「一般相対性理論の直観的方法: 長沼伸一郎」(日本の古本屋で検索)
内容紹介:
ほぼ半世紀にわたって埋められずにきた、相対論における初等解説書と専門書の間の「中間レベル」のギャップを、いま本書が埋める。その明快なイメージ化は専門家にも刺激となろう。理工系学生・研究者の絶賛を博した「物理数学の直観的方法」の著者が満を持して放った第二弾!
1990年12月刊行、305ページ。
著者について:
長沼伸一郎(ながぬま しんいちろう)
1961年東京生まれ。1983年早稲田大学理工学部応用物理学科(数理物理)卒業、1985年同大学院中退。1987年、『物理数学の直観的方法』の出版により、理系世界に一躍名を知られる。「パスファインダー物理学チーム」代表。
ホームページ: パスファインダー物理学チーム
http://pathfind.motion.ne.jp/
長沼先生の著書: 単行本検索 Kindle版検索
理数系書籍のレビュー記事は本書で435冊目。
本書は理工系学生・研究者の絶賛を博した「物理数学の直観的方法」の著者が満を持して放った第二弾! 著者が29歳のときの著作である。
1990年頃の科学出版界を想像してみよう。インターネットは個人では使えず、大都市圏では大型書店に出向いたり、公共や大学の図書館でしか、どのような出版物がでているかを確認できなかった時代だ。シリーズ物の理学書であれば、巻末に同じレベルの本の宣伝のページで確認できていた。もちろん書評など読めないから、自分の勘だけが頼りである。大学生であれば先生や先輩が本を勧めてくれるが、それは直接履修している科目の本に限られる。
このような科学読書環境の中で、大学の教養課程レベルの物理学や数学の授業と教科書についていけなくなった学生を救ってくれる本は、ほとんどなかった。需要こそあったものの、要望を反映する場所がなかったからである。したがって1987年に刊行された「物理数学の直観的方法」は、まさに画期的であった。「初等解説書と専門書の間の「中間レベル」のギャップを埋める本」の先駆けだったのである。
その第2弾として長沼先生が1990年にお書きになったのが「一般相対性理論の直観的方法: 長沼伸一郎」だった。
アインシュタインが1916年に発表して以来、現在に至るまで、一般相対性理論を学ぶにはリーマン幾何をベースにした高度なテンソル解析の計算をしなければならず、ほとんどの大学生にとってこの難所は「物理数学の難所」のレベルをはるかに超えていた。理系大学生といえども、Newtonのような科学雑誌や講談社のブルーバックスのように単純にイラスト化されたイメージでとらえることしかできなかったのが1990年の時代背景だったのである。
そのようなわけで、本書は「物理数学の直観的方法」のように、大歓迎されるはずだった。けれども、その後の事実が証明しているように有名な本にはなっていない。それどころか本書は、僕が物理学に興味をもった2006年頃には絶版になっており、現在に至るまで入手困難な状況が続いている。幻の名著と言ってよい。近いうちに電子書籍として著者の「長沼伸一郎著作集・販売ページ」から購入できるそうだが、発売日は未定だ。この伝説の書はぜひ復刻してほしい。
本書刊行後、2000年頃から講談社の「なっとくシリーズ」や「ゼロから学ぶシリーズ」が刊行され始め、初等解説書と専門書の間の「中間レベル」のジャンルが充実してきた。主流は大学教養課程の学習内容についてである。現時点では次のようなシリーズがこのジャンルにあげられるのだと思う。
- 広江克彦さんの「趣味で物理学」シリーズ
- 結城浩さんの「数学ガール」、「数学ガールの秘密ノート」シリーズ
- 講談社の「なっとくシリーズ」
- 講談社の「ゼロから学ぶシリーズ」
- 秀和システムの「図解入門」シリーズ
- ベレ出版の「高校生からわかる」シリーズ
- ベレ出版の「まずはこの一冊から」シリーズ
- 技術評論社の「1冊でマスター」シリーズ
- 講談社ブルーバックスシリーズのうちの一部の本
一般相対性理論については広江克彦さんが2008年にお書きになった「趣味で相対論」を皮切りに、現在までに次のような本が「中間レベル」の学習者の助けとなっている。
- 趣味で相対論: 広江克彦(紹介記事)(学び方)
- ブラックホールと時空の方程式:15歳からの一般相対論:小林晋平(紹介記事)
- 一般相対性理論を一歩一歩数式で理解する: 石井俊全(紹介記事)
「一般相対性理論の直観的方法」の詳細目次は、この記事の最後に書いておくが、本書の章立てはこのようなものだ。序文を閲覧できるようにしておいた。
序(閲覧: 1 2 3 4)
第1章 われわれはどういう理由でどんなことを考えなければならないのか
第2章 特殊相対性理論
第3章 一般相対性理論
第4章 時空構造への波動論的アプローチ
第1章と第2章で、光速度不変の原理と特殊相対性理論を再考する。第3章が一般相対性理論、そして第4章は「時空構造への波動論的アプローチ」と題して、連続波動と離散波動という2つのモデルを併用するアプローチにより、粒子的な実在性をもつ量子、量子力学を代表する原理、電場、磁場、波束、重力場、重力子、ディラック場、スピノール場、ド・ブロイ波を再現している。
つまり本のタイトル「一般相対性理論の~」は第3章についてのものであって、全体がカバーする範囲は物理学全体(ただし、クォーク・モデルや原子核物理学は含まれない)と言ってよい。
幾何的アプローチを採用することで、ニュートン的・ガリレイ的な力学と特殊相対論的力学との違い、特殊相対論と一般相対論の違いがイメージしやすくなっているのが特長である。従来の教養書や教科書では特殊相対論と一般相対論は別物として解説しているからだ。
本書がなぜ爆発的に売れなかったかを考えてみると、次のような理由があげられるだろう。
- 読者が限定されるため
序文に「相対論に接して3年未満の読者は除外、第2章は高校物理を理解していない人は除外、第3章は文系の読者に対する配慮は行なっていない。」とお書きになっているように、著者みずから敷居が低くないことを言明されている。
読んでみたところ、敷居の高さはそれ以上であると僕は感じた。おそらく広江克彦さんの「趣味で相対論」のような本、または一般的な教科書でひととおり学んでからではないと、本書を読むのは無理だと思う。
- 正統的な方法で解説する本ではないため
本来、一般相対性理論は、接続や曲率などの概念を会得しながらリーマン幾何学を学んだうえで、テンソル計算をしながら学んでいくのが本道である。そして、その結果得られる「アインシュタイン方程式=重力場の方程式」がようやく理解できるのだ。
本書では、このメインルートがほとんど解説されていない。特殊相対性理論と一般相対性理論の正統的な理解をしないと、読み進めるのが相当つらいと思った。その意味で本書は初等解説書と専門書の間の「中間レベル」のではないと思う。
つまり本書を読んでも、通常の(正統的な方法での)一般相対性理論が理解できるようにはならない。
独自・独特な幾何学的モデリングと長い解説のため
著者の幾何学的なモデリングは、精緻で一般の学生の素養をはるかに超えている。これは他書にはない独自のもので、文章による解説が相当長い。数式を少なく初等的なもにしたからといって、物事が易しくなるわけではない。
本書の定性的な解説の積み重ねにどこまでついていけるかは、相当高度な読者の読解力と想像力、物理現象の理解を要求する。独創的な考え方やモデルであるから、新しいことを、次々と理解していく忍耐力が求められる本なのだ。
相対論から量子力学、素粒子物理学までの前提知識が要求されるため
本書を手に取る人の最大の動機は「一般相対性理論を直観的にイメージできるようになりたい。」ということだと思うが、第4章では、それ以上の物理学の領域が独特のやり方で展開される。
つまり、第4章で解説されている電磁気学、量子力学、場の量子論、そして素粒子物理学の知見が前提知識として要求されるのだ。必須であるとは本書に書かれていないけれども、これらを学ばずして第4章を読み解くのは無理だと思った。
このような理由により、本書は学部レベルのほとんどの人の理解力を超える本なのだ。復刻してほしい本ではあるが、売り上げが見込めるかどうかは疑問である。
それでも有用な1冊である
否定的なことばかり書いてしまったが、これは本の売れ行きばかりを気にした結果であり、学術書の価値の本質とは売り上げとは本来別だ。本書の価値は売り上げという尺度で測るべきではない。
一般相対性理論や素粒子物理学まで学んだ人が本書を読むと、その価値は一目瞭然だと思う。「直観的説明」、「直観的イメージ」というのは、2次元、3次元の空間幾何学と1次元の時間軸を使った理解であり、図形的なものだ。一般相対性理論を数式を通じて理解していても、イメージできない人がほとんどだ。また、量子的世界にしても同じことである。
直観的な幾何学モデルを提示し、改良を重ねていくなかで、正統的な教科書で学んできた物理法則、物理現象が、見事にあらわれてくる様子を見るのが本書を味わう醍醐味だ。物理法則、物理現象の解釈は著者独自のモデル化を通して与えられる。
「物理数学の直観的方法: 長沼伸一郎」のようなわかりやすさを期待してはいけないし、独創的なため、「趣味で相対論: 広江克彦」や「ブラックホールと時空の方程式:15歳からの一般相対論:小林晋平」と比較できる本ではない。刊行された1990年時点であっても、現代であっても、物理学の副読本というジャンルの中で、本書の意義や価値はまったく変わっていないと思う。これが僕が復刊を望む理由でもある。
イメージがわかない方のために、見開きで3か所ほどサンプル・ページとして掲載しておこう。
拡大
拡大
拡大
本書は他の本とあまりにも違うため評価は分かれることだろう。 本書に言及しているツイートを参考にしていただきたい。
本書の評判: Twitterで検索する
入手困難本である。アマゾン以外にも、以下のリンクで検索できるようにしておいた。
日本の古本屋: 検索
ヤフオク: 検索
メルカリ: 検索
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物理数学の直観的方法 第2版
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重力理論 Gravitation-古典力学から相対性理論まで、時空の幾何学から宇宙の構造へ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f838b8f6c2554000933187df89e08013
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「一般相対性理論の直観的方法: 長沼伸一郎」
序(閲覧: 1 2 3 4)
第1章 われわれはどういう理由でどんなことを考えなければならないのか
第2章 特殊相対性理論
- アプローチの方法
- ガリレイ変換の場合
- 生じる問題点
- トライアル1回目
- トライアル2回目
- 立体図の作り方
- ローレンツ変換の導出
- 幾何学的操作のイメージ
- 同時性の問題
- 相対性の問題
- 幾何学的注意(1)
- 幾何学的注意(2)
- 速度の加法則
- 質量の変化
- 質量とエネルギー
第3章 一般相対性理論
- 一般相対論への移行
- 重力場へのアプローチ
- 等価原理
- 時間の遅れの値
- 特殊相対論との統合
- シュヴァルツシルト解
- ブラックホール
- 光線の湾曲
- 重力波
第4章 時空構造への波動論的アプローチ
- 基本となる思考実験
- 基本となるモデル
- モデルの問題点
- 離散波の導入
- 波束とその問題点
- E=mc^2 および反粒子について
- 重力場について
- 離散波単位の条件
- 相対論に対する確認
- 電場について
- 磁場について
- スピノールについて
- ド・ブロイ波との統合
後記
内容紹介:
ほぼ半世紀にわたって埋められずにきた、相対論における初等解説書と専門書の間の「中間レベル」のギャップを、いま本書が埋める。その明快なイメージ化は専門家にも刺激となろう。理工系学生・研究者の絶賛を博した「物理数学の直観的方法」の著者が満を持して放った第二弾!
1990年12月刊行、305ページ。
著者について:
長沼伸一郎(ながぬま しんいちろう)
1961年東京生まれ。1983年早稲田大学理工学部応用物理学科(数理物理)卒業、1985年同大学院中退。1987年、『物理数学の直観的方法』の出版により、理系世界に一躍名を知られる。「パスファインダー物理学チーム」代表。
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長沼先生の著書: 単行本検索 Kindle版検索
理数系書籍のレビュー記事は本書で435冊目。
本書は理工系学生・研究者の絶賛を博した「物理数学の直観的方法」の著者が満を持して放った第二弾! 著者が29歳のときの著作である。
1990年頃の科学出版界を想像してみよう。インターネットは個人では使えず、大都市圏では大型書店に出向いたり、公共や大学の図書館でしか、どのような出版物がでているかを確認できなかった時代だ。シリーズ物の理学書であれば、巻末に同じレベルの本の宣伝のページで確認できていた。もちろん書評など読めないから、自分の勘だけが頼りである。大学生であれば先生や先輩が本を勧めてくれるが、それは直接履修している科目の本に限られる。
このような科学読書環境の中で、大学の教養課程レベルの物理学や数学の授業と教科書についていけなくなった学生を救ってくれる本は、ほとんどなかった。需要こそあったものの、要望を反映する場所がなかったからである。したがって1987年に刊行された「物理数学の直観的方法」は、まさに画期的であった。「初等解説書と専門書の間の「中間レベル」のギャップを埋める本」の先駆けだったのである。
その第2弾として長沼先生が1990年にお書きになったのが「一般相対性理論の直観的方法: 長沼伸一郎」だった。
アインシュタインが1916年に発表して以来、現在に至るまで、一般相対性理論を学ぶにはリーマン幾何をベースにした高度なテンソル解析の計算をしなければならず、ほとんどの大学生にとってこの難所は「物理数学の難所」のレベルをはるかに超えていた。理系大学生といえども、Newtonのような科学雑誌や講談社のブルーバックスのように単純にイラスト化されたイメージでとらえることしかできなかったのが1990年の時代背景だったのである。
そのようなわけで、本書は「物理数学の直観的方法」のように、大歓迎されるはずだった。けれども、その後の事実が証明しているように有名な本にはなっていない。それどころか本書は、僕が物理学に興味をもった2006年頃には絶版になっており、現在に至るまで入手困難な状況が続いている。幻の名著と言ってよい。近いうちに電子書籍として著者の「長沼伸一郎著作集・販売ページ」から購入できるそうだが、発売日は未定だ。この伝説の書はぜひ復刻してほしい。
本書刊行後、2000年頃から講談社の「なっとくシリーズ」や「ゼロから学ぶシリーズ」が刊行され始め、初等解説書と専門書の間の「中間レベル」のジャンルが充実してきた。主流は大学教養課程の学習内容についてである。現時点では次のようなシリーズがこのジャンルにあげられるのだと思う。
- 広江克彦さんの「趣味で物理学」シリーズ
- 結城浩さんの「数学ガール」、「数学ガールの秘密ノート」シリーズ
- 講談社の「なっとくシリーズ」
- 講談社の「ゼロから学ぶシリーズ」
- 秀和システムの「図解入門」シリーズ
- ベレ出版の「高校生からわかる」シリーズ
- ベレ出版の「まずはこの一冊から」シリーズ
- 技術評論社の「1冊でマスター」シリーズ
- 講談社ブルーバックスシリーズのうちの一部の本
一般相対性理論については広江克彦さんが2008年にお書きになった「趣味で相対論」を皮切りに、現在までに次のような本が「中間レベル」の学習者の助けとなっている。
- 趣味で相対論: 広江克彦(紹介記事)(学び方)
- ブラックホールと時空の方程式:15歳からの一般相対論:小林晋平(紹介記事)
- 一般相対性理論を一歩一歩数式で理解する: 石井俊全(紹介記事)
「一般相対性理論の直観的方法」の詳細目次は、この記事の最後に書いておくが、本書の章立てはこのようなものだ。序文を閲覧できるようにしておいた。
序(閲覧: 1 2 3 4)
第1章 われわれはどういう理由でどんなことを考えなければならないのか
第2章 特殊相対性理論
第3章 一般相対性理論
第4章 時空構造への波動論的アプローチ
第1章と第2章で、光速度不変の原理と特殊相対性理論を再考する。第3章が一般相対性理論、そして第4章は「時空構造への波動論的アプローチ」と題して、連続波動と離散波動という2つのモデルを併用するアプローチにより、粒子的な実在性をもつ量子、量子力学を代表する原理、電場、磁場、波束、重力場、重力子、ディラック場、スピノール場、ド・ブロイ波を再現している。
つまり本のタイトル「一般相対性理論の~」は第3章についてのものであって、全体がカバーする範囲は物理学全体(ただし、クォーク・モデルや原子核物理学は含まれない)と言ってよい。
幾何的アプローチを採用することで、ニュートン的・ガリレイ的な力学と特殊相対論的力学との違い、特殊相対論と一般相対論の違いがイメージしやすくなっているのが特長である。従来の教養書や教科書では特殊相対論と一般相対論は別物として解説しているからだ。
本書がなぜ爆発的に売れなかったかを考えてみると、次のような理由があげられるだろう。
- 読者が限定されるため
序文に「相対論に接して3年未満の読者は除外、第2章は高校物理を理解していない人は除外、第3章は文系の読者に対する配慮は行なっていない。」とお書きになっているように、著者みずから敷居が低くないことを言明されている。
読んでみたところ、敷居の高さはそれ以上であると僕は感じた。おそらく広江克彦さんの「趣味で相対論」のような本、または一般的な教科書でひととおり学んでからではないと、本書を読むのは無理だと思う。
- 正統的な方法で解説する本ではないため
本来、一般相対性理論は、接続や曲率などの概念を会得しながらリーマン幾何学を学んだうえで、テンソル計算をしながら学んでいくのが本道である。そして、その結果得られる「アインシュタイン方程式=重力場の方程式」がようやく理解できるのだ。
本書では、このメインルートがほとんど解説されていない。特殊相対性理論と一般相対性理論の正統的な理解をしないと、読み進めるのが相当つらいと思った。その意味で本書は初等解説書と専門書の間の「中間レベル」のではないと思う。
つまり本書を読んでも、通常の(正統的な方法での)一般相対性理論が理解できるようにはならない。
独自・独特な幾何学的モデリングと長い解説のため
著者の幾何学的なモデリングは、精緻で一般の学生の素養をはるかに超えている。これは他書にはない独自のもので、文章による解説が相当長い。数式を少なく初等的なもにしたからといって、物事が易しくなるわけではない。
本書の定性的な解説の積み重ねにどこまでついていけるかは、相当高度な読者の読解力と想像力、物理現象の理解を要求する。独創的な考え方やモデルであるから、新しいことを、次々と理解していく忍耐力が求められる本なのだ。
相対論から量子力学、素粒子物理学までの前提知識が要求されるため
本書を手に取る人の最大の動機は「一般相対性理論を直観的にイメージできるようになりたい。」ということだと思うが、第4章では、それ以上の物理学の領域が独特のやり方で展開される。
つまり、第4章で解説されている電磁気学、量子力学、場の量子論、そして素粒子物理学の知見が前提知識として要求されるのだ。必須であるとは本書に書かれていないけれども、これらを学ばずして第4章を読み解くのは無理だと思った。
このような理由により、本書は学部レベルのほとんどの人の理解力を超える本なのだ。復刻してほしい本ではあるが、売り上げが見込めるかどうかは疑問である。
それでも有用な1冊である
否定的なことばかり書いてしまったが、これは本の売れ行きばかりを気にした結果であり、学術書の価値の本質とは売り上げとは本来別だ。本書の価値は売り上げという尺度で測るべきではない。
一般相対性理論や素粒子物理学まで学んだ人が本書を読むと、その価値は一目瞭然だと思う。「直観的説明」、「直観的イメージ」というのは、2次元、3次元の空間幾何学と1次元の時間軸を使った理解であり、図形的なものだ。一般相対性理論を数式を通じて理解していても、イメージできない人がほとんどだ。また、量子的世界にしても同じことである。
直観的な幾何学モデルを提示し、改良を重ねていくなかで、正統的な教科書で学んできた物理法則、物理現象が、見事にあらわれてくる様子を見るのが本書を味わう醍醐味だ。物理法則、物理現象の解釈は著者独自のモデル化を通して与えられる。
「物理数学の直観的方法: 長沼伸一郎」のようなわかりやすさを期待してはいけないし、独創的なため、「趣味で相対論: 広江克彦」や「ブラックホールと時空の方程式:15歳からの一般相対論:小林晋平」と比較できる本ではない。刊行された1990年時点であっても、現代であっても、物理学の副読本というジャンルの中で、本書の意義や価値はまったく変わっていないと思う。これが僕が復刊を望む理由でもある。
イメージがわかない方のために、見開きで3か所ほどサンプル・ページとして掲載しておこう。
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本書は他の本とあまりにも違うため評価は分かれることだろう。 本書に言及しているツイートを参考にしていただきたい。
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重力理論 Gravitation-古典力学から相対性理論まで、時空の幾何学から宇宙の構造へ
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序(閲覧: 1 2 3 4)
第1章 われわれはどういう理由でどんなことを考えなければならないのか
第2章 特殊相対性理論
- アプローチの方法
- ガリレイ変換の場合
- 生じる問題点
- トライアル1回目
- トライアル2回目
- 立体図の作り方
- ローレンツ変換の導出
- 幾何学的操作のイメージ
- 同時性の問題
- 相対性の問題
- 幾何学的注意(1)
- 幾何学的注意(2)
- 速度の加法則
- 質量の変化
- 質量とエネルギー
第3章 一般相対性理論
- 一般相対論への移行
- 重力場へのアプローチ
- 等価原理
- 時間の遅れの値
- 特殊相対論との統合
- シュヴァルツシルト解
- ブラックホール
- 光線の湾曲
- 重力波
第4章 時空構造への波動論的アプローチ
- 基本となる思考実験
- 基本となるモデル
- モデルの問題点
- 離散波の導入
- 波束とその問題点
- E=mc^2 および反粒子について
- 重力場について
- 離散波単位の条件
- 相対論に対する確認
- 電場について
- 磁場について
- スピノールについて
- ド・ブロイ波との統合
後記