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新版 電子と原子核の発見(ちくま学芸文庫):S.ワインバーグ

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新版 電子と原子核の発見(ちくま学芸文庫):S.ワインバーグ

内容紹介
100年ほど前まで、人類は電子も原子核も陽子も中性子も知らなかった。これら究極の物質はすべて、優れた科学者たちの深い洞察と巧みな実験によってその存在が突き止められた。トムソンによる電子の発見、ミリカンによる電子の電荷の測定、ラザフォードによる原子核の発見、チャドウィックによる中性子の発見…。彼らはどのように推論し、どのような実験で未知の粒子を追いつめていったのか。壮大なドラマが、物理的な厳密さを貫きながら具体的に語られ、力学や電磁気学、熱学も必要に応じわかりやすく解説される。ノーベル賞学者による20世紀物理学への格好の入門書。名著の最新改訂版。
2006年2月刊行。432ページの文庫本。

著者略歴
スティーブン・ワインバーグ
1933年、ニューヨーク生まれ。コーネル大学を卒業し、コロンビア大学でPh.D.を取得。現在テキサス大学教授。専門は素粒子物理学。1979年にS・グラショウ、A・サラムとともに電弱理論への貢献でノーベル物理学賞を受賞。


理数系書籍のレビュー記事は本書で220冊目。

原子の発見史の次は電子と原子核の発見史を学ぼう。

本書は「だれが原子をみたか(岩波現代文庫):江沢洋」の次に読むとよい本だ。

電子の流れが電流であることはもはや一般常識だ。けれどもそれはいつ頃どのようにして理解されるようになったのだろうか?また原子核についてはどうだろうか?

本書は20世紀初頭の物理学者による実験と推論の積み重ねによって電子と原子核の存在が明らかにされ、原子の構造が解明されていったプロセスを詳細に解説した科学史ドキュメントである。

電子はJ.J.トムソンが1897年に行なった陰極線の実験によって発見され、この実験で比電荷の値(電子の質量と素電荷の比率)が求められた。さらに1909年にミリカンが行なった油滴実験によって素電荷の値(電気素量)が求められたことが知られている。その結果、電子の質量が求められたわけだ。

電子の発見
http://www.kutl.kyushu-u.ac.jp/seminar/MicroWorld/Part1/P17/electron.htm

また原子核の発見はラザフォードによるもので、1909年に有名なガイガー=マースデンの実験を指揮し、1911年に原子核が原子の中心に集中しているという原子模型が発表された。

ラザフォードの実験 
http://www.geocities.jp/hiroyuki0620785/k0dennsikotai/30c2ruthford.htm

本書では本編でこれらの実験の詳細が解説されるだけでなく、65ページにおよぶ「付録」で具体的な計算手順を示してくれている。計算に使われる数学は高校までの範囲に抑えているのがうれしい。さらに言えば微積分の知識も不要だ。

ラザフォードは実験屋で、現実離れした量子力学に懐疑的だったそうだ。彼による散乱実験は古典物理学的に導かれていた。後になって量子力学的に導いても同じ結果が得られたのは幸運だったと言える。

ラザフォード散乱の古典物理学的導出
http://www.astr.tohoku.ac.jp/~chinone/Rutherford_Scattering_1/

ラザフォード散乱の量子力学的導出
http://www.astr.tohoku.ac.jp/~chinone/Rutherford_Scattering_2/

ところで電子や原子核の発見をもたらしたこれらの実験が行われた時期について注意してほしい。

だれが原子をみたか(岩波現代文庫):江沢洋」ではドルトンの原子説は1805年に発表されたものの、原子の存在が最終的に確実なものと認識されるようになったのは1905年のアインシュタインによるブラウン運動を計算によって示した論文や1908年から行われたジャン・ペランによるブラウン運動の精密な検証実験によるものであった。

つまり原子の存在が確実視された時期と電子、原子核が発見された時期は重なっていたのだ。

本書ではさらに陽子と中性子の発見の過程も詳細に解説している。中性子は1928年頃から行われたいくつかの実験によって最終的に1932年にチャドウィックが発見したとされている。

中性子の発見
http://www.kutl.kyushu-u.ac.jp/seminar/MicroWorld3/3Part1/3P13/DiscoverNeutron.htm

さらにディラックによる陽電子の予言は1928年、実験による存在確認は1933年である。(関連記事:「ディラックによる陽電子の予言(1928年)」)

1930年頃までには原子を構成する粒子の種類が次々と明らかになり、原子核の崩壊についての理解も飛躍的に進んだことがわかる。20世紀初頭の物理学の発展は本当にめまぐるしいものだったのだ。


本書はアルファ線、ベータ線、ガンマ線などの放射線や放射能、放射性同位体、原子核の崩壊などについても詳しく学ぶことができる。原子力や放射線に関心をお持ちの方には大いに参考になるだろう。

なお、本書のはじめのほうで「摩擦によって静電気が発生する現象はまだ解明されていない。」と書かれていたのは意外だった。物性物理でとっくの昔に解き明かされていると思っていたからだ。摩擦現象は奥が深い。


著者は素粒子物理学の電弱標準理論でノーベル賞を受賞した超一流の物理学者だ。一般向けの書籍とはいえ記述は正確なので安心してお読みいただける。対象読者は高校生から研究者までということだそうだ。


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新版 電子と原子核の発見(ちくま学芸文庫):S.ワインバーグ


第1章:粒子の世界
- 基本的な粒子を求めて
- 科学的表示(指数表示)

第2章:電子の発見
- 電子をめぐる物理学の歴史
- 真空放電と陰極線
- FLASHBACK 電気の性質
- 真空放電と陰極線
- FLASHBACK ニュートンの運動法則
- FLASHBACK 第2法則に関する補足説明
- 陰極線の偏向
- FLASHBACK 電気力
- 電気力による陰極線の偏向
- FLASHBACK 磁気力
- 磁気による陰極線の偏向
- トムソンの実験結果
- FLASHBACK エネルギー
- トムソンの実験におけるエネルギーの関係
- 素粒子としての電子

第3章:原子
- 電荷を測定する
- FLASHBACK 原子の重さ
- FLASHBACK 電気分解
- 電子の電荷の測定

第4章:原子核
- ラザフォードと原子核の発見
- 放射能の発見とその解明
- 原子核の発見
- 原子番号と放射系列
- 中性子

第5章:その他の粒子
- その他の素粒子
- 光子
- ニュートリノ
- 陽電子
- その他の反粒子
- ミューオンとパイ中間子
- W粒子とZ粒子
- 奇妙な粒子
- さらに多くのハドロン
- クォーク
- グルーオン
- 素粒子物理学

引用文献

付録A:ニュートンの運動の第2法則
付録B:電気と磁気による陰極線の偏向
付録C:電場と力線
付録D:仕事と運動エネルギー
付録E:陰極線の実験でのエネルギー保存
付録F:気体の性質とボルツマンの定数
付録G:ミリカンの油滴の実験
付録H:放射性崩壊
付録I:原子内でのポテンシャルエネルギー
付録J:ラザフォード散乱
付録K:運動量保存と粒子の衝突

訳者あとがき
物理単位・定数・元素の表
参考文献
図版・写真出典一覧
索引

場の量子論に再チャレンジ

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場の量子論は昨年9月に「ワインバーグ場の量子論(4巻):量子論の現代的諸相」で落ちこぼれて以来、軽いトラウマになっていたので勉強を中断していた。

日本語に訳されている本の中では「場の量子論:F. マンドル, G. ショー」がお勧めだ。こちらは何とかついていけた。

マンドルの本が出る前から次の2冊は場の量子論の「入門書」かつ「独習書」として定評だったので、もう一度チャレンジするために先週から読み始めている。この2冊は若干のずれはあるがほぼ同じテーマで進行しているので両方を章ごとに併読している。

坂井先生の本は教科書、柏先生の本はほとんど数式ばかりの演習書だが、問題の解法を読み解きながら物理現象の理解もできるように構成されている。計算過程が詳しく書かれているので僕のような独学派にとっては非常にありがたい。

両方とも手ごろな厚さで(500ページ以上あるような教科書よりは)ストレスを感じない。この2冊は互いの良いところを補い合っていて相性は良いと思うのだ。

場の量子論:坂井典佑


内容
場の量子論を簡明、かつ平易に解説した教科書。場の量子論の中で最も重要と思われる事項に絞って簡潔に記述。ファインマン図形の方法を身に付けられるように、簡単なスカラー場の理論を中心的な例にとって解説する。

出版社による本の紹介ページ
http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2212-0.htm


新版 演習場の量子論:柏太郎


内容
場の理論事始め、経路積分法、有効作用と近似値、ゲージ場の量子論など、場の理論を基礎から解説したテキスト。練習問題つき。新しい問題および最近の参考文献を加える。

出版社による本の紹介ページ
http://www.saiensu.co.jp/?page=book_details&ISBN=ISBN978-4-7819-1148-9&YEAR=2006

この本については2010年10月あたりから2012年3月にかけてT_NAKAさんがとても詳しい記事を書いていらしゃるようだ。

テーマ「演習 場の量子論」のブログ記事 (T_NAKAの阿房ブログ)
http://teenaka.at.webry.info/theme/facc7ac4b2.html

僕のほうは今日現在、坂井先生の本のほうは第4章の「経路積分の量子化」の中の「グラスマン数」の手前、柏先生の本のほうは第2章の「量子場入門」の中の「ディラック (Dirac) 場」あたりを読んでいる。

解析力学から導かれるオイラー-ラグランジュ方程式や正準交換関係、特殊相対論か導かれるローレンツ変換、量子力学から得られるハイゼンベルクの運動方程式や粒子の生成、消滅演算子、演算子の間で成り立つ交換関係や反交換関係など、それまでに解明された物理法則を満たすように場の方程式を量子化して記述すると、光子などのボース粒子についてはクライン-ゴルドン場、電子などのフェルミ粒子についてはディラック場となる。クライン-ゴルドン場は1成分の実数のスカラー場、ディラック場は4成分の複素数のベクトル場だ。

クライン-ゴルドン場はボース型の交換関係で、そしてディラック場はフェルミ型の交換関係で量子化しなければならないことが導かれる。量子化されたそれぞれの場がそこで生成・消滅し得る粒子の種類と結びついていることが理解でき、自然法則のつながりの奥深さを感じることができた。

ウィキペディアによると場の量子論の起こりは次のように説明されている。1927年から1928年、ポール・ディラックによる古典電磁気学の量子化、オスカル・クライン、パスクアル・ヨルダン、ユージン・ウィグナーおよびウラジミール・フォックによる生成消滅演算子が形成され、場の量子論の原型をヴェルナー・ハイゼンベルクとヴォルフガング・パウリが創った。これは後に、ディラック方程式と同等であることが判明する。

相対論的な場の量子論に至ることになるディラック方程式をディラックが提唱したのは1928年のこと。リチャード・P・ファインマンはラジオの修理に熱中した少年時代を過ごしていて、日本では「昭和」が始まったばかりだった。当時の世界情勢や日本の置かれた状況を想像すると同じ時代にこのような研究がされていたことはイメージしにくい。ディラックが1928年に予言した陽電子は1932年に発見され、同じ年に日本では五・一五事件が起き、日中戦争や第二次世界大戦に向けて突き進んでいた。


それぞれの本の詳細な目次や構成は出版社による紹介ページを参照してほしい。

読み終えたらそれぞれ記事を書くつもりだ。

少年老い易く学成り難し。頑張ろう!

ポール・ディラック(1902-1984)

  


関連ページ:

ネット上で学んでみたい方は、これらのページをお読みください。

場の理論(東海大学、安江研究室)
http://phys.cool.coocan.jp/physjpn/field.htm

量子場の理論入門(前野先生によるPDF形式のテキスト)
http://www.phys.u-ryukyu.ac.jp/~maeno/field.pdf

場の量子化と粒子の相互作用(名古屋大学、松原先生のHPの一部)
http://tmcosmos.org/cosmology/cosmology-web/node55.html

一般向け書籍レベルの本で学んでみたい方はこちらがお勧め。

光の場、電子の海―量子場理論への道:吉田 伸夫
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ea4bc17a6b2c98c1073039d868223f02


関連記事:

場の量子論〈第1巻〉量子電磁力学:F.マンドル、G.ショー
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/08726ab931904f76d9c26ff56d219e53

場の量子論〈第2巻〉素粒子の相互作用:F.マンドル、G.ショー
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/95d908cd752af642964cbff7ea7f0301

大著に挑む (ワインバーグの「場の量子論」)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/95ac4b64aa4eaf70608088006813cbf5


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夜のウォーキングのその後

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3月8日から始めたウォーキングは相変わらず続いている。1日10Kmくらいを2時間かけて歩いている。ゴールデンウィークの頃に体調を崩し10日ほど休んでいたが、その後復活した。

トップ画像のNikeのランニングアプリは4月7日から使い始めた。今日までに417Km歩いたことになるが、アプリを使うまでの1ヶ月に300Kmくらい歩いているから、足すと717Km!およそ東京⇔岡山の距離に相当する。

おかげで体重は7.5Kg減り、体脂肪も減り始めた。何より出っ張ってたお腹まわりがすっきりしてきたのがうれしい。ベルトはすでに2度ほど短く切った。

減量の目標は15Kg〜20Kg。これからが正念場だ。

毎晩2時間のことなので平日はほとんど読書に時間が割けていない。物理の勉強は週末に集中してしまうが、減量目標達成までは健康増進(いや、不健康からの脱却。)を優先させよう。

以下は今月に入ってからの日々の記録。




関連記事:

ウォーキングと夜桜
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/055b88c503e142d7b9559e5965de5550

夜のウォーキング、三軒茶屋へ
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cfd8a6fb66f8d236da95531fd108d8cf


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演習 くり込み群:柏太郎

内容
『新版 演習 場の量子論』(サイエンス社,2006)で著者があまり触れることのできなかった,くり込みとくり込み群について演習形式で解説した姉妹書. 読者が自ら手を動かして,問題を解きながら読み進めていく,という,前著と同じスタイルにより,物理学における普遍的な方法の一つとなったくり込み群を,血となり肉となる形で身につけることができる.


場の量子論に再チャレンジ」という記事で紹介した「場の量子論:坂井典佑」には「くり込み」や「くり込み群」についての説明があるが「新版 演習場の量子論:柏太郎」にごくわずかにしか触れられていないので、その後柏先生は「演習 くり込み群:柏太郎」という本をお書きになっている。2008年刊行。184ページ。

この本も読んでおきたいと思いアマゾンで検索したら中古本も含めて購入できないことがわかりあきらめかけていたのだが、タイミングよくヤフオクに1冊だけ1450円で出品されているのを見つけ、競ることもなく無事落札することができた。

本は昨日届き、入手困難本をゲットできたのはラッキーだったと喜んでいたのだが、「なんだ出版元のサイエンス社のページから普通に買えるじゃん!」と今日になって気がついた次第。

本書の詳細は出版社のページでご確認ください。

出版社による本の紹介ページ
http://www.saiensu.co.jp/?page=book_details&ISBN=ISBN4910054700183&YEAR=2008

サイズは「新版 演習場の量子論:柏太郎」より少し大きい。



以下、ウィキペディアの記事から引用

「繰り込み」とは、場の量子論で使われる、計算結果が無限大に発散してしまうのを防ぐ数学的な技法であり、同時に場の量子論が満たすべき最重要な原理のひとつでもある。繰り込みにより、場の量子論を電磁相互作用に適用した量子電磁力学は完成した。

1930年代に量子電磁力学が発展していく過程で、マックス・ボルン、ヴェルナー・ハイゼンベルク、パスクアル・ヨルダンおよびポール・ディラックは摂動計算において多くの積分が発散することを発見した。1930年代、発散を解決する計算がいくつかなされたが、当時、場の量子論は相対論的に不備であるため、正確な値を与えなかった。

これを解決したのが、1943年朝永振一郎が創った相対論的に共変な場の量子論、超多時間論である。繰り込みは超多時間論を基礎にして確立される。遅れること数年、ジュリアン・シュウィンガーは朝永と類似の形式、リチャード・ファインマンは経路積分1948年を形成し、朝永・シュウィンガー・ファインマンは繰り込み理論を建設する(フリーマン・ダイソンは3者の同等性を証明)。繰り込みは、相対論・場の量子論と並ぶ基本原理とされ、朝永・シュウィンガー・ファインマンの建設した量子論的電磁気学(QED)の基礎となる。量子電磁力学は、以後の素粒子論の典型として、理論形成の規範になり、量子色力学・ワインバーグ=サラム理論を導く糸になる。この業績で、朝永振一郎、ジュリアン・シュウィンガーおよびリチャード・ファインマンはノーベル物理学賞を受ける。

量子電磁力学(QED)の完成の後、繰り込みの手法は量子色力学(QCD)の構築へと応用されていく。非可換ゲージ理論(1964-1973年)、繰り込み可能性の証明(1971年)、繰り込み群による漸近的自由性の記述(1973年)では、繰り込みが用いられている。


ちなみに朝永先生の超多時間理論については「場の理論 (紀伊国屋数学叢書):西島和彦」の第5章の冒頭から5ページほどの解説で内容を知ることができる。また、英語の論文は次のページで公開されている。

朝永博士の物理学(超多時間理論とくりこみ理論)
http://tomonaga.tsukuba.ac.jp/achieve/kurikomi.htm


関連ページ:

場の量子論をネット上で学んでみたい方は、これらのページをお読みください。

場の理論(東海大学、安江研究室)
http://phys.cool.coocan.jp/physjpn/field.htm

量子場の理論入門(前野先生によるPDF形式のテキスト)
http://www.phys.u-ryukyu.ac.jp/~maeno/field.pdf

場の量子化と粒子の相互作用(名古屋大学、松原先生のHPの一部)
http://tmcosmos.org/cosmology/cosmology-web/node55.html

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光の場、電子の海―量子場理論への道:吉田 伸夫
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ea4bc17a6b2c98c1073039d868223f02


関連記事:

場の量子論〈第1巻〉量子電磁力学:F.マンドル、G.ショー
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/08726ab931904f76d9c26ff56d219e53

場の量子論〈第2巻〉素粒子の相互作用:F.マンドル、G.ショー
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/95d908cd752af642964cbff7ea7f0301

大著に挑む (ワインバーグの「場の量子論」)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/95ac4b64aa4eaf70608088006813cbf5


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演習 くり込み群:柏太郎


<目次>
第1章 くり込みの基礎
1.1 小手調べ:くり込みとは
1.2 場の理論の演算子形式による記述とくり込み定数
1.3 経路積分による場の真空期待値の表現

第2章 グリーン関数の計算
2.1 ファインマングラフ
2.2 バーテックス関数の計算

第3章 くり込みとくり込み群
3.1 くり込みとくり込み可能性
3.2 くり込み群方程式とその解
3.3 Ward-Takahashi関係式とくり込み群方程式

付録A 量子電磁力学 (QED)

小学館ロベール仏和大辞典(iPhone / iPad アプリ)

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収録語数12万、重量3.5Kg、2597ページの巨大な仏和辞書が先月iPhone/iPadアプリとして登場した!

今月末まで特別価格で購入できるので紹介しておこう。通常価格 5,700円(税込)のところ、特別価格 4,000円(税込)ということだそうだ。書籍版がほぼ3万円するのを思えば破格の値段といえよう。

詳細は物書堂さんのHPからお読みください。

小学館ロベール仏和大辞典(iPhone / iPad アプリ)
http://www.monokakido.jp/iphone/robert.html




注意点が2つほど。

1)古い!この辞書が出版されたのは1988年のことである。アプリになったからといって内容を新しく改訂したわけではない。社会や経済、科学、テクノロジーなど急速に発展する分野の専門用語には不向きだ。

2)CASIOの電子辞書(フランス語対応モデル)にはこの辞書がすでに含まれている。追加コンテンツとしても12,000円で販売されている。(参考記事


あとは物書堂さんから「ロワイヤル仏和中辞典(第2版)」のアプリが発売されるのを待つだけとなった。僕はどちらかといえばこの辞書のアプリのほうが欲しい。書籍版が発売されたのは2005年だ。収録語数は6万5千。2229ページ。


(ほとんどいらっしゃらないと思うが)今回のアプリの書籍版をお求めになりたい方はこちらからどうぞ。

小学館ロベール仏和大辞典



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紫陽花

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ようやく梅雨らしくなってきた。小雨の降る日曜の朝。それでも今年は空梅雨(からつゆ)で、今週も曇りや晴れの日が続くらしい。

家の近所に咲いていた紫陽花。駅まで続く住宅地の庭には紫陽花以外に、さまざまな植物が植えられている。

「植物ってどうしてこんなにたくさん種類があるんだろう?動物の進化はダーウィンの進化説、自然淘汰でおよそ想像がつくけれど、花の色や形の違いも含めて植物がこれほど分化したのはどうしてだろう?」

ふだん生物学には全く興味がないのだが、小学生が「全国こども電話相談室」で聞くような質問をめぐらせながら駅前まで歩いた。

全国こども電話相談室(TBSラジオ)
http://www.tbsradio.jp/kodomoreal/index.html

この番組は今でも放送されているようだ。「お母さんが不倫している」という深刻な相談が寄せられているのを見ると、時代は変わったなと思わずにいられない。この番組で28年間回答を担当されていた無着成恭さんだったらどのように答えるだろうか?無着さんは1992年9月に降板されたようだ。現在86歳になられている。

現在の回答者は若い世代が中心のようだ。この番組によって子供のいじめや自殺が少しでも減ればよいと願っている。


駅前の書店に着くと、こんな本が平積みされているのに気がついた。歌詞の意味を知らずに洋楽を口ずさんでいる人なら読んでみたくなりそうだ。

本当はこんな歌:町山智浩


同じ系統ではこういう本もある。

本当は怖い洋楽ヒットソング:太田利之


さて、場の量子論の勉強をはじめよう。今日は「場の量子論:坂井典佑」の第5章「摂動論のファインマン則」あたりからだ。

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江戸城の天守閣のこと

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江戸城の天守閣(CG)

先週末に勤務先のオフィスの引越しがあり、今週から「赤坂御用地」のすぐ近くのビルで働くことになった。

窓の外に広がるこの広大な緑あふれるエリアはどのような歴史的背景を持っているのだろう?赤坂御用地や皇居のことを調べているうちに、あることに気が付かされた。これはすでにご存知の方もいらっしゃるのかもしれないが、幾つになっても新しい発見というのがあるのだと思うと少し嬉しくなった。


それはむかし皇居にあった江戸城の天守閣のことだ。

ご存知のように現在の皇居には時代劇に登場するような江戸城や天守閣は建っていない。それはいつ頃に無くなったのだろうか?

天守閣があった場所は現在このようになっている。(皇居内)



この地図の赤い十字のあたりだ。



1945年の東京大空襲のときに焼失したという記録はないし、明治新政府が取り壊したという記録もない。これほど貴重な歴史的建造物をわざわざ解体するはずがない。だから天守閣は1923年の関東大震災で倒壊、焼失したのだと僕はずっと思っていた。確かに皇居内にあった御門の多くはこの震災で被害を受けている。でも天守閣の写真が残されていないのはどうしてだろう?幕末には白黒写真を撮ることができたはずだ。

トップに掲載したのはCG画像だ。時代劇に登場する江戸城の天守閣とだいぶ様子が違う。日頃テレビで私たちが見慣れているのはこれだ。



ところがこれは姫路城の写真である。江戸城はもう無くなっているので仕方なく代用しているわけだ。


ウィキペディアの「江戸城」という項目を読むと江戸城の天守閣が無くなったのはなんと1657年の「明暦の大火」による焼失のためだったという。江戸の城下町と江戸城のほとんどすべてを焼き尽くしたこの大火災でおよそ10万人が亡くなったそうだ。(焼失地域)第4代将軍「家綱」の治世のことである。(参考:徳川将軍一覧

幕府は災害復興を優先し天守閣はその後現在に至るまで再建されることはなかった。

この城は1457年に「太田道灌」によって平山城として築城され、1590年に徳川家康が入城し江戸城となった。江戸時代は1603年から1868年の265年間とされている。そのうち天守閣が存在していたのは徳川幕府の治世の初めの50年間にすぎない。

現在の天守台の位置にあったのは「寛永天守(記事トップのCG)」という建物で、初代家康から第3代家光の治世までに建てられた3つの天守のうち最後のものだそうだ。これらはそれぞれ異なる位置に建っていたという。「寛永天守」が建っていた期間は19年間にすぎない。

- 慶長天守(1607年に完成、家康)→ その後解体
- 元和天守(1623年に完成、秀忠)→ その後解体
- 寛永天守(1638年に完成、家光)→ 1657年に焼失

これはまさに江戸時代の「スクラップ・アンド・ビルド」である。ウィキペディアの「江戸城」の中の「天守」という箇所を読むと、この3つの天守についてさらに詳しく知ることができる。

だから徳川吉宗を扱った「暴れん坊将軍」や徳川綱吉の時代の「水戸黄門」など、第5代将軍以降を舞台とした時代劇に天守閣が映し出されるのは実におかしなことなのだ。NHKの大河ドラマはどうだったかはっきり覚えていないが、これからは注意して見ることにしよう。

ドラマや映画でこの天守閣が頻繁に映されるので、江戸時代の間じゅうずっと江戸城には天守閣があったのだと私たちは思い込まされてきたのだ。これは時代考証云々のレベルではなく、番組制作会社による意図的な演出だ。


恥ずかしながら僕はこの史実を知らなかった。案外このことを知らない人は多いのかもしれない。


江戸城の天守閣再建を目指すNPO法人というのも見つけた。「役員一覧」を見ると江戸城を築城した太田道灌公第18代子孫の方が会長をなさっていることがわかる。

江戸城再建を目指す会(認定NPO法人)
http://npo-edojo.org/


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番組告知:BS歴史館:関孝和 世界水準の“和算”を創り出した男

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関孝和(1642-1708)

昨日に続き、今日も江戸時代ネタの記事になった。

江戸時代を代表する数学者の関孝和。アイザック・ニュートンと同じ年に生まれ、和算の創始者として日本の数学を発展させた。彼の数学は微積分のレベルに到達していたという。

西洋とは交流がなかったにもかかわらず、彼の業績は同時代のニュートンやライプニッツと肩を並べるものだった。またヤコブ・ベルヌーイよりも1年前に「ベルヌーイ数」を発見していたのだ。

明日の夜BSプレミアムで放送されるそうなので、取り急ぎ告知させていただこう。

BS歴史館 江戸のスーパー日本人(1)関孝和 世界水準の“和算”を創り出した男
http://www4.nhk.or.jp/rekishikan/x/2013-06-20/10/2254/

BSプレミアム
放送日:6月20日(木)午後8時〜9時
再放送は6月28日(金)午前8時〜9時
再放送も見逃してしまった方は「NHKオンデマンド」でご覧ください。NHKオンデマンドでの公開終了は2013年7月13日です。



現代に連なる「科学立国ニッポン」を支えた江戸時代のハイレベルな数学「和算」。その中心人物こそ和算の聖人と呼ばれる関孝和。その実像に迫る。

現代に連なる「科学立国ニッポン」を支えた江戸時代のハイレベルな数学「和算」。その中心人物こそ和算の聖人と呼ばれる関孝和だった。江戸時代、サムライから、庶民まで巻き込んだ一大数学ブームを背景に、突如現れた関孝和の知られざる実像に迫る。

【出演】渡辺真理,上野健爾,北川智子,桜井進,【語り】佐々木蔵之介


番組を見た後に追記:

番組は期待以上の内容で興奮させられた。

江戸の数学ブームのきっかけになった『塵劫記』は、現代でも入手することが可能だ。3冊紹介しておこう。

塵劫記 (岩波文庫):吉田 光由, 大矢 真一
『塵劫記』初版本―影印、現代文字、そして現代語訳
江戸のミリオンセラー『塵劫記』の魅力-吉田光由の発想


関連ページ:

ウィキペディアの記事:関孝和

江戸の数学(関孝和)
http://www.ndl.go.jp/math/s1/2.html

関孝和数学研究所
http://www.seki-kowa.org/

関孝和著の資料(国立天文台図書室)
http://library.nao.ac.jp/kichou/open/index.html

日本の暦(国立天文台ニュース)
http://www.nao.ac.jp/contents/outreach/naoj-news/data/nao_news_0231.pdf


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超弦理論(朝日カルチャーセンター)

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昨日の土曜日、4ヶ月ぶりに大栗先生の講座を聴講してきた。今回のテーマは先生が専門にご研究されている「超弦理論」。(参照:「超弦理論」(ウィキペディア))

現在最先端の物理理論として発展しつつある分野であり一般向けの啓発書では正確な知識をなかなか得にくいので、この分野の世界的研究者のおひとりでいらっしゃる大栗先生の講義を聴けるのはとても貴重なチャンスだ。この講座は絶対に聴き逃してはならないと思っていた。

講座概要:
超弦理論は一般相対論と量子力学を統合する究極の統一理論の最も有力な候補である。本講座の前半では、超弦理論ではなぜ空間の次元が9次元であると考えるのか、この9次元と私たちの3次元の空間の関係はどうなっているのかなど、基本的な問題を、数式を使わないで丁寧に説明する。後半では、ヒッグス粒子を含む素粒子の世界が超弦理論からどのように導き出されるのか、ブラックホールや宇宙の始まりなどの謎の解明に超弦理論がどのように応用されているのかを解説する。

超弦理論(朝日カルチャーセンター新宿教室)
http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=197112&userflg=0

今回の講座は10分の休憩をはさんで土曜の午後1時からの4時間が予定されていたが、合議の最後に質疑応答の時間をたっぷりとってくださったおかげで終ったのは6時近くだった。その間じゅうずっと知的好奇心に満たされた濃密な時間を過ごすことができた。興奮がさめないうちに記事として書いておこう。

前回までは7階の100人教室だったが、今回は住友ビル地下1階の住友ホールで行われた。定員200人の会場はもちろん満席。受講者サービスとして先生が用意されたチョコレートが足りなくなる状況だった。

会場いっぱいに3席ずつの長テーブルが配置され、開始30分前に到着して2列目の席を確保。うしろの席には毎回講座でご一緒している271828さんとMさんがいる。少し離れた席にrikunoraさんも到着した。会場を見渡すと今回は若い受講者、女性の受講者が多いようだ。年配の受講者もたくさんいらっしゃり全体的に年代のバランスがよい。

朝日カルチャーセンターのスタッフの方による先生の紹介に続き、グレーのスーツ姿の大栗先生がステージに登場。1週間前には台風直撃かと心配していたが、幸い予報がはずれてよかったと挨拶された。

講義はすぐ始まった。「時間や空間はその中の物質と独立に存在するのか」という文字が巨大なスクリーンに大写しになる。「空間とは何か、時間とは何か、物質とは何か」という太古の昔から人類が知恵をしぼって考え続けてきた根源的なテーマだ。4時間の講座の大まかな流れは次のようだった。スライドは全部で270枚。スライド中の挿絵は先生ご自身によるもので、今回からカラーになった。

前半:
- 時間、空間、物質についての考察。古代ギリシア哲学ではどのように考えられていたか。
- 時空概念の第一の革命:ニュートンによる絶対時間と絶対空間
- 時空概念の第二の革命:アインシュタインによる特殊相対論と一般相対論
- 超弦理論は時空概念の第三の革命
- 氷、水、水蒸気の違いは多数の分子の運動状態の違いによって知覚される。分子1個のレベル(基礎法則のレベル)で見れば氷、水、水蒸気の違いは存在しない。
- 時間や空間も基礎法則のレベルでは次元の区別はなく、我々からは時間と空間があるように見えているだけである。
- 物質についての考察。物質の根源は「点状」の粒子なのか「ひも」なのか
- 素粒子の標準模型、宇宙のたまねぎ(スケールの違いによって異なる様相を見せる自然界の階層構造)
- 解明されたのは宇宙全体の5パーセント。残りは暗黒物質と暗黒エネルギー。
- 素粒子の標準模型には重力が含まれていない。無限大の問題がある。
- 無限大の問題を解決するために湯川秀樹の非局所場の理論と朝永振一郎のくりこみ理論が考えられたが、くりこみ理論によって解決された。
- 自然界の階層構造によって無限大の問題は先送りできる。しかし重力まで含めると先送りできない。それは量子力学の不確定性原理のためである。
- 重力と量子力学が統合されると、それよりミクロな世界はない。だから超弦理論は「究極の」理論なのだ。
- 重力と量子力学を統合するのが究極の理論だ。その最有力候補が超弦理論。
- 無限大の問題は物質の基本要素を「ひも」として考えることで解決。
- ベネツィアーノ、南部の「弦理論」:ボゾンのみを含む理論。(それぞれ1968年、1970年)
- ラモン、ヌブー、シュワルツの「超弦理論」:ボゾンとフェルミオンを含む理論(1971年)
- すべての素粒子は弦が横振動することで説明される
- 閉じた弦の振動状態が重力子であることを米谷が発見(1974年)
- シャークとシュワルツが重力子を含む弦理論を使えば究極の統一理論が作れると考えた。
- 弦理論では空間が25次元、超弦理論では空間が9次元であることの説明がつく。
- 空間の次元数の「25」や「9」を求める計算方法の紹介。最終的に25次元の弦理論では矛盾が生じるので9次元の超弦理論が採用される。

後半
- 超弦理論が抱えていた2つの問題(9次元空間から3次元空間が生成されることを説明できない。アノマリーの問題。)
- シュワルツとグリーンによる2つの問題の解決:第一次超弦理論革命(1984年)
- 9次元のうち6次元はカラビ-ヤウ空間。コンパクト化して3次元の素粒子模型を作れる。
- 余計な6次元によってクォークがなぜ6種類あるかを説明できる。
- 1992-1993年に大栗先生は「トポロジカルな弦理論」の方法を開発し、余計な6次元空間で距離の測り方がわからなくても素粒子模型の性質の一部を計算することに成功。
- 5種類の超弦理論を1つの超重力理論(10次元)で説明:ウィッテンによる第二次超弦理論革命(1995年)
- 弦が膜(メンブレーン)に、そしてp次元の膜に拡張された。
- ブラックホールの表面には開いた弦が張り付いている
- 「トポロジカルな弦理論」がブラックホールの熱や温度を理解する上で役に立った。
- ブラックホールの情報問題はポルチンスキーによるDブレーンの方法で解決
- 双対性:3次元空間の重力理論と2次元面上の重力を含まない理論は同等。重力のホログラフィー。空間は幻想である。
- 超弦理論の検証:重イオン(金の原子核)の衝突実験で超弦理論の正当性が検証された。また超弦理論による高温超伝導の解明も行われた。
- 時間も幻想か。因果律、特殊相対論、過去と現在、未来は存在するのか。
- 初期宇宙のゆらぎ、暗黒物質、暗黒エネルギー、時間の起源
- 138.2億年より前の宇宙は光では見れない。だから宇宙背景重力波や宇宙背景ニュートリノで見る必要がある。
- 超弦理論は生まれたばかり。これからますます発展する分野だ。

この中で僕の印象に強く残ったのは次のようなことだった。

- 古代ギリシアの哲学者の考察が紹介されていたこと。超弦理論が解明する事がらは、古代から人類が疑問として抱えてきたテーマであることに理論の深さを実感したこと。ギリシアの科学、音楽が大好きな271828さんはご満悦だった。

- 超弦理論の空間次元数の計算過程が示されたことに驚かされた。そのためには「光子の質量はゼロ」という条件と「光子をあらわす開いた弦の量子揺らぎの振動モードの総和」が使われる。講義では少し厳密性を犠牲にした中学レベルの数学を使って弦理論の25次元や超弦理論の9次元という空間次元数を計算する方法が紹介された。厳密には大学レベルのゼータ関数を使った計算方法を使うのだという。

計算の前提として式に使われるのが次の不思議な計算結果である。これは「光子をあらわす開いた弦の量子揺らぎの振動モードの総和」の項だ。どうしてこういうことになるのか?物理的に考えても振動エネルギー(の総和)がマイナスになるのは不思議だ。この計算の詳細は「参考ページ」をご覧いただきたい。

1 + 2 + 3 + 4 + 5 + ・・・= - 1/12

参考ページ:

「驚異の数学」(第4回)人は足すことをやめない 無限まで足す 無限級数編
http://toyokeizai.net/articles/-/1275

「感動する数学」(第5回)有限の先にはない無限
http://toyokeizai.net/articles/-/1276

1+2+3+4+…(ウィキペディア)
http://ja.wikipedia.org/wiki/1%2B2%2B3%2B4%2B%E2%80%A6

ゼータ関数の計算
http://music.geocities.jp/hiruhiru09/zt.htm

ゼータ関数と解析接続
http://www.geocities.jp/ikuro_kotaro/koramu/346_zeta.htm

- 超弦理論の「弦」は真空の空間に存在するのではない。それは超弦理論によって空間自体が生成されるからである。

- 実験による検証が紹介されたこと。超弦理論は実験で検証することは不可能ということを聞いたことがあるが、検証可能な実験が紹介されたことに驚かされた。

- 超弦理論の内容が知識として紹介されるだけでなく、なぜそのように発展してきたかということも含めて解説されていたのがとてもうれしかった。


質疑応答も活発に行われた。僕がした質問は2つ。

質問1)電子など半整数値のスピンをもつ素粒子を総称してフェルミオン(フェルミ粒子)と呼んでいる。フェルミオンを理論に取り込むためには「グラスマン数」という奇妙な数が必要になる。グラスマン数は2乗するとゼロになり、2つの異なるグラスマン数 a と b の積は ab = -ba という反可換な性質をもつ。グラスマン数はスカラーであり、複素数でもない。さらにこの数には「大きさ」という概念がない。「大きさ」がないのに超弦理論ではグラスマン座標を考えるというのは変な気がしますが、大丈夫なのでしょうか?
(グラスマン数は「場の量子論」の早い段階で導入される数だ。ちょうどいま勉強中ということもあり、この奇妙な数について僕は強い興味をもっていた。)

先生の回答)グラスマン数は奇妙な数ですが、フェルミオンを理論に取り込むために必要な数です。これまでの数を「拡張した」数なのです。超弦理論の9次元空間は、3つの空間次元と6つの余計な次元(カラビ-ヤウ空間)そして8次元のグラスマン座標によって記述されます。

質問2)超弦理論と量子力学の関係はどのようになっているのでしょうか?

先生の回答)量子力学はそのままの形で超弦理論に取り込まれています。一方、重力理論(一般相対性理論)は修正した形で超弦理論に取り込まれます。アインシュタインの重力場の方程式は時空の曲率はエネルギー-運動量テンソルに比例する(1次の量と比例する)としていますが、超弦理論でのこの方程式はエネルギー-運動量テンソルの2次以上の項が付け加えられます。

超弦理論で提唱される「余計な6次元空間(カラビ-ヤウ空間)は宇宙にあるだけでなく、私たちの身の回りや私たち自身の体の中もふくめて時空のあらゆる場所にあることに思い至ったとき、この理論の持つ普遍性にあらためて感動させられた。


休憩時間にはいつものように先生が用意されたお菓子が配られた。今回はマーブルチョコレート。それも超弦理論スペシャル版だ!

クリックで拡大


今回の講座については大栗先生もさっそく記事をお書きになっている。

超弦理論講座とStrings 2013
http://planck.exblog.jp/20406498/

大栗先生、今回もエキサイティングな講義をしていただきありがとうございました!


4時間はあっという間に過ぎ、講義のあとは先生の著書の即売会&サイン会。長蛇の列を横に見ながら先生にご挨拶し、僕は会場を後にした。

次回の講座もすでに決まっていたので帰り際に申し込みを済ませた。次回は大栗先生だけでなく、東京大学高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構機構長の村山斉先生も担当されるそうだ。

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講座詳細と申し込みはこちらからどうぞ。

時空とは何か(朝日カルチャーセンター新宿教室)
http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=209996&userflg=0

学生会員 時空とは何か(朝日カルチャーセンター新宿教室)
http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=210000&userflg=0

なお、関西の方向けには9月21日に朝日カルチャーセンター中之島教室にて次の講座が予定されている。

超弦理論の最前線 − 時空とは何か(朝日カルチャーセンター中之島教室)
http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=212760&userflg=0


そのあとはいつものように科学ブログ仲間でオフ会。今回は僕を含めて6人が参加した。271828さんからはお手製の桑の実ジャムをいただいた。ありがとうございます。



オフ会に参加されたrikunoraさんも、今回の講座について記事をお書きになったのでお読みください。

超弦理論講座で分かったこと(小人さんの妄想)
http://d.hatena.ne.jp/rikunora/20130628/p1

オフ会の中で先日記事にした「『暴れん坊将軍』や『水戸黄門』などの時代劇で映される江戸城の天守閣はウソだ」ということを知っていたかどうか、オフ会のメンバーに聞いてみたところ、どなたもご存知なかった。


関連ページ:

朝日カルチャーセンター新宿教室でこれまでに開催された大栗先生の講座の感想文記事一覧

重力のふしぎ(朝日カルチャーセンター):2012年2月
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/243ec8bcf130122f0b25d7838a33b6a8

重力をめぐる冒険(朝日カルチャーセンター):2012年6月
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0471486930f344c4daa7aaa5ba2fdcc4

ヒッグス粒子とは何か(朝日カルチャーセンター):2012年10月
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f4a1756c8de4273487ffac8184c8b0c7

強い力と弱い力(朝日カルチャーセンター):2013年2月
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/59084db3bdfb94a2705989a51fcc37ab


超弦理論について書いた記事一覧

カラビ-ヤウ空間を見てみよう!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b3ab2b9875e9a2b81b055153c078439b

素粒子論のランドスケープ:大栗博司
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5201583450c82ac59cb4d71efe52b3d9

はじめての〈超ひも理論〉:川合光
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2484943aee0230f7f2df114a6a543fe4

Dブレーン―超弦理論の高次元物体が描く世界像:橋本幸士
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e18ed1e00f1c877cf3e7926a564f01ae

販売状況:日本語の超弦理論・M理論の教科書
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/61e4dd2232d54cf4a5f3da1aeb83975a

超ひも理論、M理論に至る勉強ロードマップ
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0e1ae44c88899b9c469b24012d180cca

超弦理論に至る100冊の物理学、数学書籍
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d37fe65a84df23cca2af7ecebb83cfc6

明解量子重力理論入門:吉田伸夫(超弦理論の解説も含まれている。)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e0ab2fd9fafe3568c24ed358dd4ea92c


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夜のウォーキング、その後2

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4月7日から今日までで歩いた累計距離
(掲載画像は300Km歩いた後に記録を始めたので565.9Kmと表示されている。)

3月8日から始めた夜のウォーキングはあいかわらず続けている。雨が降るか用事がない限り毎晩2時間をかけて10Kmを歩く。

これまで歩いた距離の累計は866Km、減量8.5Kg。この距離は東京から直線距離で博多や札幌までの距離だという。

6月6日の時点では7.5Kg減量していたから148.4Km歩いて1Kg減ったことになる。減量のペースは落ちてきたようだが、まだまだいけそう。

梅雨にもかかわらず、あいかわらず雨の日が少ない。週間天気予報によると東京地方はずっと曇りか晴れだという。


この土日はみっちり勉強して過ごすことができた。「場の量子論:坂井典佑」の最終章にかかったところ。あともう少しでこの本のレビュー記事が書けそうだ。


関連記事:

ウォーキングと夜桜
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/055b88c503e142d7b9559e5965de5550

夜のウォーキング、三軒茶屋へ
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cfd8a6fb66f8d236da95531fd108d8cf

夜のウォーキングのその後
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/65eb0d670f88ee2225670772ad03793e


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発売情報:ワインバーグの宇宙論(上)(下)

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内容紹介
最新の結果に基づいた宇宙論の教科書。内容の深さ、エレガントさで、他の追随を許さない。 ワインバーグ(ノーベル物理学賞受賞)による、最新の観測結果に基づく宇宙論の教科書。
上巻は、ゆらぎのない、一様宇宙を扱う。下巻では、ゆらぎのある非一様宇宙を扱う。


2008年に出版されたスティーブン・ワインバーグ博士の「Cosmology: Steven Weinberg」の邦訳版が出ているのを先日紀伊國屋書店で見かけてかなり驚いた。

この手の専門書の日本語版でこれほど早く出版されたものはごく限られている。それほど待ち望まれていて、読む価値がある本なのだ。まさかこの本が翻訳されるとはなー、という感じである。

中学から大学にかけて天文学がずっと好きで勉強してきたのだが、僕の関心事はもっぱら太陽系内のことに偏っていて、恒星や銀河系、そして宇宙論にはそれほど興味を持っていなかった。特に宇宙論の話はとりとめがなく「大ざっぱで何でもあり」のような印象を持っていたからだ。

太陽系から脱出したくなかったのは、もともと僕が実生活でも、空想の世界でも「遠出をしたがらない性格」だからかもしれない。

ところが物理学の勉強が進むにつれて、現代物理学と現代宇宙論の密接な結びつきを知り、これまで持っていた印象ががらりと変わってしまった。特にこの本は物理学徒なら必ず知っているワインバーグ博士、素粒子の標準模型の解明でノーベル物理学賞を受賞された超一流物理学者によって書かれた本である。昨年の夏、先生の有名な「場の量子論の教科書」に挑んだこともあり、僕の興味はむくむくと膨らんだ。

おまけに翻訳をされたのはテキサス大学物理学科教授の小松英一郎先生。つまり翻訳者はワインバーグ博士の同僚で一流の物理学者だ。

現代天文学最前線!宇宙創成とその未来に迫る(小松英一郎先生へのインタビュー)
http://ip-science.thomsonreuters.jp/interview/komatsu/


意外だったのは本書の装丁。まるで一般向けの本のような印象だ。帯にはいかにもとっつきやすい宣伝文句が書かれている。一般向けの本だと勘違いして買う人もでてくるかもしれない。(これは冗談。)

上巻の帯


下巻の帯


本書は数式がたくさんでてくる専門書。物理学や天文学を専攻する大学院生レベルの人が読む本だ。内容と目次は出版社のページで確認してほしい。

ワインバーグの宇宙論(上): ビッグバン宇宙の進化
http://www.nippyo.co.jp/book/6106.html
ワインバーグの宇宙論(下): ゆらぎの形成と進化
http://www.nippyo.co.jp/book/6107.html

アマゾンのレビューはまだ投稿されていないので、米国アマゾンのサイトで確認できる。(レビューはここをクリックして確認。)

上巻は5月に出版され、下巻は7月4日に発売された。お買い求めはこちらからどうぞ。

ワインバーグの宇宙論(上): ビッグバン宇宙の進化
ワインバーグの宇宙論(下): ゆらぎの形成と進化
 

翻訳の元となった英語版はこちらである。

Cosmology: Steven Weinberg


1冊の英語版が日本語版では2巻に分けられている。アベノミクスによる円安傾向のせいか日本語版は上下巻を合わせても英語版より安い。躊躇してしまう値段には違いないが、翻訳のコストや想定読者数(∝ 印刷冊数)を考えると日本語版の価格設定は良心的だと思う。

英語版がでてから5年経っているとはいえ内容は最新だ。ぜひ一度書店でお手にとってみてほしい。


宇宙論系の本を読みたくてもこの本は自分のレベルを超えていると思う方には次の本がお勧め。量子力学をきちんと学び終えた方なら読めると思う。

明解量子宇宙論入門:吉田伸夫




数式はまったく受け付けない。でも宇宙論を学んでみたいという一般の方にお勧めなのが次の2冊。天文学の発展史を学びながら、読者を最新の宇宙論へと導いてくれる好書だ。

眠れなくなる宇宙のはなし:佐藤勝彦
ますます眠れなくなる宇宙のはなし:佐藤勝彦
 


参考ページ:

宇宙論:オリジナルテキスト(松原先生によるページ)
http://tmcosmos.org/cosmology/cosmology-web/


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場の量子論:坂井典佑

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場の量子論:坂井典佑

内容
場の量子論を簡明、かつ平易に解説した教科書。場の量子論の中で最も重要と思われる事項に絞って簡潔に記述。ファインマン図形の方法を身に付けられるように、簡単なスカラー場の理論を中心的な例にとって解説する。
場の量子論とは、粒子の生成と消滅を記述する道具であり、現代の自然科学の柱となっている量子論と相対論を融合するときに、避けて通れない論理体系である。そして、素粒子物理学、原子核物理学はもちろん、物性物理学など、現代の物理学の多くの分野で用いられている。
本書は、場の量子論への入門となることを目指し、膨大な場の量子論の内容の中から最も重要と思われる事項に絞って、簡潔に記述することを試みたものである。 2002年に刊行。

出版社による本の紹介ページ
http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2212-0.htm


理数系書籍のレビュー記事は本書で221冊目。

場の量子論に再チャレンジ」の記事でわかるように本書を読み始めたのは5月末のこと。たかだか240ページの教科書なのだが、みっちり精読したので1ヶ月以上かかってしまった。場の量子論の入門書としてはいちばん定評がある本なので、きちんと理解しておきたかったのだ。

場の量子論は1600ページにおよぶ「ワインバーグ博士の教科書」に象徴されるように、数多くの物理学者が何十年にも渡り知恵を絞って構築した壮大な理論体系なので初めて学ぶ人にとってはとてもハードルが高い。

さらにその前段階としての量子力学の美しい理論体系には見られなかった斬新で奇抜な考え方や技巧的な計算が多く、修練を積まなければ理論を使いこなせるようにはならない。だからいきなり専門的な教科書で学び始めると、理論の迷宮に迷い込み「木を見て森を見ず。」の状態、何のためにその数式が出てくるのかが分からない状態になってしまいがちだ。

またページ数の多い教科書だと読むのにも時間がかかる。読み進めるうちに前の章の内容を忘れてしまったりする。「物忘れ」も全体像がつかめなくなる原因のひとつだ。

だからまず本書のように薄い教科書で全体像をつかんでおくことは、極めて有効なのだ。本の章立てはだいたい場の量子論の発展過程に沿っている。章ごとに全く違う理論や考え方、物理的な要請事項が登場するが、それらがどのようなつながりを持っているかということに注意を払って読むことが大切だ。

量子力学では素粒子の「粒子性と波動性の両立」というとても大切な考え方を学んだが、場の量子論でもそれは引き継がれる。解説されている波動場が具体的にどのような素粒子が生成消滅する場であるのかをきちんと抑えながら読むことで、すっきり理解できるようになる。

僕の全体的な理解度は90パーセントくらい。第8章まではほぼすべて理解できたが、最終章の後半は説明が足りていない印象があるのでもやもや感が残った。「ワインバーグ博士の教科書」でちんぷんかんぷんだった「BRS対称性」もすっきり理解できたのが特にうれしかった。また実際の物理量としては観測されないゴースト場や反ゴースト場、中西-ロートラップ場などの「補助場」がなぜ必要になるのか理解できたのもよかった。

本書は場の量子論の基本的なことがらを網羅し、240ページに詰め込んでいるので、数式を使った導出や展開は不十分だ。式と式の間は実際に自分で手を動かして計算してみる必要があるのだが、初めて学ぶ人には無理なので他の演習書やもっと詳しい教科書を読む必要がある。文章で説明している内容が数式ではどのように表われているかという観点で理解し、読み進めるとよい。

ファインマン図形を使った解説の箇所も具体例が少ないので説明不足だと感じた。これについても他書で詳しく学ぶ必要がある。

また本書は「場の理論」の教科書であって「素粒子物理学」の教科書の意味合いは薄い。具体的に素粒子の名前を挙げて説明が始まるのは最終章の後半、電弱統一理論のあたりだ。それまでは、ディラック粒子やフェルミオン、ボゾン、ゲージ粒子など素粒子のもつ性質で分類した呼称を使って解説されている。それぞれの場がどの粒子に対応しているのかをきちんと抑えておけばスムーズに読み進むことができるはず。


初めて読む場の量子論の教科書として本書を選ぶか「場の量子論:F. マンドル, G. ショー」を選ぶかは迷いどころ。後者は素粒子物理の内容もバランスよく挿入されているのが本書と違うところだ。そのぶん分量も2倍に膨らんでいる。


章立てと要約は次のとおり。(要約は本書からの引用である。)

第1章:場の量子論と場の古典論

場の量子論の準備として、場の古典論をまとめる。まず、(特殊)相対性理論の記法のまとめを行う。相対論的な記述と量子論とを合わせた場合に便利な体系として、光速度とプランク定数を基本にとる「自然体系」を導入する。さらに、場の古典論に最小作用の原理を適用する。これにともない、さまざまの不変性とその帰結としての保存則を導く。また、相対論的に不変な相互作用の例を挙げる。

第2章:正準量子化

量子力学では、座標と運動量の交換子がプランク定数に比例するという処方で量子化が行われる。この正準量子化の手続きを、無限個の自由度がある場の理論に対して適用する。量子力学ではシュレーディンガー描像が最も普通に使われるが、場の理論では、生成消滅演算子を用いたハイゼンベルク描像の方が便利である。自由スカラー場を量子化して、ファインマン伝播関数を始めとする不変デルタ関数を導入し、ディラック場の量子化も行う。一般にどのような粒子状態が可能であるかを、ポアンカレ群の表現として考察する。

第3章:相互作用場の一般的性質

相互作用があるため、演算子の時間発展を解いて生成消滅演算子で表すようなことができない場合にも、一般的に成り立つ少数の要請を公理として仮定し、そこから導かれる帰結を調べる。2点関数がスペクトル表示できることを示す。漸近場を導入し、すべての散乱行列要素は場の演算子のT積の真空期待値から得られることを示す(LSZの簡約公式)。

第4章:経路積分量子化

場の量子論の最も正統的で厳密な方法は、第2章で導入した正準量子化である。しかし、経路積分を用いた量子化は、場の量子論では対称性を明確にするなどの点で大変有用である。後の第7章で述べるゲージ理論のような複雑な場合に、特に強力な道具となる。まず量子力学で経路積分を定式化し、それを場の理論の量子化に適用する。

第5章:摂動論のファインマン則

場の量子論のように自由度の多い系では、厳密解を得ることは一般的に難しい。その場合でも、相互作用の効果が小さいとして、ベキ級数展開で量子効果を求めることができる。この摂動論の基礎となる技術が、ファインマン図形の方法である。本章では、経路積分表示を用いて摂動論のファインマン則を導き、散乱断面積などの物理量を計算する方法を与える。さらに、量子効果をまとめあげる有効作用という概念を導入し、その計算方法を与える。

第6章:くり込み

φ^4型相互作用するスカラー場の場合を例にとって、ループを計算し、発散をくり込む必要があることを示す。質量のくり込み、波動関数のくり込みと結合定数のくり込みだけで、すべての発散はくり込むことができる。くり込まれたパラメータでの摂動論を行い、次元正則化の方法を導入する。結合定数の質量次元が正またはゼロの場合には、対称性で許されるすべての項を加えておけば、一般に理論はくり込み可能となる。くり込み群を導き、その帰結を簡単にみる。

第7章:ゲージ場の経路積分量子化

局所ゲージ対称性が成り立つためには、ゲージ場がなければならない。共変微分を導入し、ゲージ不変なラグランジアン密度の構成法を与える。局所ゲージ対称性がある場合、正準変数に拘束条件が生じる。このような場合の量子化を行い、経路積分表示を与える。経路積分に現れる関数行列式を、ファデーエフ-ポポフ・ゴースト場の経路積分を導入してラグランジアンの形に表す。その結果を用いて、共変的ゲージでのファインマン則を導く。

第8章:BRS対称性と演算子形式

量子化のためにゲージ固定されたゲージ場の量子論では、局所ゲージ対称性の代りにBRS対称性が成り立つことを示す。これをゲージ対称性に代る原理として採用すると、演算子形式での議論のために大変有用である。ゲージ固定を行う一般的な方法を与える。演算子形式での正準量子化も行う。

第9章:自発的対称性の破れとヒッグス機構

連続パラメータをもつ大局的な対称性が自発的に破れると、南部-ゴールドストン粒子というゼロ質量粒子が生じる。しかし、自発的に破れた対称性にゲージ場が結合すると、ゲージ粒子がこのゼロ質量粒子を吸収し、全体として重いベクトル粒子となる。このヒッグス機構の具体的な応用例として、電弱統一理論を取り上げる。本書では十分扱えなかった問題について最後に触れる。

付録:
 A.1 ローレンツ変換
 A.2 ディラック場
 A.3 拘束条件のある場合の量子化


関連ページ:

ネット上で学んでみたい方は、これらのページをお読みください。

場の理論(東海大学、安江研究室)
http://phys.cool.coocan.jp/physjpn/field.htm

量子場の理論入門(前野先生によるPDF形式のテキスト)
http://www.phys.u-ryukyu.ac.jp/~maeno/field.pdf

場の量子化と粒子の相互作用(名古屋大学、松原先生のHPの一部)
http://tmcosmos.org/cosmology/cosmology-web/node55.html

一般向け書籍レベルの本で学んでみたい方はこちらがお勧め。

光の場、電子の海―量子場理論への道:吉田 伸夫
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ea4bc17a6b2c98c1073039d868223f02


関連記事:

場の量子論〈第1巻〉量子電磁力学:F.マンドル、G.ショー
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/08726ab931904f76d9c26ff56d219e53

場の量子論〈第2巻〉素粒子の相互作用:F.マンドル、G.ショー
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/95d908cd752af642964cbff7ea7f0301

大著に挑む (ワインバーグの「場の量子論」)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/95ac4b64aa4eaf70608088006813cbf5


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場の量子論:坂井典佑


1 場の量子論と場の古典論
 1.1 場の理論・場の量子論とは
 1.2 (特殊)相対性理論の記法
 1.3 自然単位系
 1.4 最小作用の原理と作用汎関数
 1.5 対称性と保存則
 1.6 さまざまな相互作用ラグランジアン密度
 演習問題

2 正準量子化
 2.1 有限自由度の正準量子化とハイゼンベルク描像
 2.2 正準交換関係
 2.3 生成消滅演算子
 2.4 正規積
 2.5 4次元交換関係と伝播関数
 2.6 ディラック場の量子化
 2.7 粒子状態とポアンカレ群の表現
 演習問題

3 相互作用場の一般的性質
 3.1 スペクトル表示
 3.2 漸近場と漸近条件
 3.3 LSZ簡約公式
 演習問題

4 経路積分量子化
 4.1 量子力学での経路積分
 4.2 場の量子論での経路積分
 4.3 生成汎関数
 4.4 グラスマン数
 演習問題

5 摂動論のファインマン則
 5.1 自由場の場合のグリーン関数の生成汎関数
 5.2 相互作用場のグリーン関数の生成汎関数
 5.3 生成汎関数を場の汎関数微分で表示する
 5.4 ディラック場の経路積分
 5.5 連結グリーン関数のファインマン則
 5.6 遷移確率と散乱断面積
 5.7 有効作用と1粒子規約グラフ
 演習問題

6 くり込み
 6.1 1 粒子既約図形の例
 6.2 次元正則化
 6.3 くり込み
 6.4 くり込まれた結合定数での摂動論
 6.5 くり込み可能性
 6.6 くり込み条件
 6.7 くり込み群
 演習問題

7 ゲージ場の経路積分量子化
 7.1 スペクトル表示
 7.2 ゲージ不変なラグランジアン密度と拘束条件
 7.3 量子力学で拘束条件がある場合の経路積分量子化
 7.4 ゲージ場のゲージ固定と経路積分量子化
 7.5 ファデーエフ‐ポポフ行列式
 7.6 ファデーエフ‐ポポフ・ゴースト
 7.7 共変的ゲージでのファインマン則
 演習問題

8 BRS対称性と演算子形式
 8.1 BRS対称性
 8.2 共変ゲージ固定でのゲージ場の正準量子化
 8.3 物理的状態を指定する補助条件
 演習問題

9 自発的対称性の破れとヒッグス機構
 9.1 対称性の自発的な破れ
 9.2 ヒッグス機構
 9.3 SU(2)×U(1)ゲージ理論
 9.4 中性カレントと荷電カレント
 9.5 物理的状態を指定する補助条件
 演習問題

付録
 A.1 ローレンツ変換
  A.1.1 3次元空間回転
  A.1.2 ローレンツ・ブースト
  A.1.3 空間反転,時間反転
 A.2 ディラック場
  A.2.1 ディラック行列と方程式
  A.2.2 静止系での解
  A.2.3 ディラック波動関数の共変性
  A.2.4 平面波解
  A.2.5 射影演算子
  A.2.6 γ^5と擬スカラー,擬ベクトル
  A.2.7 ディラック波動関数の荷電共役変換
 A.3 拘束条件のある場合の量子化
  A.3.1 第1類拘束条件と第2類拘束条件
  A.3.2 第1類拘束条件とゲージ固定
  A.3.3 第2類拘束条件とディラック括弧
  A.3.4 拘束条件がある場合の経路積分量子化

問・演習問題解答
索引

「標準模型」の宇宙:ブルース・シューム

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「標準模型」の宇宙:ブルース・シューム

内容
本邦初のゲージ理論のやさしい入門書。自然の奥底に息をのむ美しさがひそんでいた。
ゲージ理論に基づく素粒子の「標準模型」は自然界の三つの基本的な力(電磁気力、弱い核力、強い核力)の働きかたを解き明かすもので、現代物理学の真髄であり金字塔とされている。本書は本邦初のゲージ理論と標準模型のやさしい入門書である。
ゲージ理論は抽象的な対称性の議論から現実の相互作用のありかたを導き出すという驚くべき理論である。それは、自然界の基本的な力は単純で美しい対称性に従うとする理論だ。方程式の持つ対称性が単純で美しいものである可能性を追求することによって、相互作用を表す項を導き出してしまうのだ。ゲージ理論は、まるで知的な離れ業のようなことをやってのけているのである。
素粒子の世界の対称性を数学的に表すのに使われるのがリー群という数学である。本書は複雑な数式は避けつつ、ゲージ理論の本当の面白さを楽しむのに欠かせないリー群の知識を初歩からきっちりと解説している。本書を読むのに特別な予備知識は必要ない。
標準模型は20世紀後半に世界中のたくさんの物理学者たちが力を合わせてつくり上げたもので、人類の最高の知的業績のひとつと呼ぶにふさわしい。ノーベル物理学賞を受賞した南部陽一郎、小柴昌俊、益川敏英、小林誠がその発展にどのように貢献したかということも本書で語られている。

出版社による本の紹介ページ
http://ec.nikkeibp.co.jp/item/books/P83610.html


理数系書籍のレビュー記事は本書で222冊目。

場の量子論:坂井典佑」を読み終えたので「新版 演習場の量子論:柏太郎」や「演習 くり込み群:柏太郎」に進もうと思っていたのだが、同じテーマで気になる本が2冊でてきたので、これらを先に読んで紹介することにした。

今回紹介する「「標準模型」の宇宙:ブルース・シューム」は地元の書店で見つけた一般向けの本だ。翻訳の元になった英語版は2004年に出版され、この520ページもある分厚い日本語版は2009年に発売された。

帯にはとんでもない文句が書かれていた。(本の帯にこだわる僕の習性はこの先もずっと変わることはないだろう。)




「ゲージ理論のやさしい入門書」だって??

にわかには信じることができなかった。だってゲージ理論っていうのは素粒子物理学の中核をなしているヤン-ミルズ理論のことだし、そこまでたどり着くには電磁気学、量子力学、相対論的量子力学、量子電気力学を含んだ場の量子論が必要で、そのためには摂動論、ファインマンの経路積分や繰り込み理論、リー群の理解が前提になっている。後になればなるほど高度な数学が使われるので、とても一般の人が理解できるようなものではないと思っていたからだ。いくら言葉を尽くしたとしても数式無しで説明するなんてきっと無理に決まっている。

とはいえ大栗博司先生の「強い力と弱い力」という本は一般向けの説明に成功されている。しかし大栗先生の本は「なるべく数学を意識させない」という立場、「物理法則を日常生活で普通に使う言葉や現象に置き換えて解説する」という立場で書かれているので本書とは根っこの発想が違っている。本書はゲージ理論や標準理論を基礎づけている数学的な話も含めて一般読者に理解してもらおうという本だ。その意味でまさに「本邦初」なのである。

書棚から取り出しページをめくると、文章がぎっしり詰まっているのとファインマンダイヤグラムやリー群を説明していると思われる図版が多いことがわかる。これで一般の人が理解できるようになるのだろうか?ページ数が多いだけに本質がぼやかされた文章をたくさん読まされて時間の無駄になりはしないだろうか?何度か手に持ってはページをめくり、書棚に戻すことを僕は繰り返していた。

最終的に購入の決め手になったのは「内部対称性空間」について説明していた一文に気がついたことだった。その空間が物理的に実在する空間ではなく理論上必要になる数学的な空間であるということが書かれた箇所である。「ああ、この本では物理空間と数学空間をきちんと区別して説明してくれているのだな。」これは大切なことだ。

数式入りの教科書で物理学を勉強していると、式で使われる変数や空間が実際に存在する物理的な対象を表すものか、理論上必要になるだけの数学的なものかの区別があやふやになってくることがある。この2つは常に区別しておきたいと日頃からずっと思っていた。

4日間かけて読み終えた。結果から言えば読んで大正解。もっと前にこの本があることを知っていればよかったのにと思った。高度な数学理論を含めて、素粒子の標準模型の美しさをこれほど見事に解説できるのだという事実に驚かされた。

標準模型を構成する素粒子は電子や光子に始まり昨年見つかったヒッグス粒子(参考記事)も含めて全部で17種類(参考ページ)ある。それらは性質ごとにグループ分けされ、それぞれの粒子がグループ内そしてグループ間にわたる美しい対称性をもった数学的関係によって結びついている。重力を除く自然界の3つの力はその数学的関係にどのように組み込まれているのか。極微の世界へと「宇宙のたまねぎ」の皮をむいていくたびに現れる新しい物理法則は、極めてデリケートで矛盾のない形で結びつき、その全体が美しい姿を作り上げている。

本書を書いたのはブルース・シュームというカリフォルニア大学サンタクルーズ校の物理学教授。専門が粒子加速器の実験物理学というだけあって本書はそれぞれの素粒子がいつ頃どのように発見されたか、それが理論の中でどのような意味を持っているのかとても詳しく書かれている。そして全体的に物理理論、実験、数学理論の記述のバランスがよく、読者が理解しやすいように、そして疲れをためないように解説する順番が工夫されていると思った。

数式はときどきでてくるが、短かくシンボリックなものばかりだから「難解」という印象は感じなくてすむ。数式が苦手な読者を排除しないぎりぎりの線をキープしているレベルだ。とはいえ、複素空間や複素回転の説明をしている箇所があるので複素数や「オイラーの公式」は前もって学んでおいたほうがよい。

そして実に見事な解説が展開されるのは、ゲージ理論、リー群、電弱理論、量子色力学(QCD:クォークの理論)、ファインマンダイヤグラム、繰り込み理論の箇所だ。数式を使った入門レベルの教科書でひととおり学んだ僕にとっても「ああ、こういうことだったのか!」という発見がいくつもあった。U(1)、SU(2)、SU(3)などのリー群の意味が一般読者でも理解できる本は本書以外では見たことがない。

本書の最後のほうでは「ヒッグス機構」や「ヒッグス粒子」、「自発的対称性の破れ」などが説明され、素粒子が質量を獲得するメカニズムを理解することができるようになる。一般的な教科書では「ヒッグスポテンシャル」を解説するためにワインボトルの底の形の立体グラフを持ち出すのだが、本書ではこのグラフは登場しなかった。これとは違う方法で説明している。


もしあなたがこれまで物理学の一般書をお読みになったことがないのなら、まず「強い力と弱い力:大栗博司」をお読みになってから本書を読んだほうがよいだろう。そして本書はこれから場の量子論や素粒子物理学を本格的に学ぼうとしている人はもちろん、それらをすでに学んだことのある人にもじゅうぶんお勧めできると思うのだ。

英語版をお読みになりたい方は、こちらからどうぞ。

Deep Down Things: The Breathtaking Beauty Of Particle Physics - Bruce A. Schumm



用語解説:

標準模型、標準理論:ウィキペディアでの解説
ゲージ理論、ヤン-ミルズ理論:ウィキペディアでの解説
リー群:ウィキペディアでの解説
相対論的量子力学:ウィキペディアでの解説
量子電気力学、量子電磁力学(QED):ウィキペディアでの解説
量子色力学(QCD):ウィキペディアでの解説
場の量子論:ウィキペディアでの解説
摂動論:ウィキペディアでの解説
経路積分:ウィキペディアでの解説
ファインマンダイヤグラム:ウィキペディアでの解説
繰り込み理論:ウィキペディアでの解説


関連ページ:

一般向け書籍レベルの本で学んでみたい方はこちらもお勧め。

光の場、電子の海―量子場理論への道:吉田 伸夫
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ea4bc17a6b2c98c1073039d868223f02


関連記事:

場の量子論:坂井典佑
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a83afc332356c0fef65e6527ddd71af1

場の量子論〈第1巻〉量子電磁力学:F.マンドル、G.ショー
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/08726ab931904f76d9c26ff56d219e53

場の量子論〈第2巻〉素粒子の相互作用:F.マンドル、G.ショー
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/95d908cd752af642964cbff7ea7f0301

大著に挑む (ワインバーグの「場の量子論」)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/95ac4b64aa4eaf70608088006813cbf5


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「標準模型」の宇宙:ブルース・シューム


序文

第一章 はじめに

第二章 世界を動かすものたち ― 自然界の力

第三章 偉大なる復活 ― 現代物理学の革命

第四章 相対論と量子論の結婚 ― 相対論的場の量子論

第五章 自然のパターン ― 基本的構成要素

第六章 数学的パターン ― リー群

第七章 内側の世界 ― 内部の対称性

第八章 頭で考える物理 ― ゲージ理論

第九章 現在のパラダイム ― 隠れた対称性、標準模型、ヒッグスボゾン

第十章 未知の世界へ ― この先にあるもの

付録 指数の表記法

原注
訳者あとがき
索引

Kindle Paperwhiteを購入

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拡大写真

先日母が電子書籍端末が欲しいと言っていたので「Kindle Paperwhite」を買ってみた。高齢なので家から近所の書店まで母の足では20分以上かかってしまう。読書好きの人だからこの端末で気軽に読書できるようになってくれればよいと思う。

けれどもこういう物の操作が超不器用な母にとってiPad系の端末はハードルが高すぎる。操作が簡単なKindle端末がベストな選択だろう。

まず自分で使ってみた。

ペスキン博士の「An Introduction To Quantum Field Theory」はこのように表示される。

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電子書籍は以前からスマートフォンで使っていた。大栗先生の著書や「Lectures on Quantum Mechanics: S.Weinberg」など、いちばん読みそうな本を入れている。難しくて読めそうもないニュートンのプリンキピアまで買ってしまった。ともあれ数千ページもある洋書がポケットにおさまり、いつでも読めるのはかなりうれしい。

以下はiPhone5での表示画面。

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先ほどの「An Introduction To Quantum Field Theory」のページはこのようになる。

クリックで拡大


電子書籍端末だと手軽に本が買えるので要注意だ。特に最初のうちは目新しさも手伝って次々とダウンロードして散財してしまうことになる。


今夜は母へKindle端末の使い方を教えるために、きっと長い時間がとられることになるだろう。

こういう記事をお読みになると孝行息子だという印象を持たれるかもしれないが、いつもそうだというわけではない。たまたま今日がそういう日になっただけなのだ。


関連記事:

Kindle 発売開始(とね書店)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2349adb21c2c634f1200baf586aa39b5


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完全独習量子力学:林光男

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完全独習量子力学:林光男」前期量子論からゲージ場の量子論まで

内容紹介
初歩の初歩から場の量子論までを一冊で踏破する! 前期量子論から始まる基礎を網羅し、量子力学のハイレベルな理解にたどり着く。群論などの数学的事項も簡潔に解説した。本当に学びたい人のための、熱気あふれる独習書。エネルギー量子の発見、波動力学・行列力学の成立からくりこみ群、ゲージ場の量子論、ヒッグス場、ヒッグス粒子。

著者略歴
林光男
理学博士。1945年千葉県生まれ。1969年京都大学理学部物理学科修了。1974年大阪市立大学理学研究科博士課程単位取得退学。東海大学理学部物理学科講師。1985年東海大学理学部物理学科教授。2011年定年退職。現在、東海大学名誉教授。1976‐77年米国スタンフォード大学線形加速器センター研究員。1988年コペンハーゲン、ニールスボーア研究所交換教授。1995年英国ダラム大学客員教授。専門は素粒子論、一般相対論、宇宙論


理数系書籍のレビュー記事は本書で223冊目。

場の量子論:坂井典佑」を読み終え、同じテーマで気になる本が2冊でてきたので読んでみることにした。1冊目は先日紹介した「「標準模型」の宇宙:ブルース・シューム」で、2冊目が今回紹介する「完全独習量子力学:林光男」である。

「初歩の初歩から場の量子論までを一冊で踏破する!」と内容紹介に書いてあるが、そんな都合のよい本があっていいのか?それもこれは専門書なわけで通常は量子力学で1〜2冊、場の量子論で3冊くらいの分量があってよいはず。小さい文字がびっしり詰まっているものの、本書はたかだか330ページの本である。今年の1月に出版されたばかりなので、気になっている方も多いと思う。アマゾンでの評価もすこぶる良い。

僕の学習段階は量子力学、相対論的量子力学を学び終えて場の量子論に入門したばかり。これまでの学習内容とかぶっているが量子力学の復習と場の量子論の再入門を兼ねて読んでみるのもいいだろう。期待しながら読んでみた。

全体の章立ては次のとおり。第1部と第2部が量子力学と相対論的量子力学で150ページほど。第3部以降の180ページが場の量子論に充てられている。

第1部:前期量子論
第1章:粒子と波動の二重性

第2部:量子力学
第2章:行列力学と波動力学
第3章:量子力学の一般的定式化
第4章:量子力学の初等的応用
第5章:スピンの発見
第6章:量子統計
第7章:ディラック方程式

第3部:相対論的場の量子論
第8章:素粒子の場の量子化
第9章:量子電気力学と経路積分による量子化
第10章:くりこみ理論

第4部:非可換ゲージ場の量子論
第11章:非可換ゲージ場理論―量子色力学
第12章:電弱相互作用―電磁力と弱い力の統一


読み始めてしばらくは快調に進んだ。量子力学の部分は必要なことが無駄なく簡潔に解説されている。既に学んだことばかりだから当然なのだが、これまでに学んだ知識の整理に大いに役立った。

しかし、これは入門書ではないなという気もしてきた。量子力学を初めて学ぶ人が読めるレベルではない。大学受験参考書に例えて言えば本書は「要点整理」、「短期速習」のような内容だ。だから入門用だと思って本書を買った人は落ちこぼれてしまうだろうなという気がした。このまま同じレベルで進行するのだろうか?少し心配になってきた。

中盤にさしかかり心配は現実のものになってきた。第8章の「素粒子の場の量子化」まではなんとか理解できた。しかし第9章の途中から急に難しくなり、「なんだかなー。このまま読み進んで大丈夫だろうか?」という状態。気を抜いて読んでいたわけではない。同じテーマであるにもかかわらず、これまでに読んだ「場の量子論:坂井典佑」や「場の量子論:F. マンドル, G. ショー」とは明らかに難しさが違う。

理解できないのはおそらく自分の未熟さによるもので、本書のせいではないということもわかる。もちろん話の大筋はたどれているが、計算式の導出過程についていけていない。第9章の途中で中西-ラウトラップ場という補助場がいきなり導入されたときに「あ、これは説明が足りていないな。」と気づいた。もやもや状態で第10章まで読み進んだ。この本はきっと行間を自分で補いながら読む必要があるのだ。

第11章の「非可換ゲージ場理論―量子色力学」まで進むと僕の「不理解度」はピークに達した。内容はますます濃くなり、説明のペースはどんどん加速していく。この章にさしかかった時点では理解しようとする気は全く持てなくなっていた。そして本書は明らかに「詰め込み過ぎ」であるということに気づいた。「独習」するとしても自分で手を動かして計算を進められるだけの力量が必要であるということだ。本書の「序言」には「2年分の授業に相当する」と書かれている。

全体を読み終えてみて本書は「独習用」ではなく、「復習用」に適しているのだという結論に達した。すでにもっと詳しい(そして易しい)教科書で学び終えた人が壮大な理論体系を整理しなおすために読むのがよいだろう。

本書を買って「ハズレ」ではなかったものの、残念ながら今の段階で自分にとって有益なものではなかったというのが僕の感想だ。と同時に本書のようなレベルの本を読めるように早くなりたいものだという気持ちにさせられた。

「学問に王道なし」である。


関連記事:

場の量子論:坂井典佑
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a83afc332356c0fef65e6527ddd71af1

場の量子論〈第1巻〉量子電磁力学:F.マンドル、G.ショー
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/08726ab931904f76d9c26ff56d219e53

場の量子論〈第2巻〉素粒子の相互作用:F.マンドル、G.ショー
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/95d908cd752af642964cbff7ea7f0301

大著に挑む (ワインバーグの「場の量子論」)
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完全独習量子力学:林光男」前期量子論からゲージ場の量子論まで


第1部:前期量子論

第1章:粒子と波動の二重性
- エネルギー量子の発見
- ブラウン運動論―原子の実在性の証明
- 光量子論と光電効果
- 特殊相対性理論とコンプトン散乱・電子波
- 原子構造論
- 粒子と波動の二重性―エネルギーのゆらぎ

第2部:量子力学

第2章:行列力学と波動力学
- 行列力学と波動力学の基本
- 波動力学とハミルトン-ヤコビ方程式
- 行列力学とハミルトン方程式

第3章:量子力学の一般的定式化
- 量子力学的状態と重ね合わせの原理
- エルミート演算子の固有値と固有関数
- シュレディンガー描像とハイゼンベルク描像―変換理論
- オブザーバブルの測定と確率解釈
- 不確定性原理
- 経路積分による量子化
- 自由粒子

第4章:量子力学の初等的応用
- トンネル効果
- 井戸型ポテンシャル中の粒子
- クローニッヒ-ペニーの周期的ポテンシャル中の粒子
- 調和振動子
- ラザフォードの散乱公式―散乱問題の一例として
- 球対称なポテンシャル中の粒子
- 角運動量の量子化

第5章:スピンの発見
- パウリのスピン理論とその実験的検証
- ヘリウム原子のスペクトル
- アルカリ金属原子のスペクトル
- 多電子原子と元素の周期律表
- 原子核の独立粒子理論

第6章:量子統計
- フェルミ分布とボース分布
- 黒体輻射
- デバイの固体の比熱理論

第7章:ディラック方程式
- 電子の相対論的振る舞い―ディラック方程式
- ディラックの陽電子論
- ディラック方程式からのスピン-軌道相互作用の導出
- アハラノフ-ボーム効果

第3部:相対論的場の量子論

第8章:素粒子の場の量子化
- 局所場の量子論
- 自由場の正準量子化I―スカラー場の量子化
- 自由場の正準量子化II―スピノール場の量子化
- 自由場の正準量子化III―ワイル場とマヨナラ場の量子化

第9章:量子電気力学と経路積分による量子化
- 量子電気力学と純電磁場の量子化
- 場の相互作用と摂動論―ファインマングラフ
- 遷移確率と散乱断面積

第10章:くりこみ理論
- さまざまな相互作用
- 次元正則化
- くりこみ理論
- アノーマリーの計算 π0→γ+γ

第4部:非可換ゲージ場の量子論

第11章:非可換ゲージ場理論―量子色力学
- 序論―自然界の4つの相互作用
- 非可換ゲージ場理論
- 量子非可換ゲージ場理論とBRST対称性
- 非可換ゲージ場理論の経路積分量子化とファインマン則
- くりこみ理論
- くりこみ群と量子色力学の漸近的自由性
- レプトン-核子深非弾性散乱実験

第12章:電弱相互作用―電磁力と弱い力の統一
- SU(2)_L×U(1)_Yゲージ理論
- 自発的対称性の破れ
- ヒッグス機構
- ヒッグス機構とゲージ場の量子化―R_ξゲージ
- レプトンとクォークの質量
- GIM機構 K_L→μ(-)+μ(+)
- CP対称性の破れと小林-益川理論
- ミューオン崩壊と中性ウィークボソンによるニュートリノ生成
- シーソー機構によるニュートリノのマヨナラ型質量の生成とニュートリノ振動

参考文献
あとがき
索引

宇宙になぜ我々が存在するのか:村山斉

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宇宙になぜ我々が存在するのか:村山斉


理数系書籍のレビュー記事は本書で224冊目。

難しい本を読んで頭がもやもやしてしまった後は易しく書かれた一般読者向けの本を読んで気持ちをリフレッシュするのがよい。

来月末に「時空とは何か(朝日カルチャーセンター新宿教室)」を受講するから村山斉先生の本も読んでおこうと思ったので本書を選んでみた。今年1月に出版されたばかりだ。

村山先生は2010年に「宇宙は何でできているのか:村山斉」という本をお出しになっているので、まずこちらを読んだ。暗黒物質、暗黒エネルギーの話から素粒子物理学の話が広く、そしてまんべんなく網羅的に解説した素粒子論入門書である。

宇宙は何でできているのか:村山斉


こちらの本の内容は、これまで他書で学んできたことがほとんどだったので「ああ、これはこういうふうに説明すればいいのだな。」とか「この説明だと、この分野に初めて接する入門者に理解してもらえるだろうか。」とか思いながら読み進んだ。入門者向けの本とはいえ素粒子は種類や性質もさまざまなので小型本ですべて網羅すると専門用語が目立ってしまうのが書き手にとってのジレンマになると思う。

今回の本も同じく「素粒子論入門書」である。前著の刊行から3年しか経っていないので内容はほとんど同じになっているんじゃないかと心配したが、重複していたのは最初と最後の数章だけだった。

ブルーバックスの「宇宙になぜ我々が存在するのか:村山斉」のほうは、ニュートリノとヒッグス粒子に力点が置かれているのが特長だ。実験結果のグラフを示し、どのように解釈すればよいかということまで説明されている。この類の一般向け書籍をこれまでいろいろ読んできた僕にとっても知らないことがたくさん書かれてあり、有意義な読書になった。

昨年7月に世界中を驚かせた「ヒッグス粒子発見」の話題が盛り沢山で、実験の経緯やヒッグス粒子の役割についてとても詳しく書かれているのが特にうれしかった。CERNからインターネット中継された報告会では別々に行われた2チームによる実験結果が発表されたが、重大な実験だけに慎重に言葉が選ばれていたこと、舞台裏で繰り広げられていたドラマを知ることは、科学史の偉業として残るであろうあの貴重な瞬間を共有できる喜びを増幅してくれるからだ。

第4章以降の各章に挿入された「質疑応答」もよかった。次のような質問に対して村山先生の回答が書かれている。

第4章:2011年の秋頃に超光速ニュートリノが話題になりました。あれは結局、まちがっていたことがはっきりしたのですが、どんなものでも光速は超えられないのでしょうか。

第5章:現在残っている物質は原子核とか、そういう重いものが多く、ニュートリノはあまり関係ないといわれています。反ニュートリノがニュートリノに変化しても、原子核などにはあまり関係がないと思うのですが、その関係はどうなっているのでしょうか?

第6章の質問1:ヒッグス粒子が集まるとものが動きにくくなるというのは、慣性質量というイメージだと思うのですが、重力質量との関係はどうなっているのですか?

第6章の質問2:ヒッグス粒子のエネルギーが126GeVと聞いたのですが、このGeVとはどういう意味ですか?

第6章の質問3:アトラス実験などでは世界中のコンピュータをつなげて計算したというお話でしたが、故障したときのバックアップなどはどのように取っているのですか?組織的にやっているのか、個人の責任でやっているのかを知りたいです。

第6章の質問4:ヒッグス粒子と重力子の間には、何か関係があるのですか。

第7章:超対称性粒子やものすごく重いニュートリノなどがあることを検証するための実験がおこなわれているのですか?

これらの質問の答を知りたいかたは、ぜひ本書をお読みいただきたい。


ブルーバックスについて

ところで一般読者向けの自然科学書、技術解説書の魁(さきがけ)として知られているブルーバックスは今年創刊50周年をむかえる。年齢がちょうど50歳だからという理由ではないだろうが、大栗先生は9月8日に創刊50周年記念講演を行うそうだ。それに合わせて先生の新刊書もブルーバックスから発売されることになった。

ブルーバックスシリーズは長年に渡りたくさんの中学生、高校生の心に「科学の芽」を植え付け、その影響で科学者や技術者の道に進む道を選択た人も多かったと思う。我が国の科学と技術の発展に大いに貢献したシリーズなのだと僕は思っている。

ブルーバックス創刊50周年記念・大栗博司先生、池谷裕二先生講演会
http://bookclub.kodansha.co.jp/books/bluebacks/50th/index.html

予約受付中:超弦理論の最前線 (ブルーバックス):大栗博司
http://astore.amazon.co.jp/tonejiten-22/detail/4062578271

大栗先生も中学、高校時代にブルーバックスをお読みになっていたのだろうか?その当時、自然科学の中でもどのような分野に興味を持たれていたのだろうか?ブルーバックスは大栗先生の人生に影響を与えたのだろうか?そのようなことが気になってきた。この講演会ではおそらくブルーバックスについての思い出話が語られるのではないかと僕は想像している。


今日紹介した「宇宙になぜ我々が存在するのか:村山斉」の村山先生と大栗先生は「強い力」で結びついている。村山先生は大栗先生より2歳お若く、大学院生のときの輪講の指導を担当されたのが大栗先生だったのだそうだ。今日取り上げた村山先生の著書の紹介やお二人のご関係は次のブログ記事で読むことができる。

ニュートリノ(大栗博司のブログ)
http://planck.exblog.jp/19173837/


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宇宙になぜ我々が存在するのか:村山斉


内容紹介
宇宙の根源に迫る壮大なストーリー
この宇宙に存在する「私」の起源に迫る

私たちは宇宙の塵からできているといわれています。じつは、宇宙が原子よりもっと小さくて熱かったころ、塵のもとになった物質と、その反物質が衝突しては消え、新しい物質と反物質が生まれては消えて……、そんなことを繰り返していました。
それがあるとき、宇宙の温度が少しだけ下がると同じ数だけあった物質と反物質のバランスが崩れ、ほんのわずかな反物質が物質に変わり、私たちが存在する物質だけの世界ができたお蔭で、私たちが生まれてきたというのです。その鍵を握っているのが、いままで質量がゼロだと思われていたニュートリノにあったのです。

・いったいニュートリノにどうして質量が生まれたのか?
・ニュートリノはどうしてこんなにたくさん宇宙に存在しているのか?
・なぜニュートリノには左巻きしか存在しないのか?
・右巻きニュートリノはどこへ消えたのか?
・ヒッグス粒子によってニュートリノはどうやって質量を得たのか?
・右巻きニュートリノがインフレーションを起こしたって本当?
・ヒッグス粒子は「顔なし」ってどういうこと?

これらの謎を解き明かしていくと、そこには思いもよらない結末が……。
最新の素粒子理論を駆使して、最新の宇宙像に迫る、村山先生の最新作!
スラスラといっきに読めて、しかも読み終わったあと、
宇宙の見方がぜったいに変わります。

著者略歴
村山斉
1964年東京生まれ。東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)の初代機構長、特任教授。米国カリフォルニア大学バークレー校物理教室教授。理学博士。東北大学大学院理学研究科物理学科助手、ローレンス・バークレー国立研究所研究員、カリフォルニア大学バークレー校物理学科助教授、准教授を経て、同大学物MacAdams冠教授。専門は素粒子物理学。2002年、西宮湯川記念賞受賞。


第1章:恥ずかしがり屋のニュートリノ
- 宇宙はウオボロスのヘビ
- 宇宙は正体不明の物質で満ちている
- 原子の世界を探る
- 消えたエネルギー
- パウリの予言
- 原子力発電所から見つかった幽霊の正体

第2章:素粒子の世界
- 宇宙はたくさんの素粒子からできている
- 陽子と中性子はクォークからできている
- 素粒子はみな三兄弟
- 素粒子んいフレーバー?
- 力は粒子のやりとり
- 強い力の正体
- 弱い力の正体
- 四つの力の統一に向けて
- CP対称性の破れ
- 小林-益川理論の登場
- 小林-益川理論の検証

第3章:とても不思議なニュートリノの世界
- 鍵を握るニュートリノ
- ニュートリノの重さ
- ニュートリノは時間を感じる
- ニュートリノで太陽を見る
- 太陽ニュートリノ問題
- カムランドの実験
コラム:カミオカンデとニュートリノ

第4章:ものすごく軽いニュートリノの謎
- ニュートリノはいつも左巻き
- 左巻きニュートリノは超重量級
- 力の統一の世界を伝える素粒子
- 左巻きニュートリノが軽いわけ
質疑応答

第5章:ニュートリノはいたずらっ子?
- 力の統一とニュートリノ
- 宇宙に私たちがいるのはニュートリノのおかげ
- 物質と反物質のふるまいを調べる
- ミューニュートリノは電子ニュートリノに変化した
質疑応答

第6章:ヒッグス粒子の正体
- ヒッグス粒子は神の粒子?!
- 軽自動車をぶつけて戦車を探す
- 一〇〇〇兆回の衝突で一〇個のヒッグス粒子
- 九九・九九九九四パーセントの確実性
- 光子とミューオンを探せ
- 新しい粒子の存在を予言したヒッグス博士
- 自発的対称性の破れ
- ヒッグス粒子が冷えて宇宙に秩序が
- 顔が見えないヒッグス粒子
- 新しい時代の幕開け--ヒッグス粒子の顔探し
- 統一の時代
質疑応答

第7章:宇宙になぜ我々が存在するのか
- 宇宙は膨らんでいる
- ビッグバンの証拠
- インフレーション理論
- 素粒子の揺らぎのしわ
- 宇宙のはじまりに迫る
- 超ひも理論に期待
- 原子より小さかった宇宙の誕生に迫る
- 宇宙の過去と未来を映し出す「すみれ計画」
質疑応答

おわりに
さくいん

70年代の関数電卓:CASIO fx-10 (1974)、fx-15 (1975)、fx-19 (1976)

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左から:CASIO fx-10 (1974)、fx-15 (1975)、fx-19 (1976)
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あいかわらず僕の電卓集めは続いている。

今日は1970年代にタイムトラベルしてみることにしよう。当時発売された関数電卓3機種の話である。

日本で初めて関数電卓が発売されたのは1972年のこと。CASIO fx-1という卓上型電卓だ。(参考ページ)当時の大卒初任給は8万2600円だったが、この電卓は32万5千円もしたので普通の学生や社会人にはというてい買うことができない。卓上型ではその後、廉価版のfx-2 (1972)fx-3 (1975)が発売された。

庶民が関数電卓を手にすることができたのはその2年後、1974年のことであった。日本初のポケット関数電卓CASIO fx-10である。価格は24,800円。10関数内蔵で単三電池4本で動作する。(この電卓の詳細は関数電卓博物館のこのページで確認できる。)

ただfx-10は価格を抑えるためにfx-1よりも機能を落とし、次のようなことが犠牲になっていた。(fx-1は16関数内蔵だったがfx-10は10関数しかない。)

- メモリー機能がない。
- 冪乗計算の冪数は自然数のみ。(複利計算の年が自然数の場合のみ)
- 三角関数の逆関数は計算できない。
- 三角関数や指数関数の有効桁数(精度)は6桁。

この電卓の登場によって科学者や技術者たちはそれまで使ってきた機械式計算機計算尺を使わずにすむようになったのだ。

犠牲になった最初の3つの問題を解決する形で翌年発売されたのがfx-15だ。価格は16,500円と安くなった。(大卒初任給:9万1300円 )日本で初めてのメモリー付き関数電卓である。そのほかにも次の機能強化がなされている。科学計算用電卓としては必須の機能だ。

- 数値の指数表示やその計算ができるようになった。(10のマイナス99からプラス99乗まで)つまり、[EXP]キーがついた。

そしてその翌年の1976年にはfx-19が発売された。価格は9,800円。(大卒初任給:9万4300円 )これなら学生でも買うことができる。そしてこの電卓の目玉は「世界初の分数計算機能、統計計算機能つきの関数電卓」だったのだ。次のような機能アップが行われている。

- 分数計算ができるようになった。
- 標準偏差をはじめとする統計計算機能が備わった。
- 三角関数と指数関数の有効桁数が8桁になった。
- 三角関数のための角度の単位を選択できるようになった。(DEG、RAD,GRAD)

fx-10の発売からたった2年で関数電卓はこのような進化を遂げたのだ。この時代は電卓に限らず次々に登場する新製品に驚かされ、(僕は小学生だったが)大人たちは便利になっていく生活を実感し、仕事と子育てに忙殺されながらも実体が伴う経済成長を日々感じることができていた。

電卓の計算速度はこの3機種だけをとってみても大きく向上している。次の動画でみていただきたい。

CASIO fx-10での計算例:



1)355÷113を計算。(円周率の近似値)
2)sin 30°を計算。
3)cos 30°を計算。
4)tan 30°を計算。
5)指数関数 e^1 を計算し、その逆関数 ln で元の1に戻るか確認。
6)log 2を計算。(底は10)
7)2の平方根を計算し、2乗して2に戻るか確認。
8)2の立方根を計算し、その結果を3乗して2に戻るかを確認。

CASIO fx-15での計算例:



1)sin 35°を計算し、その逆(arcsin)を計算して35°に戻るかを確認。
2)cos 35°を計算し、その逆(arccos)を計算して35°に戻るかを確認。
3)tan 35°を計算し、その逆(arctan)を計算して35°に戻るかを確認。
4)10の平方根を計算し、2乗して10に戻るか確認。
5)10の立方根を計算し、その結果を3乗して10に戻るかを確認。

CASIO fx-19での計算例:



1)355÷113を計算。(円周率の近似値)
2)sin 30°を計算し、その逆(arcsin)を計算して30°に戻るかを確認。
3)cos 30°を計算し、その逆(arccos)を計算して30°に戻るかを確認。
4)tan 30°を計算し、その逆(arctan)を計算して30°に戻るかを確認。
5)指数関数 e^1 を計算し、その逆関数 ln で元の1に戻るか確認。
6)log 2を計算。(底は10)
7)2の平方根を計算し、2乗して2に戻るか確認。
8)2の立方根を計算し、その結果を3乗して2に戻るかを確認。


その後、ポケット型の関数電卓は手帳型のプログラム電卓に進化し、1979年にはCASIO fx-502Pが、1981年にはfx-602Pが発売されている。詳細は「プログラム関数電卓ノスタルジア (CASIO fx-502P、fx-602P、fx-5800P)」という記事でお読みいただきたい。

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ところで今回紹介した電卓や家電製品が世に送り出されていたこの時期、あるとんでもないモノが私たちの知らないところで開発されていたのだ。私たちはそれを1976年の秋に初めて目にすることになる。これについては次回の記事で紹介することにしよう。


関連ページ:

FX Series (Casio)
http://www.dentaku-museum.com/calc/calc/2-casio/5-casiofx/casiofx.html

関数電卓マニアの部屋
http://teamcoil.sp.u-tokai.ac.jp/calculator/index.html

歴代のCASIOパーソナル電卓
http://www.epocalc.net/pages/mes_calcs_03.htm

カシオ電卓の歴史(カシオのサイト内)
http://casio.jp/dentaku/info/history/beginning/

電卓博物館
http://www.dentaku-museum.com/

電卓の歴史
http://www.kogures.com/hitoshi/history/dentaku/index.html


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関連記事:

機械式計算機ノスタルジア(タイガー計算器)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/226dd92e17d66ac624b7279776aa77f6

計算尺ノスタルジア (コンサイス計算尺、ヘンミ計算尺)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b91ae7814c1830a9aaf7da77aadf88a8

関数電卓ノスタルジア (HP-12C, HP-15C, HP-16C)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/03e84c4fe4608f263779c5f442bf29f9

ついに入手!:HP-12C(金融電卓)、HP-15C(科学電卓)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/fd85dc6fb9d752e66342666970fa18b0

プログラム電卓ノスタルジア (TI-59, HP-67): Android携帯アプリ
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0ad3750a80319805913264169939ea93

プログラム電卓ノスタルジア (TI-59, CASIO fx-602P): iPhoneアプリ
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e462acad2de19fdd92d574078ccff000

プログラム関数電卓ノスタルジア (CASIO fx-502P、fx-602P、fx-5800P)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/8c31d67db36639471e9bc3209f88b3de

算数チャチャチャ(NHKみんなのうた)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5f45451ee92873728f3046ed36cdce71

安田寿明先生の「マイ・コンピュータ」3部作(ブルーバックス)

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今年は講談社ブルーバックス創刊50周年。僕にとっていちばん印象に残っているのは「マイ・コンピュータ」3部作だ。著者は東京電機大学で助教授をされていた安田寿明先生で、最初の2冊が刊行されたのが1977年、3冊目は1978年に刊行された。先生が42歳の頃にお書きになった本である。

ひとつ前の「1970年代の関数電卓について記事」の最後のほうでは「この時期、あるとんでもないモノが私たちの知らないところで開発されていたのだ。私たちはそれを1976年の秋に初めて目にすることになる。」と書いた。この年に私たちがいったい何を目にしたのか、当時にタイムスリップする小説仕立てで記事を書いてみることにしよう。


昭和51年(1976年)の秋葉原

昭和51年の秋のとある週末、中学2年生の僕は国電の秋葉原駅で電車を降り、いつものように使用済みの切符を改札で駅員に渡してから外に出た。すがすがしい秋晴れの土曜日の午後だった。小学生の頃は万世橋のところにある交通博物館に何度も行っていたから、この界隈は僕にとってすでに馴染みの場所になっていた。

駅舎は戦後建てられたそうだがいったい何年経っているのだろう。晴れているのに改札の外は薄暗く、駅舎の古さをよけいに印象付けている。後で混雑しているといけないので帰りの切符も先に買っておくことにした。

駅前広場は最新型のラジカセやオーディオ機器、アマチュア無線機、電子部品などを目当てに来た大人たちで混雑している。歩いているのは男性ばかりである。このような電気街に買い物に来る女性はごく少数派だ。大学生のカップルはときどき見かけるけれども、30分も歩いているうちにきっと女の子は退屈してしまうだろう。秋葉原はそんな街だった。

近くに人だかりができていたので行ってみると、台所用品の実演販売をしているのが見えた。小学生の頃から僕はこういうのを見るのが好きだった。同じ実演を繰り返しているだけなのに1時間以上見ていたこともある。

その日は2パターンほど実演販売を見てから、すぐ前のラジオ会館に入った。僕はこの建物をとても巨大な生き物のように感じていた。巨大生物の体内には宝物のような電気製品や電子部品があふれていて、たくさんの人間を空気のように吸い込んだり吐き出したりしている。1階から最上階まで電気製品や電子部品を売っている店しか入っていないこのビルに一歩でも足を踏み入れると、そこには日常から切り離された別世界が広がっていた。整然と秩序に従って商品を陳列してある新宿の京王デパートなどとは興奮の度合いが全く違う。

ラジオ会館にはデパートと決定的に違うことがある。デパートだとどの階のどの売場に行ってもそこに何が売られているのか中学生の僕でもすぐわかる。けれどもラジオ会館は違っていた。アマチュア無線機売り場に行くと、確かに無線機が何台も置いてあるのだが、どれがどう違うのかさっぱりわからない。さらにその周辺機器らしきものも陳列されている。いったいこれは何のために使うのだろう?オーディオ機器売り場でも同じことだ。値段の安いものから高いものまで、チューナーやアンプくらいならわかるが、意味不明な機材がたくさん並んでいる。おそらくこのビルで売っている品物の半分くらいは僕が知らないものだ。理解できないものがたくさんあるのは、こんなにワクワクするものなのだ。


「電子頭脳」との出会い

フロアの奥のほうに人が集まっているのが見えた。いったい何だろう?吸い寄せられるように僕は歩いていく。見物人たちの視線の先にあったのは緑色のプリント基板にICがたくさん取り付けられた「何か」だった。横にはこんな張り紙がある。

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「無限の可能性を秘めた身近なマイクロコンピュータ?」

にわかには信じられなかった。

「コンピュータって、あのコンピュータのこと??」

数週間前、中野ブロードウェイの明屋書店で立ち読みした学習図鑑にコンピュータの写真があったのを思い出した。それはこういう感じの大型コンピュータで、まさに「電子頭脳」と呼ぶにふさわしい巨大な装置だった。



この巨大な電子頭脳がいったい何をするものか僕にはさっぱり理解できていなかった。それが「計算機」であることは図鑑の説明に書かれていたけれども、それほどすごい計算が必要なことってあるのだろうか?関数電卓までしか知らない僕には全く想像がつかなかった。それでもひとつだけわかっていたのは、それは膨大な知識を記憶していて、それらの知識を使った難しい問題を自動的に計算し、答を出してくれる神様のような存在であるということだ。人間が何百年かけてもできない計算を数分のうちに解いてしまう万能装置である。

僕を含めて一般の人が持っていたコンピュータのイメージは当時そのようなものだったのだ。それが今ここで売られている。しかもたった8万8千円で。。。

僕の目は30分ほどその「電子頭脳」を離れることはできなかった。できることならずっとそこにいたかった。基板丸出しの状態なのに、このコンピュータは格好良すぎる。正方形に25個のキーが配置され、その上に8桁の赤い発光ダイオードで数字が表示できるようになっている。コンピュータには「NEC TK-80」という「名前」がつけられていた。

「たった8万8千円」とはいえ僕の小遣いで買える金額ではない。こういうのを買える大人たちがうらやましかった。買えるはずもないのに売り切れにならないか心配になった。そしてその日は後ろ髪を引かれながらもパンフレットだけもらって帰ることにしたのだ。

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「自分で組立て、使いこなすコンピュータ。週刊誌大のボディに秘められた性能は無限です。」

胸が熱くなった。電子工作はかじったことがあるので説明書どおりにやれば僕にも作ることができる。半田ごてはすでに持っているのであとはこれを買うだけだ。自分だけのコンピュータを持つなんて昨日までは夢にも思わなかったことなのだ。けれども数ヶ月前に天体望遠鏡を買ってもらったばかりなので、とても親にねだれるタイミングではなかった。

その年の6月と9月にはNASAのバイキング1号バイキング2号が火星に相次いで着陸し、赤茶けた火星表面の鮮明なカラー画像を地球に送り、世界中が火星ブームに沸き立っていた。買ってもらたばかりの天体望遠鏡で見る小さな火星とコンピュータを買ってもらえない無力でちっぽけな自分が重なって見えた。

それから数ヶ月、僕は何度もそのパンフレットを見たり秋葉原にマイコンキットを見に行ったりしていた。その頃には同じようなマイコンキットやその完成品が次々と各社から発売されていて、その年が終わる頃にはどれを買ってよいのか僕はわからなくなっていた。


翌年「マイ・コンピュータ入門」が刊行された

年が明けて昭和52年になり4月、僕は中学3年生になった。クラス替えはなかったが担任は体育担当から理科担当の先生に変わっていた。高校受験やクラスの友達との関係(恋愛問題も含む)を抱えた多感な年頃である。

その当時、最寄りの京王線笹塚駅は改札も含めて地上にあったのだが、3年後の都営新宿線開通を目指して高架化の工事が始まっていた。(参考記事:「むかしの笹塚」、参考ページ:「1980年3月笹塚、都営新宿線開業」)

京王線は甲州街道と平行して走っているのだが、駅から甲州街道を渡ったところから始まる笹塚十号通り商店街には山田書店という小さな本屋さんがあった。(2013年現在、その場所は「お菓子のまちおか」になっている。)

中学3年の夏休みのある日、僕は山田書店にとある本が売られているのに気がついた。

マイ・コンピュータ入門―コンピュータはあなたにもつくれる:安田寿明


「マイ・コンピュータ」という略称は聞いたことがない。マイクロを「マイ」と略すのは不自然だから、普通に解釈すれば「私のコンピュータ」だ。店番をしていた山田書店のおばあちゃんに僕は本の代金を払った。いつもニコニコして愛嬌たっぷりのおばあちゃんだった。

僕はこの本をむさぼるように読んだ。冒頭には秋葉原や大阪の電気街で個人用のコンピュータが発売開始されたときのことを「みなさんはご存知だったでしょうか?」と驚きをもって紹介している。

何より僕が驚いたのはこの本を書いた先生がマイコンキットが登場するはるか以前から「マイ・コンピュータ(=自分のコンピュータ)」を自作していたという事実だった。部品を自分で選び、ひとつづつ丹念にプリント基板に半田付けしていく。そうやって先生はコンピュータを6台も完成させてしまった。。。。

次の写真が先生のお作りになった第1号機である。7セグメントLEDを使った16進で表示をするのではなく、豆電球のようなLEDによる2進数で表示される。もちろんデータやプログラムの入力もスイッチを使った2進数方式で行う。Intel 8008 CPUが使われている。

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この本にはコンピュータの原理が回路図とともに詳しく解説されていた。CPUという中央演算処理を行うシリコンチップと情報やプログラムの記憶をするメモリーからコンピュータが構成されていること。世界で最初のCPUは1971年に開発され、量産することでそれが個人でも買える時代になっていること。コンピュータは2進法や16進法で命令やデータを処理することなどだ。

世界初のCPUとして開発されたIntel 4004やその翌年に発表されたIntel 8008には嶋正利という日本人技術者が大きな役割を果たしており、その開発の経緯は「マイクロコンピュータの誕生―わが青春の4004:嶋正利」として出版されている。

Intel 4004



マイコンキットとは

マイ・コンピュータ入門―コンピュータはあなたにもつくれる:安田寿明」には前の年に僕が秋葉原で目撃したNEC TK-80や他社のマイコンキットについても解説されていたので、結局それがどういうものであるのかが中学生の僕にも理解することができた。そしてわかったのは次のようなことだったのである。

まずこのセットは「トレーニングキット」であるというのがミソだ。コンピュータの原理の学習をするために、自分で半田付けをして組み立てる未完成品だということ。そしてこれは電子頭脳の「頭」の部分であって、手足に相当する周辺機器は自分で用意する必要があることだ。電源さえ自分で用意してボードにつなげなければならない。

周辺機器なしで使えるのは、もともとついている電卓のようなキーボードと8桁の7セグメントの数字表示ユニットだけである。プログラムを組むためには紙にアセンブリ言語というCPU固有の言語を使って手書きし、表を見ながらひとつづつそれらを16進数の「数字」に置き換えてキーボードからひたすら打ち込まなければならない。しかも電源を切ると入力したプログラムやデータは消えてしまうのだ。

このキットはCPUとメモリーは備えてあるものの、今日で言うところのOSや素人でも簡単に使えるBASICなどのようなプログラミング言語、ハードディスクなどの記憶装置は備えられていない。もちろんディスプレイもない。「裸の本体」だけなのである。

メモリーといっても現在とは比べ物にならないくらい小さい。記憶できるのはたった512バイト(キロバイトではない)だけなのだ。それにCPUの処理速度も遅い。現代のCPUとは命令の構成が違うので単純比較はできないが、クロック数だけとってみてもTK-80のCPU(Intel 8080Aとほぼ互換のμPD8080A)のクロック数は2.048MHzであるから、現代のIntel Core i7の4コアCPU(3.5GHz x 4)と比べると7000分の1、8ビットCPUと64ビットCPUのデータ処理量を考慮すれば56000分の1の処理能力しかなかったのである。(ちなみに1979年に日本で最初に発売されたパソコンNEC PC-8001に搭載されたZ80互換のCPUのクロック数はTK-80のほぼ2倍の4MHzほどだった。)

安田先生の手作りコンピュータも、NEC TK-80も結局同じことになるが、プログラムやデータの記憶や呼び出しをしたければカセットテープレコーダやオープンリール式のオーディオ用テープレコーダを使わなければならなかった。そしてコンピュータとそれらの機器を接続するために「インタフェース」と呼ばれる電子回路を自作しなければならなかった。英字タイプライターのようなキーボードや画面表示のためのテレビをつなげたいときもインタフェースのための回路を自作する必要があったのだ。

だからこれを買ったほとんどの人が落胆した。「電卓に毛が生えた程度もの」にもすることができず、「ただ眺めているだけ。」とか「友達に見せて自慢する。」という状況だった。この本を読んでいちばんためになったのはそういう状況がわかったことだったのかもしれない。

それにもかかわらずこの本は多くのマニアの心をつかみ、TK-80の売り上げに拍車をかけた。使いこなせる人にとっては無限の可能性があり、そうではないほとんどの人は大金をはたいて「夢」を買ったのだ。次の写真は「使いこなせた人」が機能拡張した例である。



翌年の11月にはTK-80キットの機能拡張ボードTK-80BSを発売し、BASICが使用でき、出力用のCRTディスプレイとして家庭用のテレビ受像機が使用できるようになった。こうして、TK-80は発売後2年間で約6万6,000台にのぼる売上を記録した。

TK-80BS





この本の中で安田先生は自作コンピュータとエレクトーンをつなげて自動演奏させ、その方法を詳しく解説されている。またどこかの大学の学園祭で展示していたTK-80の出力をテレビに映して遊ぶ「じゃんけんゲーム」やTiny BASICで組んだスタートレック・ゲームなどの例を紹介している。

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安田先生は未来社会のことを楽しそうに予言している。「今後、冷蔵庫やテレビ、洗濯機、炊飯器をはじめ、自動車や飛行機など身の回りのあらゆる物にマイコンが組み込まれることになるでしょう。」そしてまた先生は「将来はコンピュータを使って音楽や写真、映画なども楽しめるようになるでしょう。」とお書きになっている。36年も前に先生は自作コンピュータを作りながら、今私たちが経験している世界を想像されていたのだ。


2冊目と3冊目の内容

その後、1冊目と同じ年の秋に安田先生は2冊目の「マイ・コンピュータ入門―コンピュータはあなたにもつくれる:安田寿明」を出版し「それでは実際にコンピュータはどのようにして作るのか。」を半田付けの仕方から詳しく解説され、翌年の春に3冊目「マイ・コンピュータをつくる―組み立てのテクニック:安田寿明」を出版して「コンピュータと周辺機器はどのようなインタフェース回路を作ってつなげればよいのか。」ということを解説した。これで「安田3部作」が完結する。

マイ・コンピュータ入門―コンピュータはあなたにもつくれる:安田寿明」の裏書き:

もはや、コンピュータがガラス張りの部屋に置かれ、ひとにぎりのエリート・ビジネスマンやエンジニアだけがそれを操作する時代は終わった。
神様扱いされたコンピュータは死に、だれもが気軽に使え、持つことができる新しいコンピュータ時代がやってきたのである。そして、その新型コンピュータ―マイ・コンピュータは、中学生でも、その気になれば、自作できるようになったのである。
さて、コンピュータを手づくりする人たちまで出現したいま、これからの私たちの前にどのようなコンピュータ文化が展開されていくのだろうか?

マイ・コンピュータをつくる―組み立てのテクニック:安田寿明」の裏書き:

“人工頭脳”とあがめられていたコンピュータが、「マイコン」という、だれもが気軽に使え、持つことができる、じつに楽しい機械となって出現した。
「マイ・コンピュータ入門」の続篇としての本書は、マイ・コンピュータのつくり方の初歩テキストである。どうせ手づくりするなら、本格的なコンピュータが良い。そこで、昭和52年春に開発されたばかりの、最も優秀な性能を有するLSI(大規模集積回路)を利用して、最終的には、大型電子計算機メーカー顔負けの本格的コンピュータを手づくりする方法について、くわしく解説しよう。

マイコンピュータをつかう―周辺機器と活用の実際:安田寿明」の裏書き:

マイクロ・コンピュータは本体だけでは飾りものでしかない。自分自身の生活設計や仕事に活用しようと思えば、付属機器やソフトウェアの知識が、必要となってくる。これらの理解のため、本書では、マイクロ・コンピュータではじめて「ファイル」という概念で解説を進めた。
グレード・アップには欠くことのできない大容量のメモリの増設や、基本的入出力機器の活用法はもとより、データ通信、テレビジョン受像機によるディスプレイに至るまでを丁寧に処方している。最後に、付録として初歩的な台数知識で複雑な計算が望むままにできる電大版タイニイBASICを掲載したことも本書の特色である。


2冊目、3冊目と進むにつれてどんどん難しくなっている。中学生のときに3冊とも買ったのだが、2冊目の途中でギブアップしてしまった。

安田先生は昭和10年生まれだから現在78歳になっておられるはずだ。僕の父と同じ年齢なので戦時中は小学生で学童疎開を経験した世代である。お元気にされているのだろうか?先生がお作りになった自作コンピュータたちは今もどこかにあるのだろうか?その後のコンピュータやソフトウェアの発展をどのように先生はお感じになっているのだろうか?そのようなことが気になっている。


その後の展開

現代の生活ではコンピュータはたいていの人が持っていて、日々の生活に欠かせないものになっている。そしてパソコンやスマートフォンはもはや文房具や通信手段として、コンピュータのしくみを理解していなくても使えるまでに進化している。(もちろん使いこなせない人もいるわけではあるが。)けれどもパソコンやスマートフォンはきわめて高度に進化しているため、もはや素人がその動作原理を想像する余地は無い。今の時代にパソコンやスマートフォンのしくみ自体に興味を持ち、ワクワクするような人はほとんどいないことだろう。

しかし、この「安田3部作」が世に出た頃は違っていた。理数工学系という垣根を超えて、かなり多くの人々の知的好奇心を掻き立てていたのである。その後1979年に、買ったその日にすぐ使えるNEC PC-8001パソコンが発売され、それらはほとんどゲームをするために使われるようになった。BASIC言語やアセンブリ言語でプログラミングを学んでいたのは少数派である。MS-DOSがリリースされたのはさらに2年後の1981年のこと、任天堂の初代ファミコンが発売されたのは1983年のことである。


ブルーバックス創刊50周年に寄せて

今回ブルーバックス創刊50周年に合わせて「安田3部作」を中古で購入した。その後、コンピュータのハードウェアやソフトウェアの勉強をしてきたので今なら読むことができる。

この3部作によってマイコンというものが広く、そして正確な形で日本社会に知られるようになり、その後のパソコン・ブームに引き継がれていった。

安田先生のこの功績を若い人にも知っておいてもらいたいと思い、今回紹介させていただいた。本も1冊ずつ読んでレビュー記事を書いてみようと思う。「また寄り道するのか?」とか「場の量子論の勉強はどうするんだ?」とかいう声が聞こえてきそうだが、とりあえず物理の勉強は後回しだ。

また、NEC TK-80やその他のワンボードマイコンについての解説記事も書いてみたい。これは長くなりそうなので別記事にということにしよう。


個人用コンピュータ黎明期の活気と未来への期待感を教えてくれる名著なのだが36年が経っているので3冊とも絶版状態だ。「安田3部作」を中古本を購入される方はこちらからどうぞ。

マイ・コンピュータ入門―コンピュータはあなたにもつくれる:安田寿明」(リンク2
マイ・コンピュータをつくる―組み立てのテクニック:安田寿明」(リンク2
マイコンピュータをつかう―周辺機器と活用の実際:安田寿明

  


最後になるが1970年代の後半、ブルーバックスでは次のような本に人気があったそうだ。(画像はクリックで拡大する。)

数学・物理学系:



生物医学・地球物理学系:




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NEC TK-80やワンボードマイコンのこと

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NEC TK-80 (1976)

安田寿明先生の「マイ・コンピュータ」3部作(ブルーバックス)」で1976年に発売されたNEC TK-80という8ビット・マイコンのトレーニングキットを紹介したが、今日は当時のようなマイコンを手軽に楽しんでみたいという方のための記事。

NEC TK-80(ウィキペディアの記事)
http://ja.wikipedia.org/wiki/TK-80

この製品の登場はまさに衝撃だった。というのもそれまでコンピュータと言えば大型のものばかりで、9万円近くするとはいえ個人で買えて使える小型のものがいきなり発売されたからだ。電卓のようにだんだんと小型化していったわけではない。

そしてこのマイコンキットは今では骨董品扱いで、つい先日もヤフオクで8万1千円の値がついた。6月には動作しないジャンク品が出品されたがそのような品でも3万1千円でオークションが終了している。

また拡張キットを追加したTK-80BSにいたっては6月のオークションでなんと35万3千円で落札されている。これはキーボード付き、テレビ出力のためのインタフェース付きで、BASIC言語が使えたりアセンブラのコンパイルができる仕様だ。

TK-80, TK-80BS ケース入り
http://keikato.cocolog-nifty.com/blog/2013/07/auto-22.html



ヤフオクでNEC TK-80を探してみる。→検索!

実機を試してみたくてもこんなに値が張るようではとてもとても。。。でも、もしできるなら遊んでみたいという方にはこちらがお勧め。なんとHTML5でTK-80エミュレータを作ってしまった方がいるのだ。

TK-80のHTML5によるエミュレーター
http://kandk.cafe.coocan.jp/jeans/index.php?itemid=868

ここをクリックするとPCからTK-80が起動する。

ホームページ上で動いているのでスマートフォンからでも実行できる。以下はAndroidとiPhoneのスマートフォンで実行した画面。

 

使い方は公開されている次のマニュアルをお読みになるとよいだろう。

NECのマイクロコンピュータ・トレーニングキット
懐かしの「TK−80」
http://www.oct.zaq.ne.jp/i-garage/hiroimono/tk80.htm


シミュレータではなく実機で体感したいという方にお勧めなのは大人の科学から出ているマイコン。ただしこれは4ビットマイコンなので、できることは本当に限られている。小学生のお子さんと夏休みの自由研究用としてお買い求めになるとよいだろう。2,500円で買えるしコンピュータの原理も詳しく学ぶことができる。

大人の科学マガジン Vol.24 GMC-4 (4ビットマイコン)


詳細はこちら。
http://otonanokagaku.net/magazine/vol24/


実のところ僕が気になっているのは次の製品。中日電工さんのZ80マイコンボードである。価格は2万円ほど。電子工作経験者用だが完成品も購入することができる。写真をクリックすると製品紹介ページが開くようにしておいた。

TK80ソフトコンパチブル!
Z80マイコン組立キットND80ZⅢ


Z80(8ビットCPU、1976年発表)


なんとこの会社からはTTL(トランジスタ-トランジスタ論理)のワンボードでTK-80で採用されたIntel 8080相当のCPUを作るキットまで発売されているのだ。

MYCPU80組立キット



参考:Z80のエミュレータ、アセンブラ

Z80のエミュレータ(その1、Silverlight3版)
http://ariyukitano.sakura.ne.jp/blog/2009/10/silverlight3z80.html

Z80のエミュレータ(その2、使い方
http://www.cug.net/~manuke/z80emu.html

Z80のシミュレータ(その4)
http://www.game3rd.com/soft/z80edit/

Z80のエミュレータ(その5)
http://www.mathematik.uni-ulm.de/users/ag/yaze/

Z80のエミュレータ(その6)
http://www.z80.info/z80emu.htm


Z80のアセンブラ
http://www.geocities.com/dinceraydin/z80/dev.htm
http://www.z80.info/z80sdt.htm


今日紹介したのは古いタイプのマイコンばかりだ。最近はPICやH8、ARM、Arduinoなどが主流だし、市販本もたくさんでているのだから、あえて古いものをお勧めしているわけではない。

とはいってもマイコン黎明期のノスタルジーを楽しみながらコンピュータの原理を学ぶのだったらやはりZ80あたりのキットを組み立てて、BASICが使えるまで拡張してみたりするのがよいのだろう。


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マイ・コンピュータ入門―コンピュータはあなたにもつくれる:安田寿明

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マイ・コンピュータ入門―コンピュータはあなたにもつくれる:安田寿明

内容:
もはや、コンピュータがガラス張りの部屋に置かれ、ひとにぎりのエリート・ビジネスマンやエンジニアだけがそれを操作する時代は終わった。
神様扱いされたコンピュータは死に、だれもが気軽に使え、持つことができる新しいコンピュータ時代がやってきたのである。そして、その新型コンピュータ―マイ・コンピュータは、中学生でも、その気になれば、自作できるようになったのである。
さて、コンピュータを手づくりする人たちまで出現したいま、これからの私たちの前にどのようなコンピュータ文化が展開されていくのだろうか?

著者略歴(1977年、本書出版当時の情報)
安田寿明(やすだ・としあき):昭和10年、兵庫県に生まれる。昭和34年、電気通信大学経営工学科卒業後、読売新聞社に勤務。編集局社会部員、米国特派員、社長直属総合計画室員などを経て、昭和45年退社。現在東京電機大学工学部電気通信工学科助教授。『知識産業』(ダイヤモンド社)などのほか、情報産業、漢字情報処理システム、有線テレビジョンに関する著書、論文が多数ある。


理数系書籍のレビュー記事は本書で225冊目。(マイコンは電子工学系だけど広い意味で理系としておく。)

1976年にマイコンキットが登場する4年も前から、自分用のコンピュータを6台も作り上げた著者によるマイコン入門の書。この本によって多くの人がマイコンによって何ができるのかを正しく理解するようになった。未来への夢が生き生きと語られている安田寿明先生が42歳のときにお書きになった「マイ・コンピュータ3部作」の1冊目のレビュー記事。

章立てと大まかな内容は次のとおり。(詳細な目次は記事のいちばん下に書いておいた。)

第1章:“神”ではなくなったコンピュータ

1977年の春、秋葉原に突如コンピュータ・ショップが出現したことが驚きをもって紹介される。これまでコンピュータは会社や大学でしか使われていず、一般の人にとっては“神”のように神秘的で万能な力を持った存在だった。ところがマイコンキットがお小遣い程度の値段で売られるようになり、個人がコンピュータを持つことができる時代が始まったのだ。

第2章:マイ・コンピュータが生まれるまで

マイコンの心臓部はCPUだ。世界最初のCPUが開発されるまでのアメリカ、日本の電子産業の様子が紹介される。日本の零細企業ビジコン社、アメリカでもその当時は零細企業だったインテル社がどのように結びつき、CPUが現実のものになっていったかが生々しく語られる。日本に初出荷されたIntel 8008の試作品は20個あったが、1972年4月に著者はそのうちの1個を8万5千円で購入。半年後その価格は4万5千円になり、5年後には2千円にまで価格が下がった。マイコンをめぐってメーカーの間で激しい競争が行われることになったが、これまでとは全く違う新しいタイプのコンピュータ出現によって大メーカーから中小企業まで「全産業総アマチュア化」の時代をむかえることになった。

横浜まで出向いて購入したIntel 8008をもとに周辺回路を自ら設計し、著者はマイ・コンピュータ第1号を完成させる。それ以前に購入して修理したミニコンも含めて1976年にNEC TK-80が発売されるまでに著者は6台のコンピュータを自作することになる。

第1号機の写真(出力は8個のLED電球で表示されていた。写真はクリックで拡大する。)
クリックで拡大


第3章:マイ・コンピュータのつくりかた

アメリカではもともとマイコンキット発売以前から、個人でコンピュータを所有している人が何人もいた。それは企業にレンタルされていたミニコンやオフコンが減価償却期間を過ぎ、そのようなコンピュータをキロやトンなど重さ単位で売買する中古市場があったからだ。コンピュータを買ったアマチュアたちはお互いに技術情報を交換し、いくつかのアマチュア・コンピュータ・クラブが生まれた。それと同じ状況が日本でも少し遅れておこり、著者はミニコンを1台購入することになる。マイコンが誕生する前、日本やアメリカにはそのような状況があったのだ。アマチュアによるモノづくりという点では日本人よりアメリカ人のほうが進んでいた。もともとコンピュータだけでなくあらゆる物について「DIY(=Do It Yourself)」のキットを好む国民性があったからだ。日本ではNEC TK-80が発売されるやいなや、各社が競ってマイコンキットを発売することになった。

第4章:電子音楽への応用

マイ・コンピュータ本体だけではほとんど何も役に立たない。著者は娘さんのために買った中古のエレクトーンを自動演奏させることに挑戦する。鍵盤のひとつひとつにリレーを取り付けマイコンからの司令で鍵盤を操作するのだ。その後、このシステムはさまざまな楽器の音を生成して奏でるシンセサイザーに進化する。シンセサイザーによる音楽は冨田勲が当時から知られていたが、シンセサイザーとコンピュータをつなげることでコンピュータ音楽の世界は新たなフェーズへと発展することが生き生きと語られる。

第5章:マイ・コンピュータの拡張システム

マイ・コンピュータと周辺機器を接続するためには「インタフェース回路」が必要なこと、利用可能な周辺機器などについて解説する。文字出力にはテレタイプライターがあったが、当時は75万円もした。より安価な出力装置としてテレビ受像機が利用できることが紹介される。また著者は自前の6台のコンピュータどうしを接続し、家庭内にコンピュータ・センターを構築する。
データ通信については当時から電電公社(現在のNTT)によるTSS(タイム・シェアリング・サービス)があったが、料金が高すぎて著者の安月給ではとても使えない。幸い通常のアマチュア無線免許のほかに著者は宇宙通信(衛星を使った通信)の免許も持っていたので、この回線を使って自らTSSシステムを構築して海外の利用者に対して計算サービスを提供することを思いつく。そしてそれを実行に移していこうとするわけだが。。。

第6章:テクノ・クラフト・アートの時代

マイ・コンピュータ技術によって社会や仕事がどのように変わっていくかが解説される。専門分業化が進み、徹底した工業化社会が生まれることになるのだ。その中でひとりの個人に必要とされる知識は限定されることになる。自分に必要な勉強をするだけでよいのか?それとも自分の生きがいのために幅広く勉強すべきなのか?そのようなことを著者は問いかける。
日本でも自作ブームが始まり、半田ごてを手にする人が増えてきた。またビデオ・ゲームの完成品も売られるようになり、カラー化されたビデオ・ゲームがでてくるのも時間の問題だと著者は予言する。マイ・コンピュータが身の回りのあらゆる物に組み込まれる時代はすぐそこにあり、今が「テレネトニクスのあけぼの」であり、新たな変化の時代をむかえているのだ。


僕が本書を読んだのは中学3年のときだが、興奮して夜も眠れなかったことを覚えている。マイ・コンピュータに奮闘する安田先生の姿や周辺機器がつぎつぎにつなげられてコンピュータが成長していくことに「無限の可能性」を空想しながら読んでいた。当時は耳慣れない専門用語や回路図もていねいに解説されているので中学生でもじゅうぶん理解できる本だ。

36年経った今、あらためて読みなおしてみると、当時の安田先生の安月給サラリーマンとしてのお姿、月曜から土曜は本業のお仕事に時間をとられ、土曜の深夜から日曜にかけて趣味のコンピュータ作りに没頭するお姿、マイ・コンピュータを安く仕上げるためにどのような戦略をとられていたか、奥様や娘さんにどのような思いを持たれていたか、奥様や娘さんからどのように思われていたかなど昔とはまた違う部分を楽しむことができた。

さらにマイコン登場以前のコンピュータの中古市場、DIYキットに対する日米のアマチュア文化の違いについての説明は特に興味深かった。当時のミニコンやオフコンの機能や性能のことを今では「IPSJコンピュータ博物館」などのページを通じて知ることができるだけに、それをアマチュアが「いじっていた」ことにとても驚かされたからだ。


本書が日本のアマチュアの人たちに与えた影響はとても大きい。この本に出会ってコンピュータ開発者、技術者への道を選択した人はきっと多かったことだろう。

マイ・コンピュータ入門―コンピュータはあなたにもつくれる:安田寿明」(リンク2
マイ・コンピュータをつくる―組み立てのテクニック:安田寿明」(リンク2
マイコンピュータをつかう―周辺機器と活用の実際:安田寿明

  


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安田寿明先生の「マイ・コンピュータ」3部作(ブルーバックス)
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NEC TK-80やワンボードマイコンのこと
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マイ・コンピュータ入門―コンピュータはあなたにもつくれる:安田寿明


第1章:“神”ではなくなったコンピュータ
- コンピュータ・バーゲン・ショップの出現
- ICBMにもまさる強力兵器!
- デルファイ神殿かコンピュータか
- “神”は死んだ!マイコンが生まれた!

第2章:マイ・コンピュータが生まれるまで
- トラは死して皮を残す
- “白紙”の本を作ろう
- 全産業、アマチュア化の時代へ
- 財布、はたいてマイ・コンピュータ
- がんばれ!四畳半メーカー
- マイ・コンピュータの内部
- マイ・コンピュータの本体システム
- LSIの内部
- トランジスタから集積回路(IC)へ
- TTLからMOS・LSIへ
- LSIから超LSIへ

第3章:マイ・コンピュータのつくりかた
- 「つくる」ということ
- アマチュア・コンピュータ・クラブの誕生
- 家族ぐるみのコンピュータ・ショウ
- 日本にも中古コンピュータ市場が
- 赤坂、六本木よりもコンピュータを
- DIYキットの出現
- マイコン・キットの社会経済ダイナミックス
- 無念や残念!動かないコンピュータ
- 日本電気、東芝もキット戦線へ
- 男性諸君、台所へ突進せよ!
- 製作開始にさきだって
- ハダカでもあぶない?MOS・LSI

第4章:電子音楽への応用
- 電子オルガンを自動演奏する
- 中古エレクトーンの改造の記
- 実践的電子楽器マスター法
- リリー・マルレーンとエレクトーン
- 音階鍵盤に番地を割り当てる
- ドは「C」、レは「D」、「G」はソ
- ミュージック・シンセサイザーへのエスカレート
- ビートルズもまっさお!グループ・サウンズ「コンピューターズ」
- コンピュータ自身を電子オルガンに
- まさに千手観音、コンピュータ楽器
- ひとり楽しむ「DEN状況」

第5章:マイ・コンピュータの拡張システム
- 整合の技術--インタフェース
- インタフェースの実際
- テレタイプライター接続の基本
- テレビ受像機を活用しよう
- 高くつくデータ通信
- マイ・ホーム・コンピュータ・センター
- 壮大なオンライン・システム
- ステレオ・システムも総動員
- ああ堂々の宇宙通信地球局
- 通信衛星も手づくりで
- コンピュータは単なる人間の代行機械

第6章:テクノ・クラフト・アートの時代
- 専門分業化徹底の工業化社会
- 仕事のための勉強?生きがいのための勉強?
- DIYの静かなるブーム
- “聖域”をおかすべからず
- 機械をおそれることなかれ!
- ハンダゴテよ、こんにちは
- 広がる手づくりブーム
- ビデオ・ゲームの出現
- カラー・グラフィック・ディスプレイも
- 電子ミシンとマイ・コンピュータ
- 天才エンジニアへの墓碑銘
- 中小企業のしかばねを乗りこえて
- テレネトニクスのあけぼの

あとがきにかえて
- シンクタンクYRI見習い技手の物語
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