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とね日記賞の発表!(2013年): 物理学賞、数学賞、他

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毎年12月10日、スウェーデンのストックホルムでアルフレッド・ノーベルの誕生日に行われるノーベル賞の授賞式の日程にあわせて、「とね日記賞」というのを発表している。今年で4回目だ。

これはその年に僕が読んだ物理学書、数学書の中から自分のためになった本、この分野を勉強している学生や社会人にお勧めする本を物理学、数学、工学、啓発書に分けてそれぞれ1〜2冊発表する。今年は講談社ブルーバックス創刊50周年だったのでその記念の賞も設け、あと贈り物にふさわしい本としてクリスマス賞というのも設けている。

註:一般向け書籍に対しては「啓蒙書賞」を設けていたが、啓蒙という言葉に「上から教えてやる」というニュアンスが感じられるので「啓発書賞」という名前にした。

たとえ名著と言われる本であっても僕が理解できなければ受賞できない。昨年以前に読んだ本は自動的に選考対象から外されるし、どんなに良書であっても僕が読んでいなければ対象外。今のところ洋書も対象外。何より僕の学習進度や理解度や好みに影響される。

メダルも賞金も授賞式も晩餐会も舞踏会もないので、ありがたくも何ともなく、主観に満ちたアンフェアな賞だが、それでよいのだ。

- とね日記物理学賞
 物理学の教科書、専門書から選考。

- とね日記数学賞
 数学の教科書、専門書から選考。

- とね日記工学賞
 電子工学など工学系の教科書、専門書から選考。

- とね日記啓発書賞
 物理、数学の分野の一般向け書籍から選考。

- ブルーバックス創刊50周年記念賞
 今年だけ設けた賞

- とね日記新人賞
 科学書籍出版デビューを応援する賞。

- とね日記功労賞
 科学史への貢献、ライフワークを完結されたような本から選考。

- とね日記文学賞
 ジャンルを問わない小説、文学書から選考。

- とね日記ドラマ賞
 テレビドラマの中からいちばんよかったものを選考。

- とね日記クリスマス賞
 クリスマスプレゼントにふさわしい本を選考。

この1年で読んだ本は38冊で、次のような本を読んだ。(参考:「200冊の理数系書籍を読んで得られたこと」)

- 佐藤文隆先生の量子力学系の科学思想史の本を2冊
- 吉田伸夫先生の量子重力理論入門
- 今この世界を生きているあなたのためのサイエンス(2冊)
- 熱力学、伝熱学の本を10冊
- 原子や電子の発見ストーリー本を2冊
- 偏微分方程式、フーリエ変換、ラプラス変換の本を数冊
- 一般向けの物理学書を数冊
- 大栗博司先生の一般向け物理学の書籍を2冊
- 場の量子論の入門的教科書を3冊
- 安田寿先生のマイコン3部作(1970年代のブルーバックス)
- 嶋正利先生の世界初のCPU開発ストーリー本
- 「標準模型」の宇宙:ブルース・シューム
- 前野昌弘先生の解析力学の教科書
- 超弦理論批判系の本を2冊
- 初級講座 弦理論(基礎編、発展編)
- 幾何学の基礎をなす仮説について:ベルンハルト・リーマン


それでは発表しよう。2013年の「とね日記賞」は次のとおりだ。(書籍名と画像はそれぞれ紹介記事などにリンクさせておいた。)


* 物理学賞

文句なくこの本に授賞することにした。

初級講座弦理論 基礎編:B.ツヴィーバッハ」(レビュー記事
初級講座弦理論 発展編:B.ツヴィーバッハ」(レビュー記事

 

受賞理由:とね日記が掲げる目標のひとつは超弦理論の理解だ。6年かかってようやくその入口にたどり着いたという意味で、今年は本書に決定した。物理専攻の学部学生でも理解できる超弦理論の日本語教科書は、今のところこの本しかない。

翻訳の元になったのは2009年1月に刊行された次の本で、これが第2版でKindle版も出ている。

A First Course in String Theory: Barton Zwiebach




* 数学賞

今年はあまり数学書を読んでいないので選択肢は少ないのだがこの2冊に決めた。

高校数学でわかる統計学:竹内淳」(レビュー記事



受賞理由:分布関数の導出手順が書かれている統計学の本は少ない。本書は手ごろなボリュームで必要なことが網羅されている、統計学に貢献した学者のことを紹介している、Excelを使った解説がされているなど多角的に学べる優れた入門書だ。

高校数学でわかるフーリエ変換:竹内淳」―フーリエ級数からラプラス変換まで(レビュー記事



受賞理由:フーリエ変換とラプラス変換を順序立てて無理なく学べる本だ。他の教科書でくじけてしまった人でも、この本なら大丈夫。特にフーリエ変換は物理学を学ぶ上でとても重要なので早い段階でマスターしておきたい。


* 工学賞

今年の工学賞はこの2冊に決定。

マイクロコンピュータの誕生―わが青春の4004:嶋正利」(レビュー記事



受賞理由:今ではCPUのことを意識しながらスマートフォンやパソコンを使っている人はほとんどいないだろう。けれどもCPU無しに現代の情報社会はあり得ない。本書は世界初のCPUがどように生まれたのか、その開発に多大な貢献をした著者の若き日の挑戦が熱く語られた本である。その後、著者の嶋先生から直接この記事に対してお礼のメールをいただいたことはIT業界に身を置いている僕にとって今年いちばんうれしかった出来事だった。

安田寿明先生の「マイ・コンピュータ」3部作(ブルーバックス)」(レビュー記事

  

受賞理由:1970年代後半の「マイコンブーム」のきっかけとなった本だ。コンピュータというものに対する意識に大変革をもたらしたという意味で日本のコンピュータ文化史の原点に位置する本である。あらゆる電気製品にマイコンが組み込まれることがこの本で予言されていた。著者にとってマイコンは趣味であって本業ではない。仕事に追われる生活の中で趣味のための時間を必死に確保し、マイコン作りに没頭する著者の姿がとてもいじらしい。


* 啓発書賞(物理学部門)

いろいろ迷ったあげく、この本にした。中学生くらいから読める良書だと思う。

だれが原子をみたか(岩波現代文庫):江沢洋」(レビュー記事



受賞理由:この世界が原子でできていることは小学生でも知っている。でもあなたはそれを順序立てて説明することができるだろうか?原子の存在はかなり昔から仮説として受け入れられていた。しかしそれを人類はどのような実験を経て確証するに至ったのだろうか?この本は著者みずから実験を行なって原子の存在を確認する過程を高校生以上の読者を対象に解説した本である。筋道を立てて予想、検証、理解することの大切さとワクワク感をぜひ多くの方に味わってほしい。


* 啓発書賞(数学部門)

改訂版 関数のはなし〈上〉:大村平」(紹介記事
改訂版 関数のはなし〈下〉:大村平」(紹介記事
改訂版 微積分のはなし〈上〉:大村平」(紹介記事
改訂版 微積分のはなし〈下〉:大村平」(紹介記事

 

 

受賞理由:数式を使わない本というのが例年の啓発書賞なのだが、今年はこれら4冊の本にした。関数、微積分、微分方程式にテーマを絞って中学1年レベルから大学初年度までの数学を楽しく理解してしまえる超お勧め本。この意味でこれらは「啓発書」なのだ。やり直し系の数学本で学ぶのもよいが、この本ように「遊び心」のある本でモチベーションを高めるのもありだと思う。中学生、高校生はあらかじめ読んでおけば授業を受けるのがだいぶ楽になるはずだ。


* ブルーバックス創刊50周年賞

大栗先生の超弦理論入門:大栗博司」(レビュー記事



受賞理由:超弦理論研究の第一人者のおひとりである大栗先生による一般向けの本。NHKからタイミングよく「神の数式」という番組が放送されてこの本の売り上げアップにもつながった。大栗先生はこの番組にも協力されている。最先端の物理学がどこまで進んでいるのかを正確に、短期間で知ることのできる本だ。本書は今年創刊50周年をむかえた講談社ブルーバックスを記念して出版された。


* 新人賞

統計データをすぐに分析できる本:中西達夫



受賞理由:科学ブログ仲間の中西さんがお書きになったビジネス系統計分析の本だ。中西さんにとっては「悩めるみんなの統計学入門」に続く2冊目の本なので「出版デビュー」というわけではないのだが、たまたまタイミングよく12月13日に出版されることになったので授賞させていただいた。中西さん、出版おめでとうございます!


* 功労賞

年末近くになってケプラー3部作が完結したので、結局これら2冊に対して授賞することにした。どちらも人類の科学資産として貴重な書物である。

熱の解析的理論:ジョゼフ・フーリエ著、ガストン・ダルブー編纂」(レビュー記事



受賞理由:フーリエ展開、フーリエ変換は数学だけでなく物理学、工学に多大な影響を与えた。この理論を考え出した19世紀のフランスの数学者フーリエがこの理論を使って熱伝導という物理現象を解析的に解いて発表した本だ。歴史的な意味でも貴重なこの本を日本語版を読めるようにしてくださった竹下貞雄先生のご苦労に対して僭越ながら授賞させていただいた。


ヨハネス・ケプラー3部作

宇宙の神秘 新装版:ヨハネス・ケプラー著、大槻真一郎+岸本良彦訳」(レビュー記事
新天文学:ヨハネス・ケプラー著、岸本良彦訳」(紹介記事
宇宙の調和:ヨハネス・ケプラーヨハネス・ケプラー著、岸本良彦訳

  

受賞理由:惑星の運動の3法則(ケプラーの法則)を紹介したとても貴重な本だ。この3部作が先月すべて日本語で読めるようになった。原典は17世紀初頭にラテン語で出版された。翻訳をしていただいた岸本良彦先生には大いに感謝したい。


* 文学賞

「8(エイト)〈上〉:キャサリン ネヴィル」(文庫版)(単行本
「8(エイト)〈下〉:キャサリン ネヴィル」(文庫版)(単行本

 

内容紹介
宇宙を司る8の公式。その謎を秘めた黄金のチェスの駒を求め、争奪戦が繰り広げられる。
その昔、紀元8世紀頃のこと。フランク王国を治めていた国王シャルルマーニュ(カール大帝)に対して回教徒のバルセロナ総督から「モングラン・サーヴィス(Montglane Service)」という大きなチェス・セットが贈られた。これはアラビアの名匠の手によるもので、駒は金と銀でできておりルビーやダイヤモンド、サファイヤなどがふんだんに散りばめられていた。このチェス・セットは宇宙を動かすほどの力を秘めているという言い伝えがあった。それから千年の間、「モングラン・サーヴィス」はとある修道院で秘密裏に守られ続けた。そして舞台は革命の嵐吹きすさぶ18世紀末のフランスに移る。存亡の危機にたつ修道院では、この伝説のチェス・セットを守るため、修道女たちが駒を手に旅にでた。 また20世紀の世界を生きるコンピュータ専門家キャサリンは、左遷されたアルジェで「モングラン・サーヴィス」の秘密を握る人物をついに探し当て、駒の在り処めざして決死の砂漠縦断を試みる。世界じゅうに散逸した駒を求め、時を超えた壮絶な争奪戦が繰り広げられる!2世紀の時間に隔てられた物語が一つに溶け合うとき、意外な結末が…。推理・歴史・伝奇・冒険などあらゆる要素がふんだんに盛り込まれた傑作。時空を超えてひろがる壮大かつスリリングな冒険ファンタジー。

受賞理由:日本語版が出版されたのは1991年、文庫化されたのが1998年だ。その後絶版状態が続いているのでこの本のことを知っている人は今では少ないと思う。英語のペーパーバック版は当時40ヶ国語に翻訳されたという。僕はこのベストセラー小説を1991年頃に読んだのだがこんなにすばらしい作品が普通に買えないの状態になっているのはとても残念だ。この本を多くの人に知ってもらいたい気持ちで授賞させていただいた。中古本は流通しているのでぜひ読んでみてほしい。復刊リクエストに協力いただける方はこちらからお願いします。

翻訳のもとになった英語版はこれだ。

The Eight: Katherine Neville




* ドラマ賞

あまちゃん」、「半沢直樹」が大人気だったことは言うまでもないが、これでは当たり前すぎる。あまのじゃくな僕としては今年のドラマ賞をこれら2つのドラマに授賞することにした。

斉藤さん2


ダンダリン 労働基準監督官


受賞理由:この2つのドラマに共通するのは「言うべきことは言う。」ということである。今年も「いじめによる自殺」や「ブラック企業」がクローズアップされた。安心して暮らせる社会を取り戻したいという願いをこめてこれらのドラマに授賞させていただくことにした。見て見ぬふりをしてはならない。子供たちや若者が希望を持って生きられる社会を作るのは大人の責任である。言うべきことはきちんと主張し続けることを忘れてはならない。もちろんこの2つのドラマは内容もよく、とても楽しむことができた。


* クリスマス賞

理系クン (文春文庫):高世えり子」(紹介記事



受賞理由:今年も「笑う門には福来る。」ということでプレゼント向きの本を選ばせていただいた。注文するときはギフトラッピングをお忘れずに!みなさん、楽しいクリスマスをお過ごしください。


最後になりましたが、今日ノーベル物理学賞を受賞されるヒッグス博士とアングレール博士に心からお祝いを申し上げます。

速報:2013年ノーベル物理学賞はヒッグス博士とアングレール博士に決定!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e4c4d6d15d52e86a94caccd6da8edb5e


関連記事:

とね日記賞の発表!(2010年): 物理学賞、数学賞、他
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ddc344204dec2ebd35c47a8699eb1389

とね日記賞の発表!(2011年): 物理学賞、数学賞、他
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/27bc2b5eafa9334dae11d92e90c69b0d

とね日記賞の発表!(2012年): 物理学賞、数学賞、他
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b4ce3d8c7d90d5b95bf6ab826cc7d93f


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