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ベクトル解析30講:志賀浩二

ベクトル解析30講:志賀浩二

内容紹介:
現代の視点に立てば、ベクトル解析の主題は一般の座標変換で不変であるような解析学が展開できる数学的形式の確立とその応用にあろう。本書は微分形式を取り上げ、読者がそれによって立つ場所を一望できる地点に近づけるよう明快に解説。

1989年5月1日刊行、234ページ。

著者について:
志賀浩二(しがこうじ): ウィキペディアの記事
1930年、新潟県生まれ。東京大学大学院数物系数学科修士課程修了。東京工業大学名誉教授。理学博士。一般向けの数学啓蒙書を多数執筆しており、第1回日本数学会出版賞を受賞。(近況

志賀先生の著書: Amazonで検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で421冊目。

今年の2月あたりから本書はツイッターで話題になっていた。(確認してみる)すごく気になったので早く読まなければと思いつつ、寄り道ばかりしてしまいやっと読むことができた。

なぜ気になったかというと、タイトルが「ベクトル解析」なのに中身はまったく違うというツイートが多かったからだ。(確認してみる)ツイートから判断するとテンソル解析、微分形式、多様体の内容が書かれているらしい。これらはふつうベクトル解析とは別物として扱われることがらだ。

ベクトル解析という言葉で一般的に連想するのは div, grad, rot, ナブラ, ラプラシアンなど、電磁気学で現れる物理法則や演算子を表記するときに使われる数式で、次のような本で学ぶことがらだ。3冊ともお勧め本である。

ベクトル解析:戸田盛和
ゼロから学ぶベクトル解析:西野友年」(Kindle版
高校生からわかるベクトル解析:涌井良幸 」(Kindle版
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つまり、気になったのは「ベクトル解析30講:志賀浩二」が、どこまでタイトルからイメージされる内容を裏切っているかということだ。いずれにせよ中味を見ないで買う入門者はあてが外れることになる。

そして本書は先日紹介した「相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く: 松尾衛」の「参考文献」の35番目にあげられている。読むのにちょうどよいタイミングだった。

章立ては次のとおり。

第1講: ベクトルとは
第2講: ベクトル空間
第3講: 双対ベクトル空間
第4講: ベクトル空間の双対性
第5講: 双線形関数
第6講: 多重線形関数とテンソル空間
第7講: テンソル代数
第8講: イデヤル
第9講: 外積代数
第10講: 外積代数の構造
第11講: 計量をもつベクトル空間
第12講: 正規直交基底
第13講: 内積と基底
第14講: 基底の変換
第15講: R^3のベクトルの外積
第16講: グリーンの公式
第17講: 微分形式の導入
第18講: グリーンの公式と微分形式
第19講: 外微分の不変性
第20講: グリーンの公式の不変性
第21講: R^3上の微分形式
第22講: ガウスの定理
第23講: 微分形式の引き戻し
第24講: ストークスの定理
第25講: 曲面上の局所座標
第26講: 曲面上の微分形式
第27講: 多様体の定義
第28講: 余接空間と微分形式
第29講: 接空間
第30講: リーマン計量


ご覧になってわかるように、ベクトル空間、双対ベクトル空間、テンソル代数、外積代数、ベクトル空間の計量や内積、外積代数、微分形式、外微分、多様体、リーマン計量とてんこ盛りである。章を重ねるにつれて幾何学的概念の抽象度を上げていく。

本書では電磁気学で使われるベクトル解析は「古典的な色合いをもつベクトル解析」と表現し、本書で解説するのは「現代の視点に立つベクトル解析」だということ。それは微分・積分の延長上にある微分形式、そして微分形式が構成する外積代数、テンソル代数などのことだ。著者の志賀先生は、これらもベクトル解析の一部だというお考えのもとに本書を執筆したのである。従来のベクトル解析は第24講の(Tea Time)で軽く触れられているにすぎない。

したがって、本書は微分形式や外微分の初等的な入門書である。そして微分形式の導入についても古典的なグリーンの公式やガウスの定理の中に、すでに微分形式へと移行する萌芽があったことを示している点でユニークな本なのだ。

あと、本書で素晴らしいと思ったのは座標変換による不変性の証明にこだわって解説していることだ。微分形式で表現したグリーンの公式、外微分、ガウスの定理などの座標系によらない不変性の証明、ストークスの定理の証明が、イラストを交えながらとても丁寧に解説されている。

そして、総仕上げに曲面上の微分形式から多様体、リーマン計量、リーマン幾何学の入口へと読者を導いているのである。

物理学科の学生が電磁気学を理解するために学ぶ従来の古典的な色合いをもつベクトル解析は、数学科ではほんのさわり程度しか学ばない。(もちろん数学科では電磁気学を学ばないからだ。)そのかわりに数学科の学生は本書の主題となる微分形式、微分幾何学、多様体を純粋に幾何学として学ぶことなる。

そして数学科の学生はあずかり知らないことだが、これらの現代幾何学は先日紹介した「幾何学から物理学へ: 谷村省吾」や「相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く: 松尾衛」で書いたように、現代物理学において数理科学的な意味で重要な役割を果たしているのだ。ここでいう現代物理学とは特殊および一般相対論、量子力学、場の量子論におけるゲージ理論、超弦理論などである。


本書は志賀先生がお書きになった「数学30講シリーズ」のうちの1冊だ。

朝倉書店|【数学】数学30講シリーズ
http://www.asakura.co.jp/nl/series0101.html

このシリーズは「大学の授業についていけない学生向きに、やさしくポイントを解説」しているのだという印象を持っていたが、本書はシリーズ10冊の中でも難しめだと思う。

数学30講シリーズを検索
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ご覧になってわかるように、第5巻以降はページ数が多い。とはいえ234ページの本書で、これだけの項目を丁寧に解説しきっていることを思うと、素晴らしいの一言に尽きる。

「ベクトル解析30講」というタイトルに惑わされず、テンソル代数、微分形式、微分幾何学、多様体の優れた入門書と割り切ってお読みになっていただきたい。


関連記事:

集合への30講:志賀浩二
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f738f8a10968ffb2d2f0ebb6192966ef

位相への30講:志賀浩二
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群論への30講:志賀浩二
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4d07e42584724f4b72433be8f2738653

線型代数[改訂版]: 長谷川浩司
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2ef742e3bfe4561bea2b6994bc16909c

線型代数学(新装版):佐武一郎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/68045ac328ae84567ee61c91f03bb99e

幾何学〈3〉微分形式:坪井俊
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c9cd27d66fb448bfb519a2ab0c5e99f7

テンソル解析:田代嘉宏
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2c836967d34de2d35737292d95ad426b

現代数学への招待:多様体とは何か:志賀浩二
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7aade4e043ef0b93de491bf674c734f3

多様体の基礎: 松本幸夫著
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a372a9ed92d55474cdbbb707922dc353

幾何学〈1〉多様体入門:坪井俊
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b3e1ce8cb8a308649bdf0db23a75e29b

『相対論とゲージ場の古典論を噛み砕く』の参考書籍
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/84e2122f4587cde561c3c5f3ed74f9a7

理工系のための トポロジー・圏論・微分幾何:谷村省吾
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3f58e5c285fe4c45a9a551593a72940a

幾何学から物理学へ:谷村省吾
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7e5a3ea4d9f7c96514ffab0b8efcd973


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ベクトル解析30講:志賀浩二
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はしがき

第1講: ベクトルとは
- 風向きを表わす矢印
- 高速道路の自動車の流れを示す矢印
- 磁石の働きを示す矢印
- 力学とベクトル
- ベクトル和とスカラー積
- 抽象数学の中でのベクトル--加法とスカラー積の演算だけに注目
- 線形代数とベクトル解析
- (Tea Time)

第2講: ベクトル空間
- これからのプラン
- ベクトル空間の定義
- 1次独立と1次従属
- 有限次元のベクトル空間
- (Tea Time) 同型なベクトル空間

第3講: 双対ベクトル空間
- 線形関数
- 線形関数の和とスカラー積
- 双対ベクトル空間 V*
- V* の構造--'座標成分'を対応させる線形関数
- 双対基底
- (Tea Time)

第4講: ベクトル空間の双対性
- 視点を変えてみる--V の元は V* 上の線形関数
- V から (V*)* への1対1対応
- (V*)* における双対基底
- 同型対応 Φ: V → (V*)*
- 双対性
- ベクトルの新しい見方
- 1変数関数から多変数関数への拡張
- (Tea Time) 双対原理

第5講: 双線形関数
- 双線形関数
- 双線形関数のつくる空間
- V のテンソル積 V⊗V
- V の元のテンソル積 x⊗y
- V⊗V の元の表示
- V⊗V の構造:基底は {e_i⊗e_j: i,j=1,2,...,n} で与えられる
- (Tea Time)

第6講: 多重線形関数とテンソル空間
- k重線形関数、多重線形関数
- k-テンソル空間
- テンソル積を V の元の'かけ算'と考える
- 'かけ算'の規則
- 多項式のかけ算
- k次の単項式のつくる1次元ベクトル空間 Pk
- 多項式全体のつくる空間 P~: P~=P0⊕P1⊕...⊕Pk⊕...
- (Tea Time) algebraという単語について

第7講: テンソル代数
- V 上のテンソル代数
- テンソル代数における演算の定義
- テンソル代数の構造
- テンソル代数の元の次数
- テンソル代数と多項式代数の違い--乗法の非可換性と可換性
- ベクトル空間 V からテンソル代数 T(V) へ
- (Tea Time)

第8講: イデヤル
- 代数 A のイデヤルの一般的な定義
- イデヤル I による類別--同値類
- 商集合 A/I
- 商集合 A/I は、代数の構造をもつ
- 商代数
- 多項式代数における1つの例
- (Tea Time) イデヤルについて

第9講: 外積代数
- 目標:T(V) の適当なイデヤル I をとって、有限次元代数 T(V)/I をつくる
- x⊗x (x∈V) から生成されるイデヤル
- 外積 ω⋀ω'
- E(V) の部分空間 ⋀~k V
- E(V) の乗法の基本規則: x⋀x=0, x⋀y=-y⋀x
- (Tea Time) 誰が外積代数など考え出したのか

第10講: 外積代数の構造
- V の基底による ⋀~2 V の元の表現
- V の基底による ⋀~k V (k≧3)の元の表現
- k > dim V ならば ⋀~k V = {0}
- E(V) の基底
- (Tea Time)

第11講: 計量をもつベクトル空間
- 内積の導入、計量をもつベクトル空間
- 内積の性質、シュワルツの不等式
- 角の定義
- 直交性
- R^3 の場合
- (Tea Time)

第12講: 正規直交基底
- 正規直交基底
- 正規直交基底の存在--ヒルベルト-シュミットの直交法
- ヒルベルト-シュミットの直交法の幾何学的説明
- 正規直交基底と内積
- (Tea Time) 任意のベクトル空間に内積は導入できる

第13講: 内積と基底
- 基底と内積: g_ij=(e_i,e_j)
- 内積を与えると、V と V* の間の標準的な同型対応が決まる
- 標準的な同型対応を詳しく調べる
- テンソル記号、アインシュタインの規約
- 指標の上げ下げ
- (Tea Time) テンソルの記号について

第14講: 基底の変換
- 基底変換、基底変換の行列
- 成分の変換
- 互いに反変的な変換
- 双対基底の基底変換
- テンソル積の基底変換
- 外積の基底変換
- 変換則の行列式
- (Tea Time)

第15講: R^3のベクトルの外積
- x×y の定義と基本性質
- x と y が1次独立のことと x×y≠0 は同値
- 基底ベクトル相互の外積
- x×y の幾何学的性質
- 一般に結合則は成り立たない
- (Tea Time)

第16講: グリーンの公式
- 微分・積分の基本公式
- グリーンの公式
- グリーンの公式の左辺--面積分
- グリーンの公式の右辺--線積分、周の向き
- グリーンの公式の証明
- (Tea Time) 面積を線積分で表わすこと

第17講: 微分形式の導入
- グリーンの公式の新しい定式化へ向けて
- ベクトル空間に値をとる関数
- 連続なベクトル値関数
- C~∞-級のベクトル値関数
- dx, dy を基底とするベクトル空間
- 1次、2次の微分形式
- 外微分 d
- (Tea Time) dx, dy という記号について

第18講: グリーンの公式と微分形式
- 微分形式の積分
- グリーンの公式を微分形式を用いて表わす
- 座標変換による不変性
- 線形な座標変換
- 線形な座標変換による不変性
- C~∞-級の座標変換
- (Tea Time)

第19講: 外微分の不変性
- 座標変換と関数の変数変換
- 全微分の復習
- ベクトル空間 V_2 の基底の変換則
- V_2 の成分の変換則
- 外微分の座標変換による不変性
- (Tea Time)

第20講: グリーンの公式の不変性
- 向きを保つ座標変換
- グリーンの公式は、向きを保つ座標変換によってある不変性をもつ
- この証明は、外微分の座標変換による不変性と、重積分の変数変換の公式による
- 微分形式について
- 各点に付随するベクトル空間 V_2 --余接空間
- (Tea Time) 表現の意味するもの

第21講: R^3上の微分形式
- ベクトル空間 V_3
- R^3 上の1次の微分形式
- R^3 上の2次、3次の微分形式
- 微分形式のつくる空間
- 外微分
- 外微分の性質
- (Tea Time)

第22講: ガウスの定理
- 外微分の不変性
- ガウスの定理
- C~∞-級の曲面
- 曲面 S の向き
- 面積分
- ガウスの定理の証明
- ガウスの定理の不変性
- (Tea Time)

第23講: 微分形式の引き戻し
- 問題の提起
- 問題の答が肯定的--ストークスの定理
- パラメーター表示できる曲面
- 微分形式の引き戻し
- 引き戻しによる外微分の不変性
- (Tea Time) 穴のあいた領域と穴のあいた曲面

第24講: ストークスの定理
- ストークスの定理
- 曲面の向き
- ストークスの定理の証明の筋道--引き戻しによってグリーンの公式に帰着させる
- ストークスの定理の証明
- 結論
- (Tea Time) ベクトル解析における慣用の記号(div, rot, grad)

第25講: 曲面上の局所座標
- パラメーターで表わされない曲面
- 曲面--紙を貼り合わせるというイメージ
- R^3 の曲面の定義
- 局所座標
- 局所座標の変換
- C~∞-級の曲面
- (Tea Time) 曲面の形

第26講: 曲面上の微分形式
- 曲面上の C~∞-級関数
- 余接空間
- 曲面上の1次の微分形式
- 曲面上の2次の微分形式
- 外微分
- ストークスの定理
- (Tea Time) クラインの壺

第27講: 多様体の定義
- 再び抽象的設定へ
- 位相多様体
- 局所座標
- C~∞-級の多様体(滑らかな多様体)
- 多様体上の C~∞-級関数
- (Tea Time) 多様体の例

第28講: 余接空間と微分形式
- 余接空間
- 1次の微分形式
- k次の微分形式
- k次の微分形式のつくる空間 Ω^k(M)
- 外微分:Ω^k(M)→Ω^(k+1)(M)
- 余接バンドルの考え
- (Tea Time)

第29講: 接空間
- 接空間の定義:余接空間の双対空間
- 接ベクトル
- 接空間における基底の変換則
- 接ベクトルの成分の変換則
- 曲線の定義する接ベクトル
- ベクトル場
- (Tea Time) ベクトル場は微分作用素にもなっている

第30講: リーマン計量
- 接空間への内積の導入の問題点
- 内積についての復習
- リーマン計量
- 曲線の長さ
- リーマン計量の存在
- リーマン計量の表わし方 g_ij dx^i dx^j
- テンソル計算
- (Tea Time)

索引

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