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正確な時計に影響を受け、周囲の時計が不正確になることを解明 - ウィーン大


ウィーン大学とオーストリア科学アカデミーは、量子力学の対象となるミクロの世界において、ある時計の時刻を正確にすることによって、周囲の時計がその影響を受け、不正確になる効果があることを解明した。これは量子力学と一般相対性理論から導かれる根本的な効果であり、時間測定の物理的限界を示すものであるという。研究論文は、「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された。(マイナビニュースの元記事


つい先日の筑波大学による「時間結晶の室温観測に成功」に続き、またもや奇怪な科学ニュースが飛び込んできた。

にわかには信じられない今回のニュース。後日確認しやすいように記事として残しておこう。(本業の仕事に忙殺されていて、じっくり論文を読む時間がとれない。どなたか専門の先生がわかりやすく解説してくださらないかなと思うわけである。)

とりあえずマイナビニュースの説明の中に「ん、これは正しいの?」というところを見つけた。

「まず、ある時計の時刻を正確に測定すればするほど、その時計のもつエネルギーの不確定性は増大する。」

時刻を正確に測定することを時計のエネルギーの不確定さに結び付けてよいの??

僕が理解している時間とエネルギーの不確定性原理とは、たとえば「素粒子どうしの衝突時刻を正確に測定すれば、その衝突で発生するエネルギーが不確定になる。」あるいは「素粒子どうしの衝突で発生するエネルギーを正確に測定すれば衝突時刻が不確定になる。」というものだ。上の説明の「時計のもつエネルギー」とは結びつかない気がする。

時刻の測定をするなら、何らかの物理現象があっての測定であるべきで、ただ「時計の時刻を正確に測定する」という説明が何を意味しているのかわからない。もうひとつ別の時計を使って測定対象の時計の針が何かの数字を示す時刻を測定して1つめの時計が正確なことを確認するということ??

それはそれでおかしなことだ。量子力学の観測問題と同様、2つめの時計の正確さを測るために3つめの時計が必要になり、3つめの時計の正確さを図るために4つ、5つ...、時計は無限個必要になるからだ。

このニュースを気持ち悪く感じるのは、このようなところにある。


そして、もうひとつよくわからないのは次の部分である。

「時計のエネルギーの不確定性が増大すればするほど、時間の遅れ度合い自体の不確定性もまた増大してしまう。」

という箇所は特殊相対論(E=mc^2:エネルギーと質量は等価)および一般相対論(重力理論:質量の周りでは時間は遅れる)からは納得できるけど本当なのかな?という気がする。

そもそも量子力学と一般相対論って矛盾しているわけだから、組み合わせて使ってよいのだろうか?でも「矛盾している」のは「重力子は繰り込み不可能(量子重力の紫外破綻=繰り込み不可能性)」という理由だから、今回の話とは関係ないのかもしれないが。


最初の疑問について、つまり時間とエネルギーに不確定性原理が成り立つかどうかは堀田昌寛先生による次のページに書かれているように否定的な見解が示されている。

時間とエネルギーの不確定性関係と、相対性理論
http://mhotta.hatenablog.com/entry/2014/04/29/181417


またウィキペディアの「不確定性原理」の中の「時間とエネルギーの不確定性関係」にも次のように否定的な見解が示されている。

時間とエネルギーに関しては、観測量の分散に対するロバートソン不等式を論じることは一般にできない。それはエネルギー固有値が連続でかつ上限および下限を持たない量子系でなければ、ハミルトニアン H(hat) 正準共役な時間演算子 T(hat) は定義できないためである。


そして、谷村省吾先生はPDF文書で次のようにお書きになっている。

時間とエネルギーの不確定性関係 — 腑に落ちない関係(谷村省吾)
http://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/~soken.editorial/sokendenshi/vol16/tanimura.pdf

時間幅とエネルギー幅の定量的関係を言うのは難しい。ロバートソンの不等式を適用できないのである。
相互作用が無限の過去から無限の未来まで続いていて,結合係数 g(t) が ∞ < t < ∞ にわたって定義されているなら、g(t) と G(E) が全実数上のフーリエ変換で関係づけられ、波束の不確定性関係と同形の時間とエネルギーの不確定性が成り立つ。


またこのページには証明付きで次のように書かれている。

「パウリの定理:ある量子系にハミルトニアン H(hat) と正準共役で、かつエルミートな時間演算子 T(hat) が存在する場合、ハミルトニアンの固有値は連続値で (-∞,+∞) の領域のすべての値をとる。」が成り立つならば時間とエネルギーの不確定性関係はあるわけです。
これはハミルトニアンが特別な性質を持たないと物理的時間演算子は存在しないということを意味しているわけです。


けれども、同じページには次のようにも書かれている。(時間とエネルギーの不確定性関係は条件付きで成り立つのだろうか?)

全状態空間内部ではエルミート演算子ではないが部分空間でエルミート演算子として振舞うものは、シンメトリック演算子を呼ばれており、シンメトリックな時間演算子の研究は数学の分野として今でも研究が盛んなようです。

それから何年か前の数理科学(?)という雑誌だったかと思いますが、電通大の長岡先生が量子推定の枠組みで厳密に証明できる時間とエネルギーの不確定性関係の不等式の話をされていたように思います。


「時間とエネルギーの不確定性」は大勢の物理学者、数学者が研究を重ねてきた問題だ。でも、それなりに根拠と自信があるからこのチームは論文を発表したのだろう。

時間とエネルギーの間に不確定性がないから、と切り捨ててしまうのは早計かもしれない。


公開されている論文はPDFだとAppendixを含めて12ページ。(うち本編は7ページ)ざっと見たところまるで歯が立たないというものではなさそうなので、時間があるときに読んでみたい。

Entanglement of quantum clocks through gravity
http://m.pnas.org/content/114/12/E2303

全文(HTML
全文(PDF


関連記事:

時:渡辺慧
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d149cf16bb9dd319f572e4228fdfe241

ハイゼンベルクの顕微鏡(不確定性原理は超えられるか)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5597b85d83e795a22e97ca4d4ab97123


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