「科学文明の起源: 近代世界を生んだグローバルな科学の歴史: ジェイムズ・ポスケット」(Kindle版)
内容紹介:
ヨーロッパ中心の科学史を覆す!
科学革命は大陸を越えた文化交流と、古今東西の知られざる科学者のたゆまぬ努力によってもたらされた。
現代世界の見方を変える、かつてない視点で描く近代科学の発達史。
コペルニクスやガリレイ、ニュートン、ダーウィン、アインシュタインといった科学者の名前は、誰もが知っている。
そして、近代科学は16世紀から18世紀までにヨーロッパで誕生し、19世紀の進化論や20世紀の宇宙物理学も、ヨーロッパだけで築かれたとされている。
しかし、科学技術史が専門のウォーリック大学准教授、ジェイムズ・ポスケットによれば、このストーリーは「でっち上げ」であり、近代科学の発展にはアメリカやアジア、アフリカなど、世界中の人々が著しい貢献を果たしたという。
科学の未来は、グローバリゼーションとナショナリズムという2つの力の中間の道を見つけられるかどうかに懸かっている。
政治やイデオロギーによって書き換えられてしまった科学の歴史を明らかにし、科学発展のグローバルな過去をつまびらかにすることで、科学の未来について考えさせる書。
「国際的なつながりが、時代を超えて科学の進歩を刺激してきたことを説明する」
――アリス・ロバーツ(『人類20万年 遙かなる旅路』著者)
「近代科学がヨーロッパだけで発達したものではないことを、説得力をもって示してみせる」
――ジム・アル=カリーリ(『量子力学で生命の謎を解く』共著者)
「標準的な科学史ではその偉業が語られることのない科学者たちの物語を楽しく読める」
――イアン・スチュアート(『もっとも美しい対称性』著者)
2023年12月6日刊行、667ページ
著者について:
ジェイムズ・ポスケット
HP: https://www.poskett.com/index.html
ウォーリック大学准教授。科学技術史が専門。ケンブリッジ大学で博士号を取得し、ダーウィン・カレッジのエイドリアン・リサーチ・フェローシップを取得した。『ガーディアン』『ネイチャー』『BBCヒストリーマガジン』などに寄稿し、インドの天文台からオーストラリアの自然史博物館まで、世界各地を調査のために訪れている。2013年にはBBC新世代思想家賞の最終選考に残り、2012年には英国科学作家協会による最優秀新人賞を受賞している。学術書『Materials of the Mind』の著者であり、本書は一般読者向けの初めての作品である。
翻訳者について:
水谷 淳(ミズタニ ジュン)
翻訳者。主な訳書にレナード・ムロディナウ『「感情」は最強の武器である』(東洋経済新報社、2023年)、イアン・スチュアート『世界を支えるすごい数学』(河出書房新社、2022年)、グレゴリー・J・グバー『「ネコひねり問題」を超一流の科学者たちが全力で考えてみた』(ダイヤモンド社、2022年)、ジム・アル=カリーリ/ジョンジョー・マクファデン『量子力学で生命の謎を解く』(SBクリエイティブ、2015年)などがあり、著書に『科学用語図鑑』(河出書房新社、2019年、増補改訂版2022年)がある。
著書、訳書を検索: 書籍版 Kindle版
理数系書籍のレビュー記事は本書で487冊目。
昨年末に地元の書店で出会った分厚い本。科学史は僕の大好物である。それまで読んでいた数学書を放り出して飛びついてしまった。これまで400冊を超える理系書籍を読んでいるので、ひととおりの科学史は心得ているはずである。それは大雑把に言えば、古代ギリシャから始まり、欧米、そしてイスラム世界を中心として発展してきたメインストリートである。中国では古代から暦の制定に必要な天文学が発達し、それは日本にもたらされたが「科学」というイメージからは外れていた。
人間は身の回りのあらゆる事物を、どのような順番でどのように解明し、理解してきたのだろうか。本書があつかう科学とは、宇宙の天体の動きの法則を知り暦を作成するために、そして海洋を安全に航海するために発展した天文学、地球上のあらゆる動植物の種類を部類する博物学、進化論から遺伝の研究への進んだ生物学、電気、磁気の研究から生み出された電磁気学など、数学を除く自然科学のあらゆる領域が含まれる。
これまで学んだ科学史では、特に物理学史は研究者個人の「真理の探究」、「学問的興味」がその動機だという思いを強く抱いていた。そして現代科学は、特に原子核物理学が代表例なのだが、原爆や原子力発電所など人類の行く末を大きく左右するまで影響力をもっている。科学者にもその影響力についての責任があるという考え方が生まれてきた。
本書ではヨーロッパを中心とした既存の科学史だけでなく、古代から現代まで、これまで取り上げてこられなかった地域で科学がどのように生まれ、発展したかがこと細かに解説される。まったく知らなかった人物にフォーカスし 、彼らがどのように科学の発展に貢献してきたかを知ることができるのだ。
とにかく大著であるため、それをひとつずつここに紹介することはできない。記事の最後に載せた詳細目次でおよその内容をくみ取っていただきたい。
本書全体を通して共通しているのは、科学が発展するための動機が、国家の戦略、経済的利益だったということである。これまでは科学的成果が戦争や植民地支配、民族政策、人種差別などに利用されたというとらえかたをしてきたが、本書を読んでわかるのは、それらが結果として利用されたのではなく、そもそもの原因だったということである。それは、つまり真理の探究や学問的興味が科学を進める第一義の原因だと信じたい僕にとっては、少々寂しく、現実の厳しさを思い知ることになった。
その例が、たとえば古代の天文学である。天動説はそれが誤っていたとしても、暦の作成や日食の予言には欠かせない。国を治めるため、為政者の権威を国民に周知し従わせるため、農業を暦にしたがって行うために「必要なこと」だった。
また、戦争をする動機は領土拡大、経済発展である。そのためにその国の統治者は未知の大陸を目指すことを命じたのだ。より安全に航海するためには天文学が「必要であり」。占領した新大陸、地域を治め植民地として利用するためには、そこに生息する動物、植物についての詳しい知識が「必要である」。博物学を研究を進めることになった。また植物の研究は薬草の研究を含んでおり、医学の進歩にも欠かせない。植物学者の牧野富太郎博士のように純粋な興味から研究する人はごく少数派だった。
進化論や遺伝学はその国の民族政策、人種政策に利用された。この意味でまっさきに思い浮かぶのはナチスドイツによるユダヤ人大虐殺、中国における民族浄化である。この分野はナショナリズムと国際主義から切り離してとらえることができない。
1960年代から現在に至るまで、人類は月や火星に探査機を送っている。各国による宇宙開発競争は激しくなっている。ロケット打ち上げや探査機に関するニュースでは、あたかも科学的関心、技術力のめざましい進歩など明るい面だけが強調しているが、宇宙開発の目的は国家の軍事的、経済的利益のためであることを忘れてはならない。
いくつかの理由で読書や趣味にあてる時間が激減してしまったこと、そして本書が大著なため、読み終えるまでにとても日数がかかってしまったが、久しぶりに出会った「目から鱗本」である。
ぜひ書店で手に取ってから、購入を決めていただきたい。
翻訳のもとにされた英語版原書はこちらである。
「Horizons: A Global History of Science: James Poskett」(Kindle版)
「科学文明の起源: 近代世界を生んだグローバルな科学の歴史: ジェイムズ・ポスケット」(Kindle版)
はしがきーー近代科学の起源
第1部 科学革命 1450年頃~1700年頃
第1章 新世界との出合い
1 新世界の博物学
2 アステカの医学
3 人類の発見
4 アメリカの地図を作る
5 まとめ
第2章 天文学の興隆
1 古代文書の翻訳
2 ルネサンス期ヨーロッパにおけるイスラム科学
3 オスマン帝国のルネサンス
4 アフリカの天文学者
5 北京の天文学
6 インドの天文台
7 まとめ
第2部 帝国と啓蒙 1650年頃~1800年頃
第3章 ニュートンの発見を導いたもの
1 ゴレ島での振り子の実験
2 インカの天文学
3 太平洋の航海者たち
4 ロシアにおけるニュートン科学
5 まとめ
第4章 経済のための博物学
1 奴隷制と植物学
2 東インドの自然史
3 中国の飲み物
4 江戸時代の日本における自然の研究
5 まとめ
第3部 資本主義と紛争 1790年頃~1914年
第5章 進化論と生存競争
1 アルゼンチンの化石ハンター
2 ロシア帝国の進化論
3 明治時代の日本と「生存競争」の概念
4 清朝中国における自然選択説
5 まとめ
第6章 ナショナリズムと国際主義
1 戦争とロシア帝国の科学
2 オスマン帝国の工学
3 植民地インドにおける科学と産業の発展
4 明治の日本の地震と原子
5 まとめ
第4部 イデオロギーと戦争の余波 1914年~2000年頃
第7章 政治の時代の物理学
1 革命後のロシアの物理学
2 中国におけるアインシュタインの相対論
3 日本の量子力学
4 物理学と帝国との闘い
5 まとめ
第8章 冷戦と遺伝学
1 メキシコにおける「緑の革命」とヒト遺伝学
2 独立後のインドにおける遺伝学の発展
3 毛沢東のもとでの共産主義的な遺伝学
4 イスラエルと集団遺伝学
5 まとめ
エピローグ 科学の未来
謝辞
図版出典
口絵出典
用語一覧
内容紹介:
ヨーロッパ中心の科学史を覆す!
科学革命は大陸を越えた文化交流と、古今東西の知られざる科学者のたゆまぬ努力によってもたらされた。
現代世界の見方を変える、かつてない視点で描く近代科学の発達史。
コペルニクスやガリレイ、ニュートン、ダーウィン、アインシュタインといった科学者の名前は、誰もが知っている。
そして、近代科学は16世紀から18世紀までにヨーロッパで誕生し、19世紀の進化論や20世紀の宇宙物理学も、ヨーロッパだけで築かれたとされている。
しかし、科学技術史が専門のウォーリック大学准教授、ジェイムズ・ポスケットによれば、このストーリーは「でっち上げ」であり、近代科学の発展にはアメリカやアジア、アフリカなど、世界中の人々が著しい貢献を果たしたという。
科学の未来は、グローバリゼーションとナショナリズムという2つの力の中間の道を見つけられるかどうかに懸かっている。
政治やイデオロギーによって書き換えられてしまった科学の歴史を明らかにし、科学発展のグローバルな過去をつまびらかにすることで、科学の未来について考えさせる書。
「国際的なつながりが、時代を超えて科学の進歩を刺激してきたことを説明する」
――アリス・ロバーツ(『人類20万年 遙かなる旅路』著者)
「近代科学がヨーロッパだけで発達したものではないことを、説得力をもって示してみせる」
――ジム・アル=カリーリ(『量子力学で生命の謎を解く』共著者)
「標準的な科学史ではその偉業が語られることのない科学者たちの物語を楽しく読める」
――イアン・スチュアート(『もっとも美しい対称性』著者)
2023年12月6日刊行、667ページ
著者について:
ジェイムズ・ポスケット
HP: https://www.poskett.com/index.html
ウォーリック大学准教授。科学技術史が専門。ケンブリッジ大学で博士号を取得し、ダーウィン・カレッジのエイドリアン・リサーチ・フェローシップを取得した。『ガーディアン』『ネイチャー』『BBCヒストリーマガジン』などに寄稿し、インドの天文台からオーストラリアの自然史博物館まで、世界各地を調査のために訪れている。2013年にはBBC新世代思想家賞の最終選考に残り、2012年には英国科学作家協会による最優秀新人賞を受賞している。学術書『Materials of the Mind』の著者であり、本書は一般読者向けの初めての作品である。
翻訳者について:
水谷 淳(ミズタニ ジュン)
翻訳者。主な訳書にレナード・ムロディナウ『「感情」は最強の武器である』(東洋経済新報社、2023年)、イアン・スチュアート『世界を支えるすごい数学』(河出書房新社、2022年)、グレゴリー・J・グバー『「ネコひねり問題」を超一流の科学者たちが全力で考えてみた』(ダイヤモンド社、2022年)、ジム・アル=カリーリ/ジョンジョー・マクファデン『量子力学で生命の謎を解く』(SBクリエイティブ、2015年)などがあり、著書に『科学用語図鑑』(河出書房新社、2019年、増補改訂版2022年)がある。
著書、訳書を検索: 書籍版 Kindle版
理数系書籍のレビュー記事は本書で487冊目。
昨年末に地元の書店で出会った分厚い本。科学史は僕の大好物である。それまで読んでいた数学書を放り出して飛びついてしまった。これまで400冊を超える理系書籍を読んでいるので、ひととおりの科学史は心得ているはずである。それは大雑把に言えば、古代ギリシャから始まり、欧米、そしてイスラム世界を中心として発展してきたメインストリートである。中国では古代から暦の制定に必要な天文学が発達し、それは日本にもたらされたが「科学」というイメージからは外れていた。
人間は身の回りのあらゆる事物を、どのような順番でどのように解明し、理解してきたのだろうか。本書があつかう科学とは、宇宙の天体の動きの法則を知り暦を作成するために、そして海洋を安全に航海するために発展した天文学、地球上のあらゆる動植物の種類を部類する博物学、進化論から遺伝の研究への進んだ生物学、電気、磁気の研究から生み出された電磁気学など、数学を除く自然科学のあらゆる領域が含まれる。
これまで学んだ科学史では、特に物理学史は研究者個人の「真理の探究」、「学問的興味」がその動機だという思いを強く抱いていた。そして現代科学は、特に原子核物理学が代表例なのだが、原爆や原子力発電所など人類の行く末を大きく左右するまで影響力をもっている。科学者にもその影響力についての責任があるという考え方が生まれてきた。
本書ではヨーロッパを中心とした既存の科学史だけでなく、古代から現代まで、これまで取り上げてこられなかった地域で科学がどのように生まれ、発展したかがこと細かに解説される。まったく知らなかった人物にフォーカスし 、彼らがどのように科学の発展に貢献してきたかを知ることができるのだ。
とにかく大著であるため、それをひとつずつここに紹介することはできない。記事の最後に載せた詳細目次でおよその内容をくみ取っていただきたい。
本書全体を通して共通しているのは、科学が発展するための動機が、国家の戦略、経済的利益だったということである。これまでは科学的成果が戦争や植民地支配、民族政策、人種差別などに利用されたというとらえかたをしてきたが、本書を読んでわかるのは、それらが結果として利用されたのではなく、そもそもの原因だったということである。それは、つまり真理の探究や学問的興味が科学を進める第一義の原因だと信じたい僕にとっては、少々寂しく、現実の厳しさを思い知ることになった。
その例が、たとえば古代の天文学である。天動説はそれが誤っていたとしても、暦の作成や日食の予言には欠かせない。国を治めるため、為政者の権威を国民に周知し従わせるため、農業を暦にしたがって行うために「必要なこと」だった。
また、戦争をする動機は領土拡大、経済発展である。そのためにその国の統治者は未知の大陸を目指すことを命じたのだ。より安全に航海するためには天文学が「必要であり」。占領した新大陸、地域を治め植民地として利用するためには、そこに生息する動物、植物についての詳しい知識が「必要である」。博物学を研究を進めることになった。また植物の研究は薬草の研究を含んでおり、医学の進歩にも欠かせない。植物学者の牧野富太郎博士のように純粋な興味から研究する人はごく少数派だった。
進化論や遺伝学はその国の民族政策、人種政策に利用された。この意味でまっさきに思い浮かぶのはナチスドイツによるユダヤ人大虐殺、中国における民族浄化である。この分野はナショナリズムと国際主義から切り離してとらえることができない。
1960年代から現在に至るまで、人類は月や火星に探査機を送っている。各国による宇宙開発競争は激しくなっている。ロケット打ち上げや探査機に関するニュースでは、あたかも科学的関心、技術力のめざましい進歩など明るい面だけが強調しているが、宇宙開発の目的は国家の軍事的、経済的利益のためであることを忘れてはならない。
いくつかの理由で読書や趣味にあてる時間が激減してしまったこと、そして本書が大著なため、読み終えるまでにとても日数がかかってしまったが、久しぶりに出会った「目から鱗本」である。
ぜひ書店で手に取ってから、購入を決めていただきたい。
翻訳のもとにされた英語版原書はこちらである。
「Horizons: A Global History of Science: James Poskett」(Kindle版)
「科学文明の起源: 近代世界を生んだグローバルな科学の歴史: ジェイムズ・ポスケット」(Kindle版)
はしがきーー近代科学の起源
第1部 科学革命 1450年頃~1700年頃
第1章 新世界との出合い
1 新世界の博物学
2 アステカの医学
3 人類の発見
4 アメリカの地図を作る
5 まとめ
第2章 天文学の興隆
1 古代文書の翻訳
2 ルネサンス期ヨーロッパにおけるイスラム科学
3 オスマン帝国のルネサンス
4 アフリカの天文学者
5 北京の天文学
6 インドの天文台
7 まとめ
第2部 帝国と啓蒙 1650年頃~1800年頃
第3章 ニュートンの発見を導いたもの
1 ゴレ島での振り子の実験
2 インカの天文学
3 太平洋の航海者たち
4 ロシアにおけるニュートン科学
5 まとめ
第4章 経済のための博物学
1 奴隷制と植物学
2 東インドの自然史
3 中国の飲み物
4 江戸時代の日本における自然の研究
5 まとめ
第3部 資本主義と紛争 1790年頃~1914年
第5章 進化論と生存競争
1 アルゼンチンの化石ハンター
2 ロシア帝国の進化論
3 明治時代の日本と「生存競争」の概念
4 清朝中国における自然選択説
5 まとめ
第6章 ナショナリズムと国際主義
1 戦争とロシア帝国の科学
2 オスマン帝国の工学
3 植民地インドにおける科学と産業の発展
4 明治の日本の地震と原子
5 まとめ
第4部 イデオロギーと戦争の余波 1914年~2000年頃
第7章 政治の時代の物理学
1 革命後のロシアの物理学
2 中国におけるアインシュタインの相対論
3 日本の量子力学
4 物理学と帝国との闘い
5 まとめ
第8章 冷戦と遺伝学
1 メキシコにおける「緑の革命」とヒト遺伝学
2 独立後のインドにおける遺伝学の発展
3 毛沢東のもとでの共産主義的な遺伝学
4 イスラエルと集団遺伝学
5 まとめ
エピローグ 科学の未来
謝辞
図版出典
口絵出典
用語一覧