「素数に憑かれた人たち ~リーマン予想への挑戦~:ジョン・ダービーシャー」(Kindle版)
内容紹介:
フェルマー予想が解決された現在、整数論での次の標的であるリーマン予想に対して取り組んできた数学者の紹介を中心に、素数を知る魅力、取り組みの変遷などを、多くのエピソードを織り込みながら、非数学的な観点をベースに著述した数学ドラマ。奇数章で数学の直感的な説明、偶数章でその歴史的及び人間的なバックグラウンドを解説しています。
リーマン予想は、素数の分布に関する予想で、リーマンのゼータ関数の零点の実数部は1/2であるというもの。1900年にヒルベルトが提示した23の未解決問題及び2000年に米クレイ数学研究所が懸賞金付きで提示した7つの未解決問題の1つに挙げられています。年に1回は「証明した」という発表がされ、話題となる著名な予想。登場人物は、(19世紀から20世紀前半までの数学者を除いて)ピエール・ドゥリーニュ(1978年フィールズ賞)、アラン・コンヌ(非可換幾何学、1982年フィールズ賞)、アラン・チューリング(反例を見つけようとした)、アンドリュー・オドリツコ(後に暗号理論で著名)、ヒュー・モンゴメリ(整数論)、フリーマン・ダイソン(物理学者)、など。
2004年8月刊行、479ページ。
著者について:
ジョン・ダービーシャー(John Derbyshire)
イギリスで数学教育を受け、現在は米国在住のシステム・アナリスト。小説家でもある。
訳者について:
松浦俊輔
名古屋工業大学助教授を経て、翻訳家。名古屋学芸大学非常勤講師など。
訳書: Amazonで検索
理数系書籍のレビュー記事は本書で354冊目。
本書は2009年にNHKで放送された「素数の魔力に囚われた人々 ~リーマン予想・天才たちの150年の闘い~」の原作本、ネタ本である。下北沢の古書店で安いのを見つけたので購入した。
(動画を検索)(NHKオンデマンドで見る)
放送当時から本書は読みたいと思っていたが、およそ8年間手つかずのままだった。番組の内容は覚えているから、おさらい程度になるかなと思って読んだのだが、章が進むにつれてのめり込んでいく。数学物語として見事である。著者の技量はさすがだ。番組を見た直後に読むべきだったと少し後悔した。
数式が書かれた科学教養書という位置づけ。高校数学を学んだ人であれば、難なく読み通せるだろう。オイラーの公式を学び終えた高校生が、大学数学を先取りして複素関数論を学んでみたくなったとき、準備として前もって読むのがよい。数学ファンだけでなく、物理学ファンも大いに萌えることができる本だ。
奇数章は数学的な解説にあてられ、偶数章は素数定理やリーマン予想に取り組んだ数学者たちの伝記だ。リーマン以後、現代までの驚きと神秘に満ちた壮大なストーリー。
本書の主題は「素数定理」と「リーマン予想」
素数定理
https://mathtrain.jp/7theorem
リーマン予想の意味,素数分布との関係
https://mathtrain.jp/riemannyoso
ゼータ関数と素数が関連していることを示す式
ゼータ関数の非自明なゼロ点
ゼータ関数の非自明なゼロ点(「リーマンのゼータ関数の数値計算コード(複素平面)」から引用)
素数は小学生でも求められるほど計算は簡単なのに、素数と密接に結びついているゼータ関数は、複素領域でこれほど複雑なパターンの模様を生み出しているのは、実に神秘的である。
無限個あるというゼータ関数の非自明なゼロ点は次のようにすれば計算できるそうだ。
リーマンゼータ関数のゼロ点を手計算してみた
http://mattyuu.hatenadiary.com/entry/2016/10/02/134730
鳥肌が立ってきたのは、本書の4分の3あたりにさしかかったときだ。第18章の「数論と量子力学の出会い」からである。
ゼータ関数の非自明なゼロ点の間隔と原子核のエネルギー準位の間隔に関連があるのではないかというくだり。ゼロ点とエネルギー準位の間隔が完全に一致したわけではない。これはNHKの番組でも取り上げられていた。数学の世界の素数と現実世界の物質の振る舞いに、なぜ関係性が見られるのだろう?
番組で紹介されたのはこのあたりまでだが、僕は「たまたま両者の数式が一致しただけじゃないの?」と思っていた。
ところが本書では、この話が詳しく解説されるだけでなく、その後のことも語られている。鍵になるのが原子核のエネルギー準位にかかわる「エルミート行列」である。複素数を成分とするこの行列のことは大まかに解説されているので大丈夫。詳しく学びたければ「高校数学でわかる線形代数:竹内淳」をお読みになるとよい。
そしてもうひとつ鍵になるのが「ガウス分布」である。エルミート行列の複素成分をランダムにして、原子核のエネルギー準位の統計的分布を求めるのである。
そして得られたのはゼータ関数のゼロ点の統計的分布と原子核のエネルギー準位の統計的分布に、きわめて高い類似性が見られたという結果だ。現在はまだ「予想」のレベルなのだが、詳細は「モンゴメリー・オドリズコ予想」や「ゼータ関数の零点分布と量子カオス」をお読みいただきたい。本書ではこれらのページよりもずっと易しいレベルで解説がされている。
そして第19章からは、それまでの章でひとまず途中ままにしておいた結果を総合して、素数の分布とゼータ関数の関係性の分析をさらに進める。究極の謎の解決へ向けて突き進むアプローチは、とてもアクロバティック数式変形を伴うが、私たちにも十分理解できる内容に抑えてある。
リーマン予想はまだ証明されていない。数学者たちがどのように考えているかが最終章で紹介される。この予想はおそらく正しいのだろうけれども、間違っている可能性だって残っているのだ。いったいどちらなのだろう?おそらく正しいのだろうと思うしかない。
自分が生きている間に解決するのだろうか?このブログをお読みになるような方だったら、誰もがそう思っていることだろう。
久々に興奮しながら読めた本だった。章が進むにつれて面白くなるので、最初がつまらなくても辛抱して読み続けてほしい。
本書には姉妹本がある。2冊合わせてどうぞ。
「素数に憑かれた人たち ~リーマン予想への挑戦~:ジョン・ダービーシャー」(Kindle版)
「代数に惹かれた数学者たち:ジョン・ダービーシャー」
翻訳の元になった英語版は、それぞれこちら。
「Prime Obsession: Berhhard Riemann and the Greatest Unsolved Problem in Mathematics 」
「Unknown Quantity: A Real and Imaginary History of Algebra」
そして気になるのがこの本。コンパクトながら、上手にまとめてあるようだ。
「リーマン予想とはなにか 全ての素数を表す式は可能か:中村亨」(Kindle版)
リーマン予想といえば黒川信重先生である。この2冊がとても気になっている。(黒川先生の本をAmazonで検索する。)
「リーマン予想を解こう ~新ゼータと因数分解からのアプローチ」(Kindle版)
「絶対数学の世界 ―リーマン予想・ラングランズ予想・佐藤予想」
さらに物理学徒であれば、この2冊が気になるはずだ。
「リーマン予想のこれまでとこれから」
「素数からゼータへ、そしてカオスへ」
1冊読むと、気になる本がとめどなくでてくるのだ。積読本がなくなることは絶対にない。楽しめる本は、まだまだたくさんあるのだとポジティブに考えることにしよう。
関連記事:
素数の魔力に囚われた人々 ~リーマン予想・天才たちの150年の闘い~
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c855d3c8628459df7371c2c53789c794
現代思想 2016年3月臨時増刊号 総特集◎リーマン -リーマン予想のすべて-
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6216f2ff6057e8c3bfa2d4ca8e28d479
リーマン--人と業績: D.ラウグヴィッツ
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/505069a0aa6932910a709a3eeaded988
幾何学の基礎をなす仮説について:ベルンハルト・リーマン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/22be602fe4cee385a9939c0869c511eb
ブログ執筆のはげみになりますので、1つずつ応援クリックをお願いします。
「素数に憑かれた人たち ~リーマン予想への挑戦~:ジョン・ダービーシャー」(Kindle版)
プロローグ
第1部 素数定理
第1章:カード・マジック
第2章:土壌と作物
第3章:素数定理
第4章:巨人たちの肩に乗って
第5章:リーマンのゼータ関数
第6章:大融合
第7章:黄金の鍵と改訂版素数定理
第8章:見いだされる価値
第9章:広がる定義域
第10章:証明と転機
第2部 リーマン予想
第11章:数の体系
第12章:ヒルベルトの第8問題
第13章:複素関数を見る
第14章:執着に捉えられて
第15章:ビッグ・オーとメビウスのミュー
第16章:クリティカル・ラインを上る
第17章:代数を少々
第18章:数論と量子力学の出会い
第19章:黄金の鍵を回す
第20章:リーマン演算子とその他のアプローチ
第21章:誤差項
第22章:正しいかそうでないか、いずれかだ
エピローグ
付録 歌になったリーマン予想
註
訳者あとがき
索引
内容紹介:
フェルマー予想が解決された現在、整数論での次の標的であるリーマン予想に対して取り組んできた数学者の紹介を中心に、素数を知る魅力、取り組みの変遷などを、多くのエピソードを織り込みながら、非数学的な観点をベースに著述した数学ドラマ。奇数章で数学の直感的な説明、偶数章でその歴史的及び人間的なバックグラウンドを解説しています。
リーマン予想は、素数の分布に関する予想で、リーマンのゼータ関数の零点の実数部は1/2であるというもの。1900年にヒルベルトが提示した23の未解決問題及び2000年に米クレイ数学研究所が懸賞金付きで提示した7つの未解決問題の1つに挙げられています。年に1回は「証明した」という発表がされ、話題となる著名な予想。登場人物は、(19世紀から20世紀前半までの数学者を除いて)ピエール・ドゥリーニュ(1978年フィールズ賞)、アラン・コンヌ(非可換幾何学、1982年フィールズ賞)、アラン・チューリング(反例を見つけようとした)、アンドリュー・オドリツコ(後に暗号理論で著名)、ヒュー・モンゴメリ(整数論)、フリーマン・ダイソン(物理学者)、など。
2004年8月刊行、479ページ。
著者について:
ジョン・ダービーシャー(John Derbyshire)
イギリスで数学教育を受け、現在は米国在住のシステム・アナリスト。小説家でもある。
訳者について:
松浦俊輔
名古屋工業大学助教授を経て、翻訳家。名古屋学芸大学非常勤講師など。
訳書: Amazonで検索
理数系書籍のレビュー記事は本書で354冊目。
本書は2009年にNHKで放送された「素数の魔力に囚われた人々 ~リーマン予想・天才たちの150年の闘い~」の原作本、ネタ本である。下北沢の古書店で安いのを見つけたので購入した。
(動画を検索)(NHKオンデマンドで見る)
放送当時から本書は読みたいと思っていたが、およそ8年間手つかずのままだった。番組の内容は覚えているから、おさらい程度になるかなと思って読んだのだが、章が進むにつれてのめり込んでいく。数学物語として見事である。著者の技量はさすがだ。番組を見た直後に読むべきだったと少し後悔した。
数式が書かれた科学教養書という位置づけ。高校数学を学んだ人であれば、難なく読み通せるだろう。オイラーの公式を学び終えた高校生が、大学数学を先取りして複素関数論を学んでみたくなったとき、準備として前もって読むのがよい。数学ファンだけでなく、物理学ファンも大いに萌えることができる本だ。
奇数章は数学的な解説にあてられ、偶数章は素数定理やリーマン予想に取り組んだ数学者たちの伝記だ。リーマン以後、現代までの驚きと神秘に満ちた壮大なストーリー。
本書の主題は「素数定理」と「リーマン予想」
素数定理
https://mathtrain.jp/7theorem
リーマン予想の意味,素数分布との関係
https://mathtrain.jp/riemannyoso
ゼータ関数と素数が関連していることを示す式
ゼータ関数の非自明なゼロ点
ゼータ関数の非自明なゼロ点(「リーマンのゼータ関数の数値計算コード(複素平面)」から引用)
素数は小学生でも求められるほど計算は簡単なのに、素数と密接に結びついているゼータ関数は、複素領域でこれほど複雑なパターンの模様を生み出しているのは、実に神秘的である。
無限個あるというゼータ関数の非自明なゼロ点は次のようにすれば計算できるそうだ。
リーマンゼータ関数のゼロ点を手計算してみた
http://mattyuu.hatenadiary.com/entry/2016/10/02/134730
鳥肌が立ってきたのは、本書の4分の3あたりにさしかかったときだ。第18章の「数論と量子力学の出会い」からである。
ゼータ関数の非自明なゼロ点の間隔と原子核のエネルギー準位の間隔に関連があるのではないかというくだり。ゼロ点とエネルギー準位の間隔が完全に一致したわけではない。これはNHKの番組でも取り上げられていた。数学の世界の素数と現実世界の物質の振る舞いに、なぜ関係性が見られるのだろう?
番組で紹介されたのはこのあたりまでだが、僕は「たまたま両者の数式が一致しただけじゃないの?」と思っていた。
ところが本書では、この話が詳しく解説されるだけでなく、その後のことも語られている。鍵になるのが原子核のエネルギー準位にかかわる「エルミート行列」である。複素数を成分とするこの行列のことは大まかに解説されているので大丈夫。詳しく学びたければ「高校数学でわかる線形代数:竹内淳」をお読みになるとよい。
そしてもうひとつ鍵になるのが「ガウス分布」である。エルミート行列の複素成分をランダムにして、原子核のエネルギー準位の統計的分布を求めるのである。
そして得られたのはゼータ関数のゼロ点の統計的分布と原子核のエネルギー準位の統計的分布に、きわめて高い類似性が見られたという結果だ。現在はまだ「予想」のレベルなのだが、詳細は「モンゴメリー・オドリズコ予想」や「ゼータ関数の零点分布と量子カオス」をお読みいただきたい。本書ではこれらのページよりもずっと易しいレベルで解説がされている。
そして第19章からは、それまでの章でひとまず途中ままにしておいた結果を総合して、素数の分布とゼータ関数の関係性の分析をさらに進める。究極の謎の解決へ向けて突き進むアプローチは、とてもアクロバティック数式変形を伴うが、私たちにも十分理解できる内容に抑えてある。
リーマン予想はまだ証明されていない。数学者たちがどのように考えているかが最終章で紹介される。この予想はおそらく正しいのだろうけれども、間違っている可能性だって残っているのだ。いったいどちらなのだろう?おそらく正しいのだろうと思うしかない。
自分が生きている間に解決するのだろうか?このブログをお読みになるような方だったら、誰もがそう思っていることだろう。
久々に興奮しながら読めた本だった。章が進むにつれて面白くなるので、最初がつまらなくても辛抱して読み続けてほしい。
本書には姉妹本がある。2冊合わせてどうぞ。
「素数に憑かれた人たち ~リーマン予想への挑戦~:ジョン・ダービーシャー」(Kindle版)
「代数に惹かれた数学者たち:ジョン・ダービーシャー」
翻訳の元になった英語版は、それぞれこちら。
「Prime Obsession: Berhhard Riemann and the Greatest Unsolved Problem in Mathematics 」
「Unknown Quantity: A Real and Imaginary History of Algebra」
そして気になるのがこの本。コンパクトながら、上手にまとめてあるようだ。
「リーマン予想とはなにか 全ての素数を表す式は可能か:中村亨」(Kindle版)
リーマン予想といえば黒川信重先生である。この2冊がとても気になっている。(黒川先生の本をAmazonで検索する。)
「リーマン予想を解こう ~新ゼータと因数分解からのアプローチ」(Kindle版)
「絶対数学の世界 ―リーマン予想・ラングランズ予想・佐藤予想」
さらに物理学徒であれば、この2冊が気になるはずだ。
「リーマン予想のこれまでとこれから」
「素数からゼータへ、そしてカオスへ」
1冊読むと、気になる本がとめどなくでてくるのだ。積読本がなくなることは絶対にない。楽しめる本は、まだまだたくさんあるのだとポジティブに考えることにしよう。
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素数の魔力に囚われた人々 ~リーマン予想・天才たちの150年の闘い~
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http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6216f2ff6057e8c3bfa2d4ca8e28d479
リーマン--人と業績: D.ラウグヴィッツ
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/505069a0aa6932910a709a3eeaded988
幾何学の基礎をなす仮説について:ベルンハルト・リーマン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/22be602fe4cee385a9939c0869c511eb
ブログ執筆のはげみになりますので、1つずつ応援クリックをお願いします。
「素数に憑かれた人たち ~リーマン予想への挑戦~:ジョン・ダービーシャー」(Kindle版)
プロローグ
第1部 素数定理
第1章:カード・マジック
第2章:土壌と作物
第3章:素数定理
第4章:巨人たちの肩に乗って
第5章:リーマンのゼータ関数
第6章:大融合
第7章:黄金の鍵と改訂版素数定理
第8章:見いだされる価値
第9章:広がる定義域
第10章:証明と転機
第2部 リーマン予想
第11章:数の体系
第12章:ヒルベルトの第8問題
第13章:複素関数を見る
第14章:執着に捉えられて
第15章:ビッグ・オーとメビウスのミュー
第16章:クリティカル・ラインを上る
第17章:代数を少々
第18章:数論と量子力学の出会い
第19章:黄金の鍵を回す
第20章:リーマン演算子とその他のアプローチ
第21章:誤差項
第22章:正しいかそうでないか、いずれかだ
エピローグ
付録 歌になったリーマン予想
註
訳者あとがき
索引