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はじめて学ぶリー群: 井ノ口順一

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はじめて学ぶリー群: 井ノ口順一

内容紹介:
線型代数とリー群のギャップを克服!本格的にリー群・リー環について学ぶための線型代数の本。
数学や理論物理学を学ぶ上でリー群(Lie 群)の知識が必要になることがしばしばある。大学の授業では学ぶ機会がなかなかないにも関わらず大学院生になると「当然知ってるよね」と言われがちな知識でもある。
この本ではリー群のなかでも微分幾何学や理論物理学で使われることの多い線型リー群について初歩(の初歩)を解説する。
線型代数、微分積分、初歩の群論を学べばリー群論・リー環論の初等理論は手の届く位置にある。とは言うものの独学でリー群・リー環について学ぶとき線型代数とのギャップで戸惑う読者も少なくない。この本は、それらの入門書と「初歩の線型代数」の間のギャップを埋めることを目的としている。やさしめに書かれた線型代数の教科書では学びにくい双対空間、対称双線型形式などが(単純)リー環を扱う上で活用される。このような学びにくい(あるいは学び損ねた)線型代数の知識についてページを割いて丁寧に解説していることがこの本の特徴である。
2017年7月21日刊行、272ページ。

著者について:
井ノ口順一(いのぐちじゅんいち):教員情報
千葉県銚子市生まれ。東京都立大学大学院理学研究科博士課程数学専攻単位取得退学。福岡大学理学部、宇都宮大学教育学部、山形大学理学部を経て、筑波大学数理物質系教授。教育学修士(数学教育)、博士(理学)。専門は可積分幾何・差分幾何。算数・数学教育の研究、数学の啓蒙活動も行っている。日本カウンセリング・アカデミー本科修了、星空案内人(準案内人)、日本野鳥の会会員。

井ノ口先生の著書: Amazonで検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で343冊目。

7月に「発売情報: はじめて学ぶリー群: 井ノ口順一」として紹介した本書を読んでみた。

リー群とリー環は素粒子物理や場の量子論を学ぶためには必須項目なのだが、数学科以外の学生には敷居が高い。また数学科の学生には何のために学ぶのか分かりにくくモチベーションが保てない。なぜ敷居が高いのかというと、通常は一般的な群論を学んだ後でないとリー群は始められないからだ。本書は本格的なリー群の教科書を読み始める前に読むための「準備本」である。

やさしめに書かれた線型代数の教科書ではあまり扱われない双対空間や対称双線型形式などが(単純)リー環を扱う上で活用される。このような独学では学びにくいところをていねいに解説したのが本書である。だから「本格的にリー群、リー環について学ぶための線型代数の本」とも言うことができる。

行列のつくるリー群(線型リー群)の基本事項が解説され、線型リー群から「リー環」とよばれる対象がどのように定められるかが詳しく解説される。

本書では将来、本格的にリー群、リー環について学ぼうと考えている読者に役立つように工夫されている。具体例を豊富に用意し、とくに幾何学においてリー群がどう活躍しているかを最後の2つの章で紹介している。表現論を学ぼうという読者もこの2つの章が役に立つ。

リー環、とくに複素単純リー環やルート系については、(今後発売される)姉妹書「はじめて学ぶリー環」で解説されるそうだ。

章立てはこちら。

第I部:リー群とリー環の芽生え
第1章:平面の回転群
第2章:平面の合同変換群
第3章:曲線の合同定理

第II部:線型リー群
第4章:一般線型群と特殊線型群
第5章:リー群論のための線型代数
第6章:直交群とローレンツ群
第7章:ユニタリ群
第8章:シンプレクティック群
第9章:行列の指数函数
第10章:リー群からリー環へ

第III部:3次元リー群の幾何
第11章:群とその作用
第12章:3次元幾何学

附録A:同値関係
附録B:線型代数続論
附録D:リー群の連結性
附録E:演習問題の略


ここからが読後の感想である。本書を読もうか迷っている人がまず思うのは「物理で必要なリー群を学ぶのに、ここまで詳しく学ぶ必要があるのか?」ということだろう。結果として言うならば「必要はないと思う。」というのが僕の結論だ。本書を読まずに「連続群論入門 (新数学シリーズ18):山内恭彦、杉浦光夫」や「群と表現:吉川圭二」で学んでおけば十分だと思う。

そして次に「本書は易しいか?」という点についていえば「そこそこ難しい。」というのが僕がもった感触だ。

さらに「では、本書で何が得られるのか?」、「本書で学ぶ意義は?」については「リー群やリー環の線形代数(複素数、四元数の行列表現も含む)との関係が明確になる。」、「リー群、リー環の幾何的イメージがつかめる。」、「群の作用の概念を具体例を通じて学べる。」ということだろう。


第1部は特に易しい。現行の教育課程では教えられなくなった高校数学Cの「行列」のレベルだと言ってよい。ここで平面の回転群、合同変換群、曲線の合同定理を行列や行列式を使った形式で学ぶ。


第2部が本書のメインだ。大学教養課程の行列を軽くおさらいしてから、一般線型群と特殊線型群を紹介、群と群の距離などその後の解説に必要な基本事項の定義を述べる。

さらにリー群論を展開するために必要な線形代数の解説が続く。線型空間の公理、基底と次元、線形写像と表現行列、線型部分空間、双対空間、スカラー積、鏡映、直交直和分解など。

次の直交群とローレンツ群ではO(n)とSO(n)の解説、SO(3)におけるオイラーの角の表現、変換群としてポアンカレ変換、ローレンツ変換、アフィン変換を学ぶ。ここまでは実空間の話。

次の第7章から複素数空間としてユニタリ群が導入される。2x2の実行列としての表示、n次元化、実斜交群(実シンプレクティック群)、行列のノルムなど。

第8章では四元数が導入され、これが複素表示や実表示できることを学ぶ。つまりこの章で学ぶのは四元数特殊線型群やユニタリー・シンプレクティック群、四元数鏡映行列、四元数の円周群、随伴表現、オイラー角などである。さらに四元数を実表示(つまり4x4の実行列)した行列が満たす性質を確認する。

ここまでは平面における変換や幾何的イメージを、3次元空間、複素空間、四元数空間に拡張していく流れになっている。

第9章で行列の指数関数を定義し、そのノルムや指数法則など基本的なことがらを確認する。そして円周群を例にとってその接ベクトル空間を導き、リー環とのつながりを紹介する。

第10章では第9章までに解説したリー群からリー環を計算する方法を具体的に紹介する。


第3部は「3次元リー群の幾何」である。まず第11章で群の作用が紹介され、具体的にはアフィン変換群を使ってその性質が解説される。次にこれまでに学んできた4つの幾何が「クライン幾何」であることが述べられる。つまり次の4つの幾何のことだ。

- ユークリッド幾何
- 等積アフィン幾何
- 相似幾何
- アフィン幾何

またミンコフスキー空間にポアンカレ群を作用させて定まるクライン幾何学はミンコフスキー幾何となる。

次に「球面幾何」と「双曲幾何」、「メビウス幾何」、「ミンコフスキー幾何」が紹介される。

ここまで理解できれば本書で学んだ価値が実感できることだろう。第8章以降は少し難しいなという感触だった。

第12章では「3次元幾何学」と題して「ユニ・モデュラー・リー群」、「冪零幾何」、「可解幾何」、「3次元球面幾何」、「3次元双曲幾何」、「HxR幾何」が解説される。だいぶ難しく感じるようになったが、ぎりぎりついていけたという感触。

そして続く「SL幾何」、「岩澤分解」、「サーストン幾何のリスト」、「ビアンキの分類」はまったくお手上げだった。

「サーストン幾何」とは10年前に書いた「トポロジカル宇宙(完全版):根上生也著」という記事で紹介した「サーストンの幾何化予想」のことである。

1982年にアメリカのサーストンという数学者が「サーストンの幾何化予想」というものすごいアイデアを打ち立てた。「三次元多様体は一様な幾何構造の断片に分解できるだろう」というもので、宇宙を構成する空間の断片がこの図で示されているような最大8種類の形に限られていることを示した。サーストンはこれを証明したわけではない。ともかく物理学のように実験や観察で検証したわけでもないのに、頭の中の数学だけで宇宙の形の8種類の可能な断片を導きだしたことは他の数学者にとっても大きな驚きであった。これらがその8種類の形である。



サーストン幾何化予想が証明されたことで2003年、グリゴリー・ペレルマンにより、およそ100年にわたり未解決だった3次元ポアンカレ予想が証明されたのは有名な話である。

このうように第12章は現代数学の最先端とリー群のつながりを紹介したものだ。著者も読者がすべてを理解することは期待していないのだと僕は思った。


関連記事: 下にいくに従い専門性が高くなるように並べた。

線形代数と群の表現 I :平井武
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3e510783ca6272470f4c9b04f239c425

線形代数と群の表現 II:平井武
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1711924db691840bf740aa39dc1d37d1

連続群論入門 (新数学シリーズ18):山内恭彦、杉浦光夫
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/71f347a51bbd16f3c72bb9116d23f597

群と表現:吉川圭二
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/35c16a71ff26b71d6ffc8c2c4730439f

リー群と表現論:小林俊行、大島利雄
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6f89fddb08dc3141e6753249891523b9


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はじめて学ぶリー群: 井ノ口順一



第I部:リー群とリー環の芽生え

第1章:平面の回転群
- 直交座標
- 図形を動かす
- 平行移動
- 回転
- 行列
- 変換
- 線対称変換
- 群
- 群の同型
- 直交行列

第2章:平面の合同変換群
- 2次直交行列の分類
- 合同変換群
- 三角形の合同
- 合同定理
- 生成元とは

第3章:曲線の合同定理
- 曲線
- 行列値函数
- フレネの公式
- 合同定理
- 回転群のリー環

第II部:線型リー群

第4章:一般線型群と特殊線型群
- 行列とベクトル
- 部分群
- 閉部分群
- 行列間の距離

第5章:リー群論のための線型代数
- 線型空間
- 双対空間
- スカラー積
- 鏡映
- 直交直和分解
- 正規直交基底

第6章:直交群とローレンツ群
- 擬直交群
- 回転群
- オイラー角
- 合同変換群・再考

第7章:ユニタリ群
- 複素数空間
- ユニタリ群
- 複素構造
- 高次元化
- 斜交群
- 複素行列のノルム
- 低次の場合

第8章:シンプレクティック群
- 四元数
- 複素表示
- ユニタリー・シンプレクティック群
- 複素シンプレクティック群
- 四元数の円周群
- 随伴表現
- オイラーの角、再訪
- 四元数の実表示

第9章:行列の指数函数
- 複素数の極表示
- ノルム収束
- 微分方程式
- 指数法則と1径数群
- 円周群から見えてくること

第10章:リー群からリー環へ
- 線型リー群のリー環
- 抽象的な定義
- リー環の計算

第III部:3次元リー群の幾何

第11章:群とその作用
- 群作用
- 球面幾何
- 双曲幾何
- メビウス幾何

第12章:3次元幾何学
- 線型リー群の左不変リーマン計量
- ユニモデュラー・リー群
- 冪零幾何
- 可解幾何
- 平面運動群
- 3次元球面幾何
- 3次元双曲幾何
- HxR幾何
- SL幾何
- 岩澤分解
- サーストン幾何のリスト
- ビアンキの分類

附録A:同値関係

附録B:線型代数続論
- 直交直和分解
- シルベスターの慣性法則
- 斜交線型代数

附録C:多様体

附録D:リー群の連結性

附録E:演習問題の略

参考文献
索引

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