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無限をつかむ: イアン・スチュアートの数学物語

無限をつかむ: イアン・スチュアートの数学物語

内容紹介
いわゆる数学史の本ではない!!
本書の主題は、数学者たちが「無限」という暴れ馬を、どのようにして馴致してきたか、というものである。
この主題に沿って、数学の歴史を虚数とかトポロジーとか対称性とか、数学的アイデアごとに切り口を決めて、考え方の発展の歴史を章ごとにたどるという趣向の本である。数学の歴史を読む視点・切り口を示してみせる、というのが狙いと言っていいだろう。著者のように、博覧強記で、かつ遊び心のある人にしか書けない読み物である。2013年8月刊行、375ページ。

著者略歴
I.スチュアート
1945年9月14日生まれ。ウォーリック大学数学部教授。英国の第一線の数学者であり、ポピュラーサイエンス書の著者としても世界的に有名。2001年に王立協会のフェローとなる。著書に、『数学の魔法の宝箱』『数学の秘密の本棚』(共にソフトバンク クリエイティブ)、『もっとも美しい対称性』(日経BP社)などがある。 ウィキペディアの記事

翻訳者略歴
沼田寛:公立はこだて未来大学講師、京都大学理学部卒、出版社勤務、フリーのサイエンスライターを経て、2000年より現職、著書に「科学はどこまで謎を解いたか?」(共著:宝島社)、「ヒジョーシキな科学」(ジャストシステム)、「図解「複雑系」がわかる本」(中経出版)、「バクテリアと生物革命」(人類文化社)など。


理数系書籍のレビュー記事は本書で259冊目。

数学とは何か(原書第2版):R.クーラント、H.ロビンズ、I.スチュアート」の姉妹書ということで本書を読んでみた。両方とも数学全体を見渡すというテーマで書かれたものだが、本書は後発ということもあってクーラントの本を読んでいたとしてもじゅうぶん読む意味のある内容になっている。クーラントの本のほうが数式導出を含んでいるためレベルが高く、本書は読書習慣のある高校生から一般人ならば読むことができるレベルの好書だ。

章立ては次のとおり。(詳細の目次はこの記事の最後に載せておいた。)

まえがき

第1章:数の誕生―トークン・線刻・書字板
第2章:形のロジック―初期の幾何学
第3章:算術と記数法の歴史―十進記数法による筆算という大発明
第4章:未知数への目印―Xを追って代数学へ
第5章:不滅の三角形―三角法と対数の発明
第6章:解析幾何学の誕生―座標が幾何学と代数学をつないだ
第7章:数論のはじまり―整数の中に隠れたパターンを探れ!
第8章:微積分法―物理世界が従う文法の発見
第9章:微分方程式と自然法則―数理物理学の形成
第10章:虚の数―負の数は平方根をもつか?
第11章:解析学の土台―連続・極限・関数の明確な定義
第12章:不可能な三角形―ユークリッド幾何学を超えて
第13章:対称性の数理―解けない方程式の形は?
第14章:抽象代数学の発展―数の世界から代数構造へ
第15章:ゴムシートの幾何学―「かたち」の定性的理解へ
第16章:4次元の空間―幾何学と現実世界
第17章:論理のかたち―数学の基礎を求めて
第18章:どのくらい確かなの?―偶然性の合理的な扱い方
第19章:高速計算の時代―計算機の発展と計算数学
第20章:カオスと複雑系―不規則な現象にもパターンがある


大学でひととおり数学を学んだ僕でもドキドキ、ワクワクできる本、熱中できる本だった。年甲斐もない言い方だが、読みながら興奮してしまった。数式は若干含まれているものの高校で学ぶ基本的なものがちらほら書かれているだけだ。始めから終わりまで筋道が明確で読みやすい文章と図で占められている。

「高校生以上なら読める」と書いたが、高校生といってもピンからキリまでいる。375ページあるので読書の習慣がちゃんと身についている高校生ならば読めるということになるだろう。

数学とは何か(原書第2版):R.クーラント、H.ロビンズ、I.スチュアート」は主に大学の数学科の1、2年までで学ぶ分野が中心だが、後述する詳細目次を見ればわかるように本書は現代数学(抽象数学)も含めて大学数学のほとんどをカバーしている。各章はそれぞれの分野について数学史の流れに沿って説明が進んでいる。

専門に勉強していない人にとっても数学の威力を実感でき、もし自分が学ぶとしたらこんなに利用価値があるのかという期待に胸を膨らませることができる。それは単なる数学史にとどまらず現代の科学や技術にその分野がどう活かされているか、その分野で研究されている数学と現実世界との結びつきが明確に示されているからだと思う。

記述内容のレベルとしては易しすぎるというこもなく、ぎりぎりテレビの科学教養番組で紹介できるくらいだと思う。NHKスペシャルあたりで各章を1時間の番組にまとめて放送したら、すばらしい数学番組のシリーズになると思った。20章あるので1年のうち半分くらいのNHKスペシャルが数学番組になってしまうことになるが。

特に高校生にとっては、大学以降の数学と高校数学の違いがとてもよく理解できると思う。とはいえ大学の専攻を数学科にしようかどうかという判断のよりどころとするのはまずいと思った。それは本書があまりにもわかりやすく書かれているため、大学の数学の教科書の難易度を本書の説明だけからは想像することができないからだ。入学し、落ちこぼれてしまってからでは遅い。大学の専攻を決める際には、大型書店で実際の教科書を立ち読みすることをお勧めしたい。

たくさんの数学者のエピソードが紹介されているのも本書の魅力だ。僕が知らない数学者(特に女性数学者)も紹介されていたので、とても有益だった。

あと本書が優れているところとして、各分野の解説にとどまらず、その意義、歴史的な流れが明確な論理構成で示されていることだ。なぜ、そのような数学のアイデアが重要なのか、なぜ、その分野を切り開くのが困難だったかがよく理解できるのだ。原書自体が新しいので、サーストンの幾何化予想、リッチフロー、ペレルマンによるポアンカレ予想の証明まで解説されているのには恐れ入った。(参考記事:「トポロジカル宇宙(完全版):根上生也著」)

たくさんの高度な数学の概念、考え方を1冊で知ることができる。一般向け数学書数冊ぶんの価値がある本だ。自信を持ってお勧めしたい。


翻訳の元になった英語原書はこちら。

Taming the Infinite: The Story of Mathematics from the First Numbers to Chaos Theory
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同じ本は来年4月にも刊行予定なのだが、よく見てみるとページ数が100ページほど少ない。上記の原書とどう違うのかが僕にはよくわからないのだが、とりあえずリンクとして載せておく。

Taming the Infinite: 」2015年4月発売(予約受付中)


関連記事:

高校生にお勧めする30冊の物理学、数学書籍
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f79ac08392742c60193081800ea718e7

大学で学ぶ数学とは(概要編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/07137c47d16d95ddde8f5c4cb6f37d55

大学で学ぶ数学とは(実用数学編)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/975ad3faa2f6fd558b48c76513466945

世界を変えた17の方程式:イアン・スチュアート
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/58748ffcb6e52721fe47f7806fa14ee8

数学とは何か(原書第2版):R.クーラント、H.ロビンズ、I.スチュアート
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e2b02a51b73a9716b077da16a102aaff



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まえがき

第1章:数の誕生―トークン・線刻・書字板
- 数と数学のはじまり
- 数の表記
- 線刻
- 最初の数字
- 小さい数値を表す記号システム
- 古代エジプト人
- 数と人類

第2章:形のロジック―初期の幾何学
- 幾何学のはじまり
- ピタゴラス
- 無理数に手綱をつけて使いこなす
- ユークリッド
- 黄金比
- アルキメデス
- ギリシャ幾何学にとっての難問

第3章:算術と記数法の歴史―十進記数法による筆算という大発明
- ローマ数字から電卓の数表記まで
- 古代ギリシャの数字表記
- ヒンドゥー・アラビア数字の起源
- インドの数学者たち
- インド記数法の伝搬
- 暗黒時代?
- 負の数
- 算術は生き続ける

第4章:未知数への目印―Xを追って代数学へ
- 代数への糸口
- 方程式
- アル-ジャブル
- 3次方程式
- 代数学的記号表記
- 数の代数から式の代数へ

第5章:不滅の三角形―三角法と対数の発明
- 三角法
- 三角法のはじまり
- 天文学
- プトレマイオス
- 近世初期までの三角法の発展
- 対数
- ネイピアの対数
- 常用対数
- 自然対数の底 e
- 三角関数表や対数表がなかったら?

第6章:解析幾何学の誕生―座標が幾何学と代数学をつないだ
- フェルマー
- デカルト
- デカルト座標
- 関数のグラフ
- 座標幾何学の現在

第7章:数論のはじまり―整数の中に隠れたパターンを探れ!
- 数論(整数論)
- 素数
- ユークリッド
- ディオファントス
- フェルマー
- ガウス

第8章:微積分法―物理世界が従う文法の発見
- 世界の体系をつかさどる法則
- 微積分法
- 微積分の必要性
- 神と科学知識
- コペルニクス
- ケプラー
- ガリレオ
- 微積分法への数学的伏線
- ライプニッツの創案
- ニュートンの達成
- 取り残された英国
- 微分方程式

第9章:微分方程式と自然法則―数理物理学の形成
- 微分方程式
- 常微分方程式と偏微分方程式
- 波動方程式
- 音楽、光、音そして電磁波
- 熱と温度の方程式
- 流体力学
- 常微分方程式の発展と解析力学
- 数理化された物理学の成功

第10章:虚の数―負の数は平方根をもつか?
- 数の名称と意味
- 3次方程式の解法をめぐる謎
- 虚数
- 複素解析
- コーシーの積分定理

第11章:解析学の土台―連続・極限・関数の明確な定義
- フーリエ級数という難題
- 連続関数の定義
- 極限過程を適切に操作する
- ベキ級数
- 基礎を固めることの重要さ

第12章:不可能な三角形―ユークリッド幾何学を超えて
- 球面幾何学と射影幾何学
- 幾何学と美術
- デザルグの定理
- ユークリッドの公理系
- ルジャンドル
- サッケーリ
- ランベルト
- ガウスのディレンマ
- 非ユークリッド幾何学
- 宇宙の幾何学

第13章:対称性の数理―解けない方程式の形は?
- 群論の新しさ
- 代数方程式の解き方
- 解の公式を求めて
- アーベル
- ガロア
- ジョルダン
- 対称性の発見

第14章:抽象代数学の発展―数の世界から代数構造へ
- 洗練された概念の登場
- リーとクライン
- リー群
- キリング
- 単純リー群
- 抽象群
- 数論
- 環、体、多元環
- 有限単純群
- フェルマーの最終定理
- 抽象化された数学

第15章:ゴムシートの幾何学―「かたち」の定性的理解へ
- トポロジー
- 多面体とケーニヒスベルクの橋
- 面の幾何学的性質
- リーマン球面
- 面の向き付け可能性
- 3次元空間のトポロジー
- ペレルマン
- トポロジーと現実世界

第16章:4次元の空間―幾何学と現実世界
- 四つ目の次元
- 3次元数か4次元数か
- 高次元の空間
- 微分幾何学
- 行列代数
- 「現実の」空間
- 多次元空間の開花
- 一般化座標

第17章:論理のかたち―数学の基礎を求めて
- デデキント切断
- 自然数の公理系
- 集合とクラス
- カントルの集合論
- 集合の大きさ
- 矛盾
- ヒルベルトの企て
- ゲーデル
- 私たちはどこへきたのか?

第18章:どのくらい確かなの?―偶然性の合理的な扱い方
- 確率と統計
- 偶然性のゲーム
- 組合せ計算法
- 確率の理論
- 確率をきちんと定義する
- 統計データの解析

第19章:高速計算の時代―計算機の発展と計算数学
- まるで夢のよう?
- 計算機の勃興
- 計算機が求める数学
- アルゴリズムと計算量の理論
- 数値解析から証明支援まで

第20章:カオスと複雑系―不規則な現象にもパターンがある
- カオス
- 唯一究極の解?
- 非線形力学
- 集合論のモンスター
- いたるところにカオス!
- 複雑系
- セル・オートマトン
- 地質学と生物学
- 数学はどのように創られてきたか

さらに詳しく知るために
訳者あとがき
索引

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