てくる内容を読み解かなければならないわけですが、これは素人が理解できるレベルをはるかに超えています。

この連載記事は「中学生や高校生にも理解できるように」という趣旨で書いていますので、専門用語は省き、ビジュアルに理解するという方針で説明することにしましょう。


まずDNAの複製についてですが、高校の生物では「DNAの半保存的複製」の単元で次のような図を使って説明しています。ジッパーのようにほどけていくわけです。ほどけた後、A、T、G、Cの4つの塩基が複製されます。



けれども、この図はどうも腑に落ちません。2本のひもがらせん状に撚られたロープを次のようにほぐしていくと、次のように捻じれてしまいますよね。DNAの複製でこの捻じれはどのようにほどかれているのでしょうか?



DNAの複製は細胞分裂のプロセスの中でおきています。細胞分裂のプロセス全体を見てみましょう。



上段の左から3番目の図の段階でDNAの複製は完了しています。なぜなら23個ある染色体それぞれが1対ずつのペア(染色分体のペア)になっているからです。ですからDNAの複製はこの図の「分裂前期」におきているはずです。

「分裂前」の細胞はこのような感じです。DNAは細胞の「核」の中に入っています。



核の中を拡大すると糸状のものが見えてきますこの糸状のものがDNAの二重らせんそのものというわけではありません。



さらに拡大してみるとこの糸状の箇所に次のような構造が見えてきます。この図の薄紫の糸がDNAの二重らせんです。糸巻きのような物質は「ヒストン」と呼ばれているタンパク質です。



このように巻き付いて絡まるのを防いでいるだけでなく、細胞核という狭い領域に効率よく収まるしくみができているわけです。またほどけやすくするために、ヒストンに巻き付く回数も2回ずつになっていることに気が付いたとき僕は驚きました。

そして「細胞分裂中期」になるまでに、DNAを巻きつけたヒストンは1か所に整列して「クロマチン繊維」になり、それが染色体の中の2つの部分(染色分体)に分かれるわけです。



ここまでのことは高校の生物で学ぶ事がらです。けれども、これではDNAが絡まないで複製することは説明できていません。このしくみを解決するのが「DNAトポロジー」なのです。

DNAトポロジーでキーワードとなるのが「DNAトポイソメラーゼ」と名付けられた酵素です。DNAトポイソメラーゼは2本鎖DNAの一方または両方を切断し再結合する酵素の総称です。

2本鎖DNAは二重らせん構造を形成しています。この二重らせんがさらに巻かれたり、逆にほどかれたりすると、DNA分子全体にひずみが生じることになります。これらを 「DNA超らせん構造」(前者を正の超らせん、後者を負の超らせん)といいます。

DNAは非常に長い分子で、両端の動きが固定されると局所的に超らせん構造をとることが知られています。また、転写、複製、修復などの際には、二重らせん構造にひずみが生じるため、トポイソメラーゼがそのひずみを解いてくれるのです。

DNAトポイソメラーゼには次のタイプがあることが知られています。




ここから先はDNAトポイソメラーゼのタイプ別にその働きを説明しなければならないので「中学生、高校生レベル」をはるかに超えてしまいますし、説明するにしても僕の力量を超えています。

けれども雰囲気だけでもお伝えしてみたいと思い、YouTubeから比較的わかりやすい動画を探してみました。我ながら安易だと思いますが、こういうのは動画で見るのがいちばんです。

私たちの細胞ひとつひとつの中に、このような精巧なしくみが備わっていることに僕は生物の進化の不思議を思わずにはいられませんでした。

まずこの動画です。細胞の視点から染色体が分裂する様子がわかります。(再生時間6分)





次の動画ではDNAの半保存的複製のプロセスがわかります。前半ではヒストンに巻きつくDNAの様子が見れます。(再生時間3分)




次の動画はDNAトポロジーの解説です。「絡み数(Linking number)」、「ツイスト数(Twist number)」、「ひねり数(Writhe number)」など基本的な事柄にフォーカスして説明しています。(再生時間8分半)




これもDNAトポロジーの解説です。より詳しい説明になりますが、わかりやすい動画だと思います。(再生時間34分)




DNAトポロジーは現代でもさかんに研究されている学問領域です。2011年には東京大学分子細胞生物学研究所の白髭克彦教授らによって「DNAの複製メカニズムの新たな発見」が発表され、DNAの複製が染色体の大きさに依存した方法で行われていることが明らかになりました。

3次元空間ではひも状のものは特に絡まりやすいのですが、このように精緻なメカニズムによってDNAは絡まることなく複製されていくのです。そしてこのメカニズムはDNAの塩基配列自体に記述されているわけです。そして塩基配列を設計図としてタンパク質が合成されます。なんだか「タマゴが先か?ニワトリが先か?」という因果関係の矛盾の話に似ていますね。

このDNA複製とタンパク質合成がはらんでいる矛盾については先日NHKで放送された「生命大躍進」の第3集で取り上げられていました。それは地球上の生物の進化の過程で、DNAによる複製とタンパク質の合成が始まるより前にRNAによる自己複製が行なわれていたという「RNAワールド仮説」のことです。

RNAワールドからDNAワールドへの発展は、RNAからタンパク質に生化学反応の触媒が移行し、RNAはタンパク質の配列を示す遺伝暗号としての機能を持つようになり、RNAが不安定な分子なので、RNAからDNAがその機能を担うようになり、おこったとされています。

けれどもRNAワールド仮説を生命の起源説として主張するにあたってはいくつかの問題点が指摘されていいます。主に次の3つがあります。

1) 様々な核酸類似体の存在下で、これらがRNA特有の結合様式をとった根拠が無い。
2) RNA は DNA 等と比べ不安定な分子であり分解されやすい。
3) 自己複製能力をもつ RNA 分子が見つかっていない。

今もなお生命の起源は明らかになっていません。


さて、次回の記事は舞台を多次元空間に戻します。「4次元空間で絡まっている面と面の状況は?」というタイトルでお話させていただきます。


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