「完全独習量子力学:林光男」前期量子論からゲージ場の量子論まで
内容紹介
初歩の初歩から場の量子論までを一冊で踏破する! 前期量子論から始まる基礎を網羅し、量子力学のハイレベルな理解にたどり着く。群論などの数学的事項も簡潔に解説した。本当に学びたい人のための、熱気あふれる独習書。エネルギー量子の発見、波動力学・行列力学の成立からくりこみ群、ゲージ場の量子論、ヒッグス場、ヒッグス粒子。
著者略歴
林光男
理学博士。1945年千葉県生まれ。1969年京都大学理学部物理学科修了。1974年大阪市立大学理学研究科博士課程単位取得退学。東海大学理学部物理学科講師。1985年東海大学理学部物理学科教授。2011年定年退職。現在、東海大学名誉教授。1976‐77年米国スタンフォード大学線形加速器センター研究員。1988年コペンハーゲン、ニールスボーア研究所交換教授。1995年英国ダラム大学客員教授。専門は素粒子論、一般相対論、宇宙論
理数系書籍のレビュー記事は本書で223冊目。
「場の量子論:坂井典佑」を読み終え、同じテーマで気になる本が2冊でてきたので読んでみることにした。1冊目は先日紹介した「「標準模型」の宇宙:ブルース・シューム」で、2冊目が今回紹介する「完全独習量子力学:林光男」である。
「初歩の初歩から場の量子論までを一冊で踏破する!」と内容紹介に書いてあるが、そんな都合のよい本があっていいのか?それもこれは専門書なわけで通常は量子力学で1〜2冊、場の量子論で3冊くらいの分量があってよいはず。小さい文字がびっしり詰まっているものの、本書はたかだか330ページの本である。今年の1月に出版されたばかりなので、気になっている方も多いと思う。アマゾンでの評価もすこぶる良い。
僕の学習段階は量子力学、相対論的量子力学を学び終えて場の量子論に入門したばかり。これまでの学習内容とかぶっているが量子力学の復習と場の量子論の再入門を兼ねて読んでみるのもいいだろう。期待しながら読んでみた。
全体の章立ては次のとおり。第1部と第2部が量子力学と相対論的量子力学で150ページほど。第3部以降の180ページが場の量子論に充てられている。
第1部:前期量子論
第1章:粒子と波動の二重性
第2部:量子力学
第2章:行列力学と波動力学
第3章:量子力学の一般的定式化
第4章:量子力学の初等的応用
第5章:スピンの発見
第6章:量子統計
第7章:ディラック方程式
第3部:相対論的場の量子論
第8章:素粒子の場の量子化
第9章:量子電気力学と経路積分による量子化
第10章:くりこみ理論
第4部:非可換ゲージ場の量子論
第11章:非可換ゲージ場理論―量子色力学
第12章:電弱相互作用―電磁力と弱い力の統一
読み始めてしばらくは快調に進んだ。量子力学の部分は必要なことが無駄なく簡潔に解説されている。既に学んだことばかりだから当然なのだが、これまでに学んだ知識の整理に大いに役立った。
しかし、これは入門書ではないなという気もしてきた。量子力学を初めて学ぶ人が読めるレベルではない。大学受験参考書に例えて言えば本書は「要点整理」、「短期速習」のような内容だ。だから入門用だと思って本書を買った人は落ちこぼれてしまうだろうなという気がした。このまま同じレベルで進行するのだろうか?少し心配になってきた。
中盤にさしかかり心配は現実のものになってきた。第8章の「素粒子の場の量子化」まではなんとか理解できた。しかし第9章の途中から急に難しくなり、「なんだかなー。このまま読み進んで大丈夫だろうか?」という状態。気を抜いて読んでいたわけではない。同じテーマであるにもかかわらず、これまでに読んだ「場の量子論:坂井典佑」や「場の量子論:F. マンドル, G. ショー」とは明らかに難しさが違う。
理解できないのはおそらく自分の未熟さによるもので、本書のせいではないということもわかる。もちろん話の大筋はたどれているが、計算式の導出過程についていけていない。第9章の途中で中西-ラウトラップ場という補助場がいきなり導入されたときに「あ、これは説明が足りていないな。」と気づいた。もやもや状態で第10章まで読み進んだ。この本はきっと行間を自分で補いながら読む必要があるのだ。
第11章の「非可換ゲージ場理論―量子色力学」まで進むと僕の「不理解度」はピークに達した。内容はますます濃くなり、説明のペースはどんどん加速していく。この章にさしかかった時点では理解しようとする気は全く持てなくなっていた。そして本書は明らかに「詰め込み過ぎ」であるということに気づいた。「独習」するとしても自分で手を動かして計算を進められるだけの力量が必要であるということだ。本書の「序言」には「2年分の授業に相当する」と書かれている。
全体を読み終えてみて本書は「独習用」ではなく、「復習用」に適しているのだという結論に達した。すでにもっと詳しい(そして易しい)教科書で学び終えた人が壮大な理論体系を整理しなおすために読むのがよいだろう。
本書を買って「ハズレ」ではなかったものの、残念ながら今の段階で自分にとって有益なものではなかったというのが僕の感想だ。と同時に本書のようなレベルの本を読めるように早くなりたいものだという気持ちにさせられた。
「学問に王道なし」である。
関連記事:
場の量子論:坂井典佑
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a83afc332356c0fef65e6527ddd71af1
場の量子論〈第1巻〉量子電磁力学:F.マンドル、G.ショー
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/08726ab931904f76d9c26ff56d219e53
場の量子論〈第2巻〉素粒子の相互作用:F.マンドル、G.ショー
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/95d908cd752af642964cbff7ea7f0301
大著に挑む (ワインバーグの「場の量子論」)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/95ac4b64aa4eaf70608088006813cbf5
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「完全独習量子力学:林光男」前期量子論からゲージ場の量子論まで
第1部:前期量子論
第1章:粒子と波動の二重性
- エネルギー量子の発見
- ブラウン運動論―原子の実在性の証明
- 光量子論と光電効果
- 特殊相対性理論とコンプトン散乱・電子波
- 原子構造論
- 粒子と波動の二重性―エネルギーのゆらぎ
第2部:量子力学
第2章:行列力学と波動力学
- 行列力学と波動力学の基本
- 波動力学とハミルトン-ヤコビ方程式
- 行列力学とハミルトン方程式
第3章:量子力学の一般的定式化
- 量子力学的状態と重ね合わせの原理
- エルミート演算子の固有値と固有関数
- シュレディンガー描像とハイゼンベルク描像―変換理論
- オブザーバブルの測定と確率解釈
- 不確定性原理
- 経路積分による量子化
- 自由粒子
第4章:量子力学の初等的応用
- トンネル効果
- 井戸型ポテンシャル中の粒子
- クローニッヒ-ペニーの周期的ポテンシャル中の粒子
- 調和振動子
- ラザフォードの散乱公式―散乱問題の一例として
- 球対称なポテンシャル中の粒子
- 角運動量の量子化
第5章:スピンの発見
- パウリのスピン理論とその実験的検証
- ヘリウム原子のスペクトル
- アルカリ金属原子のスペクトル
- 多電子原子と元素の周期律表
- 原子核の独立粒子理論
第6章:量子統計
- フェルミ分布とボース分布
- 黒体輻射
- デバイの固体の比熱理論
第7章:ディラック方程式
- 電子の相対論的振る舞い―ディラック方程式
- ディラックの陽電子論
- ディラック方程式からのスピン-軌道相互作用の導出
- アハラノフ-ボーム効果
第3部:相対論的場の量子論
第8章:素粒子の場の量子化
- 局所場の量子論
- 自由場の正準量子化I―スカラー場の量子化
- 自由場の正準量子化II―スピノール場の量子化
- 自由場の正準量子化III―ワイル場とマヨナラ場の量子化
第9章:量子電気力学と経路積分による量子化
- 量子電気力学と純電磁場の量子化
- 場の相互作用と摂動論―ファインマングラフ
- 遷移確率と散乱断面積
第10章:くりこみ理論
- さまざまな相互作用
- 次元正則化
- くりこみ理論
- アノーマリーの計算 π0→γ+γ
第4部:非可換ゲージ場の量子論
第11章:非可換ゲージ場理論―量子色力学
- 序論―自然界の4つの相互作用
- 非可換ゲージ場理論
- 量子非可換ゲージ場理論とBRST対称性
- 非可換ゲージ場理論の経路積分量子化とファインマン則
- くりこみ理論
- くりこみ群と量子色力学の漸近的自由性
- レプトン-核子深非弾性散乱実験
第12章:電弱相互作用―電磁力と弱い力の統一
- SU(2)_L×U(1)_Yゲージ理論
- 自発的対称性の破れ
- ヒッグス機構
- ヒッグス機構とゲージ場の量子化―R_ξゲージ
- レプトンとクォークの質量
- GIM機構 K_L→μ(-)+μ(+)
- CP対称性の破れと小林-益川理論
- ミューオン崩壊と中性ウィークボソンによるニュートリノ生成
- シーソー機構によるニュートリノのマヨナラ型質量の生成とニュートリノ振動
参考文献
あとがき
索引
内容紹介
初歩の初歩から場の量子論までを一冊で踏破する! 前期量子論から始まる基礎を網羅し、量子力学のハイレベルな理解にたどり着く。群論などの数学的事項も簡潔に解説した。本当に学びたい人のための、熱気あふれる独習書。エネルギー量子の発見、波動力学・行列力学の成立からくりこみ群、ゲージ場の量子論、ヒッグス場、ヒッグス粒子。
著者略歴
林光男
理学博士。1945年千葉県生まれ。1969年京都大学理学部物理学科修了。1974年大阪市立大学理学研究科博士課程単位取得退学。東海大学理学部物理学科講師。1985年東海大学理学部物理学科教授。2011年定年退職。現在、東海大学名誉教授。1976‐77年米国スタンフォード大学線形加速器センター研究員。1988年コペンハーゲン、ニールスボーア研究所交換教授。1995年英国ダラム大学客員教授。専門は素粒子論、一般相対論、宇宙論
理数系書籍のレビュー記事は本書で223冊目。
「場の量子論:坂井典佑」を読み終え、同じテーマで気になる本が2冊でてきたので読んでみることにした。1冊目は先日紹介した「「標準模型」の宇宙:ブルース・シューム」で、2冊目が今回紹介する「完全独習量子力学:林光男」である。
「初歩の初歩から場の量子論までを一冊で踏破する!」と内容紹介に書いてあるが、そんな都合のよい本があっていいのか?それもこれは専門書なわけで通常は量子力学で1〜2冊、場の量子論で3冊くらいの分量があってよいはず。小さい文字がびっしり詰まっているものの、本書はたかだか330ページの本である。今年の1月に出版されたばかりなので、気になっている方も多いと思う。アマゾンでの評価もすこぶる良い。
僕の学習段階は量子力学、相対論的量子力学を学び終えて場の量子論に入門したばかり。これまでの学習内容とかぶっているが量子力学の復習と場の量子論の再入門を兼ねて読んでみるのもいいだろう。期待しながら読んでみた。
全体の章立ては次のとおり。第1部と第2部が量子力学と相対論的量子力学で150ページほど。第3部以降の180ページが場の量子論に充てられている。
第1部:前期量子論
第1章:粒子と波動の二重性
第2部:量子力学
第2章:行列力学と波動力学
第3章:量子力学の一般的定式化
第4章:量子力学の初等的応用
第5章:スピンの発見
第6章:量子統計
第7章:ディラック方程式
第3部:相対論的場の量子論
第8章:素粒子の場の量子化
第9章:量子電気力学と経路積分による量子化
第10章:くりこみ理論
第4部:非可換ゲージ場の量子論
第11章:非可換ゲージ場理論―量子色力学
第12章:電弱相互作用―電磁力と弱い力の統一
読み始めてしばらくは快調に進んだ。量子力学の部分は必要なことが無駄なく簡潔に解説されている。既に学んだことばかりだから当然なのだが、これまでに学んだ知識の整理に大いに役立った。
しかし、これは入門書ではないなという気もしてきた。量子力学を初めて学ぶ人が読めるレベルではない。大学受験参考書に例えて言えば本書は「要点整理」、「短期速習」のような内容だ。だから入門用だと思って本書を買った人は落ちこぼれてしまうだろうなという気がした。このまま同じレベルで進行するのだろうか?少し心配になってきた。
中盤にさしかかり心配は現実のものになってきた。第8章の「素粒子の場の量子化」まではなんとか理解できた。しかし第9章の途中から急に難しくなり、「なんだかなー。このまま読み進んで大丈夫だろうか?」という状態。気を抜いて読んでいたわけではない。同じテーマであるにもかかわらず、これまでに読んだ「場の量子論:坂井典佑」や「場の量子論:F. マンドル, G. ショー」とは明らかに難しさが違う。
理解できないのはおそらく自分の未熟さによるもので、本書のせいではないということもわかる。もちろん話の大筋はたどれているが、計算式の導出過程についていけていない。第9章の途中で中西-ラウトラップ場という補助場がいきなり導入されたときに「あ、これは説明が足りていないな。」と気づいた。もやもや状態で第10章まで読み進んだ。この本はきっと行間を自分で補いながら読む必要があるのだ。
第11章の「非可換ゲージ場理論―量子色力学」まで進むと僕の「不理解度」はピークに達した。内容はますます濃くなり、説明のペースはどんどん加速していく。この章にさしかかった時点では理解しようとする気は全く持てなくなっていた。そして本書は明らかに「詰め込み過ぎ」であるということに気づいた。「独習」するとしても自分で手を動かして計算を進められるだけの力量が必要であるということだ。本書の「序言」には「2年分の授業に相当する」と書かれている。
全体を読み終えてみて本書は「独習用」ではなく、「復習用」に適しているのだという結論に達した。すでにもっと詳しい(そして易しい)教科書で学び終えた人が壮大な理論体系を整理しなおすために読むのがよいだろう。
本書を買って「ハズレ」ではなかったものの、残念ながら今の段階で自分にとって有益なものではなかったというのが僕の感想だ。と同時に本書のようなレベルの本を読めるように早くなりたいものだという気持ちにさせられた。
「学問に王道なし」である。
関連記事:
場の量子論:坂井典佑
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a83afc332356c0fef65e6527ddd71af1
場の量子論〈第1巻〉量子電磁力学:F.マンドル、G.ショー
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/08726ab931904f76d9c26ff56d219e53
場の量子論〈第2巻〉素粒子の相互作用:F.マンドル、G.ショー
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/95d908cd752af642964cbff7ea7f0301
大著に挑む (ワインバーグの「場の量子論」)
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「完全独習量子力学:林光男」前期量子論からゲージ場の量子論まで
第1部:前期量子論
第1章:粒子と波動の二重性
- エネルギー量子の発見
- ブラウン運動論―原子の実在性の証明
- 光量子論と光電効果
- 特殊相対性理論とコンプトン散乱・電子波
- 原子構造論
- 粒子と波動の二重性―エネルギーのゆらぎ
第2部:量子力学
第2章:行列力学と波動力学
- 行列力学と波動力学の基本
- 波動力学とハミルトン-ヤコビ方程式
- 行列力学とハミルトン方程式
第3章:量子力学の一般的定式化
- 量子力学的状態と重ね合わせの原理
- エルミート演算子の固有値と固有関数
- シュレディンガー描像とハイゼンベルク描像―変換理論
- オブザーバブルの測定と確率解釈
- 不確定性原理
- 経路積分による量子化
- 自由粒子
第4章:量子力学の初等的応用
- トンネル効果
- 井戸型ポテンシャル中の粒子
- クローニッヒ-ペニーの周期的ポテンシャル中の粒子
- 調和振動子
- ラザフォードの散乱公式―散乱問題の一例として
- 球対称なポテンシャル中の粒子
- 角運動量の量子化
第5章:スピンの発見
- パウリのスピン理論とその実験的検証
- ヘリウム原子のスペクトル
- アルカリ金属原子のスペクトル
- 多電子原子と元素の周期律表
- 原子核の独立粒子理論
第6章:量子統計
- フェルミ分布とボース分布
- 黒体輻射
- デバイの固体の比熱理論
第7章:ディラック方程式
- 電子の相対論的振る舞い―ディラック方程式
- ディラックの陽電子論
- ディラック方程式からのスピン-軌道相互作用の導出
- アハラノフ-ボーム効果
第3部:相対論的場の量子論
第8章:素粒子の場の量子化
- 局所場の量子論
- 自由場の正準量子化I―スカラー場の量子化
- 自由場の正準量子化II―スピノール場の量子化
- 自由場の正準量子化III―ワイル場とマヨナラ場の量子化
第9章:量子電気力学と経路積分による量子化
- 量子電気力学と純電磁場の量子化
- 場の相互作用と摂動論―ファインマングラフ
- 遷移確率と散乱断面積
第10章:くりこみ理論
- さまざまな相互作用
- 次元正則化
- くりこみ理論
- アノーマリーの計算 π0→γ+γ
第4部:非可換ゲージ場の量子論
第11章:非可換ゲージ場理論―量子色力学
- 序論―自然界の4つの相互作用
- 非可換ゲージ場理論
- 量子非可換ゲージ場理論とBRST対称性
- 非可換ゲージ場理論の経路積分量子化とファインマン則
- くりこみ理論
- くりこみ群と量子色力学の漸近的自由性
- レプトン-核子深非弾性散乱実験
第12章:電弱相互作用―電磁力と弱い力の統一
- SU(2)_L×U(1)_Yゲージ理論
- 自発的対称性の破れ
- ヒッグス機構
- ヒッグス機構とゲージ場の量子化―R_ξゲージ
- レプトンとクォークの質量
- GIM機構 K_L→μ(-)+μ(+)
- CP対称性の破れと小林-益川理論
- ミューオン崩壊と中性ウィークボソンによるニュートリノ生成
- シーソー機構によるニュートリノのマヨナラ型質量の生成とニュートリノ振動
参考文献
あとがき
索引