毎年12月10日、スウェーデンのストックホルムでアルフレッド・ノーベルの命日に行われるノーベル賞の授賞式の日程にあわせて、「とね日記賞」を発表している。今年で13回目。
ところが、新型コロナウィルスの世界的な流行により、2020年からノーベル賞の授賞式はオンラインで行われるようになっていた。しかし、今年は3年ぶりに去年とおととしの受賞者を招いてスウェーデンで開催することになった。
けれども、コロナが流行しようがしまいが、ノーベル賞を僕がもらう見込みはどうもないことに変わりはない。どうせもらえないのなら自分で賞を作って「あげる側」になってしまえ!という思いつきで始めたのが「とね日記賞」である。
「とね日記賞」はその年に読んだ物理学書、数学書の中から自分のためになった本、この分野を勉強している学生や社会人にお勧めする本を物理学、数学など各分野に分けてそれぞれ1~2冊発表する。あとテレビドラマ賞や贈り物にふさわしい本としてクリスマス賞も設けている。
名著であっても僕がその価値を理解できなければ受賞できない。昨年以前に読んだ本は自動的に選考対象から外されるし、どんなに良書であっても読んでいなければ対象外。何より僕の学習進度や理解度や好みに影響される。
メダルも賞金も授賞式もスピーチも晩餐会も舞踏会もないから、ありがたくも何ともなく、主観だらけのアンフェアな賞だ。
次の賞を発表している。今年は数学書を読んでいないので授賞対象外。
- 物理学賞
物理学の教科書、専門書から選考。
- 数学賞
数学の教科書、専門書から選考。
- 教養書賞
一般向け書籍から分野別に選考。
- ブルーバックス賞
講談社ブルーバックスの書籍から分野別に選考。
- 文学賞
ジャンルを問わない小説、文学書から選考。
- アカデミー賞
今年観た映画の中からよかったものを選考。
- テレビドラマ賞
テレビドラマの中からよかったものを選考。
- クリスマス賞
クリスマスプレゼントにふさわしい本を選考。
この1年で読んだのは10冊で、次のような本である。通算469冊~478冊目。今年は本業の仕事が忙しくなったのと生活パターンに大きな変化があったため、以前のように年間30~50冊の本を読むことはできなくなっていた。(参考:「400冊の理数系書籍を読んで得られたこと」)
469/早すぎた男 南部陽一郎物語 時代は彼に追いついたか:中嶋 彰
470/究極理論への道: 力・時空・物質の起源を求めて:米谷 民明
471/場の量子論(II)-ファインマン・グラフとくりこみを中心にして(量子力学選書):坂本眞人
472/The Elegant Universe: Brian Greene(エレガントな宇宙: ブライアン・グリーン)
473/What Do You Care What Other People Think? (困ります、ファインマンさん)
474/統計力学の形成:稲葉 肇
475/原子核物理学 改訂版:エンリコ・フェルミ
476/アインシュタイン回顧録:アルベルト・アインシュタイン
477/アインシュタイン・ショック〈1〉大正日本を揺がせた四十三日間:金子務
478/アインシュタイン・ショック〈2〉日本の文化と思想への衝撃:金子務
今年のマイブームは「アインシュタイン来日から100年」である。100年前、大正時代の日本が沸いたアインシュタインブームに思いをはせ、追体験をすることで現代日本と大正日本の日本国民の科学の受け止め方にどのような違いがあったのかを楽しんだ。
それでは2022年の「とね日記賞」を発表しよう。(書籍名と画像は本の購入ページにリンクさせておいた。)
* 物理学賞
今年は2つの本に授賞することにした。
「場の量子論: 不変性と自由場を中心にして(量子力学選書):坂本眞人」(Kindle版)(詳細)
「場の量子論(II)-ファインマン・グラフとくりこみを中心にして(量子力学選書):坂本眞人」(Kindle版)(詳細)
授賞理由: 場の量子論を学ぶのは一筋縄にはいかない。和書、洋書を問わず「良書」とされる本を片っ端から読んでみたり、自分に合う教科書が巡りあえればその1冊に取り組んでみたりする。内容を理解するだけには特に計算演習が欠かせない。このあたり独学する人にとっては悩ましい。ところが本書は、計算のしかたをごまかすことなく「これでもか」というほど詳しく解説している。初学者には少し敷居が高いが、現時点で最良の教科書であることは間違いない。KIndle版も販売されているのがよいところだ。この教科書を含む「量子力学選書シリーズ」は、どの本もお勧めだ。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
場の量子論: 不変性と自由場を中心にして(量子力学選書):坂本眞人
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f68fdd9b2a4e8ba2dfa88d4afcb3b716
場の量子論(II)-ファインマン・グラフとくりこみを中心にして(量子力学選書):坂本眞人
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7afabb5ee7f8ee4483081accf9eeaa6b
「統計力学の形成:稲葉 肇」
授賞理由: 発売される前から話題になっていた本。統計力学をめぐる物理学史を解説した本だ。2019年に話題になった「力学の誕生―オイラーと「力」概念の革新―: 有賀暢迪」という物理学史の本を連想させる。山本義隆先生の「古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ:山本義隆」をはじめ、古典力学史に関する本はあるものの、統計力学史を解説した本は極めて少ない。本書を読み、古典力学だけでなく統計力学もん「難産」だったことがよく理解できた。最初のうちはさまざまな学説の違いを理解するのが難しく、読むのが大変だったが、読み進めるにつれて理解できるように書かれていた。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
統計力学の形成:稲葉 肇
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ce9af937b0ce3c84c103b340f016044f
* 数学賞
該当なし。
* 教養書賞(物理学部門)
「アインシュタイン・ショック〈1〉大正日本を揺がせた四十三日間:金子務」
「アインシュタイン・ショック〈2〉日本の文化と思想への衝撃:金子務」
授賞理由: 今年はアインシュタイン博士が来日してちょうど100年目である。来日する途上でノーベル物理学賞の受賞の知らせが届いたこともあり、日本中がアインシュタインブームに沸き立った。その招聘から日本滞在期間中の全記録、日本社会に与えた影響などを、こと細かに紹介したこの2冊は特にお勧めしたい。大正時代の日本人が博士をどのように感じ、歓迎していたかを追体験できる本である。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
アインシュタイン・ショック〈1〉大正日本を揺がせた四十三日間:金子務
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b43c8abe0ea752c36df0366f441474b7
アインシュタイン・ショック〈2〉日本の文化と思想への衝撃:金子務
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2ce7d4805cda10c7a1baeba6ac25f0e4
* 教養書賞(数学部門)
該当なし
* ブルーバックス賞
「早すぎた男 南部陽一郎物語 時代は彼に追いついたか:中嶋 彰」(Kindle版)
授賞理由: 南部先生の業績を解説した教養書、教科書は数多く出版されているが、科学者として、ひとりの人間としての姿を紹介した本は少ない。「未来を知りたければ南部に聞け」と言われたほどの天才が、プリンストン高等研究所で研究を始めた30代、何も成果を出せずとても苦しまれていたことが特に印象的だった。また渥美清の「男はつらいよ」シリーズの大ファンだったことも意外だった。大栗博司先生は、南部先生のお宅を訪問したときこの映画を見せられたという。大阪に出張中の2015年7月5日にお亡くなりになったから、最終作の「おかえり寅さん」のことはご存知なかった。あと5年ほど長生きされ、この最終作もご覧になっていただきたかったと思ったのは僕だけではないと思う。今月14日はKindle版が発売される。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
早すぎた男 南部陽一郎物語 時代は彼に追いついたか:中嶋 彰
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d46b6e726b9f05e5ce52443bc463014d
* 文学賞
「はてしない物語:ミヒャエル・エンデ」
授賞理由: ファンタジー文学の最高峰だ。これまで何度か読み返している児童文学。今年は知り合いにプレゼントしたことがきっかけで読み直してみた。この本単独で紹介記事を書いたことが無かったので書いてみた。英語版とフランス語版を購入したので、折に触れて少しずつ読んでいる。購入するのであれば、絶対に単行本をお勧めする。理由は紹介記事に書いておいた。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
はてしない物語:ミヒャエル・エンデ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e8d66836726275e55ec89374aad99b30
「「三体」シリーズ:劉 慈欣」
授賞理由: Audibleの朗読で読書した長編SF小説。天体力学の「三体問題」を取り込み、まれにみるスケールで繰り広げられ、人類は他の恒星系に属する宇宙人と対峙するようになったらどのような行動をとるべきなのか真剣に考えさせられた。またこの小説は中国人作家によって書かれたことから、主な登場人物は中国人ばかりである。現実世界では、宇宙開発の領域に中国が大きな進展を見せており、アメリカに次ぐ宇宙開発の巨人となりつつ今、この小説で描かれているような未来は起こり得ると思った。あまりにも長編なため、登場人物が誰なのかわからなくなったり、ストーリーの細かいところを忘れてしまったりして難儀したが、ぜひチャレンジしていただきたい。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
「三体」シリーズ:劉 慈欣
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/68e94ccb95807140ef54966369ac568d
* アカデミー賞
「映画『21世紀の資本(2019)』」
授賞理由: 日本だけでなく世界的に貧富の差、経済格差の二分化は拡大するばかりである。2015年に話題になった「21世紀の資本:トマ・ピケティ」(Kindle版)の内容を1時間45分の映画に仕立てたものだ。映画のセリフのひとつひとつが心に突き刺ささった。「21世紀の資本」では富の集中、増大は雇用とは無関係だと解説している。雇用が創出され貧困者の生活が改善したとしても、それは富や財産を独占している一部の金持ち、大企業の不労所得(金利による利益、証券や土地の売買による利益)のほうがはるかに大きいからだ。今後どのような選択をすべきなのだろうか?「21世紀の資本」は、そのための案を私たちに提示し、この問題に正面から取り組む必要性を説いているのだ。現代の若者には無関心、変化を嫌う現状を容認する人が多いと聞く。しかし、現状維持は不可能であることが「21世紀の資本」が教えてくれることである。
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
映画『21世紀の資本(2019)』
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6a153690ce7756a662544f87757f97e9
* テレビドラマ賞
この1年、ドラマを見る時間は例年のようにとることができなかった。めぼしいものは第1話だけ見て、次々とドロップアウトしていった。大河ドラマの「鎌倉殿の13人」も源頼朝が亡くなって以降、興味が失せて見なくなった。今年は次のようなドラマが放送されていた。
今年は次の2つのドラマにテレビドラマ賞を授賞することにした。
『silent』
公式ホームページ:
https://www.fujitv.co.jp/silent/
授賞理由: 10月クールのドラマの中ではいちばん話題になっていると思う。高校時代に付き合っていた佐倉想は、彼女の青羽紬へ耳が聞こえなくなったことを隠したまま一方的に別れてしまう。彼女だけでなく同級生たちとも縁を切り、卒業をきっかけに家族以外からは誰からも連絡できないようにしてしまった。数年後、紬は駅のホームで想を見かけ声をかける。しかし想は呼びかけに気づかずそのまま行ってしまった。その頃までに紬には戸川湊斗と恋人関係になっていた湊斗は想や紬の同級生である。その後、再び紬は駅の改札の外で偶然想を見かけ、話しかけようとするのだが、なぜか想は彼女を振り切って逃げようとする。紬は彼を引き留め、ようやく彼が聴覚障碍者になっていることを知りショックを受ける。昔の彼氏がそのようなことになっていることからの同情が恋心に再び火をつけてしまった。これが第1話のストーリーである。せつなく、静かに展開する恋愛感情のもつれにこの2人と関係をもつ登場人物が巻き込まれていく。それぞれの心の動きを、思い込みや誤解が解けていく様子を丁寧に追いながら進むドラマだ。
『未来への10カウント』
公式ホームページ:
https://www.tv-asahi.co.jp/10count/
授賞理由: 久々のキムタク主演ドラマ。大いに楽しんだ。怪我をしたことでボクサーになるという夢をあきらめた中年男を木村拓哉が演じる。居酒屋の店主として地味に、そして人生を投げやりに生きている彼のもとに、元ボクサー仲間の親友から「高校のボクシング部で教えてみないか?」という誘いが来る。最初は断っていたが、だんだん断れない状況に追い込まれていく。まったく初心者ばかりのボクシング部の顧問にさせられた彼の奮闘ぶりが見どころ。同じく満島ひかりが演じる顧問の先生とのやり取りがコミカルで可笑しい。飽きのこないドラマだった。
* クリスマス賞
「かがみの孤城For you―特製プレゼントBOX」
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授賞理由: 2018年に本屋大賞を史上最多得票数で受賞した作品だ。単行本として刊行されていたもが文庫化され、さらに贈答用として2021年12月に特製プレゼントボックスとして発売された。昨年のクリスマス賞は「クリスマス・ピッグ: J.K.ローリング」を紹介したから、今年はこちらのプレゼントボックスはいかがだろうか?タイミングよく、この作品はアニメ映画化され、今月23日に公開される。映画デートに誘って、この本をプレゼントしてみるのはいかがだろうか?
紹介記事は次のリンクからお読みいただきたい。
かがみの孤城: 辻村深月
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/676c42aeb00ed9220d650f3d5be6153c
映画『かがみの孤城』予告編【12月23日(金)全国公開】 YouTubeで再生
* ノーベル物理学賞2022
最後になりますが、本日受賞される先生方、ノーベル賞受賞おめでとうございます!
量子力学万歳!量子テレポーテーション万歳!
記念講演はこの動画で見ることができる。
2022 Nobel Prize lectures in physics: YouTubeで再生
2022年 ノーベル物理学賞はアスペ博士、クラウザー博士、ツァイリンガー博士に決定!!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7202553c9ccff103b30109d5c66c37d4
2022年ノーベル賞授賞式、セレモニーの様子はここからライブ配信されます。
2022 Nobel Prize award ceremony: YouTubeで再生
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