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大規模言語モデルは新たな知能か―ChatGPTが変えた世界:岡野原大輔

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大規模言語モデルは新たな知能か―ChatGPTが変えた世界:岡野原大輔」(Kindle版)(サポートページ

内容紹介:
対話型サービスChatGPTは驚きをもって迎えられ、IT企業間で類似サービスをめぐる激しい開発競争が起こりつつある。それらを支える大規模言語モデルとはどのような仕組みなのか。何が可能となり、どんな影響が考えられるのか。人の言語獲得の謎も解き明かすのか。新たな知能の正負両面をみつめ、今後の付き合い方を考える。

■著者からのメッセージ
本書では大規模言語モデルの可能性と課題、その仕組みを一般の方に向けて書きました。また最新の研究成果にもとづいて現時点でわかっている知見や将来の展望もまとめています。
本書では大規模言語モデルのもつ大きな可能性とともに、考えられるリスクについても述べています。そのリスクは非常に大きく、人類社会を脅かす可能性もゼロではない以上、よく向き合うべきだという懸念が世界的に示されています。今後、そうした可能性には具体的にどのようなものがあるかを検討し、どうすれば対応していけるのか、考えていく必要があります。
本書の後半では、これまで機械はなぜ人のように話せなかったのか、どのように言語モデルと機械学習が発展してきたのか、そして、ChatGPTを実現した大規模言語モデルはどのような仕組みであるのか、数式を用いずに解説しています。
しかしながら、大規模言語モデルがなぜこのように成功したのか、まだわかっていないところも多いのです。さらに言えば、私たちはまだ、なぜ人がうまく言語を獲得でき運用できるのか、深く理解できていません。大規模言語モデルと人の言語獲得には、解明すべき謎が多くあるのです。
今後、大規模言語モデルを人類が適切に扱えるようにしていくことが重要です。本書が大規模言語モデルを理解する一助になれば幸いです。

2023年6月20日刊行、136ページ

著者について:
岡野原大輔(おかのはら・だいすけ)
X(旧Twitter):@hillbig
ホームページ:https://hillbig.github.io/
1982年生まれ。2010年東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了、情報理工学博士。2006年Preferred Infrastructureを共同で創業、2014年Preferred Networks(PFN)を共同で設立。PFN代表取締役最高研究責任者およびPreferred Computational Chemistry代表取締役社長を務める。著書に『高速文字列解析の世界――データ圧縮・全文検索・テキストマイニング』『拡散モデル――データ生成技術の数理』(岩波書店)ほか。

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理数系書籍のレビュー記事は本書で486冊目。

本書を僕が知ったのは通勤電車だった。前に立っていた男性が熱心に読んでいたからだ。カバーをかけていなかったからである。食い入るように読んでいたから気になって仕方がなくなり、スマホで検索してKindle版を即購入。

ChatGPTで初めて遊んだとき、かなりのショックを受けた。30年あるいは50年先になる映画『2001年宇宙の旅』に出てくるHAL 9000のような人工知能がいきなり目の前にあらわれたからだ。2016年にディープラーニング技術を使った囲碁や将棋で名人を超えるAIが登場したとき、画像生成AIが登場したときの衝撃よりもはるかに大きなショックだ。

2021年3月に僕は「ゲーデル、エッシャー、バッハ―あるいは不思議の環: ダグラス・R. ホフスタッター」という本を紹介した。この本は1980年頃のコンピュータ技術で、将来のAIがどのように開発されるかという夢を数理論理学とソフトウェアのアルゴリズムを主軸に置く形で紹介した本だ。知的興奮に満ちた本だし、将来のAIはこの延長線上にあるのだと僕は思っていた。

ところが、予想はまったく外れた。ディープラーニングにしても、大規模言語モデル、そしてトランスフォーマーと呼ばれる技術は、まったく新しい技術だった。人間脳内の神経回路(ニューラルネットワーク)でどのように働いて思考や感情を生み出すかがほとんど解明されていないにもかかわらず、ソフトウェア上(あるいはハードウェア上)にニューラルネットワークを構成し、あたかも思考を行なっているように動作させることに成功したからだ。機械翻訳にしても、これまでのような文法解析はまったく必要としていない。これが驚きだった。

科学雑誌Newtonでディープラーニングや大規模言語モデル(ChatGPT)のあらましは知ることができた。しかしなぜそのように動作するのかは、自分でプログラミングしてみないとわからない。おちおちしている間に僕は完全に取り残されてしまった。プログラミングはあきらめて「使えるようになるだけ」で満足することにしようか?それとももう少し深く学んでみようか。。。

そのようなときに目にしたのが本書だった。科学雑誌Newtonよりは深く学べるのかしら?と思って読んだわけだ。136ページの薄い本だからすぐ読み終えることができた。章立てはこのとおり。

序章 チャットGPTがもたらした衝撃
1章 大規模言語モデルはどんなことを可能にするだろうか
2章 巨大なリスクと課題
3章 機械はなぜ人のように話せないのか
4章 シャノンの情報理論から大規模言語モデル登場前夜まで
5章 大規模言語モデルの登場
6章 大規模言語モデルはどのように動いているのか
終章 人は人以外の知能とどのように付き合うのか
あとがき

数式はまったく書かれておらず、あっという間に読み終えることができた。最初の6割は科学雑誌Newtonなどを通じて知っていたことばかりだった。残りの4割がためになった。以下のようなことが新たに得た知識で、あらたな驚きと好奇心が生じた。

1) 自己注意機構を使って次の単語を予測するしくみが理解できた。
2) 通常の汎化を超えた汎化(分布外汎化)を達成することにより、まだ見たことがないデータでも適応することができる。
3) 人間のフィードバックによる強化学習(目標駆動学習)が可能。
4) 特に衝撃を受けたのは「べき乗則」の発見である。データを増やすこと、モデルを大きくすること、そして投入計算量を増やすことで「確実に」性能はアップするのだ。一般にこれは成り立たない。機械翻訳では辞書の語数をいくら増やしても翻訳品質の向上には結びつかず、かえって品質低下をもたらすのだ。

そして、本書を読んでいちばん衝撃を受けたのは、なぜこのような学習によって性能が向上するのか、つまりなぜ「べき乗則」が成り立つのかがわかっていないという事実。ディープラーニングもそうだが、学習過程を完全にトレースすることは不可能なのである。

1980年代にプログラミングを学び始めた僕にとって、自分の理解を超えた挙動をするシステムは気持ち的に受け入れがたい。なぜだかわからないけれども結果を出してしまう化け物を目にしたときの感覚にとらわれた。これが物理シミュ―レーションであれば、内部の詳細の計算をトレースできなくても納得することができる。しかし、AIのように仕事や生活、そして社会全体に影響を与えるシステムであれば、その可能性や脅威の大きさは計り知れない。

あと、ふと思ったのは「ゲーデルの不完全性定理」との関係である。AIには解けない問題が存在するということに通じるわけだが、この結果とディープラーニング、大規模言語モデルとの関係はどのようになるのだろうか?数理論理的な意味ではディープラーニングや大規模言語モデルから生じる結果の正誤は判断できないわけだから、この問いは今のところ無意味なのだろうか?

限られた時間の中で学ぶこと、経験できることは限られる。この分野についても、よい本を選んで読むこと、あるいは適切なオンライン学習をしていきたいと思った。

手軽に読める本なので、ぜひお読みいただきたい。


関連記事:

ゲーデル、エッシャー、バッハ―あるいは不思議の環: ダグラス・R. ホフスタッター
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6220ca683bd90204f671b44633e56890

将棋ソフト(Bonanza、GPS将棋、Apery)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9c39fa7ba13e6b9f06728f9d26097191


 

 


大規模言語モデルは新たな知能か―ChatGPTが変えた世界:岡野原大輔」(Kindle版)(サポートページ


序章 チャットGPTがもたらした衝撃
登場から二カ月で月間一億人が利用するサービスに
大規模言語モデルはこれまでにない汎用サービスを実現する
生活や社会を変えうる
社会への脅威となりうる
言語獲得の謎は解けるのか
新しい知能との付き合い方

1章 大規模言語モデルはどんなことを可能にするだろうか
文書の校正・要約・翻訳
プログラミングのサポート
ウェブ検索エンジンの上位互換
言語を使った作品を作る
言語以外を使った作品を作る
カウンセリング、コーチング
学習のサポート
高度な専門性が必要な仕事のサポート
人にやさしいインターフェース
科学研究の加速
演繹的なアプローチと帰納的なアプローチの融合

2章 巨大なリスクと課題
情報の信憑性――幻覚
幻覚の解決は簡単ではない
誤った情報の拡散
プライベートな領域に入り込む
価値観や偏見の扱い方
本人であることの証明が難しくなる
変わる仕事、残る仕事
AIの補助で仕事の構造が変わっていく
大規模言語モデルの開発が一部に独占される

3章 機械はなぜ人のように話せないのか
人は言語をどのように獲得し、運用しているのか
私たちは言語をいつのまにか獲得している
自然言語処理と機械学習
これまでの機械学習では言語獲得・運用は難しかった
4章 シャノンの情報理論から大規模言語モデル登場前夜まで
意味をなくし確率を使って情報を表わす――革命的だったシャノンの情報理論
どの文がもっともらしいか――言語モデル
言語モデルは言語を生成することができる
消された単語を予測することで言語理解の能力を獲得する
多様な訓練データをタダでいくらでも入手できる自己教師あり学習
問題の背後にある法則やルールを理解できるか――汎化
実験結果は言語モデルが意味や構造を理解していることを示唆する
言語モデルは文の意味を理解し、かつ文も生成できる
《コラム》圧縮器としての言語モデル
データを生成できるモデルの発展
《コラム》人も言語モデルから学習しているのか

5章 大規模言語モデルの登場
限界への挑戦
言語モデルの「べき乗則」の発見
データと計算力があれば知能が獲得できる
モデルを大きくすると問題が急に解けるようになる
《コラム》普遍文法と現在の大規模言語モデル
大規模化はどこまで進むのか
《コラム》人の脳とAI
プロンプトで変わるAIの使い方
AIを使った開発は誰でもできるようになる
人によるフィードバックを与える

6章 大規模言語モデルはどのように動いているのか
ニューラルネットワークの進化
ニューラルネットワークの学習――誤差逆伝播法
汎化――未知のデータの予測へ
ディープラーニングの登場
《コラム》アレックスネット開発の裏側
なぜディープラーニングはここまで成功したのか
《コラム》モデルサイズと汎化の謎
データの流れ方を学習し、短期記憶を実現する注意機構
大規模言語モデルを実現したトランスフォーマー
指示を受け、その場で適応していく本文中学習
人間に寄り添う生成のための目標駆動学習
チャットGPTでの矯正法

終章 人は人以外の知能とどのように付き合うのか
道具としての大規模言語モデル
間違いもするし、自分と考え方も違う人のように付き合う
人はこうしたツールを飼いならせるのか
コンピュータ将棋、囲碁のケース
人間自身の理解へ

あとがき

2023年 ノーベル物理学賞はアゴスティニ博士、クラウス博士、ルイリエ博士に決定!

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スウェーデン王立科学アカデミーは3日、2023年のノーベル物理学賞を、1000兆分の1秒より短い時間で起きる現象を探究する「アト秒科学」の分野を切り開いた米欧の研究者3人に贈ると発表した。物質中の電子の動きを一瞬の光で観測する技術を確立したことが評価された。


授賞式は(とね日記賞の発表と同じ)12月10日に開かれる。賞金は1100万スウェーデン・クローナ(約1億5000万円)で、3人で等分する。

The Nobel Prize in Physics 2023
https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2023/summary/

Announcement of the Nobel Prize in Physics 2023



今年は「アト秒光パルスを発生させる実験手法の開発」における業績が評価されたことによる授賞である。


発表では次のようなスライドが映された。














発表のタイミングで公開されたプレスリリースを和訳したものを載せておこう。

プレスリリース(英語):
https://www.nobelprize.org/uploads/2023/10/press-physicsprize2023.pdf
https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2023/summary/

日本語訳:

2023年ノーベル物理学賞

ピエール・アゴスティーニ、オハイオ州立大学、アメリカ

フェレンツ・クラウス、マックスプランク研究所、ドイツ

アンヌ・ルイリエ、ルンド大学、スウェーデン

“物質中の電子力学の研究のためにアト秒の光パルスを生成する実験方法に対して”授賞する。


光を使った実験で最も短い瞬間を捉えます

2023年のノーベル物理学賞受賞者3人は、原子や分子内の電子の世界を探求するための新しいツールを人類に提供した実験で評価された。ピエール・アゴスティーニ、フェレンツ・クラウス、アンヌ・ルイリエ は、電子が移動したりエネルギーが変化したりする急速なプロセスを測定するために使用できる、非常に短い光パルスを作成する方法を実証しました。

静止画で構成される映画が連続した動きとして認識されるのと同じように、人間が認識すると、高速で動くイベントが互いに流れ込みます。本当に短い出来事を調べたい場合は、特別な技術が必要です。電子の世界では、変化は 10 分の 1 アト秒で起こります。アト秒は非常に短いため、1 秒間に宇宙誕生からの数秒と同じくらい変化します。

受賞者らの実験は、アト秒単位で測定できるほど短い光パルスを生成し、これらのパルスを使用して原子や分子の内部プロセスの画像を提供できることを実証した。

1987 年、アンヌ・ルイリエは、赤外レーザー光を希ガスに透過させると、さまざまな光の倍音が生じることを発見しました。各倍音は、レーザー光の各サイクルに指定されたサイクル数を持つ光波です。それらは、レーザー光がガス中の原子と相互作用することによって引き起こされます。一部の電子に追加のエネルギーを与え、それが光として放出されます。アンヌ・ルイリエはこの現象の研究を続け、その後の画期的な進歩の基礎を築きました。

2001 年、ピエール・アゴスティーニは、各パルスの持続時間がわずか 250 アト秒である一連の連続光パルスの生成と調査に成功しました。同時に、フェレンツ・クラウスは別の種類の実験に取り組んでおり、その実験では 650 アト秒持続する単一の光パルスを分離することが可能でした。

受賞者の貢献により、以前は追跡できなかったほど迅速なプロセスの調査が可能になりました。

「私たちは今、電子の世界への扉を開くことができます。アト秒物理学は、電子によって支配されるメカニズムを理解する機会を与えてくれます。次のステップはそれらを応用することです」とノーベル物理学委員会委員長のエヴァ・オルソンは言います。

さまざまな分野で応用できる可能性があります。たとえば、エレクトロニクスでは、物質内で電子がどのように動作するかを理解し、制御することが重要です。アト秒パルスは、医療診断などでさまざまな分子を識別するためにも使用できます。


イラスト

以下のイラストは非営利目的である限り無料で使用できます。著作権はスウェーデン王立科学アカデミー、Johan Jamestadに帰属します。

イラスト:2023 年ノーベル物理学賞(pdf
イラスト:アト秒(pdf
イラスト:倍音(pdf
イラスト:レーザー光が気体中の原子と相互作用する(pdf
イラスト:電子の世界は最短の光パルスで探索される(pdf


アゴスティニ博士、クラウス博士、ルイリエ博士、物理学賞受賞おめでとうございます。


関連書籍:

後日追記予定。


関連記事:

2022年 ノーベル物理学賞はアスペ博士、クラウザー博士、ツァイリンガー博士に決定!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7202553c9ccff103b30109d5c66c37d4

2021年 ノーベル物理学賞は真鍋博士、ハッセルマン博士、パリージ博士に決定!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a98679530eb64ee5875d72eb3a84c8bf

2020年 ノーベル物理学賞はペンローズ博士、ゲンツェル博士、ゲーズ博士に決定!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/379d0faef6100f33e962cbee08b1e4a7

2019年 ノーベル物理学賞はピーブルズ博士、マイヨール博士、ケロー博士に決定!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/671a733c37916c34a7f886bcbdf2c732

2018年 ノーベル物理学賞はアシュキン博士、ムル博士、ストリックランド博士に決定!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d7332ad2a827c9f47e2f24175a0378d5

2017年 ノーベル物理学賞はワイス博士、バリッシュ博士、ソーン博士に決定!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4f6e5823d5cf2358aff0aee5f855e9cf

2016年 ノーベル物理学賞はサウレス先生、ホールデン先生、コスタリッツ先生に決定!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f3f3c637394d58af8ce3039bcd35f972

2015年 ノーベル物理学賞は梶田隆章先生、アーサー・マクドナルド先生に決定!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/8c8286906a9397277af1f47e7260efe7

2014年ノーベル物理学賞は赤崎勇先生、天野浩先生、中村修二先生に決定!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2172a44a53c933389fcb8dc1acbfd97e

速報:2013年ノーベル物理学賞はヒッグス博士とアングレール博士に決定!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e4c4d6d15d52e86a94caccd6da8edb5e


 

 

2023年 ノーベル化学賞はバウェンディ博士、ブルース博士、エキモフ博士に決定!

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スウェーデン王立科学アカデミーは4日、2023年のノーベル化学賞を、極めて小さいナノ(ナノは10億分の1)レベルの半導体の微粒子「量子ドット」の基礎を築いた米国の研究者3人に授与すると発表した。テレビの液晶ディスプレーの高精細化を可能にするほか、がんの外科手術で治療する部位の目印としても活用されている。

授賞式は(とね日記賞の発表と同じ)12月10日に開かれる。賞金は1100万スウェーデン・クローナ(約1億5000万円)で、3人で等分する。

The Nobel Prize in Chemistry 2023
https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2023/summary/

Announcement of the Nobel Prize in Chemistry 2023



今年は「極めて小さいナノ(ナノは10億分の1)レベルの半導体の微粒子「量子ドット」の基礎」を築いた業績が評価されたことによる授賞である。


発表では次のようなスライドが映された。












発表のタイミングで公開されたプレスリリースを和訳したものを載せておこう。

プレスリリース(英語):
https://www.nobelprize.org/uploads/2023/10/press-chemistryprize2023.pdf
https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2023/summary/

日本語訳:

2023年ノーベル化学賞

モウンジ・バウェンディ、マサチューセッツ工科大、アメリカ

ルイス・ブルース、コロンビア大、アメリカ

アレクセイ・エキモフ、ナノクリスタルズ・テクノロジー社、アメリカ

“量子ドットの発見と合成に対して”授賞する。


彼らはナノテクノロジーの重要な種を蒔いた

2023 年のノーベル化学賞は、サイズによって特性が決まるほど非常に小さいナノ粒子である量子ドットの発見と開発に与えられます。これらのナノテクノロジーの最小コンポーネントは現在、テレビや LED ランプから光を広げ、特に腫瘍組織を切除する際に外科医を導くこともできます。

化学を勉強する人は誰でも、元素の性質がその元素が持つ電子の数によって支配されることを学びます。しかし、物質がナノ次元に縮小すると、量子現象が発生します。これらは問題の大きさによって決まります。2023年のノーベル化学賞受賞者らは、その性質が量子現象によって決まるほど小さな粒子を生成することに成功した。量子ドットと呼ばれる粒子は、現在ナノテクノロジーにおいて非常に重要です。

「量子ドットには、多くの魅力的で珍しい特性があります。重要なのは、サイズに応じて色が異なるということです」とノーベル化学委員会委員長のヨハン・オクヴィスト氏は言います。

物理学者は、理論的にはサイズに依存する量子効果がナノ粒子で発生する可能性があることを長い間知っていましたが、当時はナノ次元で彫刻することはほとんど不可能でした。したがって、この知識が実用化されると信じていた人はほとんどいませんでした。

しかし、1980 年代初頭に、アレクセイ・エキモフは色ガラスにサイズ依存の量子効果を作り出すことに成功しました。この色は塩化銅のナノ粒子に由来しており、エキモフは粒子サイズが量子効果を介してガラスの色に影響を与えることを実証しました。

数年後、ルイス・ブルースは流体内を自由に浮遊する粒子におけるサイズ依存の量子効果を証明した世界初の科学者となりました。

1993 年、モウンジ・バウェンディは量子ドットの化学的製造に革命をもたらし、ほぼ完璧な粒子を実現しました。応用して活用するためにはこの高い品質が必要でした。

量子ドットは現在、QLED テクノロジーに基づいてコンピューターのモニターやテレビ画面を照らしています。また、一部の LED ランプの光に微妙なニュアンスを加え、生化学者や医師は生体組織のマッピングに使用します。

このように、量子ドットは人類に最大の利益をもたらしています。研究者らは、将来的にはこれらの粒子がフレキシブルエレクトロニクス、小型センサー、薄型太陽電池、暗号化された量子通信に貢献できると信じているため、私たちはこれらの小さな粒子の可能性を探求し始めたところです。


イラスト

以下のイラストは非営利目的である限り無料で使用できます。著作権はスウェーデン王立科学アカデミー、Johan Jamestadに帰属します。

イラスト:2023 年ノーベル化学賞(pdf
イラスト:量子ドット(pdf
イラスト:粒子が収縮すると量子効果が生じる(pdf
イラスト:モウンジ・バウェンディが量子ドットを製造した方法(pdf


バウェンディ博士、ブルース博士、エキモフ博士、化学賞受賞おめでとうございます。


関連書籍:

後日追記予定。


関連記事:

2020年 ノーベル化学賞はシャルパンティエ博士、ダウドナ博士に決定!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bf11e4584bfd9e575b3b835720bb04ee

2019年 ノーベル化学賞はグッドイナフ博士、ウィッティンガム博士、吉野博士に決定!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/85f86e05e185bca7d9f0d2b958bd310b

2016年 ノーベル化学賞はソバージュ先生、ストダート先生、フェリンガ先生に決定!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ff609ab9fef06c6188e0cb3505d9e0fe


 

 

電卓技術教科書〈基礎編〉(1971年)

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電卓技術教科書〈基礎編〉(1971年)」B6版、356ページ

内容紹介:
「基礎編」では1969年に発売されたCompet CS-12Dの実際の論理回路を例に取り上げながら四則演算電卓のしくみが詳しく解説される。そして巻末には全回路図が掲載されている。

1971年8月15日刊行、356ページ
所有しているのは1974年1月20日刊行、第5版1刷

監修者について:
佐々木 正(ささき ただし):ウィキペディアの記事
1915年〈大正4年〉5月12日 - 2018年〈平成30年〉1月31日没、102歳。日本の電子工学の科学者。シャープ元副社長。工学博士。「ロケット・ササキ」の異名を持つ。本書刊行時はシャープ株式会社代表取締役専務・産業機器事業本部長。本書の執筆はシャープ株式会社のエンジニアが分担。


理数系書籍のレビュー記事は本書で487冊目。

そもそもの発端は10年前、100円ショップのダイソーで100円の四則電卓を見かけたことだった。日常よくある光景である。その日はとても暑く、ぼんやりその電卓を見ているうちに、自分が電卓のしくみをほとんど理解していないことに気がついたのだ。たかが100円の電卓である。理数系を標ぼうしているのに、これはなんとしたことか。この日のことは「電卓を作りたいという妄想」という記事で紹介した。スマートフォンのような数億から数十億個の電子部品を使って作られている電子機器を理解することなどできないに決まっているが、電卓くらいならなんとかなるのではないかというわけである。

どうすれば理解できるようになるのか、あれこれ調べているうちに今回紹介する本を読めばよいこと、そしてこの本以外に電卓を解説している本が見当たらないことがわかった。本書のことは10年前に「電卓技術教科書〈基礎編〉〈研究編〉:ラジオ技術社」という記事であらましを紹介していたが、今回ようやく1冊目を読み終えることができたので、紹介記事にしてく。

本書がとりあげて解説しているのは1969年に発売されたSHARP Compet CS-12Dである。発売当時の価格は14万3千円である。その年の大卒初任給は3万4千円だったから、給料の4.1カ月分の買い物である。

SHARP Compet CS-12D (1969)


僕はたまたま、この電卓が発売されたのと同じ年に発売された CS-12A (1969) を入手していた。CS-12Dより少し安く12万9千円である。(CS-12Aの紹介記事)両者はほとんど同じで、このように動作する。



最初に電源のオフとオンを何度か繰り返し、その後数字を順番に押して12桁あることを確認、次に円周率の近似値として355÷113を計算し、最後に1から10までの総和と積(10の階乗)を求めている。


このころまでにようやく電気製品にごく初期のタイプのICが使われるようになっていた。ICを構成している電子部品はせいぜい10個ほどである。

電卓やコンピュータは0と1の二進数を使って計算を行なっていることは一般常識として、では、具体的にどのような電子部品を、どのような回路に組めば電卓が作れるのだろうか?

たとえば、12+3を計算するとき、まずキーボードで1のキーを押す。そして次の2を押すと文字盤には12と表示される。次に押すのは「+」キーだが、計算するのが123+3であれば、次に押すのは「3」のキーである。足し算をするために順番にキーを押していく間、キーを押すたびに電卓の内部の状態は遷移しているはずである。コンピュータであればこのような手順はあらかじめプログラムとしてハードディスクやメモリーに書かれているが、電卓の場合は手順を人間がキーを押すことで進めていく。

60年代の電卓はこのようなことを「ワイヤードロジック(結線論理)」で実現していた。トランジスタやダイオードなど(60年代後半にはICも含まれる)を配線して論理回路を構成していたのである。ただし本書の基礎編を読むとCompet CS-12Dは「ワイヤードロジック」を採用してはいるものの、制御回路の部分は「マイクロプログラム論理」で作られている。説明がややこしいが、一部の回路は「コンピュータ的」なのだ。

このようにおおまかに説明したとしても、これを実現する電子回路は見えてこない。足し算をするときは足される数と足す数をそれぞれ「レジスタ」に置いておかなければならない。この電卓は12桁まで計算できるから12桁のレジスタが2つ必要になる。そして1桁の10進数を表現するには4ビットの2進数が必要になりこれを2進化10進数と呼んでいる。

計算のレベルをかみくだいて1ビットレベルにまで下げていくと、1ビットを記憶しておくための電子回路が必要だとわかるようになる。また1ビットどうしの2つの数について和をとることが足し算のいちばん基本的な演算となる。つまりそれを行うにはAND回路、OR回路、NOT回路、NAND回路などのゲート回路が必要になる。これらの回路もいちばん下位のレベルでは、トランジスタ、コンデンサ、抵抗、ダイオードなどの基本的な電子部品から構成されている。

実用的な電卓として使えるようにするためには、おそろしく複雑な回路が必要になることは想像にかたくない。本書は「高校・大学初級の人々を対象にして記述してある」と「監修者のことば」に書かれているが、それは読者を買いかぶりすぎだ。

本書の章立ては次のとおりである。(記事最後に詳細目次を載せておいた。)

「基礎編」の章立て

序章:電卓の歴史と将来の展望
第1章:電卓とは
第2章:電卓の基礎理論
第3章:電卓の実際
第4章:入・出力装置
第5章:演算装置と演算制御
第6章:演算方式
第7章:電源回路
第8章:電卓の操作方法
巻末:
1.コンペットCS-12Dの全回路図
2.わが国の電卓の一覧表

かなり時間をかけて僕は読み終えることができた。項目ごとの説明には図やそれを実現する回路図が付されている。とても込み入ってはいるが、すべてひととおり理解することができた。ものすごい感動と充足感が得られた。

たとえば、さまざまな処理を決められた時間単位で行うためには、パルス信号を発生させてクロックとして使うことが必要だ。現代のパソコンであればCPUのクロックがこれにあたり、水晶発振器を使っている。しかしこの電卓が開発されたころは、小型の水晶発振器がないから、パルス信号を発生させることさえ、基本的な電子部品を組み合わせて実現させる必要があるのだ。気の遠くなるような話である。

パルス信号とタイムチャート(拡大


このCS-12Dでは12桁の加減乗除を行うことができる。たとえば2つの数値の加算を行うためには、1つめの数値を入力し、プラスキーを押してから2つめの数値を押し、イコールキーを押して結果を得る。そのためには1つめの数値と2つめの数値を記憶しておかなければならない。このためXとYの2つのレジスタが必要になる。これらのレジスタは2進化10進数で12桁を記憶できるように回路が組まれている。

加算の手順を実行するには順番に押すキーに従い、電卓の内部で処理が決められた手順に従って進むわけだが、この手順(プログラム)を実現しているのが「制御装置」である。制御装置は次の3つの部分に分けられる。

- アドレス・フリップ・フロップ
- プログラム・マトリックス
- 制御信号発生装置

この3つの部分を大まかに説明しているのが、次の3ページだ。

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2つめの画像に、水槽、ビニール管、バルブにたとえた概念図がある。これを回路として実現したのがプログラム・マトリックスだ。

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縦横規則的に配置されたこの回路図を初めて見たとき、これは「磁気コアメモリ」に似ていると思ったが、それは僕の勘違いだった。CS-12Dとほとんど同じCS-12Aを僕は所有しているが(参考記事)、中を開けても磁気コアメモリのような回路は見つからない。

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しばらく考えて、磁気コアメモリは見つからないのではなく、この電卓には搭載されていないのだと気がついた。プログラム・マトリックスは基本的な電子部品(トランジスタ、コンデンサ、抵抗、ダイオード)を配線することで実現されているのだ。

このプログラム・マトリックスは、電卓を操作するときに実行されるあらゆる手順を電子部品の配線、ワイヤード・ロジック(結線論理)によって実行することを可能にしている。

たとえば数字キーを押すと電卓内部の状態が変化するわけだが、次に押されるキーによって処理が分岐する。次に押されるのは数字キーかもしれないし、加減乗除の演算キーかもしれない。また小数点キーが押される場合もある。また、計算の途中でも状態はその手順を進めるにつれて変化する。また、押した数字が間違っていてクリアキーや、全クリアキーを押すことだってあり得る。それらすべてを網羅するように回路が組まれているのだ。

プログラムされているといってもそれは配線によって固定されているわけだから、コンピュータのように自由に変更できるものではない。固定されたプログラムである。

またこの電卓には磁気メモリーのような記憶装置が備わっていない。強いてメモリーのように情報を記憶するのは、演算に使うXレジスタ、Yレジスタ、そして計算手順が進むにつれて変化する「アドレス」と呼んでいる変数を格納する回路だけである。

コンピュータのしくみを学んだ人はご存知だろうが、プログラムはハードディスク(またはSSD)に保管されていて、実行するときはメモリー上に移し、実際の計算はメモリー上のプログラムの命令やデータをひとつずつアドレスの順番に読みだしてCPU(中央演算処理装置)で演算するものだ。プログラム、アドレス、メモリー、レジスタという用語がこの電卓でも使われているが、考え方や役割はコンピュータのそれとまったく違うから、なまじっかコンピュータのハードウェアの知識があるとこの電卓のしくみはわかりにくい。

電卓内部の状態遷移を使って手順を制御するわけだから、プログラム・マトリックスを設計する際には、プログラム・チャートの記述に従っている。

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このチャートが電卓操作でおこりうるあらゆる条件分岐、状態遷移と次の処理を網羅していて、気の遠くなるような作業だが、実際のプログラム・マトリックスの回路に落とし込まれている。プログラム・マトリックスはこの電卓の心臓部なのだ。

プログラム・マトリックスに実装されている「電卓操作でおこりうる条件分岐と次の処理」の中には、加算、減算、乗算、除算の手順がもちろん含まれている。減算は負の数を補数表現で表した数の加算として行われる。乗算は加算の繰り返し、除算は減算の繰り返しとして行われている。これらをフローチャートに書くと次のようになる。

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「電卓操作でおこりうる条件分岐と次の処理」の中にはエラー検出、その後の処理の手順も含まれている。計算結果が12桁を超えてあふれてしまう場合、ゼロによる除算が行われた場合でも「それはエラーで、正しく処理できませんでした」ということをユーザーに伝えなければならない。この電卓には次のようなエラー検出、処理がプログラム・マトリックスの中に実装されている。

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この記事では電卓で最も重要な制御回路の部分だけを、一般の方にもわかるよう直観的に説明したが、本書にはブログ記事では説明しきれないほどの機能が解説されている。パルスを生成する回路、レジスタに数値をセットする手順、キー入力を数値に変換する手順、加算を実行する手順、計算結果を蛍光管に表示する手順、電源回路など。それぞれ、解説のための図版、回路図とともにとても詳しく解説されている。

そして、それぞれの説明で使われた回路を合わせた「全回路図」が折り込みとして挿入されている。

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本書の最後では「その後の電卓」として、CS-201CS-362CS-361Pの3機種について、機能と操作方法が紹介されている。

CS-201 (1970):10桁、1メモリー、12万円
CS-362 (1970):16桁、2メモリー、22万円
CS-361P (1970):16桁、2メモリー、開平(ルート)機能、プログラム機能(60ステップ)、31万5千円

CS-361P (1970)


たった60ステップであるが、CS-361P (1970)にはプログラム機能(ジャンプ機能付き)が備わっている。また開平(ルート)計算ができるようになった。本書ではこの電卓のプログラム機能を使って開平(ルート)や円の面積を計算する例を使って、操作方法が紹介されている。

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本書を読むのにはとても時間がかかったが、とても熱中して読むことができた。充実した時間を過ごせたのは久しぶりである。当初の目的は、つまり電卓のしくみは理解できるようになったのだろうか?

本書で解説されている各項目に関しては、回路図を含めてほぼすべて理解できた。いちばん難しかったのはやはりプログラム・マトリックスを解説した箇所だ。電卓でいちばん重要な部分だから、時間をかけて何度も読んで理解するようにした。

電卓の各部分の回路は理解できたのだが、全回路図については理解できたとはいえない。各モジュールを組み合わせれば、結果的にこのような回路になるのだということで満足することにした。

そして電卓を作るに際していちばん重要な部分、つまり全回路図をどのようにして、実際のプリント基板上に電子部品を配置し、はんだ付けして配線するかという問題だ。これについては、まったく理解がおよばなかった。そもそも、ほとんど電子工作をしたことがないのだから理解どころか、イメージできないのは仕方がないことだとあきらめた。

この電卓が発売された1969年から2年後の1971年、世界最初のCPU(Intel 4004)が開発、発売された。CPUの着想から完成までのいきさつは「マイクロコンピュータの誕生―わが青春の4004:嶋正利」という本の紹介記事として書いてある。

4ビットを使うと0から9の数字を表現できる。(アルファベット26文字を表現できるのは8ビット以上が必要になる。)つまり、このCPUは当初、電卓用として使われ始めたのだ。電卓にCPUを使うことで、ようやく計算手順はプログラム可能になり、電卓はCS-12Dのようなワイヤード・ロジック(結線論理)のものから、プログラム・ロジック(プログラム論理)のものへと方式が移行していった。現在100円均一で売られている安物電卓から、高級なプログラム関数電卓まで、電卓はすべてプログラム・ロジックが採用されている。


本書は極めて入手が困難だ。お読みになりたい方は、辛抱強く探すか図書館で検索してみるのをお勧めする。

電卓技術教科書〈基礎編〉(1971年)」B6版、356ページ
電卓技術教科書〈研究編〉(1973年)」B6版、334ページ
電卓技術教科書〈研究編〉増補版 (1976年)」B6版、396ページ
  

日本の古本屋というサイトで「電卓技術教科書」を:検索してみる
ヤフオクで「電卓技術教科書」を:検索してみる


これまでに3冊とも入手することができた。次は「研究編」を読んで紹介記事を書くことにしよう。

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リレー式電卓を自作

本書で紹介したのは基本的な電子部品(トランジスタ、コンデンサ、抵抗、ダイオード、初期のMOS IC)を使った電卓だが、世の中にはツワモノがいる。リレー(電磁石を使ったスイッチ)だけで電卓の回路を作り、4桁の電卓であること、小数点計算や割り算ができないなど機能は限定されているが、それでも素晴らしいことに変わりはない。以下の動画をぜひご覧いただきたい。リレーはおよそ1000個使っているという。

マイ・プロジェクトX 「リレー式電卓」
http://madlabo.oops.jp/MAD/relay/relay.htm






関連記事:

電卓を作りたいという妄想
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/01cf6bc6669bf0956a792bce292f97f1

加減乗除と小数の計算手順を理解したい。
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/44687dc879c9a6642b59c49a0c7cc3b3

電卓技術教科書〈基礎編〉〈研究編〉:ラジオ技術社
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e639b30787954422bdcce0c6b17db2f0

IC電卓ノスタルジア (SHARP Compet CS-12A, 1969年)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9fead04c16784b42226ea8f280dc32a7

電卓技術教科書
https://www.protom.org/mad/0069.htm


 

 


電卓技術教科書〈基礎編〉(1971年)」B6版、356ページ


●目次 (基礎編)
 見返し (表)プログラム・チャートと各F/Fの役割り
 見返し (裏)加減算・乗除算のフロー・チャート
 緒言 監修者のことば

 序章 電卓の歴史と将来の展望
1.計算機の歴史
2.電卓の歴史
3.電子式卓上計算機の定義と分類
4.将来の展望
 第1章 電卓とは
1・1 電卓の操作法
 1・1・1 キー・ボードと操作の基本
  (1)置数キー
  (2)ファンクション・キー
  (3)定数指定スイッチ
  (4)タブレッション・ダイヤル・スイッチ
 1・1・2 CS-12Dによる計算の実例
1・2 電卓のなかでの計算の仕組み
 1・2・1 加算のメカニズム
 1・2・2 減算のメカニズム
 1・2・3 小数点のある場合と、答がマイナスになる場合のメカニズム
 1・2・4 計算機の三つの柱
 1・2・5 制御装置
  (1)「何処で」
  (2)「何時」
  (3)「何が」「何によって」「何を行う」
  (4)制御装置のはたらき
 第2章 電卓の基礎理論
2・1 2進法
 2・1・1 単純な2進法
 2・1・2 p進法の変換
 2・1・3 2進化10進法(8-4-2-1コード)
 2・1・4 2進化10進数の加減算
  (1)加算の場合
  (2)減算の場合
 2・1・5 2進法と論理回路の関係
  (1)論理和回路
  (2)論理積回路
  (3)否定回路
  (4)論理記号
2・2 論理数学の基礎
 2・2・1 ブール代数の概念
 2・2・2 Venn図表によるAND、ORの表現
 2・2・3 ブール代数の定理
 2・2・4 Venn図表の価値
 2・2・5 Veitch図表
  (1)要素が一つの場合のVeitch図表
  (2)要素が二つの場合のVeitch図表
  (3)要素が三つの場合のVeitch図表
  (4)要素が四つの場合のVeitch図表
 2・2・6 真理値表から論理式の導き方
  (1)真理値表から論理方程式の導き方
  (2)論理方程式の簡単化
  (3)冗長(組合わせ禁止)
  (4)2進化10進法の組合わせ禁止項
2・3 論理素子
 2・3・1 ダイオード
 2・3・2 トランジスタ
  (1)トランジスタの接地方式
  (2)トランジスタの静特性曲線
  (3)トランジスタの電流増幅率βと電流伝送率α
  (4)コレクタ遮断電流(Ico)
  (5)トランジスタの耐圧(最大コレクタ電圧Vcbo)
 2・3・3 MOS形電界効果形トランジスタ(MOS FET)
  (1)MOS形FETの動作原理
  (2)MOS形FETの分類
  (3)MOS形FETの特徴
  (4)MOS形FETの基本回路
 2・3・4 コア記憶素子
  (1)フェライト・コアの磁気的特性
  (2)電流一致方式
2・4 パルス回路
 2・4・1 パルスとは
 2・4・2 パルスの変形
 2・4・3 微分回路、積分回路
  (1)CR微分回路
  (2)CR積分回路
 2・4・4 トランジスタのスイッチング回路
  (1)スイッチング回路
  (2)トランジスタのスイッチング特性と回路動作
  (3)トランジスタのパルス応答
 2・4・5 いろいろなパルス回路
  (1)インバータ・パルス増幅回路
  (2)エミッタ・フォロワ・パルス増幅回路
  (3)表示用駆動回路
  (4)無安定マルチバイブレータ回路
  (5)2安定マルチバイブレータ回路
2・5 論理回路
 2・5・1 論理和回路
 2・5・2 論理積回路
 2・5・3 否定回路
  (1)トランジスタによるインバータ
  (2)MOS ICによるインバータ
 2・5・4 排他的論理和回路
 2・5・5 NAND回路
 2・5・6 NOR回路
 2・5・7 MOS ICによる応用ゲート回路
  (1)MOS ORゲート
  (2)MOS ANDゲート
  (3)2AND-2ORゲート
2・6 フリップフロップ
 2・6・1 電卓のなかのフリップフロップ
 2・6・2 一時記憶回路
 2・6・3 RSS形フリップフロップ
 2・6・4 J-K形フリップフロップ
 2・6・5 D形フリップフロップ
2・7 集積回路(IC)と電卓
 2・7・1 個別電子部品と電卓
 2・7・2 ICの分類
 2・7・3 MOS IC(Metal Oxide Semiconductor IC)
 2・7・4 電卓に用いられているIC
  (1)μPD1(5インバータ)
  (2)HD-704M(Dual 4AND Gate)
  (3)HD-706M(Dual 2AND-2OR Gate)
  (4)HD-708M(Multi Function)
  (5)HD-709M(Dual 8 Bits Shift Register)
  (6)HD-713M(4 Flipflop)
 第3章 電卓の実際
3・1 電卓内部の各装置の関連と動作
 3・1・1 電源スイッチを入れるとどうなるか
  (1)パルス・ジェネレータとその動作
  (2)ビット・タイム・カウンタ
  (3)ディジット・タイム・カウンタ
 3・1・2 キーを押すと、どのようにして計算が行なわれるのか
  (1)数字キーを押すと、どのようにして計算機にはいるのか
  (2)ファンクション・キーを押すと、どのようにして計算命令が記憶されるか
  (3)スタート・パルスはどのようにして発生するか
  (4)どのような装置が働いて計算を行なうのか
 第4章 入・出力装置
4・1 入力装置
 4・1・1 キー・ボード
  (1)リード・スイッチ
  (2)二重打ち防止装置
  (3)タブレッション・ダイヤル・スイッチ
  (4)定数指定スイッチ(N、×、÷スイッチ)
4・2 表示回路
 4・2・1 蛍光表示管の構造と動作
 4・2・2 表示管の駆動方法
 4・2・3 小数点の表示
 4・2・4 デコード回路
 4・2・5 プレート・セグメント選択回路とドライブ回路
 4・2・6 冷陰極放電管表示用駆動回路
 第5章 演算装置と演算制御
5・1 加減算装置
 5・1・1 純2進数の加減算装置はどのように構成するか
  (1)純2進数による13+22=35の筆算
  (2)純2進数による8-6=2の筆算
  (3)純2進数の加減算装置
 5・1・2 2進化10進数の加減算装置はどのように構成するか
  (1)2進化10進法の加算と+6補正
  (2)2進化10進法の減算と-6補正
  (3)2進化10進法の加減算装置
5・2 演算手順
 5・2・1 流れ図(フロー・チャート)
 5・2・2 加減算フロー・チャート
 5・2・3 乗算フロー・チャート
 5・2・4 除算フロー・チャート
5・3 電卓の制御方式
 5・3・1 プログラム・チャート
 5・3・2 プログラム・マトリックス
 5・3・3 マイクロ(マクロ)オーダの仕事
 5・3・4 番地およびブランチ
  (1)N0番地での動作
  (2)N0番地からN1~N4番地への移動
 5・3・5 制御クロック・パルス
 第6章 演算方式
6・1 演算実行の過程
 6・1・1 Pサイクル(キー操作のない区間)の動作
 6・1・2 [C]クリア・キーを押したときの動作
 6・1・3 [CE]クリア・エントリ・キーを押したときの動作
 6・1・4 リード・イン
  (1)[C]を押してから置数した場合の動作
  (2)[x]キーを押したときの動作
  (3)[÷]キーを押したときの動作
  (4)[=]キーを押したときの動作
  (5)[-]キーを押したときの動作
6・2 演算の実例
 6・2・1 加減算の実例
  (1)54.6-60.05=5.45(TAB=2)
  (2)ルーチンk-15の内容
  (3)ルーチンk-16の内容
  (4)ルーチンk-17の内容
 6・2・2 乗算の実例
  (1)2.5×7.2=18.00(TAB=2)、Nモード
  (2)ルーチンk-18の内容
  (3)ルーチンk-19の内容
  (4)ルーチンk-20、21の内容
  (5)ルーチンk-22の内容
  (6)ルーチンk-23の内容
  (7)ルーチンk-28の内容
  (8)ルーチンk-29の内容
 6・2・3 除算の実例
  (1)725.1÷3.925=184.738(TAB=3)Nモード
  (2)乗算と除算のルーチンの相違点
  (3)ルーチンk-24の内容
  (4)ルーチンk-25の内容
  (5)ルーチンk-26の内容
  (6)ルーチンk-27の内容
 6・2・4 定数計算
  (1)ルーチンk-3の内容
  (2)ルーチンk-9の内容
6・3 メモリー機能とその動作
 6・3・1 メモリーとは
  (1)メモリー付き計算機の相異点
  (2)B F/Fの追加
 6・3・2 Mに関する各ブランチの動作
  (1)Pサイクル、ルーチンk-1の内容
  (2)[CM] ルーチンk-18の内容
 6・3・3 メモリー計算の実例
  (1)メモリー加減算の実例
  (2)メモリー乗算の実例
  (3)メモリー除算の実例
  (4)ルーチンk-19の内容
  (5)ルーチンk-19、20、21の内容
  (6)ルーチンk-19、20、22の内容
  (7)[M+]と[M-]の差
  (8)ルーチンk-28の内容
  (9)ルーチンk-29の内容
  (10)ルーチンk-32、26の内容
 第7章 電源回路
7・1 整流回路
 7・1・1 整流
 7・1・2 整流回路と負荷の関係
  (1)半波整流回路
  (2)全波整流回路
7・2 定電圧回路
 7・2・1 定電圧回路(ツェナ・ダイオード)
  (1)定電圧特性
  (2)基本的な定電圧回路
  (3)ツェナ・ダイオードによる定電圧回路
 7・2・2 トランジスタを用いた定電圧回路
  (1)並列形定電圧回路
  (2)直列形定電圧回路
 7・2・3 定電圧回路の実用回路
 第8章 電卓の操作法
8・1 電卓の取扱い法
8・2 シャープ電卓による計算例
  〔1〕コンペットCS-201による計算例
  〔2〕コンペットCS-362による計算例
  〔3〕コンペットCS-361Pによる計算例
<索引>

 折込み1.コンペットCS-12Dの全回路図
      2.わが国の電卓の一覧表

電卓技術教科書〈研究編〉増補版 (1976年)

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電卓技術教科書〈研究編〉増補版 (1976年)」B6版、396ページ

内容紹介:
「研究編」では1969年に発売されたCompet CS-12D以降の電卓技術の発展を解説する。集積回路(IC、MSI、LSI)の進化により電卓は小型化、高機能化していった。電卓のしくみを解説するだけでなく、電卓の設計、製造、検査、信頼性向上、顧客サービスなども解説している。増補版では第9章「関数電卓」、第10章「電卓の新しいシステムと製造法」が追加され、関数機能の実装方法、プログラミング機能、薄型電卓を可能にしたフィルム上に回路を載せたフレキシブル回路について解説する。

1973年2月15日研究編刊行、334ページ
1976年7月25日研究編 増補版刊行、356ページ

監修者について:
佐々木 正(ささき ただし):ウィキペディアの記事
1915年〈大正4年〉5月12日 - 2018年〈平成30年〉1月31日没、102歳。日本の電子工学の科学者。シャープ元副社長。工学博士。「ロケット・ササキ」の異名を持つ。本書刊行時はシャープ株式会社代表取締役専務・産業機器事業本部長。本書の執筆はシャープ株式会社のエンジニアが分担。


理数系書籍のレビュー記事は本書で488冊目。

1960年代後半から1980年代における電卓の進化はめざましい。「基礎編」で紹介したシャープCS-12Dは、デスクトップサイズでメモリ無し、四則演算だけ可能な電卓だったが、その後、メモリ機能を実装した電卓、ゼロ・サプレス(不要なゼロを表示させない)機能、浮動小数点表示、ロール紙に印字するプリント機能、手軽に持ち運べる乾電池式の電卓、ポケットに入る薄型電卓へと進化していった。

また科学技術用途では、数値の指数表示、関数計算やプログラミングできる科学電卓が開発、販売されるようになった。数字の表示もニキシー管から赤色LED、青色蛍光管、液晶へと進化していった。特に電卓の小型化を可能にしたのは、IC、MSI、LSIなど集積回路の進化、小型化、そして電子回路を載せる形態が進化していったことによる。

この図は1964年(昭和39年)から1972年(昭和47年)にかけて発売されたシャープの電卓の一覧である。

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シャープ卓上電卓の歴史:
http://www.dentaku-museum.com/calc/calc/1-sharp/1-sharpd/sharpd.html

このシリーズには「基礎編」、「研究編」、「研究編 増補版」の3冊が刊行されていて、「研究編」に2章を追加したのが「研究編 増補版」である。だから「研究編 増補版」だけ読めば事足りる。

電卓技術教科書〈基礎編〉(1971年)」B6版、356ページ(紹介記事
電卓技術教科書〈研究編〉(1973年)」B6版、334ページ
電卓技術教科書〈研究編〉増補版 (1976年)」B6版、396ページ
  

日本の古本屋というサイトで「電卓技術教科書」を:検索してみる
ヤフオクで「電卓技術教科書」を:検索してみる

なお、この3冊は国会図書館からデジタルライブラリーとして読むことができる。ただし、申し込みが必要になる。ここから検索してみてほしい。


「基礎編」は最初から最後までワクワクしながら読むことができた。しかし「研究編」そして「研究編 増補版」は、興味が持てる章が限られていた。というのも僕は関数電卓マニアであり、プログラム電卓マニアだからである。

本書の章立ては次のとおりである。(記事最後に詳細目次を載せておいた。)

「研究編」の章立て(増補版で追加されたのは青字の第9章と第10章)

第1章 電卓の高級化
第2章 新しい電卓
第3章 集積回路
第4章 電卓の製品設計
第5章 電卓の安全規格
第6章 電卓の信頼性
第7章 電卓の製造・検査工程
第8章 ユーザーとの諸問題
第9章 関数電卓
第10章 電卓の新しいシステムと製造法

僕が興味を持てたのは第1章「電卓の高級化」、第2章「新しい電卓」、第9章「関数電卓」だけだった。だから今回の記事ではこのあたりを中心に、特に関数計算機能やプログラミング機能の実装についてだけ解説することにしよう。

「基礎編」は電卓のしくみのすべてを電子回路にまで落とし込んだレベルで解説しているが、「研究編」と「研究編 増補版」になると集積回路には膨大な数の電子部品が詰まっているのだから、電子回路にまで落とし込んだレベルで解説するのは不可能である。そのあたりはすでに僕のような素人が理解できるレベルを超えてしまっている。


プログラム機能を備えた電卓

「基礎編」では「その後の電卓」として、CS-361Pの機能と操作方法が紹介されていたが、「研究編」、「研究編 増補版」ではこの電卓をより詳しく解説している。この電卓はプログラム機能とメモリは備えているものの関数機能は備えていない。

CS-361P (1970):16桁、2メモリ、開平(ルート)機能、プログラム機能(64ステップ)、31万5千円

CS-361P (1970)


たった64ステップであるが、プログラミング機能を可能にしたのが「磁気コアメモリー」を搭載したことによる。この時代のプログラム電卓は「キーマクロ方式」で、電卓に覚えさせる計算手順を実行するために押すキーの順番をそのまま記憶させ、実行するときは、記憶したキーを順番に読みだして計算させる方式をとっていいる。「磁気コアメモリー」については「基礎編」で解説されていた。

磁気コアメモリー(128ビット)


これはCS-361P (1970)とほぼ同等のCS-361R (1969)のプログラム部の回路図である。上段中央に磁気コアメモリーがあるのがおわかりだろう。

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磁気コアの数は縦18個と横16個の合計288個あり、72ディジットすなわち72ステップの計算式および数字を記憶できる。ただし実際に使用するのは演算部の制御の都合で64ステップだ。これが現在のPCにおけるSSDやハードディスクに対応し、情報を書き込んだり読みだしたりすることができる。電源を切っても記憶した情報は消えない。

現在、僕は32ギガバイトのメモリ、1テラバイトのSSDを内蔵したPCを使っているが、この電卓で使われているメモリ(磁気コアメモリ)はわずか288ビットで、1キロバイトの4分の1程度である。1ビットで1桁の2進数(0か1つまりイエスかノー)の情報を記憶できる。そして4ビットあれば10進数の1桁の数字を記憶できる。

CS-361P (1970)のプログラム部は、このように紹介されている。

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(プログラム機能と)関数計算機能を備えた電卓

関数計算機能を備えた電卓は、SHARP PC-1001 (1973)、129,000円が最初の関数電卓(64ステップのプログラム機能付き)として発売され、後継機として関数電卓(64ステップのプログラム機能付き)PC-1002 (1974)、149,000円が発売された。PC-1001 (1973)は日本初のプログラム関数電卓である。

SHARP PC-1001 (1973)


カシオ電卓ではCASIO PRO-101 (1976), CASIO fx-201P (1976), fx-202P (1976)が初のプログラム関数電卓となる。

初期のカシオ関数電卓、プログラム関数電卓
http://www.epocalc.net/pages/calc_casio_fx.htm



CASIO PRO-101 (1976):4万9800円。256ステップ。(詳細1詳細2
CASIO fx-201P (1976):2万9000円。127ステップ。電源を切るとプログラムも消えた。(詳細
fx-202P (1976):3万9千円。fx-201Pにプログラム保護回路を内蔵したもの。(詳細
PRO fx-1はPRO-101に磁気カードリーダーがついた機種(動画

さて、関数計算機能はどのように実現されているのだろうか?マクローリン展開を用いる方法もあるが、PC-1001では繰り返し計算(漸化式)を使ったインクレメント法(インリメント法)が使われている。この方法で指数関数 exp(x)、sin(x)、cos(x)のフローチャートと計算式が本書に解説されている。

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この時代にはLSIを用いたCPU、ROM、RAMが実現されていた。プログラム電卓では関数計算以外の一般慶安のアルゴリズムと一緒に、上記のインクリメント法を使ったアルゴリズムは固定した回路としてP ROM内に置かれていた。

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この点はシャープ電卓でもカシオ電卓でも同じである。カシオの初期の関数電卓 fx-2fx-3 の電子回路上にはLSIがすでに使われていたことがおわかりになるだろう。(CPUやRAMはLSIの内部に構成されていない。LSI内部の結線論理で実現しているワイヤードロジックに近い設計だ。)

CASIO fx-2 (1972)
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CASIO fx-3 (1975)
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「基礎編」、「研究編」、「研究編 増補版」を読み、四則電卓、メモリ機能、開平(ルート)機能、プログラム機能、関数計算機能がどのように実現されているか、そしてどの程度複雑なものかを知ることができた。自分で電卓が作れるようになったわけではないが、「電卓を作りたいという妄想」や「加減乗除と小数の計算手順を理解したい」という当初抱いていた夢は実現することができたと言ってよいだろう。自分で納得できさえすればよいのである。


関連記事:

電卓技術教科書〈基礎編〉(1971年)
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電卓技術教科書〈基礎編〉〈研究編〉:ラジオ技術社
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神様の計算機 (CASIO fx-2、1972年)
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王様の計算機 (CASIO fx-3、1975年)
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世界初の手帳型プログラム関数電卓 CASIO fx-502P (1979)、fx-602P (1981)
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カシオミニのノスタルジア
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電卓技術教科書
https://www.protom.org/mad/0069.htm


 

 


電卓技術教科書〈研究編〉増補版 (1976年)」B6版、396ページ


●目次 (研究編)
 見返し(表) シャープ製品に見る電卓の発達史
 見返し(裏) キー・オペレーション・フロー・チャートの実例
 緒言 監修者のことば

第1章 電卓の高級化
1・1 印字式(プリント式)電卓
 1・1・1 印字式電卓のプリント・フォーム
  (1)加減算
  (2)乗算
  (3)除算
  (4)負数のある乗除算
  (5)積和、積差と個々の積
  (6)和積、差積
  (7)定数計算
  (8)べき計算
 1・1・2 印字式電卓のフロー・チャート
  (1)乗算A[×]B[=]のフロー・チャート
  (2)除算A[÷]B[=]のフロー・チャート
  (3)加減算A[=]B[-]のフロー・チャート
1・2 シャープCS-661印字式電卓
 1・2・1 操作キー
 1・2・2 プリンタの仕様
  (1)各種演算のプリント・フォーム
  (2)ゼロ・サプレス機能
  (3)パンクチュエーション
  (4)オートマチック・スペース
 1・2・3 ライン・プリンタの印字メカニズム
  (1)活字の配列
  (2)ハンマーのメカニズム
  (3)位置検出機構
  (4)プリント開始命令
  (5)プリント・サイクルとPの関係
  (6)ゼロ・サプレス信号および一致検出信号記憶用レジスタ
  (7)ゼロ・サプレスの方法
  (8)一致検出の方法
1・3 シャープCS-361R
 1・3・1 3レジスタ方式とは
  (1)乗算方法
  (2)除算方法
 1・3・2 完全自動処理小数点方式とは
 1・3・3 数式どおりの連続乗除算について
 1・3・4 ROUND(切上げ、四捨五入、切捨て)
 1・3・5 ゼロ・サプレス
 1・3・6 パンクチュエーション
 1・3・7 フロート
 1・3・8 開平計算
  (1)電卓の開平計算の原理
  (2)開平計算のフロー・チャート
1・4 プログラム付電卓CS-361P
 1・4・1 プログラム付電卓とは
 1・4・2 プログラム部の構成
 1・4・3 プログラム部動作の概略
  (1)情報記憶装置
   (a)書き込み、読出し方法
   (b)磁気コアの選択方法
  (2)アドレス・ステップ・カウンタ
   (a)アドレス・ステップ・カウンタⅠ(ASC-Ⅰ)
   (b)アドレス・ステップ・カウンタⅡ(ASC-Ⅱ)
  (3)LP発生回路
  (4)RP発生回路
  (5)コードの自動書込み
   (a)キー信号
   (b)命令
   (c)AUXコード
   (d)Haltコード
  (6)プログラムの実行
  (7)CL☆(クリア・スター)信号
 1・4・4 プログラムの組み方
  (1)キーおよびスイッチ
  (2)プログラムの基本的パターン
 1・4・5 計算式の書込み読出しの実際
  (1)Lモード(計算式の書込み)
  (2)Aモード(計算式の読出し実行)
第2章 新しい電卓
2・1 設計の立場から見た電卓
 2・1・1 IC化電卓設計技術の推移
  (1)回路設計の推移
  (2)論理設計の推移
  (3)システム設計の推移
2・2 新しい電卓を支える技術
 2・2・1 電卓の機能と信頼性の進展
 2・2・2 MSI化、LSI化と回路設計技術
2・3 新しい電卓の機能
 2・3・1 電卓の機能上の分類
  (1)超小形低級機(電子ソロバン)
  (2)普及機、中級機
  (3)高級機(プログラム機および科学計算用電卓)
 2・3・2 電卓の仕様設計
  (1)状態図による方法
  (2)オペレーション・フロー・チャートによる方法
 2・3・3 各社製品の特徴比較
2・4 電卓技術と設計
 2・4・1 電卓設計の基本的な考え方
 2・4・2 IC化、LSI化に伴う論理、回路方式の推移
  (1)IC化
  (2)MSI化
  (3)LSI化
 2・4・3 制御方式一般
 2・4・4 周辺部品との関係
  (1)キー
  (2)表示部
2・5 論理回路方式
 2・5・1 IC回路方式
  (1)DCTL
  (2)RTL
  (3)DTL
  (4)TTL
  (5)CML
  (6)CTL
  (7)MOS IC
   (a)MOS ICの特徴
   (b)レシオ回路、レシオレス回路
 2・5・2 4相論理回路
 2・5・3 特徴あるIC回路
  (1)C-MOS(Complementary MOS)
  (2)ブートストラップ回路
  (3)マルチフェーズ・インターフェース回路
  (4)Bi-MOS
 2・5・4 各種MSI
  (1)固定LSIと汎用LSI
  (2)プログラミングとROM、RAM
  (3)ROM、RAMとPLA
 2・5・5 LSI化のシステムと回路構成
2・6 電卓の周辺装置と部品
 2・6・1 表示および駆動回路
  (1)多桁数字表示管
   (a)多桁数字表示放電管
   (b)多桁蛍光数字表示管
  (2)発光ダイオード・ディスプレー
   (a)LEDの発光現象
   (b)結晶材料
   (c)LEDの特徴と電卓への応用
   (d)LEDに適した数字表示駆動回路
  (3)液晶ディスプレー
   (a)液晶ディスプレーの特徴
   (b)液晶の動作原理
   (c)液晶ディスプレーの構造
   (d)液晶ディスプレーの電気的特性
   (e)液晶ディスプレーに適した駆動回路
  (4)ブラウン管(CRT)
   (a)CRTの特徴
   (b)CRTの駆動回路
  (5)その他の新しいディスプレー
 2・6・2 プリンタおよびその駆動方式
  (1)電卓に適した印字機構とは
  (2)機械式プリンタ
   (a)フライング・ドラム式プリンタとその駆動回路
   (b)マルチ・タイプ・ホイール式プリンタの駆動制御回路
   (c)タイプ・バー式
  (3)電子式プリンタ
   (a)電解式プリンタ
   (b)インク・ジェット方式
   (c)放電破壊式プリンタ
   (d)駆動回路
 2・6・3 電卓用電池電源
  (1)ポータブル電卓用電池
   (a)各種電池の評価
   (b)電池駆動形電卓の設計ポイント
   (c)ユーザーへの注意事項
  (2)電池とDC-DCコンバータ
2・7 電子ソロバンEL-8
 2・7・1 EL-8の概略
 2・7・2 EL-8の構成の特色
 2・7・3 演算部
  (1)基本回路①の場合
  (2)基本回路②の場合
  (3)基本回路③、④の場合
 2・7・4 表示部
 2・7・5 入力部
 2・7・6 バッテリ
 2・7・7 電圧変換部
 2・7・8 ACアダプタ、カー・アダプタ
2・8 事務計算用電卓の設計例
 2・8・1 高級事務用電卓CS-363Rの設計
  (1)CS-363Rのシステム構成
   (a)入力装置
   (b)演算装置
   (c)出力装置
 2・8・2 中級事務計算用電卓CS-222の設計
2・9 科学技術用電卓
 2・9・1 科学技術用電卓の背景
 2・9・2 科学技術用電卓の機能
  (1)指数処理方式
  (2)プログラム機能
   (a)相対アドレス方式
   (b)絶対アドレス方式
   (c)その他の命令
  (3)関数機能
  (4)多メモリー
  (5)プログラム・ローダ
  (6)高速演算機能
  (7)多様な周辺装置の利用
 2・9・3 科学技術用電卓CS-363Pのシステム構成
  (1)構成の概要
  (2)基本演算制御
  (3)超越関数の計算
  (4)ROMによる超越関数のプログラム
  (5)プログラム機能
 2・9・4 科学技術用電卓の周辺装置
  (1)ディスプレー
  (2)キー・ボード
  (3)各種オプション・デバイス
 2・9・5 科学技術用電卓の今後の方向
第3章 集積回路
3・1 はじめに
3・2 小形化とIC
 3・2・1 小形化の法則
 3・2・2 小形化する方法
 3・2・3 小形化の歩留まり
3・3 集積化
 3・3・1 アイソレーション
  (1)空間的に分離する方法
  (2)絶縁体層による分離
  (3)PNジャンクションによる分離
 3・3・2 配線
 3・3・3 集積化と歩留まり
3・4 ICの分類
3・5 バイポーラIC
 3・5・1 バイポーラICの各種素子
  (1)トランジスタ
  (2)ダイオード
  (3)抵抗
  (4)容量
 3・5・2 バイポーラICの設計の問題点および製造工程
  (1)絶縁領域の決定
  (2)回路の交差
  (3)素子の占有面積とコスト
  (4)バイポーラICの製造工程
3・6 MOS IC
 3・6・1 MOS ICの特徴
 3・6・2 MOSトランジスタの構造と動作
 3・6・3 MOS抵抗とMOSコンデンサ
 3・6・4 MOS ICにおけるディジタルの基本回路とパターン
 3・6・5 MOS表面の安定化
  (1)不安定の原因
  (2)安定化の方法
 3・6・6 各種の新しいMOS
  (1)MOSトランジスタのスイッチング高速化
  (2)シリコン・ゲートMOS
  (3)C-MOS(コンプリメンタリMOS)
3・7 LSI(大規模集積回路)
 3・7・1 LSIの定義と特徴
 3・7・2 LSIの設計
 3・7・3 LSIの分類
  (1)形態による分類
  (2)配線方式による分類
   (a)任意配線方式(Discretionary Wiring)
   (b)100%歩留まり方式(100% Yield Approach)
   (c)積木方式(Building Block)
 3・7・4 電卓とLSI
第4章 電卓の製品設計
4・1 電卓設計の手順
 4・1・1 電卓設計の基本構想
 4・1・2 電卓の基本設計
 4・1・3 PCB(Printed Circuit Board:プリント基板)設計
 4・1・4 動作確認および諸測定
 4・1・5 デザイン
 4・1・6 機構設計
 4・1・7 試作機
 4・1・8 試作機試験
 4・1・9 総合評価
4・2 設計上の諸問題
 4・2・1 設計基準の必要性
 4・2・2 電気的特性のマージン・チェック
  (1)論理回路用電源電圧マージン・チェック
  (2)周波数マージン・チェック
  (3)各部信号波形チェック
 4・2・3 環境マージン・チェック
  (1)温度マージン・チェック
  (2)湿度マージン
  (3)対静電気マージン
  (4)ノイズ・マージン
  (5)不要輻射電波(Radio Frequency Interference)
4・3 部品および電卓の試作と評価
 4・3・1 部品の試作と評価
  (1)部品の規格(Specification:スペック)
   (a)性能スペック条件
   (b)信頼性スペック条件
  (2)部品の試作
  (3)部品の認定
 4・3・2 電卓の試作と評価
  (1)電卓の試作
  (2)電卓の評価
   (a)信号レベルの試験
   (b)トランスの試験
   (c)セット内温度上昇試験
   (d)電力の測定
   (e)フェーズ値決定試験
   (f)瞬時停電試験
   (g)ノイズの試験
   (h)静電気の試験
   (i)通電エージング・テスト
第5章 電卓の安全規格
5・1 安全規格の概要
 5・1・1 安全規格の目的
 5・1・2 各国の安全規格
 5・1・3 CEE規格とその他の安全規格の関係
  (1)CEE規格
  (2)CEE規格とヨーロッパ安全規格
  (3)CEE規格とUL、CSA電気用品規格
   (a)感電防止
   (b)火災防止
5・2 電卓の安全規格と対策
 5・2・1 安全規格用語とその注意
  (1)活電部分
  (2)近づきやすい部分
  (3)間隔
  (4)絶縁
  (5)機器分類
  (6)正常動作状態
  (7)障害状態
  (8)エンクロージャ
  (9)電源コード
  (10)ストレーン・リリーフ
  (11)配線
  (12)接地
  (13)絶縁抵抗、耐圧
  (14)表示
5・2・2 安全規格を考慮した機構設計
第6章 電卓の信頼性
6・1 信頼性計画
6・2 信頼性試験
6・3 信頼度の予測と評価
 6・3・1 製品のMTBF予測、算出方法
  (1)部品の故障率データによる予測手順
  (2)試験による算出手順
  (3)市場データによる算出手順
 6・3・2 MTBFの評価
6・4 電卓の信頼度設計
 6・4・1 配線の信頼性
  (1)プリント基板配線
  (2)スルー・ホール
  (3)プリンシャ・コネクタ接触端子
 6・4・2 部品の信頼性
  (1)ダイオード、トランジスタの信頼性
  (2)IC、LSIの信頼性
  (3)ディスプレー装置
 6・4・3 機構の信頼性
  (1)部品、材質強度
  (2)放熱性
  (3)組立性
 6・4・4 回路の信頼性
  (1)ディレーティング
  (2)温度マージン
  (3)部品の標準化
第7章 電卓の製造・検査工程
7・1 電卓の製造工程
 7・1・1 プリント基板上の組立て
 7・1・2 ハンダ付け
  (1)ハンダ付けとは
  (2)フラックス
  (3)洗浄
  (4)防湿処理
 7・1・3 電卓の組立て
 7・1・4 最終仕上げ
7・2 電卓の検査工程
 7・2・1 検査の目的
  (1)部品受入検査
  (2)工程内検査
 7・2・2 部品検査
 7・2・3 工程内検査
  (1)プリント回路の低温エージング検査
  (2)プリント回路の高温パワー・エージング検査
 7・2・4 完成品のエージング検査
 7・2・5 検査機
  (1)検査の自動化
  (2)LSIテスター
  (3)プリント回路検査機
第8章 ユーザーとの諸問題
8・1 サービス準備活動
 8・1・1 設計部門よりサービス部門への業務移管
 8・1・2 サービス資料
8・2 電卓の不良
 8・2・1 故障のいろいろと対策
 8・2・2 市場データのフィードバック
8・3 サービス体制
 8・3・1 責任分担
 8・3・2 LSI機と保守契約
第9章 関数電卓
9・1 電子計算尺ESR
 9・1・1 電子計算尺の概要
 9・1・2 設計例
9・2 関数電卓の仕様
 9・2・1 数値の扱い得る範囲
 9・2・2 ゼロ・サプレス
 9・2・3 キーの操作仕様
 9・2・4 関数電卓に含まれる関数の種類
 9・2・5 三角関数と逆三角関数における角度の範囲
 9・2・6 キーの数
 9・2・7 精度と表示
 9・2・8 演算時間と性能指数
 9・2・9 関数電卓の高級化
 9・2・10 関数電卓の応用分野
9・3 関数電卓の実例
 9・3・1 シャープPC-1002概略仕様
 9・3・2 概略構成
 9・3・3 マイクロ・プロセッサ・システム
 9・3・4 P ROM
 9・3・5 関数の計算
第10章 電卓の新しいシステムと製造法
10・1 COSシステム
 10・1・1 COSとは
 10・1・2 文字パターン電極の作成
 10・1・3 厚膜工程とCOS厚膜技術
 10・1・4 表示用液晶と駆動方式
 10・1・5 液晶工程
 10・1・6 COSの実装工程
10・2 フレキシブル回路パッケージ
 10・2・1 集積化の方向
 10・2・2 フレキシブル回路による電卓
 10・2・3 ドータ・ボードの形成
索引
〔脚注〕
 倍長演算
 小数点方式
 4捨5入機能
 アイテム・カウンタ
 パンクチュエーション
 バッファ・レジスタと演算速度
 ROMとPLAの実際

とね日記賞の発表!(2023): 物理学賞、数学賞、他

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第1回ノーベル賞授賞式(1901年)
 
毎年12月10日、スウェーデンのストックホルムでアルフレッド・ノーベルの命日に行われるノーベル賞の授賞式の日程にあわせて、「とね日記賞」を発表している。今年で14回目。

ノーベル賞を僕がもらう見込みはどうもないことに気がついたのは物理学を学び始め、このブログを書き始めた頃だった。なんだか悔しいと思ったのである。しばらくもやもやと考えていたところ、あることを思いついた。それはどうせもらえないのなら自分で賞を作って「あげる側」になってしまえ!という逆転の発想だった。

「とね日記賞」はその年に読んだ物理学書、数学書の中から自分のためになった本、この分野を勉強している学生や社会人にお勧めする本を物理学、数学など各分野に分けてそれぞれ1~2冊発表する。あとテレビドラマ賞や贈り物にふさわしい本としてクリスマス賞も設けている。


名著であっても僕がその価値を理解できなければ受賞できない。昨年以前に読んだ本は自動的に選考対象から外されるし、どんなに良書であっても読んでいなければ対象外。何より僕の学習進度や理解度や好みに影響される。

メダルも賞金も授賞式もスピーチも晩餐会も舞踏会もないから、ありがたくも何ともなく、主観だらけのアンフェアな賞だ。

次の賞を発表している。今年は数学書を読んでいないので授賞対象外。

- 物理学賞
 物理学の教科書、専門書から選考。

- 数学賞
 数学の教科書、専門書から選考。

- 教養書賞
 一般向け書籍から分野別に選考。

- ブルーバックス賞
 講談社ブルーバックスの書籍から分野別に選考。

- 文学賞
 ジャンルを問わない小説、文学書から選考。

- アカデミー賞
 今年観た映画の中からよかったものを選考。

- テレビドラマ賞
 テレビドラマの中からよかったものを選考。

- クリスマス賞
 クリスマスプレゼントにふさわしい本を選考。


この1年で読んだのは10冊で、次のような本である。通算479冊~488冊目。ここ3年、本業の仕事が忙しくなったのと生活パターンに大きな変化があったため、以前のように年間30~50冊の本を読むことはできなくなっていた。(参考:「400冊の理数系書籍を読んで得られたこと」)

479/宇宙を解くパズル:カムラン・バッファ
480/なぜ理系に女性が少ないのか:横山広美
481/Visual Studio Codeパーフェクトマスター:金城俊哉
482/いちばんやさしいGit&GitHubの教本 第2版 人気講師が教えるバージョン管理&共有入門
483/Python1年生 第2版 体験してわかる!会話でまなべる!プログラミングのしくみ
484/量子テレポーテーションのゆくえ: アントン・ツァイリンガー
485/ロヴェッリ 一般相対性理論入門: カルロ・ロヴェッリ
486/大規模言語モデルは新たな知能か―ChatGPTが変えた世界:岡野原大輔
487/電卓技術教科書〈基礎編〉(1971年)
488/電卓技術教科書〈研究編〉増補版 (1976年)


今年のマイブームは「物理学、数学以外も広く学ぶ」である。物理のシミュレーションができるようになることを目指したソフトウェア系の読書、10年前からの夢だった電卓のしくみを理解するための読書を進めた。

それでは2023年の「とね日記賞」を発表しよう。(書籍名と画像は本の購入ページにリンクさせておいた。)


* 物理学賞

今年は次の本に授賞することにした。

量子テレポーテーションのゆくえ: アントン・ツァイリンガー」(Kindle版
相対性理論から「情報」と「現実」の未来まで


授賞理由: 量子情報科学、量子テレポーテーションの技術を確立、発展したことに対して昨年のノーベル物理学賞が授賞された。(参考記事:「2022年 ノーベル物理学賞はアスペ博士、クラウザー博士、ツァイリンガー博士に決定!」)本書は受賞者のおひとり、世界で初めて量子テレポーテーションの実験を成功させたツァイリンガー博士自らが、一般の方向けに解説した科学教養書である。出版社は数々のSF小説でおなじみの早川書房だという点もユニークだ。量子テレポーテーションはもはやSFではなく、現実なのだから。英語版は最新の情報を加える形で今年5月に改訂され、日本語版もこれに合わせる形で5月に刊行された。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

量子テレポーテーションのゆくえ: アントン・ツァイリンガー
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3dec53bae7fe10fee8803eafe12c18e0


* 数学賞

該当なし。


* 電子工学賞

今年は次の本に授賞することにした。

電卓技術教科書〈基礎編〉(1971年)」B6版、356ページ
電卓技術教科書〈研究編〉増補版 (1976年)」B6版、396ページ
  

授賞理由: 10年前に抱いた「電卓の仕組みを理解したい」という夢を叶えてくれた本だ。電卓にはCPUがまだ使われていなかった1960年代後半から1970年代前半、電卓の回路はワイヤードロジック(結線論理)で設計されていた。基礎編では当時最先端の電卓としてシャープ株式会社で開発、販売が行われていた卓上電卓Compet CS-12Dの全回路図をひもとき、そのすべてを解説、研究編 増補版では、その後の電卓およびプログラム電卓、関数電卓のしくみを解説している。入手困難な本だけにとても貴重な技術資料なのだ。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

電卓技術教科書〈基礎編〉(1971年)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/da4eb2abbdc54127bcd01a01621f5957

電卓技術教科書〈研究編〉増補版 (1976年)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4029989f8a617abc61d332f6aead47a8


* 教養書賞

今年は次の本に授賞することにした。

なぜ理系に女性が少ないのか:横山広美」(Kindle版


授賞理由: みなさんは理系に女性の割合が少ないことを当たり前だと思ってはいないだろうか?理系に女性が少ないのは日本だけのことだろうか?理系の中でも女性が多い分野もある。それはなぜなのだろうか?国内および海外でのデータおよび研究論文をもとに、国内、国外の大学での状況、高校生、大学生、親の意識などさまざまな視点からこの問題を掘り下げ、解決するための案を提示した本である。「日本の理系女性の割合はOECD内で最下位」だとか「15歳の時点で日本の学生の数学の成績はは男女ともに世界トップクラス」、「海外の理系大学、理系学部では、むしろ女子学生のほうが多い」などは予想外だった。そして「女子生徒が物理を嫌いになるのは中学時代」だということを突き止め、対策をするのであれば中学生までの生徒、児童に対して働きかけなければならないと主張している。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

なぜ理系に女性が少ないのか:横山広美
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/527495b79b13bdd9fbde172b34a1346d


* ブルーバックス賞

今年は次の本に授賞することにした。

宇宙を解くパズル:カムラン・バッファ」(Kindle版


授賞理由: ハーバード大学で300年近い歴史がある「ホリス数学・自然哲学教授」にして、「超弦理論」などの研究で理論物理学をリードしてきたカムラン・バッファ氏が、1年生向けの講義で使っているパズル満載の型破りなテキストを書籍化!トランプやコイン、アリやカメらが繰り出す問題に悩むうち、物理学はどう進歩してきたのか、対称性やその破れがなぜ重要なのか、さらにいま注目の概念「双対性」の本質までが見えてくる。バッファ氏の盟友・大栗博司氏が監訳者として随所で注釈をほどこした、楽しみながら物理学の「真髄」に迫れる本!

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

宇宙を解くパズル:カムラン・バッファ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cd8113758a0fa0255b884e701e803c84


* 文学賞(コミック賞)

合本版 はだしのゲン①~⑦ (中公文庫コミック版)


授賞理由: 今年はこの漫画が連載され始めてからちょうど50年。いつか全巻読みたいと思っていたのだが、ようやく今年読み終えることができた。連載開始から50年ということ、広島市の平和教育からこの作品が排除されたこととで、報道や関連番組が放送されていたため、読みたいという気持ちが高まった。日本のみならず全世界の悲劇を繰り返さないために、この作品が存在する意義は大きい。すでに世界24か国語に翻訳されている。ウクライナ-ロシア、イスラエル-パレスチナの惨状を見れば戦争や虐殺が人倫に反すること、一部の金持ちを利するために引き起こされる戦争、虐殺に対して断固としたNoを突きつけなければならない。この作品を通じて平和の大切さを後世に伝えていきたい。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

合本版 はだしのゲン①~⑦ (中公文庫コミック版)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/75d56406860e23915579530c53bdba59


* アカデミー賞

映画『オッペンハイマー(公式HP)』を観て授賞するつもりだったのだが、残念ながら日本で公開されるには至らなかった。しかし、来年中には日本でも劇場公開されるというニュースがつい先日飛び込んできた。

ということでアカデミー賞は、次の作品に授賞することにした。現在劇場公開中である。

『ゴジラ-1.0(ゴジラ マイナス1.0)』
https://godzilla-movie2023.toho.co.jp/

映画『ゴジラ-1.0』公開記念特番 Behind the scenes -No.30-ト云フモノ


来年はゴジラ第1作(1954年)が公開されてからちょうど70年、そして本作品はちょうど第30作目にあたる。映画の詳細やメーキング映像は、上記の動画をご覧いただきたい。


* テレビドラマ賞

今年ダントツで面白かったのがTBSで放送された『VIVANT』だ。ご覧になっていない方は、U-NEXTで全話配信されているので見てほしい。



日曜劇場『VIVANT』
https://www.tbs.co.jp/VIVANT_tbs/




次に個人的にハマったのがNHKの朝ドラ『らんまん』である。植物学者の牧野富太郎の生涯を描いた作品。こちらはNHKオンデマンドで全話配信されている。個人的な神回は第56話である。12月30日、総集編が放送されるそうだ。



連続テレビ小説「らんまん」
https://www.nhk.jp/p/ranman/ts/G5PRV72JMR/



連続テレビ小説「らんまん 総集編」
明治の世を舞台に植物学者・槙野万太郎の大冒険を描いた「らんまん総集編」を一挙放送

愛する植物のために一途に情熱的に突き進んだ主人公・槙野万太郎(神木隆之介)とその妻・寿恵子(浜辺美波)の波乱万丈な生涯をじっくりご覧ください

【放送予定】
2023年12月30日(土)
午前7時20分から午前8時45分  前編
午前8時45分から午前10時10分 後編
各編85分
総合・NHKBSプレミアム4K同時放送


* クリスマス賞

1938年に発表されたアガサ・クリスティ作のエルキュール・ポアロが登場する推理小説。本作の日本語訳は1957年、1976年、2003年に刊行されたが、どれも翻訳品質が悪く、新訳がつい先月刊行されたばかりなのだ。これがクリスマス賞授賞の理由である。

アガサ・クリスティ(1890-1976)は、生涯66冊の探偵小説と14冊の短編集を発表したが、本作は作者の長編作品の中で唯一の密室殺人ものである。

ポアロのクリスマス〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫): アガサ・クリスティ」(Kindle版
Hercule Poirot’s Christmas: Agatha Christie」(Kindle版
Le Noël d'Hercule Poirot: Agatha Christie
  

導入部: クリスマスも間近に迫るゴーストン館の当主である老富豪シメオン・リーは、クリスマスのイベントとして家族を集めようと決めて、シメオンと同居している長男のアルフレッドとその妻リディアを困惑させる。シメオンは、彼の他の息子たち、国会議員のジョージと画家のデヴィッド、彼らの妻マグダリーンとヒルダはともかくとして、1度も会ったことのない孫娘のピラールや、シメオンの金を着服して行方をくらまし、その後も不始末を起こしては金をせびる放蕩息子のハリーまで呼び戻すというのであった。
こうして再会した一同だが、そこにシメオンの旧友の息子のスティーヴン・ファーも訪れ、邸に滞在することとなった。不仲のアルフレッドとハリー、不遇に死んだ母親を思い父親への長年の恨みを募らせるデヴィッド、妻の浪費と議員活動に金が必要なジョージ、さらに彼らの感情を煽るかのように遺言を書き換えるというシメオンの発言により、邸内には不穏な空気が流れた。
そしてクリスマス・イヴに事件は起こる。シメオンの部屋から凄まじい騒音と絶叫が聞こえて来た。鍵のかかっていたドアを破壊して部屋の中に入った一同が目にしたものは、崩れた家具と、その横に倒れるシメオンの血まみれの死体であった。

推理作家の霞流一は、本作がチャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』を二重写しにした作品で、殺された老富豪は強欲で気難しい「スクルージ老人」、老富豪を訪れる3人の来訪者は「3人のゴースト」、舞台となる館の名前が「ゴーストン」、大量の血の赤色と小道具の木釘の茶色がクリスマスカラーであることなどを指摘している。

本作がどのような作品なのか、読書が苦手な方にYouTubeで無料で視聴できるオーディオブック(英仏)、テレビドラマ(英日仏)とラジオドラマ(英仏)を紹介しておこう。

オーディオブック:
ポアロのクリスマス
英語音声: 再生
英語音声、日本語自動翻訳字幕: 再生
フランス語音声: 第1部 第2部と第3部前半 第3部後半 第4部と第5部 第6部と第7部

テレビドラマ:
ポアロのクリスマス
英語音声、日本語自動翻訳字幕: 再生
日本語吹き替え: 再生 再生2
フランス語吹き替え、日本語自動翻訳字幕: 再生

名探偵ポアロ(全70話、英語音声、日本語自動翻訳字幕): プレイリスト
名探偵ポワロ(全120話、日本語吹き替え): プレイリスト

ラジオドラマ:
ポアロのクリスマス
英語音声:再生 再生2
英語音声、日本語自動翻訳字幕: 再生
フランス語音声: 再生 再生2
フランス語音声、日本語自動翻訳字幕: 再生

Prime Videoで観れるアガサ・クリスティの映画作品一覧: 開く

アガサ・クリスティ沼にハマりたい方には、次の2つのサイトを紹介しておく。

アガサ・クリスティ・ファンクラブ
http://www.ab.cyberhome.ne.jp/~lilac/christie/index.htm

The Home Of Agatha Christie
http://www.ab.cyberhome.ne.jp/~lilac/christie/index.htm


* ノーベル物理学賞2023

最後になりますが、本日受賞される先生方、ノーベル賞受賞おめでとうございます!
量子力学万歳!量子テレポーテーション万歳!

記念講演はこの動画で見ることができる。

2023 Nobel Prize lectures in physics:
YouTubeで再生


2023年 ノーベル物理学賞はアゴスティニ博士、クラウス博士、ルイリエ博士に決定!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c4f26fa595b9cea8c20a85f116d5256f


2023年ノーベル賞授賞式、セレモニーの様子はここからご覧いただける。

2023 Nobel Prize award ceremony:
YouTubeで再生



関連記事:

過去の「とね日記賞」一覧: 開く


 

 

科学文明の起源: 近代世界を生んだグローバルな科学の歴史: ジェイムズ・ポスケット

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科学文明の起源: 近代世界を生んだグローバルな科学の歴史: ジェイムズ・ポスケット」(Kindle版

内容紹介:
ヨーロッパ中心の科学史を覆す!
科学革命は大陸を越えた文化交流と、古今東西の知られざる科学者のたゆまぬ努力によってもたらされた。
現代世界の見方を変える、かつてない視点で描く近代科学の発達史。

コペルニクスやガリレイ、ニュートン、ダーウィン、アインシュタインといった科学者の名前は、誰もが知っている。
そして、近代科学は16世紀から18世紀までにヨーロッパで誕生し、19世紀の進化論や20世紀の宇宙物理学も、ヨーロッパだけで築かれたとされている。
しかし、科学技術史が専門のウォーリック大学准教授、ジェイムズ・ポスケットによれば、このストーリーは「でっち上げ」であり、近代科学の発展にはアメリカやアジア、アフリカなど、世界中の人々が著しい貢献を果たしたという。

科学の未来は、グローバリゼーションとナショナリズムという2つの力の中間の道を見つけられるかどうかに懸かっている。
政治やイデオロギーによって書き換えられてしまった科学の歴史を明らかにし、科学発展のグローバルな過去をつまびらかにすることで、科学の未来について考えさせる書。

「国際的なつながりが、時代を超えて科学の進歩を刺激してきたことを説明する」
――アリス・ロバーツ(『人類20万年 遙かなる旅路』著者)

「近代科学がヨーロッパだけで発達したものではないことを、説得力をもって示してみせる」
――ジム・アル=カリーリ(『量子力学で生命の謎を解く』共著者)

「標準的な科学史ではその偉業が語られることのない科学者たちの物語を楽しく読める」
――イアン・スチュアート(『もっとも美しい対称性』著者)

2023年12月6日刊行、667ページ

著者について:
ジェイムズ・ポスケット
HP: https://www.poskett.com/index.html
ウォーリック大学准教授。科学技術史が専門。ケンブリッジ大学で博士号を取得し、ダーウィン・カレッジのエイドリアン・リサーチ・フェローシップを取得した。『ガーディアン』『ネイチャー』『BBCヒストリーマガジン』などに寄稿し、インドの天文台からオーストラリアの自然史博物館まで、世界各地を調査のために訪れている。2013年にはBBC新世代思想家賞の最終選考に残り、2012年には英国科学作家協会による最優秀新人賞を受賞している。学術書『Materials of the Mind』の著者であり、本書は一般読者向けの初めての作品である。

翻訳者について:
水谷 淳(ミズタニ ジュン)
翻訳者。主な訳書にレナード・ムロディナウ『「感情」は最強の武器である』(東洋経済新報社、2023年)、イアン・スチュアート『世界を支えるすごい数学』(河出書房新社、2022年)、グレゴリー・J・グバー『「ネコひねり問題」を超一流の科学者たちが全力で考えてみた』(ダイヤモンド社、2022年)、ジム・アル=カリーリ/ジョンジョー・マクファデン『量子力学で生命の謎を解く』(SBクリエイティブ、2015年)などがあり、著書に『科学用語図鑑』(河出書房新社、2019年、増補改訂版2022年)がある。
著書、訳書を検索: 書籍版 Kindle版


理数系書籍のレビュー記事は本書で487冊目。

昨年末に地元の書店で出会った分厚い本。科学史は僕の大好物である。それまで読んでいた数学書を放り出して飛びついてしまった。これまで400冊を超える理系書籍を読んでいるので、ひととおりの科学史は心得ているはずである。それは大雑把に言えば、古代ギリシャから始まり、欧米、そしてイスラム世界を中心として発展してきたメインストリートである。中国では古代から暦の制定に必要な天文学が発達し、それは日本にもたらされたが「科学」というイメージからは外れていた。

人間は身の回りのあらゆる事物を、どのような順番でどのように解明し、理解してきたのだろうか。本書があつかう科学とは、宇宙の天体の動きの法則を知り暦を作成するために、そして海洋を安全に航海するために発展した天文学、地球上のあらゆる動植物の種類を部類する博物学、進化論から遺伝の研究への進んだ生物学、電気、磁気の研究から生み出された電磁気学など、数学を除く自然科学のあらゆる領域が含まれる。

これまで学んだ科学史では、特に物理学史は研究者個人の「真理の探究」、「学問的興味」がその動機だという思いを強く抱いていた。そして現代科学は、特に原子核物理学が代表例なのだが、原爆や原子力発電所など人類の行く末を大きく左右するまで影響力をもっている。科学者にもその影響力についての責任があるという考え方が生まれてきた。

本書ではヨーロッパを中心とした既存の科学史だけでなく、古代から現代まで、これまで取り上げてこられなかった地域で科学がどのように生まれ、発展したかがこと細かに解説される。まったく知らなかった人物にフォーカスし 、彼らがどのように科学の発展に貢献してきたかを知ることができるのだ。

とにかく大著であるため、それをひとつずつここに紹介することはできない。記事の最後に載せた詳細目次でおよその内容をくみ取っていただきたい。

本書全体を通して共通しているのは、科学が発展するための動機が、国家の戦略、経済的利益だったということである。これまでは科学的成果が戦争や植民地支配、民族政策、人種差別などに利用されたというとらえかたをしてきたが、本書を読んでわかるのは、それらが結果として利用されたのではなく、そもそもの原因だったということである。それは、つまり真理の探究や学問的興味が科学を進める第一義の原因だと信じたい僕にとっては、少々寂しく、現実の厳しさを思い知ることになった。

その例が、たとえば古代の天文学である。天動説はそれが誤っていたとしても、暦の作成や日食の予言には欠かせない。国を治めるため、為政者の権威を国民に周知し従わせるため、農業を暦にしたがって行うために「必要なこと」だった。

また、戦争をする動機は領土拡大、経済発展である。そのためにその国の統治者は未知の大陸を目指すことを命じたのだ。より安全に航海するためには天文学が「必要であり」。占領した新大陸、地域を治め植民地として利用するためには、そこに生息する動物、植物についての詳しい知識が「必要である」。博物学を研究を進めることになった。また植物の研究は薬草の研究を含んでおり、医学の進歩にも欠かせない。植物学者の牧野富太郎博士のように純粋な興味から研究する人はごく少数派だった。

進化論や遺伝学はその国の民族政策、人種政策に利用された。この意味でまっさきに思い浮かぶのはナチスドイツによるユダヤ人大虐殺、中国における民族浄化である。この分野はナショナリズムと国際主義から切り離してとらえることができない。

1960年代から現在に至るまで、人類は月や火星に探査機を送っている。各国による宇宙開発競争は激しくなっている。ロケット打ち上げや探査機に関するニュースでは、あたかも科学的関心、技術力のめざましい進歩など明るい面だけが強調しているが、宇宙開発の目的は国家の軍事的、経済的利益のためであることを忘れてはならない。


いくつかの理由で読書や趣味にあてる時間が激減してしまったこと、そして本書が大著なため、読み終えるまでにとても日数がかかってしまったが、久しぶりに出会った「目から鱗本」である。

ぜひ書店で手に取ってから、購入を決めていただきたい。


翻訳のもとにされた英語版原書はこちらである。

Horizons: A Global History of Science: James Poskett」(Kindle版



 

 


科学文明の起源: 近代世界を生んだグローバルな科学の歴史: ジェイムズ・ポスケット」(Kindle版


はしがきーー近代科学の起源

第1部 科学革命 1450年頃~1700年頃

第1章 新世界との出合い
1 新世界の博物学
2 アステカの医学
3 人類の発見
4 アメリカの地図を作る
5 まとめ

第2章 天文学の興隆
1 古代文書の翻訳
2 ルネサンス期ヨーロッパにおけるイスラム科学
3 オスマン帝国のルネサンス
4 アフリカの天文学者
5 北京の天文学
6 インドの天文台
7 まとめ

第2部 帝国と啓蒙 1650年頃~1800年頃

第3章 ニュートンの発見を導いたもの
1 ゴレ島での振り子の実験
2 インカの天文学
3 太平洋の航海者たち
4 ロシアにおけるニュートン科学
5 まとめ

第4章 経済のための博物学
1 奴隷制と植物学
2 東インドの自然史
3 中国の飲み物
4 江戸時代の日本における自然の研究
5 まとめ

第3部 資本主義と紛争 1790年頃~1914年

第5章 進化論と生存競争
1 アルゼンチンの化石ハンター
2 ロシア帝国の進化論
3 明治時代の日本と「生存競争」の概念
4 清朝中国における自然選択説
5 まとめ

第6章 ナショナリズムと国際主義
1 戦争とロシア帝国の科学
2 オスマン帝国の工学
3 植民地インドにおける科学と産業の発展
4 明治の日本の地震と原子
5 まとめ

第4部 イデオロギーと戦争の余波 1914年~2000年頃

第7章 政治の時代の物理学
1 革命後のロシアの物理学
2 中国におけるアインシュタインの相対論
3 日本の量子力学
4 物理学と帝国との闘い
5 まとめ

第8章 冷戦と遺伝学
1 メキシコにおける「緑の革命」とヒト遺伝学
2 独立後のインドにおける遺伝学の発展
3 毛沢東のもとでの共産主義的な遺伝学
4 イスラエルと集団遺伝学
5 まとめ

エピローグ 科学の未来

謝辞
図版出典
口絵出典
用語一覧

群の発見:原田耕一郎

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群の発見:原田耕一郎」(オンデマンド版

内容紹介:
数学のあらゆる分野で欠かせない「群」。しかし、なぜ、「群」の考えが必要なのか。それはいつ頃どのように誕生したのか。ラグランジュ、アーベル、ガロアの足跡をたどりながら、対称性の美や方程式の可解条件が「群論」にまで昇華していく過程をていねいに物語る。

2001年11月21日刊行、248ページ

著者について:
原田 耕一郎(はらだ こういちろう、1941年 - ): ウィキペディアの記事
有限群論を専門とする日本の数学者である。
1941年群馬県生まれ。1965年東京大学理学部数学科卒業。名古屋大学理学部助手、プリンストン高等研究所所員、イリノイ大学研究員、ケンブリッジ大学研究員などを経て、オハイオ州立大学教授。


理数系書籍のレビュー記事は本書で488冊目。

本書は超弦理論研究の第一人者である大栗博司先生が、お若い頃に影響を受けた数学書として「探究する精神 職業としての基礎科学:大栗博司」の中で紹介していた。名著であることはそれ以前から知っていたため、買い置きしたまま未読の状態が続いていた。

重い腰を上げて読み始めたのには、きっかけがあった。僕が大学4年のゼミでお世話になった東京理科大学理学部応用数学科(当時)の江川嘉美先生が定年退官され、その最終講義(案内ページ)を聴講する機会を得たことだ。僕が入学したばかりの頃、先生は理科大で研究者としてスタートをきったばかり助教授よりも格下の助手をされていた。その後、助教授、教授、名誉教授と昇進し、定年をお迎えになったのだ。月日の流れがはやいことにあらためておどろかされた。

江川先生のご専門は離散数学、グラフ理論である。それにもかかわらずゼミで僕たちが教えていただいたのは群論だった。なぜグラフ理論ではないのだろう?在学中も、そしてその後もそれは謎のままだった。ところが最終講義を受講してその謎を解くことができたのだ。

当時の先生は駆け出しのグラフ理論研究者である。理科大に職を得る前、オハイオ州立大学で教鞭をとられていた原田耕一郎先生の指導のもと学位を取得された。つまり江川先生の博士論文は群論だったのである。これが僕たちがゼミでグラフ理論ではなく群論を教えていただいた理由である。。また、僕たちは本書「群の発見」を書いた原田耕一郎先生の孫弟子だということがわかり、とても驚いたのだ。

群論の入門書として、本書は中級者向けである。ラグランジュ、アーベル、ガロアの足跡を辿りつつ、「対称なものは美しい」という観点や方程式の可解条件が「群論」にまで昇華していく過程が解説される。記述は数学史的な部分と教科書的な部分が交互に構成され、最終的に「ガロア理論」の入門書として完結する。

章立ては次のとおり。詳細の目次はこの記事の最後をご覧いただきたい。

第1章 シンメトリー
第2章 代数方程式の解法と群の誕生
第3章 ガロア理論
第4章 群論の基礎
第5章 ガロアの最後の手紙
第6章 アーベルとガロア

本書は、代数方程式の解法における対称性を扱ったガロア理論の入門書であり、歴史的背景や理論の発展を丁寧に解説している。著者は、群論の専門家であり、親切な問題や豊富な例を用いながら、理論をわかりやすく伝えています。

良い点:

- 歴史的背景を踏まえた解説により、読者は群、環、体という概念の発展やガロアの足跡を追いながら、理論を理解できる。
- 理論に沿った問題や例が豊富に提供されており、読者は実践的な理解を深めることができる。
- 進行する章ごとに難易度が増していくが、予備知識を補いながら読むことで、代数をイメージできるようになる。

難点:

- 初心者向けではなく、群論の予備知識が必要な場面がある。
- 章の進行が難しくなるため、予備知識の不足を感じる読者もいるかもしれない。

読者が注意すべき点:

- 初学者には少し難解かもしれないが、積極的に問題に取り組み、読み進めることで理解が深まる。
- 群論の予備知識がある程度必要なため、十分な準備をしてから取り組むことが望ましい。

本書は、ガロア理論と群論の要点を扱い、読者に自ら理解する機会を提供している。歴史的な視点から理論を解説することで、読者は代数方程式の解法における対称性や群論の重要性を深く理解することができるのだ。


原田先生は、本書の続編にあたる「モンスター 群のひろがり」もお書きになっている。本書の次に読んでみたい数学書だ。

群の発見:原田耕一郎」(オンデマンド版
モンスター 群のひろがり:原田耕一郎」(オンデマンド版
 


関連記事:

群論への30講:志賀浩二著
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4d07e42584724f4b72433be8f2738653

群論入門(新数学シリーズ 7):稲葉栄次
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f971ae2de623dd448868ad6ecca20051

群・環・体入門:新妻弘、木村哲三
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7f58114fe89f69d8e9a306fe819a6398

ガロア理論の頂を踏む: 石井俊全
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/be7d2e4dbc9a86966cad1356025d4525

数学ガール/ガロア理論:結城浩
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a5450818389e0220779e363617332a76

ガロア―天才数学者の生涯 (中公新書): 加藤文元
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cfdc31385bef53baf2bf1b81c98d77f3


 

 


群の発見:原田耕一郎」(オンデマンド版


はじめに
本書の読み方
記号/用語について

第1章 シンメトリー
- 正多角形のシンメトリー -- 巡回群、2面体群
- 集合のシンメトリー -- 対称群、交代群
- 正多面体のシンメトリー
- 空間のシンメトリー

第2章 代数方程式の解法と群の誕生
- 方程式の解
- 3次、4次代数方程式の解法
- 代数方程式の根の置換(対称群と根の関係)
- 5次方程式の解法の不可能性

第3章 ガロア理論
- 体のシンメトリー
- ガロア拡大
- ガロア対応

第4章 群論の基礎
- ラグランジュの定理、コーシーの定理
- シローの定理
- 準同型定理
- 対称群の共役類
- ガロア理論 -- 第2部 --

第5章 ガロアの最後の手紙
- 行列と変換群
- 射影変換群
- 有限体上の射影変換群
- 楕円曲線

第6章 アーベルとガロア
- アーベルの歩み
- ガロアの歩み

群の発見の歴史
あとがき
問一覧、研究課題一覧
索引

モンスター 群のひろがり:原田耕一郎

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モンスター 群のひろがり:原田耕一郎」(オンデマンド版)(正誤表

内容紹介:
第26番目の散在型単純群、モンスター。その発見を経て,群論研究はまったく新しい様相を呈しはじめた。本書は、この「モンスター」について解説した、本邦初にして唯一の専門書である。自身、26ある散在単純型群のうちの一つを発見している研究者が書き下ろす、現代数学最前線の息吹を感じさせる1冊。

1999年3月26日刊行、249ページ

著者について:
原田 耕一郎(はらだ こういちろう、1941年 - ): ウィキペディアの記事
有限群論を専門とする日本の数学者である。
1941年群馬県生まれ。1965年東京大学理学部数学科卒業。名古屋大学理学部助手、プリンストン高等研究所所員、イリノイ大学研究員、ケンブリッジ大学研究員などを経て、オハイオ州立大学教授。


理数系書籍のレビュー記事は本書で489冊目。

群の発見:原田耕一郎」という本の紹介記事でも書いたように、今回の本と対になるこの2冊は、大学時代のゼミの担当教官が定年退官することをきっかけに読むことにした。学生時代には歯が立たなかった群論にチャレンジし、先生からいただいた恩に報いることができればという思いがあった。

群の発見:原田耕一郎」(オンデマンド版)(紹介記事
モンスター 群のひろがり:原田耕一郎」(オンデマンド版)(正誤表
 

しかし、本書で取り上げられる「モンスター群」を理解してしまおうという野望はもっていない。この群がとてつもない怪物であることは、2006年に読んだ「有限群村の冒険 - あなたは数学の妖精を見たことがありますか?」という数学ファンタジー小説で知っていたからだ。

モンスター 群のひろがり:原田耕一郎」は専門書である。もとより理解できるはずはなく、第2章から僕はただ文字を目で追っている状態に陥り、最終ページまで流し読みをして読了することになった。得たものは本書で解説される範囲で重要になる数学用語、キーワードくらいである。

章立てはこのとおり。詳細目次は本記事の最後を参照していただきたい。

第1章:群論入門
第2章:群の表現
第3章:モンスター
第4章:モンスターとムーンシャイン
第5章:頂点作用素代数
第6章:頂点作用素代数の自己同型
第7章:物理学から群論へ
付録1:26個の散在単純群
付録2:モンスターの既約表現の次数
付録3:頂点作用素代数に関する定義、定理
付録4:頂点作用素代数の関係式

以下は「まえがき」からの抜粋である。

群が見せてくれる世界はおもしろい。数学的対象が群を通して見せてくれる世界がおもしろいのである。世の中のものは乱雑である。少なくともそのように見える。その中に数学で扱える世界を見出していくのである。たぶんどの世界にもそれなりの秩序はあるのだろうが、我々の目にはそれがよく見えないのである。しかしそのうちに誰かがその乱雑に見える世界に秩序があることを発見する。秩序があることを発見すると、その発見の過程に群が生ずる。

上で述べたことを数学の言葉に置き換えると、秩序とは、考えている数学的対象の持つ対称性のことを意味している。正三角形が対称性を持つことは誰にでもすぐわかる。正三角形の中心の周りの120度の回転は正三角形をもとの位置にもどす。回転するところを見ていなければ、回転したことはわからない。120度の回転を3回繰り返すと、正真正銘もとの位置にもどる。反転と合わせて、正三角形は全部で6個の対称変換を持っている。それら6個の対称変換は変換の積に関して (1)恒等変換を持つ、(2)逆変換を持つ、(3)結合律が成立する、という3つの条件を満足していて、群という数学的構造を持っている。すなわち、正三角形の対称変換群は位数6の(二面体)群である。3個の文字の集合 a, b, c の並べ替えのなす変換全体も群をなし、その位数は6(のやはり二面体群)である。しっかりとした幾何学的構造を持った正三角形も単なる3個の文字 a, b, c の上の対称(変換)群もまったく同じ構造をもつ。正四角形の対称変換群は位数24である。すなわち4個になると群は正四角形と4個の文字 a, b, c, d が違うことを示す力を持っている。しかし、これらの数学的対象の例は簡単すぎて群の威力はとくにない。

また、はじめから対称であるとわかっている事物の対称変換群を考えてもあまり意味のあることは出てこない。かくれた対称性を発見してそこに群が作用していることを見出すと群は力を発揮する。

アーベルがその数年前に解決してはいたのだが、ガロアは(1830年頃)、16世紀にできた「3, 4次方程式の解法」以来、数学者が250年もかかっても解けなかった「5次方程式のベキ根による解法は不可能である」ということを証明するのに群を使った。ガロアは有理数体上に代数方程式の根を付加してできる拡大体には根の置換から生ずる対称変換のなす群、すなわち自己同型群が存在することを発見した。拡大体そのものは無限個の元を含むが、その自己同型群は有限である。そして自己同型群の構造により「5次方程式の解法は不可能である」ことが見通しよく証明されてしまうのである。細部を丁寧に述べれば確か数十ページからの論文が必要であろう。しかし、証明方針だけなら1時間もあれば述べることができる。それが画期的な考え方というものである。

群は、このように、ある数学的対象の上に作用する対称変換群として生じ、その数学的対象を研究するのに役立つのであるが、積が定義された集合で、条件 (1)単位元を持つ、(2)逆元を持つ、(3)結合律が成立する、を満足する抽象群自体の研究もおもしろく、また重要である。そして群の中でも特に単純群の研究が重要である。群Gの部分群Nによる剰余空間G/Nが自然に群になるときNを正規部分群というが、Gの構造は2つの群G/N、Nによりほぼ決定される。ゆえにGはまた単位群以外に正規部分群を持たない群が重要な研究課題になる。そのような群は単純群と呼ばれる。

群を数学的構造を持った集合として明確な形で誕生させたガロアは単純群を確かに意識していた。現在、PSL(2,p)と呼ばれている群おを、ガロアは各素数pに対して定義したが、それが単純群であると、決闘の前夜、友人シュバリエへ書いた手紙の中で述べている。数学のどの部門でも同じようなことは起こるが、群論でも、それが数学的対象の上の対称変換群として扱われようとも、また純粋な抽象群としての群の研究として扱われようとも、単純群を分類し尽くすことが必要である。そして、群論はそれを完成させれば、理論としてはほぼそれで十分と言える。群論における最大の課題となった単純群の分類は、ガロアの死後150年を経た1981年に完了されることになる。素数位数の果敢な単純群は無視するとして、単純群は3種類にわかれる。

(1)交代群
(2)線形群=リー型の群
(3)26個の散在型の群

交代群にも、16種類に細分することのできるリー型の群のそれぞれの種類にも、無限個の単純群が属している。それに比べて(3)に属するものは26個しかない。しかし、単純群論において、交代群やリー型の群が、26個の散在型の群の存在の原因になっていることは疑いない。そして、単純群論は26個の花を付けたことによって、単なる数学的構造物から、美しい構造物へと変化した。

散在型単純群のなかで位数の一番小さいのは11個の文字の上の置換群のマシュー群 M_11 であって、その位数は7920である。群を習い始めた頃はこれでも大きい群である。マシューが1860年代に発見している。

M_11 からその間にある散在型単純群24個を飛び超えると、散在型単純群のなかで位数の一番大きいモンスター(群)に達する。その位数は54桁の数である。愛称として付けられたモンスターという名が本名のようになってしまった。その名の通り、大きくてなかなか手がつけられない。秘密をたくさん持っている群でもある。26個の散在型の群のうち20個までがモンスターの'部分'として」現れるのがまたおもしろい。本書はモンスターについて主として述べることにする。モンスターのことがよくわかれば他の散在型単純群のこともほぼわかるであろう。

「モンスター」に主題をおいたが、この本でも、やはりまずシローの定理から始めることにした。数学上のことに関して幸運であるとか不幸にもとか言うのは避けたい表現だが、シローの定理が成立して群論は実に幸運だった。なぜあんな良い定理が成立しているのか不思議になるくらいである。だが各素数についてのシロー群が複雑に絡み合って群全体ができている様子はシローの定理からではなかなか容易には見えない。正規部分群がどのようにしてでき上がっているかが、わからないのである。そのため単純群全部の分類は実際問題としては長い間研究対象にならなかった。それを大きく変えたのが(本書ではふれないが)トンプソンによる一連の仕事である。群のシロー群から派生する様々な正規化群の群への働き方を徹底的に追及して協力な定理を発見し、単純群の分類が不可能ではないことを示唆してくれた。実際、トンプソンが現れてからほぼ25年後に、単純群はすべて分類されることになる。その間、21個の新単純群が出現したのも群論の研究に勢いを与えてくれた。しかし、なかでも、モンスターという散在型単純群が存在していて群論は幸運だった。純粋な意味での抽象群論はシローの定理に始まってモンスターの発見でほぼ終わっていると言える。ただしモンスターにたどり着いてみたら、そこに群論では今までに見たこともない世界が広がっていたのである。群が語りかけてくれる世界は本当に広がっていたのである。そのことが本書の主題である。

第2章は「群の表現」と表題がつけてあるが、本書を読むのに必要なことしか述べていない。同じことは第4章で少し述べた保形関数論にも言える。第5、第6章は頂点作用素代数に当てられている。第6章では現在発展中の宮本雅彦の理論を主として述べてある。第7章では物理の弦理論の初歩を述べた。頂点作用素は物理学者が弦理論の中で発見している。数学者によって再発見され、頂点作用素代数として形が整えられ、公理化されることになった。

本書では定理-証明という形では書かれていない。証明を全部追わずに現代数学の趨勢を知るのは必要である。

本書は群論の素養をかなり仮定している。セミナーなどで仲間と読みあうのがよいと思う。また、どんどんとばして読むことも勧める。自分で研究を始めてそれらの結果を使うときになってはじめて証明を読めばよいであろう。

(「まえがき」からの引用はここまで。)


モンスター群が、現実世界の物理現象と関係しているかどうかは、まだわかっていない。しかし「共形場理論:江口、菅原」(オンデマンド版)の187ページには「ℤ_2 オービフォルド 化を行なうと定数項がなくなり、これが最も基本的なc=24のextremal CFTと考えられ、モンスター群と呼ばれる巨大な位数を持つ有限群の研究と深い関係にある事が知られている。」という記述がある。

モンスター群は196,883次元の群で、その要素の数(位数)は808,017,424,794,512,875,886,459,904,961,710,757,005,754,368,000,000,000である。これは54桁の数値で、説明はこちら。千葉大学にはこの恐ろしく大きな「モンスターの位数」を記したモニュメントがある。

また、本書で解説されている「リーチ格子」は弦理論とつながりがあるようだ。「リーチ格子」は24次元で、超弦が存在するのではとされる次元数とも関連があるようだ。つまりこのように24次元球の充填問題のもつ代数構造と超弦理論は深いところでつながっていそうだ。

『1965年,リーチは群論と深く結びついた今日リーチ格子Λ24(Leech格子)として知られるようになったものに基づいて、24次元空間の格子状詰め込みを構成したのですが、この詰め込みにおいては、なんと1つの超球に196560個もの超球が接触しています。そして、τ24の196560個の点はリーチ格子の原点から一番近い点の集合として得られることが知られています。球の最密パッキングの研究は,2次形式の数論、ルート系,誤り訂正符号(応用代数学)、有限単純群などの理論と関係し、最大の信頼性と最小の電力で伝送できる効率的な通信システムの設計に応用されています。とくに、24次元リーチ格子:Λ24の発見により、データ転送における誤り訂正符号の発見に大革新がもたらされましたが、通信技術への応用は球の詰め込み問題の四次元以上への一般化の結果としてなされたものであり、純粋数学の期待せざる応用の一例といってもよいでしょう。』

接吻数問題 と 24 次元リーチ格子
https://tsujimotter.hatenablog.com/entry/kissing-problem-and-leech-lattice

キス数、接吻数
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3fff2b46269846dff3db22e01744d085


やはり散在型単純群を専門書で読むのは難しすぎた。モンスター群を取り上げた一般向けの本もでている。以下の2冊がその代表だ。これらも読んでみることにしよう。

シンメトリーの地図帳:マーカス・デュ・ソートイ」(文庫版
シンメトリーとモンスター:マーク・ロナン
 

翻訳のもとになった英語版はこちらである。「シンメトリーとモンスター:マーク・ロナン」のほうは翻訳の品質がよくないそうなので、読める方は英語版をお読みになったほうがよいかもしれない。

Symmetry: A Journey into the Patterns of Nature: Marcus du Sautoy」(Kindle版
Symmetry and the Monster: Mark Ronan」(Kindle版
 

内容:シンメトリーの地図帳
19世紀のパリ、決闘の果てに夭折した天才ガロアは新しい数学の言語を生み出していた。古代ギリシャから続く対称性探求の旅に挑む数学界の探検家たちは、その言葉を駆使して “シンメトリーの素数”を網羅した「地図帳」を完成させる。最後に発見されたのは19万6883次元の空間に潜む巨大結晶「モンスター」だった――。『素数の音楽』の著者と旅する、美しくも奇妙な数学の世界。

内容:シンメトリーとモンスター
200年前に革命的なフランスで始まった数学的探求の物語である。世界中の数学者の間で過去最大の共同研究が行われ、「モンスター」が発見された。親しみやすい散文で語られるこの物語には、聡明でありながら悲劇的な登場人物、対称性の数学におけるブレークスルーをもたらした不思議な数の「偶然」、そして多次元に及ぶ奇妙な結晶が登場する。そして、この物語はまだ終わっていない。私たちはまだ、このモンスターの深い意味、そして時空の物理的構造とのつながりを示唆するヒントを理解していないからである。モンスターの全容が解明されれば、私たちの宇宙の本質について、まったく新しい、より深い理解が得られるかもしれない。

「シンメトリーの地図帳」はNHKで放送された「オックスフォード白熱教室」で解説をしたマーカス・デュ・ソートイ教授がお書きになった本である。モンスター群については第2回で取り上げられている。

第1回 素数の音楽を聴け(動画を再生

数学の世界の最も基本的な単位であり、“数の原子”ともいわれる「素数」。
基本単位でありながら、素数はなぜてんでんばらばらに並んでいるのか?
その並びには、意味はあるのか?
数々の数学者が挑んでは敗れたこの謎に迫るのが、数学史上最大の難問「リーマン予想」だ。デュ・ソートイ教授が素数の世界を音楽にたとえて、その不思議の国へ誘う。

第2回 シンメトリーのモンスターを追え(動画を再生

花や結晶の形など、自然界のいたるところで目にする、バランスのとれた美しさの象徴、「シンメトリー(対称性)」。19世紀の天才数学者エヴァリスト・ガロアはこのシンメトリーが、私たちの世界を解き明かす「数学の言語」であることを発見した。
アルハンブラ宮殿を彩る美しいシンメトリーの模様を例に、「形」を「数字」に置き換える画期的な発想を解説。
現代数学において極めて重要な「シンメトリー」の秘密を追い求めた数学者たちの探求と、謎に満ち溢れたその不思議な世界を紹介する。

第3回 隠れた数学者たち(動画を再生

美しい音楽や絵画、建築や文学。芸術の背後には、実は、数学が潜んでいるのだ。
芸術家たちはときには意図的に、ときには無意識に、創作に様々な数学を利用している。
ランダムに出現する特性を持った素数。自然界の美と調和をつかさどるフィボナッチ数列。果ては、20世紀に発見された新しい図形「フラクタル」まで。
数学と芸術の驚きの関係を、デュ・ソートイ教授が古今の芸術家たちの面白エピソード満載で解き明かしていく。

第4回 数学が教える“知の限界”(動画を再生

シリーズ最終回もミステリアスな数学の世界をデュ・ソートイ教授が案内する。
数学は未知の世界を解き明かす鍵となってきたが、同時に、「知ることが原理的に不可能な世界がある」という驚くべき“知の限界”まで明らかにした。
無理数、カオス理論、不完全性定理、無限・・・
古代ギリシャから現代にいたる天才数学者たちが挑んできた「知の限界」に関する数学を、愉快なゲームも交えながら解き明かす。


関連記事:

群の発見:原田耕一郎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/74c7c45a2a1badf514e48a5b9d4ef5bd

有限群村の冒険 - あなたは数学の妖精を見たことがありますか?
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0095b0117e2a01b09426ad56519e8211


 

 


モンスター 群のひろがり:原田耕一郎」(オンデマンド版)(正誤表


はじめに

第1章:群論入門

第2章:群の表現
- 指標の直交関係
- クリフォードの理論
- 対称積・外積(交代積)
- アダムス作用素

第3章:モンスター
- モンスターの位数
- モンスターの196883次の既約指標
- モンスターと可換代数
- 有限群と可換代数

第4章:モンスターとムーンシャイン
- マッカイ・トンプソン予想
- コンウェイ・ノートン予想/保型関数
- 再生性を持つ保型関数

第5章:頂点作用素代数
- ムーンシャイン加群の構成
- 頂点作用素代数
- ボーチャズの理論

第6章:頂点作用素代数の自己同型
- 頂点作用素代数 L(1/2, 0)
- 宮本の自己同型
- 自己同型群
- L(1/2, 0)のテンソル積
- コード頂点作用素代数の構成
- 指標形式
- コード頂点作用素代数の加群
- ムーンシャイン加群の構成とその指標形式

第7章:物理学から群論へ
- シュレディンガー方程式
- 最小作用の原理
- 相対論的弦
- 弦の運動方程式
- 量子化、フォック空間
- 頂点作用素
- 作用素積展開

付録1:26個の散在単純群
付録2:モンスターの既約表現の次数
付録3:頂点作用素代数に関する定義、定理
付録4:頂点作用素代数の関係式

あとがき
索引

オッペンハイマー 上 異才:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン

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オッペンハイマー 上 異才:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン」(Kindle版

内容紹介:
2006年ピュリッツァー賞受賞作

「原爆の父」と呼ばれた一人の天才物理学者J・ロバート・オッペンハイマーの生涯を丹念に描くことで、人類にとって国家とは、科学とは、平和とは何かを問う。全米で絶賛された傑作評伝が、待望の文庫化。
詩や哲学にも造詣が深く、繊細な精神の持ち主であった青年時代(上巻「異才」)。
1904年ユダヤ系移民の子としてニューヨークの裕福な家に生まれ、幼いころから学才を発揮したロバート・オッペンハイマー。詩や哲学を愛し、ニールス・ボーアに影響を受けながら物理学者となった彼は、ナチスに対抗し原子爆弾開発を目指すマンハッタン計画に参加、主導者に抜擢される。科学者としての未来が大きく変わり始めた頃、元恋人で共産党員ジーン・タトロックとの関係は密やかに続いていた。

2024年1月22日刊行、432ページ

著者について:
■著者略歴 カイ・バード/Kai Bird
1951年生まれ。歴史家・ジャーナリスト。スミソニアン航空宇宙博物館での原爆展中止の是非を問う『ヒロシマの影』の編著者。他の著作に、CIA史に残る重要な工作員の生涯を描いた The Good Spy: The Life and Death of Robert Ames や、カーター大統領の画期的な伝記 The Outlier: The Unfinished Presidency of Jimmy Carter など。ニューヨーク州立大学レオン・レヴィ伝記センター事務局長。アメリカ歴史家協会会員。

マーティン・J・シャーウィン/Martin J. Sherwin
1937年生まれ。タフツ大学(マサチューセッツ州)歴史学教授など歴任。広島・長崎への原爆投下に至る米国核政策をテーマにした『破滅への道程』で米歴史本賞受賞。他の著作に『キューバ・ミサイル危機』など。2021年没。


理数系書籍のレビュー記事は本書で490冊目。

映画『オッペンハイマー』の日本公開が危ぶまれていたが、ようやく公開にこぎつけた。映画のほうはまだ見ることができていないのだが、それに先立ち刊行された原作本の日本語訳を読んでおくことにした。

物理学ファンとして、オッペンハイマーとはマンハッタン計画を指揮した天才物理学者のイメージが強い。しかし、ひとりの人間として見たとき、彼の人生の晩年を知ったとき、複雑な思いにとらわれる。第二次大戦後のアメリカに吹き荒れた赤狩りの嵐。その犠牲者の一人としての姿が浮かび上がる。経済的に恵まれた生活環境の中で育ち、類まれな才能に恵まれた彼は、いったいどのような人物だったのだろうか?NHKからも特集番組がいくつか放送されていたので見てみた。

原爆という非人道的な兵器の開発に重大な責任が伴うことは現代の常識である。しかし、彼がその役割を任された時点では、原爆はまだ存在せず、その破壊力がとてつもないことはわかっていたが計算上で予想されるものに過ぎなかった。ナチスドイツのヒトラーが原爆開発を命令したのは事実であるし、開発がどこまで進んでいたかは軍事機密のため知るすべがない。それがアメリカに疑心暗鬼をもたらし、危機感が募った結果、ドイツに先んじて原爆を完成させようという強い動機となったことは疑うべくもない。戦争という異常な心理状態にとらわれた社会の空気の中で、原爆を開発することに伴う重大な責任が顧みられることはなかった。

上巻ではオッペンハイマーの両親について紹介され、彼がどのような環境で生まれ育ったか、子供時代から研究者になり、その後マンハッタン計画のリーダーに選ばれるまでが書かれている。物理学だけでなく詩や哲学にも造詣が深く、繊細な精神の持ち主であった青年時代、彼は精神的な悩みを抱えながら物理学の道で行き詰まり、模索していた。そのような彼が当時生まれたばかりの量子力学に出会い、理論物理学の研究者としての道が決定づけられた。まるで憑き物が落ちたように彼は自信に満ちた性格に変貌し、才能を開花させた。

この上巻で注意すべきなのは、オッペンハイマーの交友関係である。ユダヤ系という彼の出自、そして恋人や配偶者を含めて彼が交友した人物たちの中に共産主義者、共産党員が含まれていたことである。この2つのポイントは彼の晩年の人生のに暗い影を落とすことになる。しかし本書では、彼が共産党を支援したことがあるものの、共産党員になったことは一度もないことが強調されている。

彼がマンハッタン計画のリーダーに選ばれるまでの経緯は、とても興味深かった。彼にはそれまで大きな組織のマネジメント経験はまったくなかったからだ。マンハッタン計画のように国家の存亡にかかる巨大プロジェクトのリーダーには統率力と経験、人望が必要になる。物理学の天才だとしても、それはマネジメントの能力とは関係ない。組織を構成するのは大勢の優秀な物理学者であり、それぞれがまったく異なる個性を持つ人間である。オッペンハイマーのそれまでの経験や性格は、どちらかというとカリスマ性のあるリーダーとは対極にあると思えるからだ。彼をリーダーとして迎えることには大きなリスクを伴う。

しかし、彼が非常にうまく組織を束ね、プロジェクトを成功させたことを私たちは知っている。この計画を進めるには軍部との調整能力も必要だったはずだ。どのようにして彼はこのプロジェクトを指揮する軍人の信頼を得たのだろうか?上巻を読めば、このようなことがよく理解できるはずである。

引き続き中巻を読んでみることにしよう。


日本語版は3冊に分かれているが、英語の原書は1冊の本として刊行されている。

オッペンハイマー 上 異才:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン」(Kindle版
オッペンハイマー 中 原爆:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン」(Kindle版
オッペンハイマー 下 贖罪:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン」(Kindle版
  


翻訳のもとになった英語版はこちらである。

American Prometheus: The Inspiration for the Major Motion Picture OPPENHEIMER: Kai Bird, Martin J. Sherwin」(Kindle版


映画『オッペンハイマー』の公式サイト
https://www.oppenheimermovie.jp/

【本予告】『オッペンハイマー』3月29日(金)、全国ロードショー:YouTubeで再生


全員に見てほしい映画オッペンハイマー予習動画:YouTubeで再生



映画の英語版の脚本は、書籍として刊行されている。

Oppenheimer: Christopher Nolan, Kai Bird, Martin J. Sherwin」(Kindle版



本書の原作の日本語版が刊行される前に、ちくま学芸文庫からこの本が刊行されていた。合わせてお読みになるとよいだろう。

ロバート・オッペンハイマー 愚者としての科学者:藤永茂」(Kindle版



関連記事:

原子爆弾 1938~1950年: ジム・バゴット
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0d741fd4e77316eaf05aef8daf865cd6

核兵器: 多田将
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/fe84c7cd15d1b8ff7ed14de1fa356504

部分と全体: W.K. ハイゼンベルク
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b6e7d8da99e4b9e76f5cd9f7dbf7f959

番組告知: 映画「ひろしま(1953)」
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/13384a02216be844ab1681e8a4d1d92a

合本版 はだしのゲン①~⑦ (中公文庫コミック版)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/75d56406860e23915579530c53bdba59


 

 


オッペンハイマー 上 異才:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン」(Kindle版


著者覚え書き オッピーとの永い旅
序文
プロローグ

第I部

第1章:彼は新しいアイデアのすべてを、完璧に美しいものとして受け入れた
第2章:独房
第3章:とても苦しい日々を送っています
第4章:勉強は厳しい、しかし有り難いことに楽しい
第5章:オッペンハイマーです
第6章:オッピー
第7章:ニムニム・ボーイズ

第II部

第8章:1936年、わたしの関心は変わり始めた
第9章:フランクは、それを切り抜いて申し込んだ
第10章:ますます確かに
第11章:スティーブ、君の友人と結婚するよ
第12章:われわれはニュー・ディールを左に追い込んでいた
第13章:急速爆発コーディネーター

解説:山崎詩郎

オッペンハイマー 中 原爆:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン

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オッペンハイマー 中 原爆:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン」(Kindle版

内容紹介:
2006年ピュリッツァー賞受賞作

「原爆の父」と呼ばれた一人の天才物理学者J・ロバート・オッペンハイマーの生涯を丹念に描くことで、人類にとって国家とは、科学とは、平和とは何かを問う。全米で絶賛された傑作評伝が、待望の文庫化。
マンハッタン計画を主導、爆破実験の場(トリニティ)に参加し、広島、長崎に投下された二発の原爆を作り出した壮年時代(中巻「原爆」)。
ロスアラモス国立研究所でオッペンハイマーが指揮する原爆開発は、徹底した情報統制のもと進められた。ジョン・フォン・ノイマンの発見により爆縮というアイデアを得たチームは1945年7月16日、人類初の核実験を成功させる。そして「雲のある日は爆撃しないこと」というオッペンハイマーの言葉を守るように、日本時間8月6日午前8時14分、良く晴れた空から原子爆弾リトル・ボーイが広島に投下された。

2024年1月22日刊行、432ページ

著者について:
■著者略歴 カイ・バード/Kai Bird
1951年生まれ。歴史家・ジャーナリスト。スミソニアン航空宇宙博物館での原爆展中止の是非を問う『ヒロシマの影』の編著者。他の著作に、CIA史に残る重要な工作員の生涯を描いた The Good Spy: The Life and Death of Robert Ames や、カーター大統領の画期的な伝記 The Outlier: The Unfinished Presidency of Jimmy Carter など。ニューヨーク州立大学レオン・レヴィ伝記センター事務局長。アメリカ歴史家協会会員。

マーティン・J・シャーウィン/Martin J. Sherwin
1937年生まれ。タフツ大学(マサチューセッツ州)歴史学教授など歴任。広島・長崎への原爆投下に至る米国核政策をテーマにした『破滅への道程』で米歴史本賞受賞。他の著作に『キューバ・ミサイル危機』など。2021年没。


理数系書籍のレビュー記事は本書で491冊目。

上巻の紹介記事を書いてから2カ月が経っている。3月から母親の介護をしなければならなくなり、自分のために使える時間がほとんどなくなっているからだ。映画はその後も見れないまま時が過ぎ、すでに公開が終了してしまった。サブスクから配信されるのを待つしかない。少しずつ読み進んでいたため、とても間延びしてしまった。本は一気に読むのがよいのだが仕方がない。

中巻を読んでいた期間に、オッペンハイマーに関する重要なニュースが2つ飛び込んできた。

オッペンハイマーの孫 来日「原爆含む爆弾 使ってはならない」(2024年6月3日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240603/k10014469741000.html

【広島】“原爆の父”オッペンハイマーの孫 被爆者と面会


チャールズ・オッペンハイマーさん(「原爆の父」オッペンハイマー博士の孫)会見 2024.6.3


オッペンハイマー “涙流し謝った” 通訳証言の映像見つかる(2024年6月20日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240620/k10014486571000.html

“原爆の父” オッペンハイマー 繰り返した「ごめんなさい」 被爆者との面会で涙を流して謝罪 同席した通訳が証言した映像見つかる


原爆の父・オッペンハイマーが被爆者に涙を流し謝罪 なぜ今、証言映像が明らかに…関係者が語る


オッペンハイマーは1960年に1度だけ来日したが、被爆地広島を訪問することはなかった。そして今回得られた証言は1964年に被爆者などが証言を行うためにアメリカを訪問した際のものである。1967年にオッペンハイマーが亡くなる3年前のことだ。原爆開発を指揮したことを内心では悔いていたのだろうが、人生の最晩年に直接謝罪することができたのだ。


中巻ではロスアラモスでの人間関係を軸に、原爆が完成し爆発実験が行われるまで、そして広島・長崎への投下、戦後オッペンハイマーが核兵器の世界的組織による管理体制をするよう主張したこと、プリンストン高等研究所に就任し、この研究所に勤務する物理学者、数学者たちのどのように接していたかなどが紹介されている。


日本語版は3冊に分かれているが、英語の原書は1冊の本として刊行されている。

オッペンハイマー 上 異才:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン」(Kindle版)(紹介記事
オッペンハイマー 中 原爆:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン」(Kindle版
オッペンハイマー 下 贖罪:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン」(Kindle版
  


翻訳のもとになった英語版はこちらである。

American Prometheus: The Inspiration for the Major Motion Picture OPPENHEIMER: Kai Bird, Martin J. Sherwin」(Kindle版


映画『オッペンハイマー』の公式サイト
https://www.oppenheimermovie.jp/

【本予告】『オッペンハイマー』3月29日(金)、全国ロードショー:YouTubeで再生


全員に見てほしい映画オッペンハイマー予習動画:YouTubeで再生



映画の英語版の脚本は、書籍として刊行されている。

Oppenheimer: Christopher Nolan, Kai Bird, Martin J. Sherwin」(Kindle版



本書の原作の日本語版が刊行される前に、ちくま学芸文庫からこの本が刊行されていた。合わせてお読みになるとよいだろう。

ロバート・オッペンハイマー 愚者としての科学者:藤永茂」(Kindle版



関連記事:

オッペンハイマー 上 異才:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3403afb70d590b867ac638abccbd10ff

原子爆弾 1938~1950年: ジム・バゴット
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0d741fd4e77316eaf05aef8daf865cd6

核兵器: 多田将
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/fe84c7cd15d1b8ff7ed14de1fa356504

部分と全体: W.K. ハイゼンベルク
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b6e7d8da99e4b9e76f5cd9f7dbf7f959

番組告知: 映画「ひろしま(1953)」
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/13384a02216be844ab1681e8a4d1d92a

合本版 はだしのゲン①~⑦ (中公文庫コミック版)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/75d56406860e23915579530c53bdba59


 

 


オッペンハイマー 中 原爆:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン」(Kindle版


第II部

第14章:シュバリエ事件

第III部

第15章:彼は非常な愛国者になっていた
第16章:あまりにも秘密主義
第17章:オッペンハイマーは、真実を言っている
第18章:自殺 原因不詳
第19章:彼女を養女に引き取ってくれない?
第20章:ボーアは神、オッピーはその預言者であった
第21章:ガジェットが文明におよぼす影響
第22章:とうとう、全員がこんちくしょうですね

第IV部

第23章:このかわいそうな人たち
第24章:手が血で汚れているように感じます
第25章:ニューヨークだって破壊できます
第26章:オッピーは発疹にかかったが、免疫ができた
第27章:知識人のホテル

解説:高橋昌一郎

日航123便墜落 遺物は真相を語る:青山透子

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日航123便墜落 遺物は真相を語る:青山透子」(Kindle版

内容紹介:
あの事故の背景には、何が隠されているのか? 御巣鷹山の尾根に残された遺物の科学的な分析結果から「テストミサイル誤射説」を徹底検証。事件の真相に迫る告発のノンフィクション。

2023年8月5日刊行、232ページ(単行本は2018年7月発売)

著者について:
青山 透子(あおやま・とうこ)
ノンフィクション作家。東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程を修了、及び博士号取得。1985年、日本航空株式会社国際線客室乗務員時に、日航123便で殉職したグループに所属していた経験を持つ。退職後、日航関連会社にて教務を担当し、各種企業、官公庁、大学等の人材教育プログラムに携わる。その後、大学院等研究機関で、日航123便墜落に関連した35年間の資料、日本国および米国公文書を精査して調査を重ねる。

著書に『日航123便墜落 疑惑のはじまり――天空の星たちへ』『日航123便 墜落の新事実――目撃証言から真相に迫る』『日航123便墜落 遺物は真相を語る』『日航123便 墜落の波紋――そして法廷へ』『日航123便墜落――圧力隔壁説をくつがえす』(いずれも河出書房新社)がある。特に、『墜落の新事実』は10万部のベストセラーとなり、本屋大賞ノンフィクション部門の最終選考に残り大賞は逃したが、全国学校図書館協議会選定図書となった。現在、弁護士、研究者、有識者と共に立ち上げた『日航123便墜落の真相を明らかにする会(会長・ご遺族吉備素子氏)』の事務局も務めている。

日航123便墜落の真相を明らかにする会
https://jalflight123.wixsite.com/mysite


御巣鷹山への慰霊登山。今年もこの日を迎えることになった。ところがである。

これは事故ではなく事件だった。

一瞬耳を疑った。僕が知ったのは先月のこと。事故がおきたのは1985年8月12日。僕が大学3年のときで、圧力隔壁、金属疲労、ダッチロールなど行方不明になってさまよっていた日航123便のニュースとセットで記憶していた。この日の夕方、リアルタイムで第一報をテレビで知った人たちはその夜、この便と乗客の安否を心配していた。僕もそのひとりだった。

事故原因は機体後部の圧力隔壁の金属疲労によるもの。その修理をした米国ボーイング社に責任があるということで決着したはず。今さらそうではなかったと言われても、事故ではなく事件だったと言われても納得できない。事故から39年たっているのだ。広島、長崎を慰霊してから日航ジャンボ機墜落犠牲者の慰霊が年中行事化し、終戦の日で慰霊はひとまず終わる。

陰謀論、不都合な真実という言葉が頭をよぎる。とりあえず本を読んで著者が何を書いているのか確かめてみよう。それが妄想なのかそうでないかは読んでから考えることにしよう。

「オッペンハイマーの伝記本」の読書を中断して、文庫版で出版されているものを3冊、Kindle版で購入して1冊読んでみた。

著者は日本航空の元客室乗務員の女性だ。この本で推測されている事故の真相は報道されているものとはまったく異なっている。事故原因に疑惑が生じたのは現場から回収された数々のご遺体が丸焼きのように炭化していたこと、現場にガソリンとタールのにおいが充満していたことから始まっている。これを発端に疑惑、不自然なことがいくつも見つかっていき、これまで常識とされていた事故原因が否定されようとしているのだ。

真相がすべて解明されたわけではない。しかし、これまで報告された事故原因が間違っていること、説明できない証拠や事実が多く残されていることははっきり示されている。

ご遺族や著者は「本当のことが知りたい」だけである。そのための裁判が今も続いているのだ。

本書で著者が主張していることのあらましは、昨日投稿されたこのニュース記事で知ることができる。

日航機墜落事故から39年…元JAL客室乗務員が、今も「事故ではなく事件」と言い切るワケ「レコーダー開示訴訟では裁判長が突然交代するなど、不可解な点だらけです」(Yahoo!ニュース)
https://news.yahoo.co.jp/articles/e3d2021eef060db79cd542b87af387bf05d786a0


文庫で発売されている3冊はこちらである。ぜひお読みになっていただきたい。

日航123便墜落 遺物は真相を語る:青山透子」(Kindle版
日航123便 墜落の新事実: 目撃証言から真相に迫る:青山透子」(Kindle版
日航123便墜落 疑惑のはじまり: 天空の星たちへ:青山透子」(Kindle版
  

青山透子さんの著書: 書籍版 Kindle版
日航機墜落関連の本: 書籍版 Kindle版

今月16日に最新刊が発売される。予約注文はこちらからどうぞ。

日航123便墜落事件 隠された遺体:青山透子」(目次は出版社のこのページに書かれている)


日航123便墜落事件から39年、フライトレコーダーの情報開示裁判が高裁へ、そして最高裁へと展開していく最中、ある「事実」が明らかになる……。

森永卓郎氏(『書いてはいけない』/経済アナリスト)が大絶賛!!
「書いてはいけないことを
 ここまで書いたのか!
 新事実に驚愕した」

日航123便墜落事件から39年、ボイスレコーダーの情報開示裁判が高裁へ、そして最高裁へと展開していく最中、墜落当日の現場を知るある人物から、前代未聞の証言が……。日本航空、行政、メディアの思惑が絡み合う先に「新たな事実」が浮かび上がる。真実に肉薄した衝撃のノンフィクション!


関連動画:

【初公開・23年前に製作されてお蔵入りになった番組】日航123便墜落事故検証特番


日航機墜落事故 米軍幻の救出劇 (米軍パイロットの証言)


【完全再現3D+ボイスレコーダー】日本航空123便 離陸から墜落まで


番組中断ニュース ①:YouTubeで再生

番組中断ニュース ②:YouTubeで再生

1985年8月12日 日本航空123便墜落事故:YouTubeで再生



 

 


日航123便墜落 遺物は真相を語る:青山透子」(Kindle版


『日航123便墜落の新事実』の著者の最新刊。今もっとも信頼の置ける著者が、遺物の化学成分分析などから、事故現場の状況を分析し、さらに精度を増してこの事故の真相に近づく。

10万部突破のベストセラー『日航123便 墜落の新事実』に続く第3弾!

著者は、元日本航空国際線の客室乗務員。国内線勤務を経て国際線に異動した彼女の在職中に、当時単独機航空事故としては世界最大という、日本航空123便墜落事故が発生。当初、報道される事実を信じていた著者は、政府から発信される言葉に「事故原因究明」が無いことに疑問を抱き、続いて報道される記事や事故原因にも客観的に矛盾を感じ、その疑念が晴れることはなかった。

著者は、徹底した聞き取り調査と丹念な物証の再検証を重ね、これは「事故」ではなく「事件」だという確証を深めていく。そして第1弾『日航123便墜落 疑惑のはじまり』(初版2010年4月マガジンランド刊『天空の星たちへ』、その後『日航123便墜落 疑惑のはじまり』と改題し河出書房新社より2018年5月に復刊)、第2弾『日航123便 墜落の新事実』で積み上げられた事実に加え、今回の第3弾でもさらに精度を増してこの事故の真相に近づく。

・ボイスレコーダーや、フライトレコーダーが正確に全部公開されていない懸念がぬぐえない。
・当時の検死医が提出した資料を群馬県警が戻そうとしない。
・発見場所によって、現場や検死体が故意に焼かれていることが否定できない。
・遺物である機体の一部を化学分析した結果、機体に含まれない成分ベンゼンが検出された。

これまでの目撃証言などに加えて、さらなる分析・状況証拠を積み上げ、より客観的な視点で単なる「事故」と判断する「不自然さ」を誠実に追求している。

《目次より》
第一章 この墜落は何を物語るのか 国産ミサイル開発の最中の墜落
上野村の桜の下で
刑法的アプローチ
公文書としての事故調査報告書は国民の信頼に値するものか
航空機事故調査と警察庁の覚書
墜落直前までの国産ミサイル開発本格推進
生データ開示の必要性
真正の生のボイスレコーダー
「恐れ」と「思考停止」を超えて炭化遺体の声を聴く
大学での講演会から
分厚い未公開資料
山開きの前の御巣鷹の尾根整備活動にて

第二章 焼死体が訴えていることは何か 乗客全員分の未公開資料から
火災現場での違和感
炭化遺体と格闘した医師たちの証言
八月十五日から十二月二十日まで検死活動を続けた女性歯科医師
身元確認はどう行われたか
スチュワーデスの制服は不燃服なのか
機長の制服行方不明事件
なぜJA8119号機でなければならなかったのか

第三章 遺物調査からわかったこと 機体の声が聴こえる
遺物の分析結果
化学者の見解と結果
遺体と機体の遺物が訴えていること
犯罪の命令に服従しなければならないのか

第四章 証拠物と証言が訴えていることは何か 未来の有り様を考える
次々に出てくる赤い物体の目撃情報
検死現場のビデオ──所有者へ返却できない理由
未来に何を残し、何を守りたいのか

2024年 ノーベル物理学賞はホップフィールド博士、ヒントン博士に決定!

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スウェーデン王立科学アカデミーは8日、2024年のノーベル物理学賞を、物理学のツールを使って、今日の強力な機械学習の基礎となる手法を開発した研究者2人に贈ると発表した。今年の受賞者は、1980年代以降、人工ニューラルネットワークに関する重要な研究を行ってきた。


授賞式は(とね日記賞の発表と同じ)12月10日に開かれる。賞金は1100万スウェーデン・クローナ(約1億5000万円)で、2人で等分する。

The Nobel Prize in Physics 2024
https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2024/summary/

Announcement of the Nobel Prize in Physics 2024



今年は「物理学のツールを使い今日の強力な機械学習の基礎となる手法を開発したこと」における業績が評価されたことによる授賞である。


発表では次のようなスライドが映された。












発表のタイミングで公開されたプレスリリースを和訳したものを載せておこう。

プレスリリース(英語):
https://www.nobelprize.org/uploads/2024/10/press-physicsprize2024.pdf
https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2024/summary/

日本語訳:

2024年ノーベル物理学賞

ジョン・J・ホップフィールド、プリンストン大学、ニュージャージー州、米国

ジェフリー・E・ヒントン、トロント大学、カナダ


“人工ニューラルネットワークによる機械学習を可能にする基礎的な発見と発明”に対して授賞する。


彼らは物理学を使って人工ニューラルネットワークを訓練した

今年のノーベル物理学賞受賞者 2 名は、物理学のツールを使って、今日の強力な機械学習の基礎となる手法を開発しました。ジョン・ホップフィールドは、データ内の画像やその他のパタ​​ーンを保存して再構築できる連想メモリを作成しました。ジェフリー・ヒントンは、データ内の特性を自律的に見つけ、画像内の特定の要素を識別するなどのタスクを実行できる手法を発明しました。

人工知能について話すとき、私たちは人工ニューラルネットワークを使った機械学習を指すことが多い。この技術はもともと脳の構造にヒントを得たものだ。人工ニューラルネットワークでは、脳のニューロンは異なる値を持つノードで表現される。これらのノードはシナプスに似た接続を通じて互いに影響を及ぼし、接続を強くしたり弱くしたりできる。ネットワークは、例えば同時に高い値を持つノード間の接続を強くすることでトレーニングされる。今年の受賞者は、1980年代以降、人工ニューラルネットワークに関する重要な研究を行ってきた。

ジョン・ホップフィールドは、パターンを保存および再現する方法を使用するネットワークを発明しました。ノードはピクセルとして考えることができます。ホップフィールド ネットワークは、各原子を小さな磁石にする特性である原子スピンによる物質の特性を説明する物理学を利用しています。ネットワーク全体は、物理学で見られるスピン システムのエネルギーと同等の方法で説明され、保存された画像のエネルギーが低くなるようにノード間の接続の値を見つけることによってトレーニングされます。ホップフィールド ネットワークに歪んだ画像や不完全な画像が入力されると、ネットワークは系統的にノードを処理し、ネットワークのエネルギーが低下するようにノードの値を更新します。このように、ネットワークは段階的に処理して、入力された不完全な画像に最も近い保存画像を見つけます。

ジェフリー・ヒントンはホップフィールドネットワークを、異なる手法を使用する新しいネットワークの基礎として利用しました。ボルツマンマシンです。これは、特定の種類のデータの特徴的な要素を認識することを学習できます。ヒントンは、多くの類似したコンポーネントから構築されたシステムの科学である統計物理学のツールを使用しました。マシンは、マシンの実行時に発生する可能性が非常に高い例を入力することでトレーニングされます。ボルツマンマシンは、画像を分類したり、トレーニングされたパターンの種類の新しい例を作成したりするために使用できます。ヒントンはこの研究を基にして、機械学習の現在の爆発的な発展のきっかけを作りました。

「受賞者たちの研究はすでに大きな利益をもたらしています。物理学では、特定の特性を持つ新素材の開発など、幅広い分野で人工ニューラルネットワークを使用しています」と、ノーベル物理学委員会のエレン・ムーンズ委員長は述べています。


イラスト

以下のイラストは非営利目的である限り無料で使用できます。著作権はスウェーデン王立科学アカデミー、Johan Jamestadに帰属します。

イラスト:2024 年ノーベル物理学賞(pdf
イラスト:自然ニューロンと人工ニューロン(pdf
イラスト:記憶は風景の中に保存される(pdf
イラスト:さまざまな種類のネットワーク(pdf


今年の賞についてさらに詳しく

ポピュラーサイエンスの背景: 物理学を利用して情報のパターンを発見 (pdf)
科学的背景: 「人工ニューラルネットワークによる機械学習を可能にする基礎的な発見と発明」 (pdf)

ノーベル物理学賞にAIの中核「機械学習」の基礎に関わった2人
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241008/k10014603511000.html


ホップフィールド博士、ヒントン博士、物理学賞受賞おめでとうございます。


関連書籍:

ノーベル物理学賞 の対象となった、ホップフィールドモデルとボルツマンマシンを、物理の言葉で学びたい方は、『ディープラーニングと物理学』第6章、第10章、第11章をお読みください。(紹介記事

ディープラーニングと物理学 原理がわかる、応用ができる:田中章詞、富谷昭夫、橋本幸士」(Kindle版)(参考書籍



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速報:2013年ノーベル物理学賞はヒッグス博士とアングレール博士に決定!
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Gaston Mauger モジェ・ブルー 全4巻

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ふと気が付くと僕が年金生活者になるのは3年後。健康を維持できたとしても、僕が学びを続けていられるのはあと20~30年ということだろう。年を重ねるにつれて気力と体力は衰えていく。好奇心が衰えていくのかはいまのところわからない。

そのせいかわからないが、このブログを書き始めてから若いころにやり残した学びを再開したり、途中で読むのをやめてしまった本を買いなおして再読することが多くなった。

今回紹介するフランス語の教科書もそのひとつだ。通称「モジェ・ブルー」とか「モージェ・ブルー」と呼ばれているフランス語で書かれたフランス語やフランスの文化を学ぶための教科書である。ガストン・モジェという著名なフランス人言語学者が作った入門書で1957年に刊行され、ほとんど改訂されないまま長年使われてきた。

お茶の水にあるフランス語学校「アテネ・フランセ」に僕が通っていたのは1980年代後半のことだ。



この学校でモジェ・ブルーを使っている講座は「サンテティック」と呼ばれている本科コースの授業である。アテネ・フランセのフランス語の授業は本科と単科に分かれていて、本科のサンテティックでは月曜から金曜まで毎日朝から夕方までみっちりとフランス語の授業が(フランス語で)行われる。将来フランス語で身を立てたいと考えている人、フランスに駐在することになり、本格的に学ぶ必要がある人のためのコースである。単科の授業は週2~3回、昼間や夕方に行われている授業で、社会人や学生は単科コースしか選択肢がない。僕は「カペル(Capelle)」や「クレディフ(Credif)」と呼ばれるコースを受講していた。

せっかくフランス語を学んでいるのだから本格的なモジェ・ブルーで学んでみたいといつも思っていた。幸い大学4年の夏季講習にモジェ・ブルーを使う授業を見つけたので受講していたのである。夏の短い間だけのことだったが、この教科書の第2巻の「単純過去」や「大過去形」あたりを学んだことを覚えている。

先月アテネ・フランセに問い合わせたのだが、モジェ・ブルーは現在でもサンテティックの授業で使われているそうだ。けれどもサンテティックの授業は昔のように常に開催されているわけではなく、開催される頻度は「ときどき」なのだという。

アテネ・フランセで教えられているのは2巻までだったので、第3巻と第4巻があることは今回メルカリから入手して初めて知った。2巻まででフランス語の文法を学び、第3巻はフランス社会や文化を解説、第4巻はフランスの歴史的な人物、著名人を紹介している。僕が入手したのはハードカバーだが、この学校に通っていたときにはソフトカバーになっていた。内容は1957年の初版からまったく変わっていない。



各巻はこのような感じだ。


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夏季講習で僕が学んでいたのはこのあたりだ。


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第1巻と第2巻は、2003年に「ミレニアム・エディション」が刊行されていたことがわかり中古のものを買ってみた。フランスの本はどれもそうなのだが、表紙のデザインが雑である。同じ時期に発売したのだから統一感を出した方法がよかった。中身については初版とまったく同じである。つまり印刷の質も悪い。


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その後、発売時期はわからないのだが第1巻と第2巻を5分冊にまとめなおし、音声CDを各巻に含めた本が発売された。多色刷に変更したので、印刷は現代的なものになっている。












PDFファイル

最新のCD付きの本を含めすべて絶版のため、現在入手は困難である。1957年版のPDFファイルは以下のリンクからダウンロードできる。

Cours-de-langue-et-de-civilisation-francaises-I.pdf:ダウンロード1ダウンロード2

Cours de langue et de civilisation française - II.pdf:ダウンロード

Cours de langue et de civilisation française - III.pdf:ダウンロード


オーディオブック

音声がYouTubeから聴けることがわかった。見つけることができたのは以下のものである。

G. MAUGER cours de Langue et de Civilisation Françaises 1 Audio: YouTubeで再生


G. MAUGER cours de Langue et de Civilisation Françaises 2 Audio:YouTubeで再生


G. MAUGER cours de Langue et de Civilisation Françaises 3 Audio:YouTubeで再生


Langue et civilisation françaises pt 1-6:プレイリスト




 

 

2024年 ノーベル化学賞はベイカー博士、ハサビス博士、ジャンパー博士に決定!

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スウェーデン王立科学アカデミーは9日、2024年のノーベル化学賞を、まったく新しい種類のタンパク質を構築するというほぼ不可能と思われる偉業を成した研究者およびタンパク質の複雑な構造を予測するという50年来の問題を解決するAIモデルを開発した研究者2人に贈ると発表した。


授賞式は(とね日記賞の発表と同じ)12月10日に開かれる。賞金は1100万スウェーデン・クローナ(約1億5000万円)で、5:2.5:2.5の比率で与えられる。

The Nobel Prize in Chemistry 2024
https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2024/summary/

Announcement of the Nobel Prize in Chemistry 2024



今年は「機械学習のツールを使いったく新しい種類のタンパク質を構築したこと、そしてタンパク質の複雑な構造を予測するという50年来の問題を解決するAIモデルを開発したこと」の業績が評価されたことによる授賞である。


発表では次のようなスライドが映された。




















発表のタイミングで公開されたプレスリリースを和訳したものを載せておこう。

プレスリリース(英語):
https://www.nobelprize.org/uploads/2024/10/press-chemistryprize2024-3.pdf
https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2024/summary/

日本語訳:

2024年ノーベル化学賞

デビッド・ベイカー、ワシントン大学、ワシントン州シアトル、米国、ハワード・ヒューズ医学研究所、米国

デミス・ハサビス、Google DeepMind、ロンドン、英国

ジョン・ジャンパー、Google DeepMind、ロンドン、英国


彼らはタンパク質の驚くべき構造のコードを解読した

2024年のノーベル化学賞は、生命の巧妙な化学ツールであるタンパク質に関するものです。デビッド・ベイカーは、まったく新しい種類のタンパク質を構築するというほぼ不可能と思われる偉業を成し遂げました。デミス・ハサビスとジョン・ジャンパーは、タンパク質の複雑な構造を予測するという50年来の問題を解決するAIモデルを開発しました。これらの発見は、非常に大きな可能性を秘めています。

生命の多様性は、タンパク質が化学ツールとして持つ驚くべき能力を証明しています。タンパク質は、生命の基礎となるすべての化学反応を制御し、駆動します。また、タンパク質はホルモン、シグナル物質、抗体、さまざまな組織の構成要素としても機能します。

「今年認められる発見の1つは、素晴らしいタンパク質の構築に関するものです。もう1つは、50年来の夢である、アミノ酸配列からタンパク質の構造を予測するという夢の実現に関するものです。これら2つの発見は、大きな可能性を切り開きます」と、ノーベル化学委員会のハイナー・リンケ委員長は述べています。

タンパク質は一般的に20種類のアミノ酸から成り、生命の構成要素ともいえます。2003年、デイビッド・ベイカー氏はこれらのアミノ酸を使って、他のタンパク質とは異なる新しいタンパク質を設計することに成功しました。それ以来、同氏の研究グループは、医薬品、ワクチン、ナノマテリアル、小型センサーとして使用できるタンパク質など、想像力豊かなタンパク質を次々と生み出してきました。

2 つ目の発見は、タンパク質構造の予測に関するものです。タンパク質では、アミノ酸が長い紐状に連結され、折りたたまれて 3 次元構造を形成します。この構造がタンパク質の機能に決定的な影響を与えます。1970 年代から、研究者はアミノ酸配列からタンパク質構造を予測しようと試みてきましたが、これは非常に困難でした。しかし、4 年前に驚くべき進歩がありました。

2020年、デミス・ハサビスとジョン・ジャンパーは、AlphaFold2と呼ばれるAIモデルを発表しました。このモデルにより、研究者が特定した2億個のタンパク質のほぼすべての構造を予測することができました。この画期的な成果以来、AlphaFold2は190か国200万人以上の人々に利用されています。無数の科学的応用の中で、研究者は抗生物質耐性をより深く理解し、プラスチックを分解できる酵素の画像を作成できるようになりました。

タンパク質がなければ生命は存在できません。タンパク質の構造を予測し、独自のタンパク質を設計できるようになったことは、人類にとって最大の利益です。


イラスト

以下のイラストは非営利目的である限り無料で使用できます。著作権はスウェーデン王立科学アカデミー、Johan Jamestadに帰属します。

イラスト: タンパク質は数十から数千のアミノ酸から構成されます(pdf
イラスト: AlphaFold2 はどのように機能しますか? (pdf
イラスト: Top7 – 既存のすべてのタンパク質と完全に異なる最初のタンパク質 (pdf)(pdf
イラスト: Baker のプログラム Rosetta を使用して開発されたタンパク質 (pdf
イラスト: AlphaFold2 を使用して決定されたタンパク質構造 (pdf



今年の賞についてさらに詳しく

ポピュラーサイエンスの背景: コンピューティングと人工知能を通じてタンパク質の秘密が解明されました (pdf)
科学的背景: 計算によるタンパク質設計とタンパク質構造予測 (pdf)


ベイカー博士、ハサビス博士、ジャンパー博士、化学賞受賞おめでとうございます。


関連ニュース:

AI protein-prediction tool AlphaFold3 is now open source
AIタンパク質予測ツールAlphaFold3がオープンソース化
https://www.nature.com/articles/d41586-024-03708-4?utm_medium=Social&utm_campaign=nature&utm_source=Twitter#Echobox=1731334559



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2016年 ノーベル物理学賞はサウレス先生、ホールデン先生、コスタリッツ先生に決定!
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2015年 ノーベル物理学賞は梶田隆章先生、アーサー・マクドナルド先生に決定!
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2014年ノーベル物理学賞は赤崎勇先生、天野浩先生、中村修二先生に決定!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2172a44a53c933389fcb8dc1acbfd97e

速報:2013年ノーベル物理学賞はヒッグス博士とアングレール博士に決定!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e4c4d6d15d52e86a94caccd6da8edb5e


 

 

オッペンハイマー 下 贖罪:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン

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オッペンハイマー 下 贖罪:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン」(Kindle版

内容紹介:
2006年ピュリッツァー賞受賞作

「原爆の父」と呼ばれた一人の天才物理学者J・ロバート・オッペンハイマーの生涯を丹念に描くことで、人類にとって国家とは、科学とは、平和とは何かを問う。全米で絶賛された傑作評伝が、待望の文庫化。
核兵器の規制と情報公開に向けて物理学者たちを率いた晩年と、マッカーシズム時代の「オッペンハイマー事件」の真相(下巻「贖罪」)。
「私の手は血で汚れている」――戦後、オッペンハイマーはタイム誌の表紙を飾るなど時代の寵児となるも、水爆開発や核拡散に反対。格の国際管理を訴えるが、かつての研究仲間や政府と対立し孤立を深めていく。そして冷戦下、ソ連のスパイ容疑をかけられた彼は公職追放され、その生活をFBIの監視下に置かれた。人類に原子力という新しい火をもたらした科学者の全てを圧倒的筆力で描き切った名著、終幕。

2024年1月22日刊行、448ページ

著者について:
■著者略歴 カイ・バード/Kai Bird
1951年生まれ。歴史家・ジャーナリスト。スミソニアン航空宇宙博物館での原爆展中止の是非を問う『ヒロシマの影』の編著者。他の著作に、CIA史に残る重要な工作員の生涯を描いた The Good Spy: The Life and Death of Robert Ames や、カーター大統領の画期的な伝記 The Outlier: The Unfinished Presidency of Jimmy Carter など。ニューヨーク州立大学レオン・レヴィ伝記センター事務局長。アメリカ歴史家協会会員。

マーティン・J・シャーウィン/Martin J. Sherwin
1937年生まれ。タフツ大学(マサチューセッツ州)歴史学教授など歴任。広島・長崎への原爆投下に至る米国核政策をテーマにした『破滅への道程』で米歴史本賞受賞。他の著作に『キューバ・ミサイル危機』など。2021年没。


理数系書籍のレビュー記事は本書で492冊目

本書の上巻を読み始めたのは5月である。大著には違いないが読み終えるまでとても時間がかかった。これには理由がある。今年は3月から親の介護をしなければならなくなったからだ。そのため自分のために使える時間はほとんどなくなったからだ。週末はわずかばかりの趣味のための時間をとるように努めていたが、平日は本業の仕事と介護のために体力を使い果たし、本を広げてもうたた寝してしまうことが多かった。

ようやく読み終えることができた。本を読んでいる間に映画が公開され、そして下巻を読んでいる間にネットで配信されるようになった。U-NEXT、YouTube、Amazonプライム・ビデオ、TELASA、Hulu、GooglePlayムービー、Apple TVで視聴することができる。このうち追加料金なしで見れるのはU-NEXTだけだ。

オッペンハイマーが亡くなったのは1967年で、本書の原書に書かれているところでは1960年に1度だけ来日したが、被爆地広島を訪問することはなかった。原書が刊行された後、今年の6月に彼が被爆者と直接会って謝罪していたということがわかり、報道された。それは1964年のことであり、涙を流して何度も謝罪したという。

本書を読む前に「謝罪をすることはなかった」というこれまでの定説を信じていたので、複雑な気持ちがしていたのだが、人生の最期に心の内を、後悔の念を吐き出すことができたのは、彼にとってとても大切なことだったと思う。

文庫化されたこの日本語版は英語版原書にはない特典が2つある。1つは「訳者あとがき」で、本書の意味合いが述べられ、長編ゆえに読み落としてしまった箇所、記憶が薄れてしまった箇所などを整理できることだ。2つめは「解説/入江哲朗」で、ノーラン監督の映画『オッペンハイマー』が(ネタばれ無しで)解説されていることだ。

ノーラン監督のこれまでの作品と同様、この映画はとても複雑で1回見ただけで理解できる人はほとんどいない。数回見たとしても、難しいことに変わりはない。それを補う意味で本書は予習、復習のため読むとよいのだ。オッペンハイマー自身が、そして彼の人生自体がとても複雑だから、本と映画の両方を体験することで本当の彼に近づくことができるのだと僕は思う。

読むのはとても骨が折れるが、ぜひ書店で手に取ってほしい。

日本語版は3冊に分かれているが、英語の原書は1冊の本として刊行されている。

オッペンハイマー 上 異才:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン」(Kindle版)(紹介記事
オッペンハイマー 中 原爆:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン」(Kindle版)(紹介記事
オッペンハイマー 下 贖罪:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン」(Kindle版
  


翻訳のもとになった英語版はこちらである。

American Prometheus: The Inspiration for the Major Motion Picture OPPENHEIMER: Kai Bird, Martin J. Sherwin」(Kindle版


映画『オッペンハイマー』の公式サイト
https://www.oppenheimermovie.jp/

オッペンハイマー(Prime Video



映画の英語版の脚本は、書籍として刊行されている。

Oppenheimer: Christopher Nolan, Kai Bird, Martin J. Sherwin」(Kindle版



本書の原作の日本語版が刊行される前に、ちくま学芸文庫からこの本が刊行されていた。合わせてお読みになるとよいだろう。

ロバート・オッペンハイマー 愚者としての科学者:藤永茂」(Kindle版



関連記事:

オッペンハイマー 上 異才:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3403afb70d590b867ac638abccbd10ff

オッペンハイマー 中 原爆:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9e9e4429c5a3c7eaed1572f19aa44dfb

原子爆弾 1938~1950年: ジム・バゴット
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0d741fd4e77316eaf05aef8daf865cd6

核兵器: 多田将
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/fe84c7cd15d1b8ff7ed14de1fa356504

部分と全体: W.K. ハイゼンベルク
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b6e7d8da99e4b9e76f5cd9f7dbf7f959

番組告知: 映画「ひろしま(1953)」
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/13384a02216be844ab1681e8a4d1d92a

合本版 はだしのゲン①~⑦ (中公文庫コミック版)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/75d56406860e23915579530c53bdba59


 

 


オッペンハイマー 下 贖罪:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン」(Kindle版


第Ⅳ部(承前)

第28章:なぜ自分がそれをやったか、理解できなかった
第29章:彼女がものを投げつけたのは、そのためだ
第30章:彼は決して自分の意見を口にしなかった
第31章:オッピーの暗い噂
第32章:ジャングルの野獣 第Ⅴ部
第33章:これはかなり難物ですよね
第34章:残念ながらこのこと全部が、愚かな芝居だったと思います
第35章:ヒステリーの徴候
第36章:わが国旗についた汚点
第37章:いまだに生温かい血が手についている感じ
第38章:そこはまさに、ネバー・ネバー・ランドでした
第39章:それはトリニティの翌日にやるべきことだった

エピローグ

ロバートは一人だけ

訳者あとがき
解説/入江哲朗
口絵・本文写真クレジット

とね日記賞の発表!(2024): 物理学賞、数学賞、他

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第1回ノーベル賞授賞式(1901年)のイメージ:拡大
オリジナルの画像をもとにChatGPTを使ってアニメ風に変換した)
 
毎年12月10日、スウェーデンのストックホルムでアルフレッド・ノーベルの命日に行われるノーベル賞の授賞式の日程にあわせて、「とね日記賞」を発表している。今年で15回目。

ノーベル賞を僕がもらう見込みはどうもないことに気がついたのは物理学を学び始め、このブログを書き始めた頃だった。なんだか悔しいと思ったのである。しばらくもやもやと考えていたところ、あることを思いついた。それはどうせもらえないのなら自分で賞を作って「あげる側」になってしまえ!という逆転の発想だった。

「とね日記賞」はその年に読んだ物理学書、数学書の中から自分のためになった本、この分野を勉強している学生や社会人にお勧めする本を物理学、数学など各分野に分けてそれぞれ1~2冊発表する。あとテレビドラマ賞や贈り物にふさわしい本としてクリスマス賞も設けている。


名著であっても僕がその価値を理解できなければ受賞できない。昨年以前に読んだ本は自動的に選考対象から外されるし、どんなに良書であっても読んでいなければ対象外。何より僕の学習進度や理解度や好みに影響される。

メダルも賞金も授賞式もスピーチも晩餐会も舞踏会もないから、ありがたくも何ともなく、主観だらけのアンフェアな賞だ。

次の賞を発表している。今年は講談社ブルーバックスの本を読んでいないので授賞対象外。

- 物理学賞
 物理学の教科書、専門書から選考。

- 数学賞
 数学の教科書、専門書から選考。

- 教養書賞
 一般向け書籍から分野別に選考。

- ブルーバックス賞
 講談社ブルーバックスの書籍から分野別に選考。

- 文学賞
 ジャンルを問わない小説、文学書から選考。

- アカデミー賞
 今年観た映画の中からよかったものを選考。

- テレビドラマ賞
 テレビドラマの中からよかったものを選考。

- クリスマス賞
 クリスマスプレゼントにふさわしい本を選考。


この1年で読んだのは7冊で、次のような本である。通算489冊~495冊目。ここ3年、本業の仕事が忙しくなったのと、今年から親の介護をするようになったため、以前のように年間30~50冊の本を読むことはできなくなっていた。(参考:「400冊の理数系書籍を読んで得られたこと」)

489/科学文明の起源: 近代世界を生んだグローバルな科学の歴史: ジェイムズ・ポスケット
490/群の発見:原田耕一郎
491/モンスター 群のひろがり:原田耕一郎
492/オッペンハイマー 上 異才:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン
493/オッペンハイマー 中 原爆:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン
494/オッペンハイマー 下 贖罪:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン
495/学習物理学入門:橋本幸士


今年のマイブームは「オッペンハイマー」だった。伝記本が大著だったので読むのに時間がとられたこと、そしてすでに映画館での公開が終わった映画がサブスクで見れるようになったため、一般大衆のオッペンハイマーの知名度は格段に上がった。そして僕は彼の伝記本や映画で科学者の社会的責任と政治に翻弄されてしまう人間の弱さを痛切に感じることになった。

それでは2024年の「とね日記賞」を発表しよう。(書籍名と画像は本の購入ページにリンクさせておいた。)


* 物理学賞

今年は次の本に授賞することにした。

学習物理学入門:橋本幸士」(Kindle版


授賞理由: 自然科学の研究にAIが利用され始めてから数年たつが、今年はノーベル物理学賞、化学賞ともにAIに関連する授賞になった。AIを利用する研究者はまだ一部ではあるとはいえ、人間の頭脳だけでは到達できない領域を開拓しつつあることは確かである。また化学賞の受賞者のうち2名がGoogle DeepMind社の研究者であることからわかるように、自然科学の研究がそのまま商用利用されるケースが増えてくる。タンパク質など生命の根源にかかわる物質の研究、開発、創薬など一歩間違えばとてつもない人災をひきおこしかねない危険をはらんでいると同時に、これまで治すことができなかった病気の治療に新しい可能性をもたらすことにもなる。天使のツールになるのか悪魔のツールになるのか。。。このAI技術を使って研究する方々は、研究という狭い領域だけでなく広く社会や生命についての配慮もしていくべきだと思った。とはいえ僕の関心事は物理学である。最新の物理学の研究にAIがどのように活用されているかを知るために本書を読ませていただいた。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

学習物理学入門:橋本幸士
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/8f50fe9d677cb253e0915a9b74a535d0


* 数学賞

群の発見:原田耕一郎」(オンデマンド版
モンスター 群のひろがり:原田耕一郎」(オンデマンド版)(正誤表
 

授賞理由: この2冊はかねがね読みたいと思っていて、それには2つ理由があった。大学時代のゼミで群論を学んでいたが、未消化に終わっていて敗者復活したかったことが1つめの理由だ。特にコロナ禍で延期になっていた担当教官(江川嘉美先生)の定年退官最終講義に参加し、この本の著者が担当教官の恩師であると知り不思議な縁を感じることになった。そして2つめの理由は本書(特に2冊目のモンスター)が絶版で、とても手が出せない高値で取り引きされていたからだ。高嶺の花ならず、高値の花である。余計に読みたくなるものだ。幸い2冊ともオンデマンド版が発売されたことにより絶版書の取引価格が大きく下がった。買い時だったのだ!この本の最後に到達するモンスター群。26種類しかない散在型有限単純群と呼ばれる怪物たちの中のラスボスがモンスター群だ。素数のように無限にあるのではなく、この巨大な数で打ち止めになっていることに、とても不思議な魅力を感じていた。この本を読んだからと言って理解できるようになれるとは思っていなかったが、それでも手を出してしまったというのが本当のところである。大まかなイメージで理解したい方は、次の動画をご覧になるとよい。

【実話】宇宙を支配するモンスターを発見した数学者、ジョン・コンウェイ


群論 と 19万6883次元のモンスター


紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

群の発見:原田耕一郎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/74c7c45a2a1badf514e48a5b9d4ef5bd

モンスター 群のひろがり:原田耕一郎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/657602728d73b7ff977de52bc2cb2216


* 教養書賞

今年は次の本に授賞することにした。

科学文明の起源: 近代世界を生んだグローバルな科学の歴史: ジェイムズ・ポスケット」(Kindle版


授賞理由: これまで一般向けに書かれている科学史の本のほとんどがヨーロッパ中心のものだった。そしてイスラム諸国、インド、中国、日本などにおける発見や研究はせいぜい近代までの成果に限られ一般向けの本はほとんど書かれていない。科学史の大きな幹がヨーロッパで育ったのは確かに事実である。けれども科学史の大木がそれだけで成り立ちうるのだろうか。本書はその視点、つまりグローバルな視点で科学史をとらえなおし、ヨーロッパ以外の地域にどのように伝えられ、研究、発展していったか、そしてさらにそれがヨーロッパの科学にどのように影響を与えていたかということを詳細に解説した本である。さらに興味深く読めたのは科学の研究をもたらした「動機」が書かれていることだ。真理を知りたいと願う人の気持ちが科学を進めてきたのはごく一部で、その大半は国家的な利益、覇権主義だったことが書かれている。つまり天文学は国家を治めるための占星術のため、新大陸を目指しての航海は植民地を得るため、博物学はその植民地の動物、植物を知り、新たな食糧や薬などを得るためだったことを知る。「科学は真理の探究のため」という美しい理念は、いったいどこへやら。。。しかし、幻滅することはない。そのような理念をもち生涯を研究にささげてきた科学者がほとんどであり、ひとりの人間としての哲学や理念を損なうものではないのだから。新しい視点で科学史をとらえなおすという目から鱗の本である。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

科学文明の起源: 近代世界を生んだグローバルな科学の歴史: ジェイムズ・ポスケット
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e91c7bc50027382f95c90f0a520ff5c5


* ブルーバックス賞

該当なし。理由:読んでいないから。


* 文学賞

今年は次の本に授賞することにした。

日航123便墜落 遺物は真相を語る:青山透子」(Kindle版


授賞理由: 1985年8月12日におきた日航123便墜落のニュースに当時大学生だった僕も愕然とした。そして事故原因が機体を製造したボーイング社による機体後部圧力隔壁の修理ミスということで決着していたはずだった。それが事故ではなく「とんでもない事件」だったというのだ。にわかに信じられない。SNS上には陰謀論やフェイクニュースがたくさんある。これもそのうちのひとつだと思っていた。それでも何か心にひっかかるものがあり、本書を読んでみたのだ。著者は日本航空の元CAである。地道な調査や聞き取りをすすめてこれまでに何冊もの本をお書きになっている。本書はそのうちの1冊だ。本書とネット上の情報を参考に読むことで「事故ではなかった」ということが僕にも確信できた。来年は「日航機墜落事件」から40年である。この事件の真相はいまだ明かされていない。ご遺族の「真実を知りたい」というお気持ちを思うとき、一刻もはやく日本航空と防衛省、日本政府には真実を裁判で明らかにしてほしいと思う。この事件については、森永卓郎氏も著書「書いてはいけない――日本経済墜落の真相」(Kindle版)の中でお書きになっている。

紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。

日航123便墜落 遺物は真相を語る:青山透子
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/20e3b3bfc1485b38973cf4910bdbcc57


* アカデミー賞

今年3月、映画『オッペンハイマー(公式HP)』がようやく日本でも劇場公開され、秋にはサブスクから配信されるようになった。時間がとれず映画館で観ることは叶わなかったが、配信が始まってすぐ観た。今年はNHKでも総合G、BSで何本かの番組が放送され、映画の原作になった伝記本も文庫版が刊行された。

オッペンハイマー 上 異才:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン」(Kindle版
オッペンハイマー 中 原爆:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン」(Kindle版
オッペンハイマー 下 贖罪:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン」(Kindle版
  

このほか、オッペンハイマーが亡くなる3年前の1964年に被爆者などが証言を行うためにアメリカを訪問した際、被爆者に涙ながらの謝罪をした記録が見つかったり、彼のお孫さんが来日して核兵器廃絶を訴えたたのも今年の6月である。(紹介記事)そして10月にはノーベル平和賞が「日本被団協=日本原水爆被害者団体協議会」に授与されることが決まった。第三次世界大戦(核戦争)の危機が増している中、今年は否が応でも核兵器を意識せざるを得ない年となった。

ということでアカデミー賞は、この作品に授賞することにした。

映画『オッペンハイマー』の公式サイト
https://www.oppenheimermovie.jp/

【本予告】『オッペンハイマー』3月29日(金)、全国ロードショー:YouTubeで再生



* テレビドラマ賞

昨年に続きドラマを楽しむ時間がほとんどとれなかったため、今年は各クールで面白そうなものを限定して視聴することになった。近年、テレビドラマの質は際立って低下している。新ドラマが発表されるたび予告編やオフィシャルサイトでチェックしているが、タイトルだけ見て箸にも棒にもひっかからないものが半分、予告編を見て「こりゃダメだ」と思うものが4分の1、そして消去法で残ったドラマを面白そうな順に並べてとりあえず第1話を見ていた。今年特に面白く、最終話まで見たのは「不適切にもほどがある!(TBS公式サイト)」と「新宿野戦病院(フジテレビ公式サイト)」だった。どちらも脚本は宮藤官九郎さんである。

ことしのテレビドラマ賞は、このどちらかで決まりかなと思っていたところ現在放送中の10月クールで、ものすごいドラマが始まった。出演している俳優名を見るだけで制作陣の本気度がわかる。長崎県の通称「軍艦島」とよばれる現在は廃墟となった無人の人工島を舞台にした壮大なドラマだ。この島の正式名は「端島(はしま)」である。1974年に廃坑されるまで、ここは炭鉱町として数千人の住民が住む人口密度世界一の島だった。当時最先端だった鉄筋コンクリートの高層住宅で生活していた人々。1955年当時の島の様子を再現し、この島で生活し思い出をいまでも大切にしている高齢の女性社長(宮本信子)が2018年の現代から1955年に経験したこの島での生活にタイムスリップする。2018年と1955年を行き交いながら物語は進む。女性社長がこの島で愛していた若者がいたのだが、2018年の新宿歌舞伎町にその若者と瓜二つの男がいた。ホストをしているこの男が歌舞伎町の路上でこの女性から話しかけられるというシーンからこの壮大な物語は始まる。先の展開がまったく読めないドラマ。最終話まで楽めるのはすでに約束されているようだ。

ということでテレビドラマ賞は、この作品に授賞することにした。



『海に眠るダイヤモンド』TBS公式サイト
https://www.tbs.co.jp/umininemuru_diamond_tbs/

『海に眠るダイヤモンド』第1話 「地底の闇を切りひらく」 10分で分かる! SPダイジェスト【TBS】


『海に眠るダイヤモンド』まだ間に合う! 第1〜5話 40分SPダイジェスト【TBS】


『#海に眠るダイヤモンド』神木隆之介×斎藤工 端島のミニチュア模型でドラマの魅力を深掘り!【TBS】


『#海に眠るダイヤモンド』注目のあのシーンを神木隆之介×斎藤工が徹底解説!!【TBS】



* クリスマス賞

クリスマスに贈るのによさそうな本に授賞するのがクリスマス賞だ。今年は先月92歳でお亡くなりになった詩人の谷川俊太郎さんが翻訳したこの本に授賞することにした。英語原書とともに紹介しておこう。原書は『ピーナッツ』(スヌーピーシリーズ)の原作者、チャールズ・M・シュルツさんである。日本語版は今年の12月2日に発売されたばかりだ。

クリスマスはいっしょの時間: スヌーピーえほん
Christmas Is Together-Time (Peanuts®)
 


最後になりますが、本日受賞される先生方、被団協の代表の方、ノーベル賞受賞おめでとうございます!

物理学賞と化学賞の記念講演および平和賞授賞に驚く「日本被団協=日本原水爆被害者団体協議会」の代表の様子は以下の動画で見ることができる。英語が苦手な方は機械翻訳機能を使って字幕を日本語表示させてご覧いただきたい。

2024 Nobel Prize lectures in physics:


2024 Nobel Prize lectures in chemistry:


Nobel peace prize: Nuclear disarmament group honoured with 2024 prize:



2024年 ノーベル物理学賞はホップフィールド博士、ヒントン博士に決定!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2e34676bf6a10cfc581d43cd791afb21

2024年 ノーベル化学賞はベイカー博士、ハサビス博士、ジャンパー博士に決定!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/58861d38593ccdebcbad6270f1cbe037


ノーベル平和賞を受賞する日本被団協についてNHKのクローズアップ現代で、このような番組が放送された。12月16日までNHKプラスで視聴できる。(画像をクリックするとこの番組が開く)



配信期限 :12/16(月) 午前0:52 まで

およそ70年被爆の実相を伝え、核兵器廃絶を世界に訴える活動を続けてきた日本被団協。核兵器は二度と使用すべきでないという「核のタブー」を形づくる上で被爆者の証言が重要な役割を果たしているとされた。ロシアが核兵器を使用する可能性を示唆するなど核抑止力への依存を強めようとする動きも出る中での受賞の意義とは?そして被爆した人の平均年齢は86歳近く。次の世代へと引き継いでいくための各地の模索に迫る。


2024年ノーベル賞授賞式、セレモニーの様子はここからご覧いただける。

2024 Nobel Prize award ceremony:


2024 Nobel Peace Prize award ceremony:



関連記事:

過去の「とね日記賞」一覧: 開く


 

 

新装版「ご冗談でしょう、ファインマンさん(上)(下)」発売

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ご冗談でしょう、ファインマンさん(上)」(Kindle版
ご冗談でしょう、ファインマンさん(下)」(Kindle版

内容紹介:
上巻:常識なんてなんのその。物理に、ボンゴに、金庫やぶり、時には夜遊びも……。好奇心のおもむくまま、気の向くまま、どんなことでも本気で愉しむ。それがファインマン流の生き方。稀代のノーベル賞学者がユーモアたっぷりに語る、冒険譚のような痛快自叙伝。ベスト/ロングセラーを読みやすい文字に改版する。解説=橋本幸士
下巻:面白エピソード満載の本書。しかし、惑わされてはいけない。いたずら好きのファインマンは、この本で読者を試しているかも知れないのだ。何事も疑うことを忘れちゃいけないよ。確かなことなど、この世に何ひとつないのだから、と。疑うことにかけては天下一品。魔術師的天才と呼ばれた人を、疑いながら読め。解説=江沢洋

著者について:
R.P.ファインマン Richard P. Feynman
1918–88.アメリカの物理学者.マサチューセッツ工科大学,プリンストン大学卒業.コーネル大学教授,カリフォルニア工科大学教授を歴任.量子電磁気学におけるくりこみ理論を完成させ,1965年,J.シュウィンガー,朝永振一郎とともにノーベル物理学賞を受賞.著書に『ファインマン物理学』『ファインマン計算機科学』『ファインマン講義 重力の理論』(いずれも岩波書店)などの教科書もある.

大貫昌子 Masako Onuki
翻訳家.本書のほか,『困ります、ファインマンさん』『聞かせてよ、ファインマンさん』『光と物質のふしぎな理論』(いずれも岩波現代文庫)など,一連のファインマン作品の翻訳を手がけている.

上巻:2025年1月17日刊行、305ページ
下巻:2025年1月17日刊行、282ページ


物理学ファンにとってはあまりにも有名な本、数式が苦手な一般の方でも物理学の魅力を堪能できるこの伝記本が文庫化されたのは2000年のことだった。それから25年がたち、新装版として発売された。表紙が原書英語版と同じになったこと、上巻の解説を橋本幸士先生がお書きになったことが主な変更点だ。

この本の詳しい紹介は以下の記事をお読みいただきたい。

Surely You're Joking, Mr. Feynman!(ご冗談でしょう、ファインマンさん)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/51c0567c10e45d01a19fb63bc2efee21


ご冗談でしょう、ファインマンさん(上)」(Kindle版
ご冗談でしょう、ファインマンさん(下)」(Kindle版


日本語版(上巻)

 まえがき
 はじめに
 僕の略歴

1 ふるさとファーロッカウェイからMITまで
 考えるだけでラジオを直す少年
 いんげん豆
 ドア泥棒は誰だ?
 ラテン語? イタリア語?
 逃げの名人
 メタプラスト社化学研究主任

2 プリンストン時代
 「ファインマンさん、ご冗談でしょう!」
 僕、僕、僕にやらせてくれ!
 ネコの地図?
 モンスター・マインド
 ペンキを混ぜる
 毛色の違った道具
 読心術師
 アマチュア・サイエンティスト

3 ファインマンと原爆と軍隊
 消えてしまう信管
 猟犬になりすます
 下から見たロスアラモス
 二人の金庫破り
 国家は君を必要とせず!

4 コーネルからキャルテクへ ブラジルの香りをこめて
 お偉いプロフェッサー
 エニ・クウェスチョンズ?
 一ドルよこせ
 ただ聞くだけ?

 解説 「いえ冗談ではなく遊んでいるだけです、物理で」………………橋本幸士

日本語版(下巻)

4 コーネルからキャルテクへ ブラジルの香りをこめて(続)
 ラッキー・ナンバー
 オー、アメリカヌ、オウトラ、ヴェズ
 言葉の神様
 親分、かしこまりました!
 断わらざるを得ない招聘

5 ある物理学者の世界
 「ディラック方程式を解いていただきたいのですが」
 誤差は七パーセント
 一三回目のサイン
 唐人の寝言
 それでも芸術か?
 電気は火ですか?
 本の表紙で中味を読む
 ノーベルのもう一つの間違い
 物理学者の教養講座
 パリではがれた化けの皮
 変えられた精神状態
 カーゴ・カルト・サイエンス

 訳者あとがき
 文庫版訳者あとがき
 解説 とらわれない発想……………江沢 洋


関連記事:

What Do You Care What Other People Think? (困ります、ファインマンさん)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9aa3c698e25754b1e9fdc0a664545606

ファインマン先生の自伝本と講演本
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9bf47cf51085c74caf34a11068a17285

#Feynman100: ファインマン先生、生誕100周年セレモニー&シンポジウム
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/11dd9238ebcbc37915920a2dab553c82

物理法則はいかにして発見されたか:R.P.ファインマン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ab31086d3d97f72d800893033189592d

ファインマン物理学(英語版)が全巻ネット公開されました。
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e94dd49d7d8cc395e29d37927e30173d

発売情報: フランス語版「ファインマン物理学」の新版
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/daf630deb00e6c315897d6f47ba3dd5a

開平と開立(第5回): ファインマン先生に立方根計算の雪辱を果たそう
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/89a0b907577f03ef6132cf9664bdcddb

光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学: R.P.ファインマン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4b34cd4e7d077d037022e62734d1ee76

QED: The Strange Theory of Light and Matter: Richard P. Feynman
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1860569fe58727fce5256356863001f9

ファインマンの経路積分に入門しよう!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0f47de5854daf4eb38339a73791544a8

万有引力の法則(逆2乗則)の逆問題を解説する本と動画(ファインマンによる解法)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2cd381bca4546d23968b31cfad4a9be9

 

 
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