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昨夜の発表の感想: 宇宙誕生時の「重力波」観測 米チームが世界初


僕らはなんてすごい時代に生きているのだろう。昨夜は発表を聞きながらツイッターから目が離せない2時間となった。興奮してなかなか寝付くことができなかった。

詳しい解説は大栗博司先生や佐藤勝彦先生など専門の先生方にお任せし、取り急ぎ感想を述べておこう。


今回の発表は1日前に大栗先生のブログで告知と解説が行われていた。

原始の重力波(大栗博司のブログ)
http://planck.exblog.jp/21835733/

この記事によると138億年前の宇宙の始まりに発せられた、宇宙背景マイクロ波輻射(CMB)の偏光の観測をBICEP2という望遠鏡(掲載写真の右側の望遠鏡)を使って行い、その結果が発表されたことになる。

そして誕生から38万年たった「宇宙の晴れ上がり」と呼ばれる頃よりさらに昔の重力波が(間接的に)観測され、誕生時に非常に小さかった宇宙が急激に膨張したとする佐藤勝彦自然科学研究機構長らの「インフレーション理論」の正しさが裏付けられたのだという。私たちが光や電波で観測することのできる宇宙は事実上「宇宙の晴れ上がり」の手前までなので、それより遠くの宇宙、昔の宇宙の様子を詳しい精度で観測することができたのだ。

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(出典:KEKによる解説ページ

宇宙の始まりとは?
http://cbr.kek.jp/outreach/how/about.html


大栗先生の記事によると、この観測結果は次のような意味を持っているそうだ。(解説は先生のブログ記事でどうぞ。)

(1) 原始重力波の確認は、インフレーション模型の検証になる。
(2) B−モード偏光の観測により、インフレーションの機構が明らかになる。
(3) 量子重力の効果の初めての観測である。
(4) 誕生38万年以前の宇宙の姿を見ることができる。


このうち僕が特に目を見張ったのは(3) 量子重力の効果の初めての観測だということ。つまり量子的な揺らぎを起源とする原始の重力波を世界で初めて観測したということだ。量子力学と一般相対性理論の深いつながりを観測データが示したわけである。またこれは「重力の量子化の直接の効果を見ている」ことであり、「ホーキング輻射を見ている」ことにもなるそうなのだ。

はるか彼方の宇宙を観測することは昔の宇宙を見ていることと同じである。それは遠くの宇宙から出る光や電磁波は地球に届くまでに途方もない時間がかかるからだ。私たちの目に届いている光は太古の昔にそのあたりの宇宙を出発した光なのである。だから上のらっぱ型をした宇宙の図では下にいくほど「遠い宇宙」=「昔の宇宙」を意味している。

もともとひとつの領域から爆発的に膨張した過去の宇宙は、四方八方の彼方に広がっていった。またその領域にあった莫大なエネルギーは宇宙全体に広がって薄まり、現在ではそのエネルギーは宇宙背景マイクロ波輻射(CMB)とか宇宙背景放射と呼ばれる電磁波として観測される。

そして宇宙の誕生の瞬間について言えば、宇宙は極限まで小さく、そこではミクロの世界の物理法則である量子力学と、マクロの世界で成り立つ一般相対性理論(重力理論)の両方が同じ空間領域と時間領域で成り立っていなければならない。NHKの「神の数式」という番組で解説されていたように、これまでこの2つの理論は共存させることができなかった。今回の観測で2つの理論の共存が示されたことにより、時空の構造を解明する糸口が開けたのだ。それは「超弦理論」や「量子重力理論」など現在私たちの周りにある時空間と物質の構造の解明に直結する研究内容である。


また重力波についても間接的な検証例がまた1つ追加されたという点が重要だ。直接的な検証はまだなされていないのだが、ウィキペディアの「重力波(相対論)」の記述にあるように間接的な検証は1974年に行われている。(ただし「原始重力波」の観測は今回が初めてのことだ。)

「1974年、ジョゼフ・テイラーとラッセル・ハルスは、連星パルサー PSR B1913+16 を発見し、その自転周期とパルスの放射周期を精密に観測することによって、その軌道周期が徐々に短くなっていることを突き止めた。この現象は、重力波によってエネルギーが外に持ち出されたことで起きるとされ、その周期減少率は一般相対論の予言値に誤差の範囲内で一致した。この業績により、2人は「重力研究の新しい可能性を開いた新型連星パルサーの発見」としてノーベル物理学賞(1993年)を受賞している。」


空間と時間をさざ波のように振動させて伝わる重力波の存在はアインシュタインの「一般相対性理論(1916年)」から導かれていた予想だ。

今回観測された重力波の痕跡:重力波の影響と考えられる特徴的なパターンがみられた。

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アインシュタインは1918年と1937年に「重力波について」という論文を発表している。僕が6年前に書いたブログ記事で、論文の内容をおおまかにつかむことができる。そして重力波の進む速度は光速に一致することも1918年の論文で計算されている。

アインシュタイン選集(2):
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3d0869ab3911e84845b5b121bd1aa3e

[A8] 重力波について(1918年):ブログ記事
1.遅延ポテンシャルによる重力場の近似方程式の解
2.重力場のエネルギー成分
3.平面重力波
4.力学系による重力波の放射
5.力学系に対する重力波の作用
6.レビ・チビタの反論に対する答

[A9] 重力波について(1937年):ブログ記事
1.平面波の問題に対する近似解および重力波の生成
2.円筒型の波に対する厳密解


今回発表された論文や観測データの場所はここだ。

http://bicepkeck.org/

論文の結論としては「長かった B-mode 探しの時代は終わり、B-mode Cosmologyの時代が始まった」ということだそうだ。今後、より精度の高い観測が行われ、今後研究がさらに加速していく宇宙論と物理学上の新たな発見を待つのがとても楽しみだ。


その後、大栗先生はより詳しい解説記事を投稿されたのでお読みください。

原始の重力波 その2(大栗博司のブログ)
http://planck.exblog.jp/21848886/


参考書籍:今回の観測で検証されたインフレーション宇宙論について知りたい方には、次の3冊をお勧めしたい。

インフレーション宇宙論―ビッグバンの前に何が起こったのか:佐藤勝彦
宇宙が始まる前には何があったのか?:ローレンス・クラウス
宇宙,無からの創生―138億年の仮説はほんとうか(Newton別冊)

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宇宙誕生時の「重力波」観測 米チームが世界初
佐藤氏らの急膨張理論を裏付け
(日本経済新聞:2014/3/18 1:44)

138億年前の宇宙の誕生直後に発生した「重力波」の証拠とされる現象を、世界で初めて観測したと米カリフォルニア工科大などのチームが17日、発表した。生まれたばかりの宇宙の姿を探る重要な手掛かりとなる。

誕生時に非常に小さかった宇宙が急激に膨張したとする佐藤勝彦自然科学研究機構長らの「インフレーション理論」を、観測面から強く裏付ける成果だ。

重力波は、物体が動いたときに重力の影響で発生し、空間や時間の揺れが波のように広がる。アインシュタインが相対性理論で存在を予言したが、直接観測されたことはない。

チームは、宇宙が生まれた38万年後に放たれた光の名残である「宇宙背景放射」と呼ばれる電波を、南極に設置したBICEP2望遠鏡で詳しく観測し分析した。その結果、宇宙初期の急膨張によって出た重力波が、光の振動する方向に影響を与え、方向が特定のパターンを描いていることを初めて発見。間接的に重力波の存在を確認したとしている。

インフレーション理論は1980年代初めに、佐藤氏や米国のアラン・グース博士がそれぞれ提唱。宇宙が火の玉で始まったとするビッグバン理論が説明しきれない部分を解決し、広く受け入れられている。



重力波、誕生間近の宇宙膨張の痕跡 米チームに「ノーベル賞級」との評価
(MSN産経ニュース 2014.3.18 14:51)

138億年前の「重力波」の証拠を観測したと発表した米カリフォルニア工科大や米ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのチームは、日本時間18日未明の記者会見で、誕生直後の宇宙の姿を初めて観測した成果だと強調した。海外メディアや英科学誌は速報で成果を伝え「ノーベル賞級」と評価している。

生まれたばかりの宇宙は急激に膨張したと考えられており、その際に発生した重力波の痕跡を今回、初めて見つけたとしている。

チームによると、痕跡から重力波の強さも測定。重力波を発生させた急膨張のエネルギーを計算するのにつながり、宇宙の始まりに起きた現象を、これまでにないほど正確に知ることができるという。

英BBC放送(電子版)は「成果は注意深く検証されなくてはならない」としながらも「一方ですでにノーベル賞の声が上がっている」と付け加えた。英科学誌ネイチャーは、緊急ニュースとして速報した。


用語解説:

重力波 物体が加速しながら運動するときに、周囲に伝わる時間や空間の揺れ。重力波は極めて小さいため、高密度で大きな質量の物体が動かないと観測は難しい。ブラックホールの衝突や中性子星の自転などで観測されると期待されている。アインシュタインが理論的に存在を予言したが検出されておらず、世界中で発見が競われている。日本は、岐阜県飛騨市の地下に一辺が長さ約3キロのL字形の検出器を建設中。


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