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8(エイト):キャサリン・ネヴィル

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「8(エイト)〈上〉:キャサリン・ネヴィル」(文庫版)(単行本
「8(エイト)〈下〉:キャサリン・ネヴィル」(文庫版)(単行本

内容紹介
宇宙を司る8の公式。その謎を秘めた黄金のチェスの駒を求め、争奪戦が繰り広げられる。
その昔、紀元8世紀頃のこと。フランク王国を治めていた国王シャルルマーニュ(カール大帝)に対して回教徒のバルセロナ総督から「モングラン・サーヴィス(Montglane Service)」という大きなチェス・セットが贈られた。これはアラビアの名匠の手によるもので、駒は金と銀でできておりルビーやダイヤモンド、サファイヤなどがふんだんに散りばめられていた。このチェス・セットは宇宙を動かすほどの力を秘めているという言い伝えがあった。それから千年の間、「モングラン・サーヴィス」はとある修道院で秘密裏に守られ続けた。そして舞台は革命の嵐吹きすさぶ18世紀末のフランスに移る。存亡の危機にたつ修道院では、この伝説のチェス・セットを守るため、修道女たちが駒を手に旅にでた。 また20世紀の世界を生きるコンピュータ専門家キャサリンは、左遷されたアルジェで「モングラン・サーヴィス」の秘密を握る人物をついに探し当て、駒の在り処めざして決死の砂漠縦断を試みる。世界じゅうに散逸した駒を求め、時を超えた壮絶な争奪戦が繰り広げられる!2世紀の時間に隔てられた物語が一つに溶け合うとき、意外な結末が…。推理・歴史・伝奇・冒険などあらゆる要素がふんだんに盛り込まれた傑作。時空を超えてひろがる壮大かつスリリングな冒険ファンタジー。


本書はひとつ前の記事で紹介した本で22年ぶりに読んでみたのだが、やはりめちゃくちゃ面白かったので紹介記事としてあらためて書いておくことにした。

上記の内容紹介だと神秘主義や黒魔術系の本のような印象を持たれてしまうかもしれないし、「薔薇の名前()()」や「ダヴィンチ・コード」、「指輪物語(ロード・オブ・ザ・リング)」のようなイメージを想像されるかもしれないが全く違う。ネタバレにならない程度に、そしてこれから読む人の読書の楽しみを損なわないように、もう少し補足しておこう。

本書は「世界史好き(特にフランスを中心として近世ヨーロッパ史好き)な人」、「理数系好きな人」、「バロック音楽好きな人」、「時空を超えた物語が好きな人」、「将棋やチェス好きな人」にとっては特に楽しめる本なのだ。

* 世界史好きな人にとって

フランス革命とその後のナポレオン帝政下が舞台になるだけでなく、当時のロシアやイギリスも本書の舞台となる。アマゾンのレビュー記事に「ロベスピエール、ナボレオン、ダヴィッド、ロシアの女帝エカテリーナなどの大物が登場人物として出てくる。」と書かれているとおり、歴史上の大物たちが次々と登場する。彼らはただ引用されるだけではなくこの物語に組み込まれ、等身大の人物として台詞を与えられた形で登場するのだ。フランス革命やナポレオンのロシア遠征など昔教科書で学んだ世界をたどりつつ、その裏に伝説のチェスセットをめぐる争奪戦が本当にあったかのような妄想を抱きながら読み進んでいくうち、それが現実におこったことにように思えてくるのだ。

* 理数系好きな人、バロック音楽好きな人にとって

この本に登場する歴史上の大物たちはそれだけではない。レオンハルト・オイラー、レオナルド・フィボナッチ、アイザック・ニュートン、ヨハネス・ケプラー、ジョセフ・フーリエまで登場する。さすがにフィボナッチとケプラーは時代が違うので「説明」にとどまっていたが、オイラーとニュートン、フーリエは200年前の世界でリアルタイムに活躍する役者で、伝説のチェスセットに秘められた暗号を解いていくのだ。ニュートンが錬金術を研究していたことはよく知られている。私たちが「科学」と呼んでいるものは当時の数学者や科学者の頭の中では数秘術や魔術的なものも含めたもっと広い学問領域の一部だった。ケプラーの正多面体宇宙論や惑星の公転運動が奏でる音楽などはピタゴラス学派の「万物は数」にその源流を見出せるし、本書で役を与えられている老作曲家バッハもチェスボードに書き込まれた数字を音程や和音に変換して数字から音楽を紡ぎだしている。音楽や自然と数の間に密接なかかわりがあることは、さまざまな例で確認することができる。たとえばクォーク・モデルは八道説になぞらえて説明されている。

* 時空を超えた物語が好きな人にとって

本書は200年前のフランス革命の時代と現代の話が交互に語られる形で進行していく。その接点は北アフリカのアルジェリアという砂漠地帯にある。2つの物語は少しずつ融合していき、終盤に向けてあるひとつの話として結びつく。タイムマシンがでてくるわけではないのに時空を超えた2つの話の結びつきはどのように得られるのか?200年前の話だけでなく現代の世界で繰り広げられる物語も息をつかせない展開で進む。チェスの駒を求め探し続けることで主人公が遭遇する数々の事件の中で、誰が敵で誰が見方かが明らかになっていく。

* 将棋やチェス好きな人にとって

この本にはチェスの起源や歴史も説明されているのでチェス愛好家にとってもお勧めだ。かといってチェスを知らなければ本書が読めないわけでもない。チェスは理数系の人が好みそうなボードゲームでもある。この本をきっかけに興味を持つ人も出てくるかもしれない。本書の主な登場人物にはチェスの駒の役割が与えられているし、チェスのルールに沿った形で解説が加えられている。チェスはスマートフォンやタブレット端末に無料アプリがあるし、おしゃれなチェスセットもアマゾンやヤフオクで買うことができる。正月休みに遊んでみてはいかただろうか。

最後に本書を訳された村松潔氏による「訳者あとがき」を引用して、本書の紹介を締めくくらせていただこう。

訳者あとがき

これは、かつてシャルルマーニュが持っていたとされる伝説的なチェス・セット「モングラン・サーヴィス」をめぐって、ふたつの時代の実在、架空のさまざまな人物が繰り広げる壮大な冒険=ファンタジーである。

赤毛の修道女ミレーユは、革命後の動乱期のフランスにあって、このチェス・セットを権力の亡者から護るため、縦横無尽の活躍をする。映画『薔薇の名前』を思わせる山のなかの修道院からパリの血生臭い恐怖政治の現場へ、フランスに反旗を掲げるコルシカから灼熱のサハラ砂漠へ、さらには女帝エカチェリーナの君臨する帝政ロシアの雪深いペテルブルグへと、物語は次々に展開し、歴史上の実在の人物がいたるところに登場する。ジャン=ジャック・ルソー、タレーラン、スタール夫人、画家ダヴィッド、マラー、ロベスピエール、さらにはカザノーヴァや、若き日のナポレオン。1792年、いわゆる「九月の虐殺」が行なわれたアベイ監獄で、額に汚いぼろきれを巻き、顔にだらだら膿をしたたらせながら、貴族や司祭たちに次々に死刑を宣告し、目の前で処刑させるマラー。その虐殺の夜、パリから脱出しようとするミレーユと出会って、混乱するフランスを彼女といっしょに縦断し、コルシカの実家に連れて行く、まだ初々しいナポレオンとその妹エリーザ。チェスボードに書き込まれた数字を音程や和音に変換し、数字から音楽をつむぎだす不思議な老作曲家バッハ。レース刺繍をしながら、ヴェネツィアで見た奇怪な儀式について語る晩年のジャン=ジャック・ルソー -- 彼は素朴な田園生活を称揚しながら、なぜか腹の底に権力への野望を秘めているように見える。こういう歴史の教科書でおなじみの人物が、「モングラン・サーヴィス」の秘密に絡んで登場し、それぞれ一癖ある素顔を見せて、ぼくらを楽しませてくれる。

一方、これと並行して語られる現代の物語は1970年代前半、OPECが石油を武器に世界を揺るがそうとした時期に設定されている。ニューヨークのコンピュータ技術者キャサリン・ヴェリスは、ボスの命令に従わなかったためにアルジェに左遷され、思わぬことから現代におけるこのチェス・セットの争奪戦に巻き込まれる。彼女はカスバの迷路の奥に謎の女を訪ね、ガビール山地の奥深く分け入り、サハラ砂漠ではに迷い込み、砂嵐の迫る砂漠をロールスロイスで駆け抜けて、なんとかめざすタッシリ高原の洞窟にたどりつく。この間のスリリングなストーリーの展開は、主人公を女性に変えたインディ・ジョーンズの冒険を思わせる。しかも、彼女のたどる行程は200年ちかくまえ、飼い馴らしたタカが捕らえる獲物だけを唯一の食料として、この砂漠を横断したミレーユの決死の旅に重なっているのである。

ふたつの時代のふたりの美女を主人公にしたこの二重構造の冒険小説は、スリリングなストーリーの展開と痛快なアクションでぼくらをぐんぐん引っ張っていく。著者はこの大仕掛けな物語を読みやすい読み物にすることにいちばん苦心したと言うが、それはみごとに成功しており、この作品は不思議なほど長さを感じさせない。並行して語られるふたつの物語は、初めは2世紀近い時間に隔てられた別々の話に思えるのだが、最後には、意外な結末があきらかにされ、ふたつの物語がひとつに融合する。

この作品が単なる冒険アクション小説と一味違うものになっているのは、スピーディなアクションの展開のほかにも、読者にさまざまな楽しみを提供してくれていることだろう。たとえば、占師が残していった詩に隠されたメッセージを解読する謎解き遊びもそのひとつだし、また、章のタイトルからもうかがえるように、全編がチェスのゲームになぞらえて構成され、登場人物がじつは黒白どちらかの陣営に属し、どんなチェスの駒の役割を演じているのかが次第にあきらかになっていくという仕掛けになっている。問題のチェス・セットに秘められた公式についても、哲学的な議論が交わされ、そのなかで本書のタイトルでもある「8」が浮かび上がってくる。古代ギリシャでは、数学や哲学や音楽や天文学はひとつの学問であり、この宇宙は厳密な数学的秩序で構成されていて、数の本質があきらかにできれば、自然や宇宙の構造が解明できると考えられていたという。本書では、その構造の秘密を解く鍵として「8」という数字が提起される。音階は八度上昇すると元の音に回帰し、元素の周期表でも8番目ごとに似た性質の元素が現れる。ニュートンが描いた春分点歳差を示す螺旋形も8の字だし、メビウスの輪や無限を示す記号も8(∞)にほかならない。そして、8x8=64の枡で構成されているチェスのセットのなかに、この宇宙のあらゆる存在の構造を解き明かす鍵になる公式が隠されているというのである。そのほかにも、いろいろ小さな仕掛けや遊びがあって、たとえば本書に登場する(台詞のある)人物は全部で64人--つまり、チェスの枡目の数と同じなのだ。


日本語版が出版されたのは1991年、文庫化されたのが1998年だ。その後絶版状態が続いているのでこの本のことを知っている人は今では少ないと思う。英語のペーパーバック版は当時40ヶ国語に翻訳されたという。僕はこのベストセラー小説を1991年頃に読んだのだがこんなにすばらしい作品が普通に買えないの状態になっているのはとても残念だ。中古本は流通しているのでぜひ読んでみてほしい。復刊リクエストに協力いただける方はこちらからお願いします。


翻訳のもとになった英語版はこれだ。

The Eight: Katherine Neville




関連リンク:本書やこの記事を通じてチェスに興味を持たれた方もいらっしゃるかもしれないので、リンクを張っておこう。

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http://www.jca-chess.com/

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http://shinuesugi.web.fc2.com/introtochess/intro-to-chess.html

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http://rulechess.com/

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「8(エイト)〈上〉:キャサリン・ネヴィル」(文庫版)(単行本
「8(エイト)〈下〉:キャサリン・ネヴィル」(文庫版)(単行本

 

上巻目次

防御
ポーンをクイーンの四段目へ
クワイエット・ムーヴ
フィアンケット
チェスのゲーム
クイーンの交換
ナイトの車輪
ナイトのツアー
犠牲
フォーク
ポーンが前進する
盤の中央
中盤戦


下巻目次

局面の分析
砂漠の声
魔の山

王たちの死
黒のクイーン
失われた大陸
ツークワンク
白い土地
八段目
嵐のまえの静けさ

秘密
終盤戦(エン・ゲーム)

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