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アラン・コンヌ博士の非可換幾何学とは?

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非可換幾何学入門:アラン・コンヌ

内容紹介
1980年代初め,現代数学と数理物理学との接点で誕生した非可換幾何学。本書はこの分野を創始した著者が、コレージュ・ド・フランスでの講義に基づいて書き下ろした入門的な解説である。非可換幾何学および数理物理学との関係が斬新な哲学と視点に立って生きいきと語られている。フランス語版からの翻訳。

訳者について
丸山文綱
1963年生まれ、1987年東京大学理学部数学科卒業、パリ北大学PhD.、専攻:数理物理、微分方程式


次にレビュー記事で紹介しようとしている本は、まだ読んでいる途中なので、今回も軽めの記事(というか丸写し系の記事)を書くことにした。

現代物理学と現代幾何学に深いつながりがある。「東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構」で見られるように、現代では物理学者と数学者が共同して研究を進めているのもそのためだ。このことは先日「ゲージ理論とトポロジーの年表」という記事で紹介した。

けれどもこの年表にはアラン・コンヌ博士の名前がない。2009年にNHKで放送された「素数の魔力に囚われた人々 〜リーマン予想・天才たちの150年の闘い〜」にも出演された現代を代表する数学者の一人だ。この番組の中で博士は「素粒子物理学者たちが目指しているものは、私が研究している非可換幾何学であることに気が付いた。」と述べていたのが強く印象に残っている。

コンヌ博士のホームページ
http://www.alainconnes.org/en/




博士が非可換幾何学を提唱したのは1980年代のことだから、この年表に名前が載っていてもおかしくない。研究の方向性が違うからだろうか?博士の非可換幾何学というのはどういうものなのだろう?

とはいえ「非可換幾何学入門:アラン・コンヌ」は、今の僕が読めるような本ではなく、せいぜい「あらすじ」や「訳者あとがき」で大まかな内容をつかめる程度だ。

ま、それでもよいではないか。本書から「あらすじ」と「訳者あとがき」を丸写しすることにした。これは僕のブログが目指している方向性のひとつであるわけだし、本書を購入するかどうか迷っている方の判断材料にもなると思う。

なお、本書の英語版は以下のページからPDFファイルとしてダウンロードできる。(日本語版はフランス語版から訳されたものだ。詳細は以下の「訳者あとがき」を参照。)

コンヌ博士の著作のダウンロードページ:
http://www.alainconnes.org/en/downloads.php

なお、コンヌ博士は2011年に「Noncommutative Geometry and Global Analysis (Contemporary Mathematics)」 や「Noncommutative Geometry, Arithmetic, and Related Topics: Proceedings of the Twenty-first Meeting of the Japan-u.s. Mathematics Institute」という本を(共著で)お出しになっている。これら2冊の詳細は「近日発売: コンヌ博士の非可換幾何学関連の書籍(英語版)」という記事でお読みいただきたい。


はじめに

代数幾何学によって、幾何学的な空間と可換環論との関係はあきらかになった。この本の目的は実解析学の範疇で可換を越えたところでの幾何学的な空間と関数解析との同じような対応を示すことである。

この理論を支えるのは本質的な三本の柱である。

1)自然に現れて、古典的な解析学の手法を適用することはできないが、非常に自然に非可換代数を対応させることができる数多くの例。たとえば、ペンローズの宇宙の空間、葉層多様体の葉全体の空間、離散群の既約表現全体の空間など。

2)測度論、位相、微分演算、計量などの古典的な解析学の手法の、代数やヒルベルト空間を用いた再定式化。その場合、自然な状況には非可換が対応していて、その中でとくに可換な場合が、この一般論の中では孤立していることもなければ、また閉じていることもないようにできるということ。

3)物理学者が考察する空間の多くが非可換として捉えられるという意味での物理学との関係。まず、ハイゼンベルクによって行列力学という形で発見された量子力学(第1章)は、古典力学の相空間上の関数全体の可換環を非可換なものに置き換えた。その代数は単純な系の場合には行列全体の作る環だが、量子統計力学的な系の場合には非自明なC*環になる。次にベリサールの固体物理学における仕事(第4章)によって、そのエネルギーと運動量の空間は、(その上で定義された関数全体のなす環が非可換なものによって置きかえられるという意味で)非可換なものとなった。最後に(第5章)、ワインバーグ-サラムモデルによる素粒子物理学は時空間を支配する幾何学をあきらかにしたが、その幾何学は非常に微妙なものであって、われわれがそこに(4次元の多様体上の)非可換幾何学を考える余地を残している。それは微分形式の概念や時空間の二重化を考えることによって、標準模型のヒグスボソンに対する概念的な根元を純ゲージボソンとして理解するということに関係する。

各章は独立に読むことができる。第1章は一般的な序論である。第2章では量子空間の、位相、K-理論、微分演算、K-ホモロジーと関係した非可換幾何学の諸結果を概観している。本来の意味での幾何学、いいかえれば量子空間の距離に関連するものは第5章で素粒子物理学との関係で扱う。

第3章は非可換測度論、つまりフォンノイマン環とその上の荷重の理論の概観である。

本文中ではなるべく独断を避け、研究上重要な未解決な部分は具体的な問題の形で提示するように努めた。


訳者あとがき

この本は、数学のノーベル賞ともいわれるフィールズ賞の受賞者であるアラン・コンヌのフランス語版原著 Geometrie non commutative (1990年)の全訳である。

ことわっておくと、この本には「英訳」Non Commutative Geometry (1994年)がある。フランス語版は一般書として数学に興味のあるすべての人向けといった風情もあり、また非可換幾何学紹介、さらに、やってやるぞ、という雰囲気(翻訳でうまく表現できたであろうか?)があるのに対し、この「英訳」はコンヌ自身の手で細かい内容、章立てが書き換えられて、原著比「3.8倍」の厚さになってしまい、まさに専門家向けの辞書的なものになってしまった。もちろん、新しい結果、とくに標準模型(スタンダードモデル)に関する発展が付け加わっているのでしかたがないのだが、ただでさえ高めの敷居が、さらに高くなってしまった感は否めない。この「英訳」を読まれる方のためにも、この日本語訳が多少の役に立てば幸いである。

この本の出版前後の数理物理関係の進展について簡単に述べておく。1988年、コンヌは、非可換幾何学のゲージ理論が電弱相互作用と関係していることを指摘した。この時点で、いわゆる対称性の自発的破れと非可換幾何学が結び付けられたのである。さらにコンヌとロトは1990年にこのゲージ理論から素粒子物理の標準模型が出てくることを示した。第5章の脚本はある意味でみごとにあたったのである。この手法はヒッグス場に対する解釈が優れているという点で注目されているが、しかし、いまだに数多くある素粒子理論の主流とはなっていないようである。もしかするとそれは、数学的基礎の部分である作用素環がむずかしいということにあるのかもしれない。その意味では理論の流れを追うことのできるこの本は(多少冗長ではあるが)読みやすいかもしれない。

第4章のベリサールの理論であるが、実は現在ではあまり評価されているようには見えない。というのも整数比ではない、分数量子ホール効果に理論を適合させることが、うまくできなかったからである。もっとも最近でも位相的不変量により分数量子ホール効果を説明する試みは続いているようなので、今後評価がどのようになるかはわからない。ごく私的な思い出になるが、訳者がパリに留学したはじめての年には、ベリサールが高等師範でC*論と量子ホール効果の講義をしていて、何回か出席したが、そのときにははっきりいってあまりよくわからなかった。

はじめに述べたような理由も手伝い、日本語題は『非可換幾何学入門』とした。訳語に関しては『岩波数学辞典第三版』を主として、日本語の参考文献にあげたものを参考にさせていただいた。原著のあきらかな間違い(といってもミスプリントのたぐいであるが)は訂正した。それにしても身につまされたのは、数学関係者との会話で、定着した訳があるものも含めて、いかに英米単語をそのまま使っていたかという点であった。新しい訳語になりそうなものも含め、気をつけて訳したつもりであるが、識者のご意見をいただければ幸いである。

数学を便宜上、代数、幾何、解析と分類することが多い。世の中には、これらが分野として切り離されて存在していると思い込んでいる人がいるようであるが、相互に無関係でいられるほど数学は単純なものではない。逆に、代数と解析が共に集うところに自然に幾何が入り込み、それらが組み合わさって美しい理論となることが多い。この本で見られるように作用素環論はもちろん、その源流たる表現論、あるいは多変数関数論、代数解析学などはよい例であろう。さらには解析数論を挙げてもよいかもしれない。日本語文献「作用素環の構造:竹崎正道」の序文に、作用素環理論は「現代の数論」とあるのだが、コンヌも似たような考えでこの本を書いたような気がする。コンヌ本人は「英訳」に素数分布に関する章を付け加えているし(すでにこの本にもζ関数が出てくるが)、その後、リーマン予想に関連した仕事もしている。

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そしてウィキペディアの「アラン・コンヌ」という項目には、次のことが書かれている。

1990年代には他の数学者とともに量子ホール効果、超弦理論、ループ量子重力理論、格子ゲージ理論など様々な量子力学的概念に対し非可換幾何の手法が有効であることを示している。また、同じ時期に数論的な構成物に対しても非可換空間の構成が可能であることを示し、有数体 Qのアデール類の空間 A/Qxに対する自然な力学系からリーマンゼータ関数(実際にはより一般に、任意の量指標に関するL関数)の零点のスペクトル実現を得ている。


関連記事:

コンヌ博士の非可換幾何学へはどうたどり着けばいいのだろう?
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1655b0e9e6992dcd300fd3ef8910d45d

復刊決定!:非可換幾何学入門:A.コンヌ
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/8c6385a97547f7d914c5a05a8c87d094

コンヌ博士の非可換幾何学関連の書籍(英語版)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e8936e89e809d19daf19ab5f689d9cb6

素数の魔力に囚われた人々 〜リーマン予想・天才たちの150年の闘い
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c855d3c8628459df7371c2c53789c794


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非可換幾何学入門:アラン・コンヌ


目次

はじめに

第1章:序論
- ハイゼンベルクと微視的な系に付随する量子の非可換環
- 巨視的な系の統計力学的な状態と量子統計力学
- モジュラ理論と因子環の分類
- 幾何学における作用素環論の役割

第2章:非可換幾何学入門
- 量子空間の一つの例:ペンローズタイリングが定義する集合
- 葉層構造と横断的測度を持つ場合の指数定理
- III型因子環、巡回コホモロジーとゴドビヨン-ベイの不変量
- 量子空間の巡回コホモロジーとK-理論
- 量子空間のK-ホモロジーと楕円型作用素の理論
- 付録1:ペンローズ・タイリング
- 付録2:巡回コホモロジーの詳細
- 付録3:量子空間と集合論

第3章:作用素環
- マレーとフォンノイマンの論文
- C*環表現
- 非可換積分の代数的枠組みと荷重の理論
- パワーズ因子環、荒木-ウッズ因子環、クリーガー因子環
- ラドン-ニコディムの定理とIIIλ型因子環
- 非可換エルゴード理論
- アメナブル・フォンノイマン環
- アメナブル因子環の分類
- II1型因子環の部分因子環
- 未解決問題

第4章:量子ホール効果
- ガウス-ボンネの定理
- 量子ホール効果
- 理論的な解釈

第5章:素粒子物理学と非可換幾何学
- ゲージ群、スピノルとディラック作用素
- ディクスミエのトレースと対数的発散
- K-サイクルのコホモロジー次元と対数的発散の必要性
- 巡回コホモロジー理論における正値性とヤン-ミルズの作用
- モデルの議論
- 量子空間、量子群を弁護する

参考文献
出典と謝辞
訳者あとがき
索引

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