復刻版 チャート式 代数学、幾何学(数研出版):拡大写真
内容紹介:
昭和16年11月に発行された「改訂新版 チャート式 代数学」(第二百十七版、七百十二頁)、昭和17年3月に発行された「改訂新版 チャート式 幾何学」(第二百十二版、六百九十九頁) の復刻版。復刻版ページ数は順に717ページ、707ページ。文章の主体となる仮名を、片仮名から平仮名に改め、歴史的仮名遣いは新仮名遣いに改め、一部の表現を現代流に改めている。学習の便宜を図るため、各ページの下方に補足事項を加筆。また、原著に示された各問題の出題校が、現在のどの大学にあたるかを可能な範囲で調べて、その情報も掲載。
昭和初頭の名著、今ここに蘇る。解法に用いる定理や系を知悉していても、初対面の問題に出会ったとき、どんな定理を使うべきか、どうして証明して行くべきか四苦八苦しなければならぬとき、こうした場合はこのようにせよという指導教訓が示されている。
著者について:
星野華水
星野半五郎。数研出版の創始者。自らが設立した学校(数学研究社高等予備校。当時の文部省認可財団法人)で教鞭をとる傍ら、独創的な学習法であるチャート式システムを考案した。そして、星野華水の号を以ってそれらを書き表し、数多くのチャート式学習書をこの世に送り出した。
大学入試シーズンということで「大学への数学(研文書院)」を書いたが、今の高校生や大学受験生にとって馴染みがあるのは数研出版の「チャート式」の参考書だろう。これを紹介しないのは片手落ちというものだ。
* 現代のチャート式
数研出版の高校生用のチャート式参考書は難易度によって難しいほうから赤、青、黄、白の色がつけられている。レベルのおよその目安は次のとおり。
難関大学にも対応できるのは「赤チャート」である。
赤チャート(高校数学、新課程用)
「チャート式数学I+A」
「チャート式数学2+B」
「チャート式数学3」
赤チャート: すべて検索
青チャート: すべて検索
黄チャート: すべて検索
白チャート: すべて検索
* 復刻されたチャート式
長年の間、大学受験生を支えてきたチャート式シリーズはその起源をたどると昭和4年初版の「チャート式 代数学」と「チャート式 幾何学」にさかのぼることができる。これら2冊はその後も改訂され続ける。
チャート式の歴史(数研出版のページ)
http://www.chart.co.jp/corp/00epitome/02histry/histry_chart.html
改訂された戦前のチャート式参考書が昨年復刻版として刊行された。復刻の元になったのは昭和16年刊行の「改訂新版 チャート式 代数学」第217刷と昭和17年刊行の「改訂新版 チャート式 幾何学」第212刷である。ともに「刷」の数が200を超えていることからわかるように、当時の受験生から絶大なる支持を得ていた。
チャート式 復刻版の詳細(数研出版のページ)
http://www.chart.co.jp/top/fukkoku/
「チャート式 代数学(復刻版)」
「チャート式 幾何学(復刻版)」
復刻版といっても当時のものと全く同じというわけではない。オリジナル版の時代のひらがなとカタカナの使い方は現在と逆なので、そのままだと読みにくい。この復刻版では現代人でも読みやすいように現代かな使いに統一してある。また漢字の旧字体もすべて新字体に変えている。
中身を見ると代数学のほうは現代の赤チャートとほとんど同じような難易度であることがわかる。けれども幾何学のほうはまるまる1冊があてられ、現代の参考書よりも分量がはるかに多くて難しい。
「復刻版の詳細」から目次やサンプルページを見ることができるのだが、代数学は現在の高校1年から高校3年の範囲で指数・対数関数も含まれている。三角関数や微積分は代数学、幾何学のどちらの本にも含まれていない。
当時の受験生は今より学ぶ範囲が少なくて楽だということではない。チャート式として出版されていたのが代数学と幾何学の範囲だったというわけで、学校ではもっと広い範囲を国が定めた教科書を使っていたからだ。
では、オリジナル版が発行された昭和17年当時の学生はどのような範囲の数学を学んでいたのだろうか?
* 戦前の学校制度
ウィキペディアの「日本の学校制度の変遷」というページから次の図を引用してみる。明治から戦前までの学校制度はこのようなものだった。(画像はクリックで拡大する)
つまり、現在と大ざっぱに対応づけると次のようになる。
小学校(6年間)=旧制小学校(1年生~6年生)
中学校(3年間)=旧制中学の1年生~3年生
高校(3年間) =旧制中学の4年生~5年生
大学教養課程(2年間)=旧制高校の1年生~2年生または大学予科の1年生~2年生
大学専門課程(2年間)=旧制の帝国大学の1年生~2年生(帝国大学は3年制)
夏目漱石や昭和初期の小説にでてくる中学生や高校生が大人びているのはこのためだ。それぞれ今でいう高校生や大学1、2年生である。そして当時の高校生はエリートの卵、大学生は超エリートなのである。ごく一部の若者だけ高校、大学に進学することができた時代である。
戦前の旧制高校生がかっこ良すぎる件 同世代の1%しか進学できず、まさに「エリートの卵」
http://blog.livedoor.jp/gurigurimawasu/archives/22253482.html
華麗なる旧制高校巡礼
http://www.geocities.jp/qsay55/
* 戦前の数学教育
そして旧制中学、旧制高校の学生が各学年で学んでいた数学の内容は次のPDF資料で知ることができる。それぞれとても興味深い資料だ。
旧制中学について:「近代数学」 と学校数学 - 数学の普及の歴史から
http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/1064-7.pdf
旧制中学数学教育制度史研究
http://www.educ.kumamoto-u.ac.jp/~shinya/Personal%20Data%20Yamamoto/Yamamoto%27s%20paper/%E5%B1%B1%E6%9C%AC1999%E3%80%80%E4%B8%AD%E5%88%B6%E5%BA%A6.pdf
旧制高校について:「近代数学」 と学校数学 (その 2 )旧制高等学校の数学
http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/1130-16.pdf
これらの資料を読むと年齢を基準にすれば戦前と現在ではどの年齢でもほぼ同じ内容を学んでいることがわかる。旧制中学(現在の高校1、2年)では指数・対数関数だけでなく三角関数も学ぶ。旧制高校(現在の大学教養課程)では微積分や微分方程式も学ぶ。また旧制高校では球面三角法も教えられていた。現在と違うことに気がついたのは次の2つだ。
1) 旧制中学では微積分は教科書に含まれていなかった。微積分が教科書に入ったのは昭和17年の教授要目改正によるものだ。この背景には次のような主張があり、教師への注意事項として付け加えられた。
もしも微分積分を無反省に中等教育に導入するときは、この方面に於て中等教育が極端な形式主義に走る危険が十分にある。 中等教育に採り入れらるべきは所謂微分積分の名の下に呼ばれる技術ではなくて、極限の観念を主流とする考察と処理の方法である。
何れの方法によるも根抵にある考へ方を徹底させるやう特に注意すべきである。 これが為には早く公式化して、その適用練習を課するやうであってはならない。 個々の問題を解くに当っては、なるべくその根抵から出発して解決し、その間に自然演算の公式が出来上るやうに扱ふべきである。 内容がしっかり把握出来ない中に形式化し、それによって多くの問題が解けるやうになったとしても、それで根抵をなす考へ方が了解出来るものと即断してはならない。
2) 旧制高校では行列式は教えられたものの、線形代数は詳しく教えられていなかった。教授に対するアドバイスとして「ベクトル、群、行列等二就キテハ適宜ノ箇所二於テソノ概念ヲ簡単二与フルモ可ナリ」と書かれている。
* オリジナルのチャート式で学んでいた学生と当時の日本
昭和16年、17年に発行されたチャート式で学んでいたのは当時15~16歳の学生である。つまり彼らは大正14年、昭和元年生まれなので現在89~90歳である。(今年は昭和90年だ。)
彼らが受験したのは旧制高校でその2年後に大半の学生が帝国大学の1年生になる。大学へ入学したのは昭和18年と昭和19年。
太平洋戦争が昭和16年から昭和20年までであることを思い出してほしい。そして大学生を戦地へ送るために「学徒出陣壮行会」を国立競技場で行なったのが昭和18年10月であることもだ。
彼らの大学入学年 = 学徒出陣壮行会の年
出征先でどのような運命が待っていたかは昨年「地獄の日本兵―ニューギニア戦線の真相:飯田進」という記事で紹介した。
この参考書で学んだ学生を含め、合格の栄冠を手にした10万人とも言われる優秀な大学生が、このような亡くなり方をしたのかと思うと胸にこみあげてくるものがある。
* 合格の喜び
復刻版のチャート式の「復刻版発刊に際し」には、オリジナル版で学んで合格を勝ち取った戦前の学生たちが数研出版に送った感謝のメッセージが紹介されている。現在、入試に向けて日夜がんばっている受験生へのエールとして、ここに紹介しておこう。(原文は旧漢字で書かれている。)受験生のみなさん、ベストを尽くし最後の最後まで頑張ってください!健闘を祈っています!
- 一高理甲合格! 二年前よりチャート式代数、幾何を使ひ、チャート式英文解釈を読み、冬季総括に入つたりして得たチャート式の実力は素晴らしかつた。
- 今回幸にも三高文科甲類にパスすることが出来ました。チャート式幾何学は実に天下一品です。元来幾何の嫌ひであつた小生も、あれを使つたおかげで幾何が好きになりました。
- 先生お喜び下さい。小生今般第八高等学校理科乙類に合格致しました。チャート式代数と幾何、それにテレ講座、冬季総括講座にて頑張りました。
- 拝啓、チャート先生。私は無事に大高理丙に入学できました。これは全くチャートシステムを知つたおかげ。心よりチャート兄貴よ、ダンケ。」
* チャート式の難問集
難問ばかり集めたチャート式もあるので紹介しておこう。これは現代の問題集。
「チャート式シリーズ 数学難問集100」
最後に、理数系の受験生には次のことを伝えておきたい。
新課程で学んだ受験生のみなさんへ
数学科に限らず、およそ理数系、工学系に進むのであれば大学の教養課程で「線形代数」を学ぶことになる。これは必須教科であると同時に数学以外の理数系科目にも使われる大事な内容だ。(参考記事:「大学で学ぶ数学とは(概要編)」)
ところが現在の高校新課程の数学では数学Cに含まれていた「行列」は教えられないことになった。これは線形代数を学ぶ上で大きな障害になる。大学の教科書では高校で学んでいることを前提としているからだ。
だから「行列」を学んでいない人は、合格通知をもらったら入学するまでに、ぜひ次の本を読んでおいてほしい。大学で線形代数を学ぶのがだいぶ楽になるだろう。
「高校数学でわかる線形代数―行列の基礎から固有値まで (ブルーバックス)」(Kindle版)
もしチャート式にこだわるのであれば、この参考書の「行列」の範囲で学ぶとよいだろう。
「チャート式 数学C」
参考ページ:
数学の変化~高校数学はこんなに変わる~
http://sankousho.info/exp/exp-math.php
高校数学学習支援【数学C】
http://naop.jp/sien/sien_c.html
高校数学の基本問題(ページ下のほうの「(参考)旧教育課程」を参照)
http://www.geisya.or.jp/~mwm48961/koukou/index_m.htm
Wikibooksの「高等学校数学」の中の「数学C_行列」を参照
関連記事:
大学への数学(研文書院)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6124158481ed8d9d4655478643be0db8
高校生にお勧めする30冊の物理学、数学書籍
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f79ac08392742c60193081800ea718e7
大学で学ぶ数学とは(概要編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/07137c47d16d95ddde8f5c4cb6f37d55
大学で学ぶ数学とは(実用数学編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/975ad3faa2f6fd558b48c76513466945
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「チャート式 代数学(復刻版)」
「チャート式 幾何学(復刻版)」
「チャート式 代数学(復刻版)」
前編:系統指導部
第一章:整式
第二章:分数式
第三章:無理数および無理式
第四章:式の値
第五章:方程式
第六章:方程式応用問題
第七章:比及び比例
第八章:証明問題
第九章:不等式
第十章:極大及び極小
第十一章:グラフ
第十二章:数列
第十三章:対数
中編:整理統括部
後編
第一章:採点者講評
第二章:答案作製用問題
第三章:答案と講評
第四章:採点者の示せし優良答案
「チャート式 幾何学(復刻版)」
前編:系統的研究
第一章:直線形
第二章:円
第三章:面積
第四章:比例
第五章:軌跡
第六章:作図題
第七章:計算問題
中編:総括的研究
第一章:形状決定問題
第二章:位置決定問題
第三章:制限附与問題
第四章:相変化問題
第五章:場合と吟味脱落危惧問題
第六章:一定問題の基礎
第七章:融総合問題
後編
第一章:特殊定理
第二章:答案作製に際し
第三章:採点者講評
第四章:答案作製用問題
第五章:答案と講評
内容紹介:
昭和16年11月に発行された「改訂新版 チャート式 代数学」(第二百十七版、七百十二頁)、昭和17年3月に発行された「改訂新版 チャート式 幾何学」(第二百十二版、六百九十九頁) の復刻版。復刻版ページ数は順に717ページ、707ページ。文章の主体となる仮名を、片仮名から平仮名に改め、歴史的仮名遣いは新仮名遣いに改め、一部の表現を現代流に改めている。学習の便宜を図るため、各ページの下方に補足事項を加筆。また、原著に示された各問題の出題校が、現在のどの大学にあたるかを可能な範囲で調べて、その情報も掲載。
昭和初頭の名著、今ここに蘇る。解法に用いる定理や系を知悉していても、初対面の問題に出会ったとき、どんな定理を使うべきか、どうして証明して行くべきか四苦八苦しなければならぬとき、こうした場合はこのようにせよという指導教訓が示されている。
著者について:
星野華水
星野半五郎。数研出版の創始者。自らが設立した学校(数学研究社高等予備校。当時の文部省認可財団法人)で教鞭をとる傍ら、独創的な学習法であるチャート式システムを考案した。そして、星野華水の号を以ってそれらを書き表し、数多くのチャート式学習書をこの世に送り出した。
大学入試シーズンということで「大学への数学(研文書院)」を書いたが、今の高校生や大学受験生にとって馴染みがあるのは数研出版の「チャート式」の参考書だろう。これを紹介しないのは片手落ちというものだ。
* 現代のチャート式
数研出版の高校生用のチャート式参考書は難易度によって難しいほうから赤、青、黄、白の色がつけられている。レベルのおよその目安は次のとおり。
難関大学にも対応できるのは「赤チャート」である。
赤チャート(高校数学、新課程用)
「チャート式数学I+A」
「チャート式数学2+B」
「チャート式数学3」
赤チャート: すべて検索
青チャート: すべて検索
黄チャート: すべて検索
白チャート: すべて検索
* 復刻されたチャート式
長年の間、大学受験生を支えてきたチャート式シリーズはその起源をたどると昭和4年初版の「チャート式 代数学」と「チャート式 幾何学」にさかのぼることができる。これら2冊はその後も改訂され続ける。
チャート式の歴史(数研出版のページ)
http://www.chart.co.jp/corp/00epitome/02histry/histry_chart.html
改訂された戦前のチャート式参考書が昨年復刻版として刊行された。復刻の元になったのは昭和16年刊行の「改訂新版 チャート式 代数学」第217刷と昭和17年刊行の「改訂新版 チャート式 幾何学」第212刷である。ともに「刷」の数が200を超えていることからわかるように、当時の受験生から絶大なる支持を得ていた。
チャート式 復刻版の詳細(数研出版のページ)
http://www.chart.co.jp/top/fukkoku/
「チャート式 代数学(復刻版)」
「チャート式 幾何学(復刻版)」
復刻版といっても当時のものと全く同じというわけではない。オリジナル版の時代のひらがなとカタカナの使い方は現在と逆なので、そのままだと読みにくい。この復刻版では現代人でも読みやすいように現代かな使いに統一してある。また漢字の旧字体もすべて新字体に変えている。
中身を見ると代数学のほうは現代の赤チャートとほとんど同じような難易度であることがわかる。けれども幾何学のほうはまるまる1冊があてられ、現代の参考書よりも分量がはるかに多くて難しい。
「復刻版の詳細」から目次やサンプルページを見ることができるのだが、代数学は現在の高校1年から高校3年の範囲で指数・対数関数も含まれている。三角関数や微積分は代数学、幾何学のどちらの本にも含まれていない。
当時の受験生は今より学ぶ範囲が少なくて楽だということではない。チャート式として出版されていたのが代数学と幾何学の範囲だったというわけで、学校ではもっと広い範囲を国が定めた教科書を使っていたからだ。
では、オリジナル版が発行された昭和17年当時の学生はどのような範囲の数学を学んでいたのだろうか?
* 戦前の学校制度
ウィキペディアの「日本の学校制度の変遷」というページから次の図を引用してみる。明治から戦前までの学校制度はこのようなものだった。(画像はクリックで拡大する)
つまり、現在と大ざっぱに対応づけると次のようになる。
小学校(6年間)=旧制小学校(1年生~6年生)
中学校(3年間)=旧制中学の1年生~3年生
高校(3年間) =旧制中学の4年生~5年生
大学教養課程(2年間)=旧制高校の1年生~2年生または大学予科の1年生~2年生
大学専門課程(2年間)=旧制の帝国大学の1年生~2年生(帝国大学は3年制)
夏目漱石や昭和初期の小説にでてくる中学生や高校生が大人びているのはこのためだ。それぞれ今でいう高校生や大学1、2年生である。そして当時の高校生はエリートの卵、大学生は超エリートなのである。ごく一部の若者だけ高校、大学に進学することができた時代である。
戦前の旧制高校生がかっこ良すぎる件 同世代の1%しか進学できず、まさに「エリートの卵」
http://blog.livedoor.jp/gurigurimawasu/archives/22253482.html
華麗なる旧制高校巡礼
http://www.geocities.jp/qsay55/
* 戦前の数学教育
そして旧制中学、旧制高校の学生が各学年で学んでいた数学の内容は次のPDF資料で知ることができる。それぞれとても興味深い資料だ。
旧制中学について:「近代数学」 と学校数学 - 数学の普及の歴史から
http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/1064-7.pdf
旧制中学数学教育制度史研究
http://www.educ.kumamoto-u.ac.jp/~shinya/Personal%20Data%20Yamamoto/Yamamoto%27s%20paper/%E5%B1%B1%E6%9C%AC1999%E3%80%80%E4%B8%AD%E5%88%B6%E5%BA%A6.pdf
旧制高校について:「近代数学」 と学校数学 (その 2 )旧制高等学校の数学
http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/1130-16.pdf
これらの資料を読むと年齢を基準にすれば戦前と現在ではどの年齢でもほぼ同じ内容を学んでいることがわかる。旧制中学(現在の高校1、2年)では指数・対数関数だけでなく三角関数も学ぶ。旧制高校(現在の大学教養課程)では微積分や微分方程式も学ぶ。また旧制高校では球面三角法も教えられていた。現在と違うことに気がついたのは次の2つだ。
1) 旧制中学では微積分は教科書に含まれていなかった。微積分が教科書に入ったのは昭和17年の教授要目改正によるものだ。この背景には次のような主張があり、教師への注意事項として付け加えられた。
もしも微分積分を無反省に中等教育に導入するときは、この方面に於て中等教育が極端な形式主義に走る危険が十分にある。 中等教育に採り入れらるべきは所謂微分積分の名の下に呼ばれる技術ではなくて、極限の観念を主流とする考察と処理の方法である。
何れの方法によるも根抵にある考へ方を徹底させるやう特に注意すべきである。 これが為には早く公式化して、その適用練習を課するやうであってはならない。 個々の問題を解くに当っては、なるべくその根抵から出発して解決し、その間に自然演算の公式が出来上るやうに扱ふべきである。 内容がしっかり把握出来ない中に形式化し、それによって多くの問題が解けるやうになったとしても、それで根抵をなす考へ方が了解出来るものと即断してはならない。
2) 旧制高校では行列式は教えられたものの、線形代数は詳しく教えられていなかった。教授に対するアドバイスとして「ベクトル、群、行列等二就キテハ適宜ノ箇所二於テソノ概念ヲ簡単二与フルモ可ナリ」と書かれている。
* オリジナルのチャート式で学んでいた学生と当時の日本
昭和16年、17年に発行されたチャート式で学んでいたのは当時15~16歳の学生である。つまり彼らは大正14年、昭和元年生まれなので現在89~90歳である。(今年は昭和90年だ。)
彼らが受験したのは旧制高校でその2年後に大半の学生が帝国大学の1年生になる。大学へ入学したのは昭和18年と昭和19年。
太平洋戦争が昭和16年から昭和20年までであることを思い出してほしい。そして大学生を戦地へ送るために「学徒出陣壮行会」を国立競技場で行なったのが昭和18年10月であることもだ。
彼らの大学入学年 = 学徒出陣壮行会の年
出征先でどのような運命が待っていたかは昨年「地獄の日本兵―ニューギニア戦線の真相:飯田進」という記事で紹介した。
この参考書で学んだ学生を含め、合格の栄冠を手にした10万人とも言われる優秀な大学生が、このような亡くなり方をしたのかと思うと胸にこみあげてくるものがある。
* 合格の喜び
復刻版のチャート式の「復刻版発刊に際し」には、オリジナル版で学んで合格を勝ち取った戦前の学生たちが数研出版に送った感謝のメッセージが紹介されている。現在、入試に向けて日夜がんばっている受験生へのエールとして、ここに紹介しておこう。(原文は旧漢字で書かれている。)受験生のみなさん、ベストを尽くし最後の最後まで頑張ってください!健闘を祈っています!
- 一高理甲合格! 二年前よりチャート式代数、幾何を使ひ、チャート式英文解釈を読み、冬季総括に入つたりして得たチャート式の実力は素晴らしかつた。
- 今回幸にも三高文科甲類にパスすることが出来ました。チャート式幾何学は実に天下一品です。元来幾何の嫌ひであつた小生も、あれを使つたおかげで幾何が好きになりました。
- 先生お喜び下さい。小生今般第八高等学校理科乙類に合格致しました。チャート式代数と幾何、それにテレ講座、冬季総括講座にて頑張りました。
- 拝啓、チャート先生。私は無事に大高理丙に入学できました。これは全くチャートシステムを知つたおかげ。心よりチャート兄貴よ、ダンケ。」
* チャート式の難問集
難問ばかり集めたチャート式もあるので紹介しておこう。これは現代の問題集。
「チャート式シリーズ 数学難問集100」
最後に、理数系の受験生には次のことを伝えておきたい。
新課程で学んだ受験生のみなさんへ
数学科に限らず、およそ理数系、工学系に進むのであれば大学の教養課程で「線形代数」を学ぶことになる。これは必須教科であると同時に数学以外の理数系科目にも使われる大事な内容だ。(参考記事:「大学で学ぶ数学とは(概要編)」)
ところが現在の高校新課程の数学では数学Cに含まれていた「行列」は教えられないことになった。これは線形代数を学ぶ上で大きな障害になる。大学の教科書では高校で学んでいることを前提としているからだ。
だから「行列」を学んでいない人は、合格通知をもらったら入学するまでに、ぜひ次の本を読んでおいてほしい。大学で線形代数を学ぶのがだいぶ楽になるだろう。
「高校数学でわかる線形代数―行列の基礎から固有値まで (ブルーバックス)」(Kindle版)
もしチャート式にこだわるのであれば、この参考書の「行列」の範囲で学ぶとよいだろう。
「チャート式 数学C」
参考ページ:
数学の変化~高校数学はこんなに変わる~
http://sankousho.info/exp/exp-math.php
高校数学学習支援【数学C】
http://naop.jp/sien/sien_c.html
高校数学の基本問題(ページ下のほうの「(参考)旧教育課程」を参照)
http://www.geisya.or.jp/~mwm48961/koukou/index_m.htm
Wikibooksの「高等学校数学」の中の「数学C_行列」を参照
関連記事:
大学への数学(研文書院)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6124158481ed8d9d4655478643be0db8
高校生にお勧めする30冊の物理学、数学書籍
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f79ac08392742c60193081800ea718e7
大学で学ぶ数学とは(概要編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/07137c47d16d95ddde8f5c4cb6f37d55
大学で学ぶ数学とは(実用数学編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/975ad3faa2f6fd558b48c76513466945
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「チャート式 代数学(復刻版)」
「チャート式 幾何学(復刻版)」
「チャート式 代数学(復刻版)」
前編:系統指導部
第一章:整式
第二章:分数式
第三章:無理数および無理式
第四章:式の値
第五章:方程式
第六章:方程式応用問題
第七章:比及び比例
第八章:証明問題
第九章:不等式
第十章:極大及び極小
第十一章:グラフ
第十二章:数列
第十三章:対数
中編:整理統括部
後編
第一章:採点者講評
第二章:答案作製用問題
第三章:答案と講評
第四章:採点者の示せし優良答案
「チャート式 幾何学(復刻版)」
前編:系統的研究
第一章:直線形
第二章:円
第三章:面積
第四章:比例
第五章:軌跡
第六章:作図題
第七章:計算問題
中編:総括的研究
第一章:形状決定問題
第二章:位置決定問題
第三章:制限附与問題
第四章:相変化問題
第五章:場合と吟味脱落危惧問題
第六章:一定問題の基礎
第七章:融総合問題
後編
第一章:特殊定理
第二章:答案作製に際し
第三章:採点者講評
第四章:答案作製用問題
第五章:答案と講評