「現代解析力学入門:井田 大輔」
内容紹介:
最も素直な方法で解析力学を展開。難しい概念も,一歩引いた視点から,すっきりとした言葉で,論理的にクリアに説明。Caratheodory-Jacobi-Lieの定理など,他書では見つからない話題も豊富。
2020年1月15日刊行、244ページ
著者:
井田大輔(いだ だいすけ)
ホームページ: https://www.gakushuin.ac.jp/univ/sci/phys/ida/index.html
1972年鳥取県に生まれる。2001年京都大学大学院理学研究科博士課程修了。現在、学習院大学理学部教授。博士(理学)。
理数系書籍のレビュー記事は本書で466冊目。
「現代量子力学入門:井田 大輔」を読んだついでに解析力学の復習をしておこうと思って読んだのがこの姉妹書だ。ところが、復習どころか思わぬ形で苦労する結果となった。
薄い本であることと本のタイトルから、解析力学を初めて学ぶ人向けの入門書だと勘違いしていることを読み始めてすぐわかった。これまで入門書は何冊か読んでいたが、その学習範囲をはるかに超えている。以下は本書の章立てだが、学部生が学ぶ一般的な教科書では本書の1章から10章あたりまで。第11章から最終章までは、ほぼ初めて学ぶことばかりだった。読むのに時間がかかってしまったのは、そのためである。
1.ニュートン形式
2.配位空間
3.ラグランジアン
4.共変性
5.対称性
6.ラグランジュ乗数
7.ハミルトニアン
8.正準変換
9.ポアソン括弧
10.ハミルトン& ヤコビ
11.可積分系
12.コワレフスカヤのこま
13.特異系
14.古典場
15.量子力学
本書は一般的な入門書で学んだ人が2冊目以降に学ぶための本である。そして本書の解説には「一般的な入門書と山本義隆先生の解析力学の教科書をつなぐため」の本だと書かれている。山本先生の本はすでに持っているが、歯が立たないほど高度な内容だということが一見してわかっていた。解析力学ってそんなに難しいものなの?と中身を吟味しないまま放置していた。
僕は学生時代は数学専攻だったので、物理学科の学生が解析力学をどこまで学んでいるかは知らない。本書の後半の内容は、おそらく大学院以降で学ぶ事がらなのだろう。そして、解析力学をさらに深く学んでいこうとする読者、ステップアップしようとする読者が足掛かりにするのに最適な教科書だと思った。
著者の井田先生は、本書の特徴を次のように紹介している。
「本書では、なるべく微積分と線形代数の知識のみを用いて、解析力学のなるべく本質的な部分を解説しようと試みます。できるだけ煩雑な数式の使用はさけて、通読すれば解析力学の中心的なアイデアが習得できるようなものを目指しました。どうしても高度な知識が必要となる部分はでてきます。それも結局は簡単なことの積み重ねです。なじみにある微積分と線形代数の世界に引き戻して、丁寧に説明することにしました。」
この解説だけ読むと、敷居が低いように思えてしまう。しかし、ポアンカレ・カルタンの不変量、ポアソン構造、シンプレクティック構造、カラテオドリ・ヤコビ・リーの定理、ハミルトン・ヤコビ方程式の分離可能性、シュタッケル行列、リューヴィユ・アーノルドの定理、コワレフスカヤのこま、2次拘束、ディラック構造など、高度な内容が解説されているので、買う前に注意していただきたい。書店で中身を確認してから購入することをお勧めする。
著者は、続編として量子力学の入門書をお書きになっている。こちらも一般的な古いタイプの教科書とは異なるので、紹介記事をお読みになってから購入することをお勧めする。
「現代解析力学入門:井田 大輔」
「現代量子力学入門:井田 大輔」(紹介記事)
初めて解析力学に入門する方には、こちらの教科書をお勧めする。現在、初版第8刷が最新版だ。誤植が訂正されている新しい本をお買い求めになるとよい。
「よくわかる解析力学:前野昌弘」(紹介記事)
本書を読み、さらに本格的に学びたい方には山本先生の教科書がよいと思う。
「解析力学 I:山本義隆」
「解析力学 II:山本義隆」
そして、次にお勧めするのがこれら2冊だ。山本先生の教科書とともに、本書巻末の「文献」に取り上げられている教科書である。
「微分形式による解析力学:木村利栄、菅野礼司」
「解析力学と微分形式:深谷賢治」
解析力学は古い学問で、多くの良い著作がある。以下の2冊が最高峰だと本書の「まえがき」で紹介されている。ランダウ=リフシッツは薄い本にもかかわらず取り扱っている問題が豊富だ。そのため読者が自分で補わなければならないことが多い。アーノルドの教科書は通読するのに高度な幾何学の知識が必要で、大学の数学のコースでも使われるような教科書だ。日本語版は原書初版の翻訳、原書は第2版を買うことができる。
「力学 (増訂第3版) ランダウ=リフシッツ理論物理学教程」(英語版、英語Kindle版)
「古典力学の数学的方法:V.I.アーノルド」(原書第2版、原書第2版Kindle版)
関連記事:
現代量子力学入門:井田 大輔
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/acbdefa011b68a9ed05ee25eed07b876
要点講義 ベクトル解析と微分形式: 井田大輔著
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/252bb08f52e5ee44f1252ffe43cee927
よくわかる解析力学:前野昌弘
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bd9d328483de3bc3f9a3ad14ec6fe078
無料で読めるラグランジュの『解析力学』の原書、英訳本
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/221a82d4684ba88e2c0fde79d73860e9
「現代解析力学入門:井田 大輔」
まえがき
1.ニュートン形式
1.1 ニュートン形式
2.配位空間
2.1 配位空間
2.2 座標系
3.ラグランジアン
3.1 作用とラグランジアン
3.2 最小作用の原理
3.3 応用例:斜方投射
3.4 応用例:滑車
3.5 応用例:斜面上の物体
3.6 応用例:調和振動子
3.7 応用例:振り子
4.共変性
4.1 ラグランジュ形式の共変性
5.対称性
5.1 循環座標による保存則
5.2 ラグランジアンの対称性
5.3 エネルギー
6.ラグランジュ乗数
6.1 条件付き変分
6.2 応用例:斜面上の物体
6.3 応用例:振り子
7.ハミルトニアン
7.1 ルジャンドル変換
7.2 ハミルトン形式
7.3 ハミルトニアン作用
7.4 相空間
7.5 リューヴィユの定理
7.6 ポアンカレ・カルタンの不変量
8.正準変換
8.1 正準変換
8.2 ポアソン括弧とラグランジュ括弧
8.3 母関数
8.4 正準変換の構成
8.5 時間依存する正準変換
8.6 無限小正準変換
8.7 ハミルトニアンの対称性
9.ポアソン括弧
9.1 ポアソン括弧
9.2 ポアソン構造(前編)
9.3 ポアソン構造(後編)
9.4 シンプレクティック構造
9.5 ダルブーの定理
9.6 カラテオドリ・ヤコビ・リーの定理
10.ハミルトン& ヤコビ
10.1 ハミルトン・ヤコビの方法
10.2 応用例:調和振動子
11.可積分系
11.1 完全可積分
11.2 ハミルトン・ヤコビ方程式の分離可能性
11.3 分離可能性の判定条件
11.4 シュタッケル行列
11.5 応用例:球面振り子
11.6 応用例:2 点からのクーロン力
11.7 リューヴィユ・アーノルドの定理
12.コワレフスカヤのこま
12.1 剛 体
12.2 剛体の回転エネルギー
12.3 剛体の角運動量
12.4 剛体の位置エネルギー
12.5 こまの運動方程式
12.6 オイラーのこま
12.7 ラグランジュのこま
12.8 コワレフスカヤのこま
13.特異系
13.1 1次拘束
13.2 拘束条件付きのハミルトニアン
13.3 2次拘束
13.4 ファースト・クラス
13.5 ゲージの自由度
13.6 拘束面上の物理量
13.7 ディラック構造
13.8 応用例:斜面上の物体
13.9 応用例:相対論的自由粒子
14.古典場
14.1 古典場
14.2 フィールド・ラグランジアン
14.3 フィールド・ハミルトニアン
14.4 マクスウェル理論
14.5 マクスウェル場のハミルトニアン
15.量子力学
15.1 量子力学のルール
15.2 量子化
索 引
内容紹介:
最も素直な方法で解析力学を展開。難しい概念も,一歩引いた視点から,すっきりとした言葉で,論理的にクリアに説明。Caratheodory-Jacobi-Lieの定理など,他書では見つからない話題も豊富。
2020年1月15日刊行、244ページ
著者:
井田大輔(いだ だいすけ)
ホームページ: https://www.gakushuin.ac.jp/univ/sci/phys/ida/index.html
1972年鳥取県に生まれる。2001年京都大学大学院理学研究科博士課程修了。現在、学習院大学理学部教授。博士(理学)。
理数系書籍のレビュー記事は本書で466冊目。
「現代量子力学入門:井田 大輔」を読んだついでに解析力学の復習をしておこうと思って読んだのがこの姉妹書だ。ところが、復習どころか思わぬ形で苦労する結果となった。
薄い本であることと本のタイトルから、解析力学を初めて学ぶ人向けの入門書だと勘違いしていることを読み始めてすぐわかった。これまで入門書は何冊か読んでいたが、その学習範囲をはるかに超えている。以下は本書の章立てだが、学部生が学ぶ一般的な教科書では本書の1章から10章あたりまで。第11章から最終章までは、ほぼ初めて学ぶことばかりだった。読むのに時間がかかってしまったのは、そのためである。
1.ニュートン形式
2.配位空間
3.ラグランジアン
4.共変性
5.対称性
6.ラグランジュ乗数
7.ハミルトニアン
8.正準変換
9.ポアソン括弧
10.ハミルトン& ヤコビ
11.可積分系
12.コワレフスカヤのこま
13.特異系
14.古典場
15.量子力学
本書は一般的な入門書で学んだ人が2冊目以降に学ぶための本である。そして本書の解説には「一般的な入門書と山本義隆先生の解析力学の教科書をつなぐため」の本だと書かれている。山本先生の本はすでに持っているが、歯が立たないほど高度な内容だということが一見してわかっていた。解析力学ってそんなに難しいものなの?と中身を吟味しないまま放置していた。
僕は学生時代は数学専攻だったので、物理学科の学生が解析力学をどこまで学んでいるかは知らない。本書の後半の内容は、おそらく大学院以降で学ぶ事がらなのだろう。そして、解析力学をさらに深く学んでいこうとする読者、ステップアップしようとする読者が足掛かりにするのに最適な教科書だと思った。
著者の井田先生は、本書の特徴を次のように紹介している。
「本書では、なるべく微積分と線形代数の知識のみを用いて、解析力学のなるべく本質的な部分を解説しようと試みます。できるだけ煩雑な数式の使用はさけて、通読すれば解析力学の中心的なアイデアが習得できるようなものを目指しました。どうしても高度な知識が必要となる部分はでてきます。それも結局は簡単なことの積み重ねです。なじみにある微積分と線形代数の世界に引き戻して、丁寧に説明することにしました。」
この解説だけ読むと、敷居が低いように思えてしまう。しかし、ポアンカレ・カルタンの不変量、ポアソン構造、シンプレクティック構造、カラテオドリ・ヤコビ・リーの定理、ハミルトン・ヤコビ方程式の分離可能性、シュタッケル行列、リューヴィユ・アーノルドの定理、コワレフスカヤのこま、2次拘束、ディラック構造など、高度な内容が解説されているので、買う前に注意していただきたい。書店で中身を確認してから購入することをお勧めする。
著者は、続編として量子力学の入門書をお書きになっている。こちらも一般的な古いタイプの教科書とは異なるので、紹介記事をお読みになってから購入することをお勧めする。
「現代解析力学入門:井田 大輔」
「現代量子力学入門:井田 大輔」(紹介記事)
初めて解析力学に入門する方には、こちらの教科書をお勧めする。現在、初版第8刷が最新版だ。誤植が訂正されている新しい本をお買い求めになるとよい。
「よくわかる解析力学:前野昌弘」(紹介記事)
本書を読み、さらに本格的に学びたい方には山本先生の教科書がよいと思う。
「解析力学 I:山本義隆」
「解析力学 II:山本義隆」
そして、次にお勧めするのがこれら2冊だ。山本先生の教科書とともに、本書巻末の「文献」に取り上げられている教科書である。
「微分形式による解析力学:木村利栄、菅野礼司」
「解析力学と微分形式:深谷賢治」
解析力学は古い学問で、多くの良い著作がある。以下の2冊が最高峰だと本書の「まえがき」で紹介されている。ランダウ=リフシッツは薄い本にもかかわらず取り扱っている問題が豊富だ。そのため読者が自分で補わなければならないことが多い。アーノルドの教科書は通読するのに高度な幾何学の知識が必要で、大学の数学のコースでも使われるような教科書だ。日本語版は原書初版の翻訳、原書は第2版を買うことができる。
「力学 (増訂第3版) ランダウ=リフシッツ理論物理学教程」(英語版、英語Kindle版)
「古典力学の数学的方法:V.I.アーノルド」(原書第2版、原書第2版Kindle版)
関連記事:
現代量子力学入門:井田 大輔
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/acbdefa011b68a9ed05ee25eed07b876
要点講義 ベクトル解析と微分形式: 井田大輔著
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/252bb08f52e5ee44f1252ffe43cee927
よくわかる解析力学:前野昌弘
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bd9d328483de3bc3f9a3ad14ec6fe078
無料で読めるラグランジュの『解析力学』の原書、英訳本
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/221a82d4684ba88e2c0fde79d73860e9
「現代解析力学入門:井田 大輔」
まえがき
1.ニュートン形式
1.1 ニュートン形式
2.配位空間
2.1 配位空間
2.2 座標系
3.ラグランジアン
3.1 作用とラグランジアン
3.2 最小作用の原理
3.3 応用例:斜方投射
3.4 応用例:滑車
3.5 応用例:斜面上の物体
3.6 応用例:調和振動子
3.7 応用例:振り子
4.共変性
4.1 ラグランジュ形式の共変性
5.対称性
5.1 循環座標による保存則
5.2 ラグランジアンの対称性
5.3 エネルギー
6.ラグランジュ乗数
6.1 条件付き変分
6.2 応用例:斜面上の物体
6.3 応用例:振り子
7.ハミルトニアン
7.1 ルジャンドル変換
7.2 ハミルトン形式
7.3 ハミルトニアン作用
7.4 相空間
7.5 リューヴィユの定理
7.6 ポアンカレ・カルタンの不変量
8.正準変換
8.1 正準変換
8.2 ポアソン括弧とラグランジュ括弧
8.3 母関数
8.4 正準変換の構成
8.5 時間依存する正準変換
8.6 無限小正準変換
8.7 ハミルトニアンの対称性
9.ポアソン括弧
9.1 ポアソン括弧
9.2 ポアソン構造(前編)
9.3 ポアソン構造(後編)
9.4 シンプレクティック構造
9.5 ダルブーの定理
9.6 カラテオドリ・ヤコビ・リーの定理
10.ハミルトン& ヤコビ
10.1 ハミルトン・ヤコビの方法
10.2 応用例:調和振動子
11.可積分系
11.1 完全可積分
11.2 ハミルトン・ヤコビ方程式の分離可能性
11.3 分離可能性の判定条件
11.4 シュタッケル行列
11.5 応用例:球面振り子
11.6 応用例:2 点からのクーロン力
11.7 リューヴィユ・アーノルドの定理
12.コワレフスカヤのこま
12.1 剛 体
12.2 剛体の回転エネルギー
12.3 剛体の角運動量
12.4 剛体の位置エネルギー
12.5 こまの運動方程式
12.6 オイラーのこま
12.7 ラグランジュのこま
12.8 コワレフスカヤのこま
13.特異系
13.1 1次拘束
13.2 拘束条件付きのハミルトニアン
13.3 2次拘束
13.4 ファースト・クラス
13.5 ゲージの自由度
13.6 拘束面上の物理量
13.7 ディラック構造
13.8 応用例:斜面上の物体
13.9 応用例:相対論的自由粒子
14.古典場
14.1 古典場
14.2 フィールド・ラグランジアン
14.3 フィールド・ハミルトニアン
14.4 マクスウェル理論
14.5 マクスウェル場のハミルトニアン
15.量子力学
15.1 量子力学のルール
15.2 量子化
索 引