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圏論の歩き方(日本評論社)

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圏論の歩き方(日本評論社)

内容紹介:
数学のみならず、物理学や計算機科学等、周辺分野との共通言語として注目が集まる「圏論」。その基礎と応用事例を紹介する。
2015年9月刊行、295ページ

編者について:
圏論の歩き方委員会
新井迅(北海道大学大学院理学研究員)
一宮尚志(岐阜大学医学部)
浦本武雄(京都大学数理解析研究所)
西郷甲矢人(長浜バイオ大学)
蓮尾一郎(東京大学大学院情報理工学系研究科)
Piet Hut(プリンストン高等研究所学際研究プログラム)
春名太一(神戸大学大学院理学研究科)
平岡裕章(東北大学原子分子材料科学高等研究機構)


理数系書籍のレビュー記事は本書で289冊目。

詳細を気にせず全体を俯瞰するという理解のしかたがある。本書はまさにそのような本だ。これは入門書の入口に立つための本で、圏論を理解できるのだと思って読むとあてが外れる。

現代数学は集合論をベースに構築されているが、圏論は数学的構造とその間の関係を抽象的に扱う数学理論のひとつで、集合論に置き換えられ、補完するものと考えられている。数学としての抽象度はとても高い。

先日書いた「数学の大統一に挑む:エドワード・フレンケル」の記事では数学の異なる分野、そして量子物理学の間のつながりがラングランズ双対群で示されているという予想を紹介した。圏や層、関手などもウィキペディアの「ラングランズ・プログラム」という項目を読むとわかるように関連を持っているようだが「圏論の歩き方(日本評論社)」を読んでわかるのは圏が数学、物理学、計算機科学そしてもっと広い分野に共通して存在する概念、言葉であるということだ。

本書を読んで圏論は1960年代に登場して発展して、そして流行っていった「構造主義」と似たような流行り方だと思った。広義の意味での構造主義は数学、言語学、生物学、精神分析学、文化人類学、社会学などの学問分野のみならず、文芸批評にも及んでいる。現代思想に端を発しているから(ブルバキ流の)数学の基盤となってはいるが全体的には「方法論」であり、曖昧なものだ。それに対し圏論の出自は数学だからもともと厳密に定義された概念である。


圏論の入門書の入口に立つための本とはいえ笑ってしまうほどよくわからなかった。以下に目次や章のあらましを記載しておくが、僕が理解できたのは第1章から第5章まで。そして第6章は途中からちんぷんかんぷんになった。

第7章から第11章はページを開いたとたんに「あ、こりゃだめだ。」とあきらめてしまう始末。第12章で少し持ち直したかなと思ったら第13章の最後のほうで挫折。第14章から第16章は「なんとなく」読むことができた。そしていちばんためになったのは第17章の「圏論のつまづき方」。なぜこの本がこれほど僕の理解を超えていたのかがよくわかったし、これからどのように学べばよいかのヒントを与えてくれた。

これほど難しい本でありながら最後まで読み通せたのは「座談会」の章があること、そして解説の章の最後には「Q&A」が設けられていることだ。これらを読むとその章がどれだけ難しいことを言っているのか、理解できなくても仕方がないのだなと自分の頭の悪さを責め、さらに難解な章に入って苦しむという悪循環から解放してもらえるからだ。

いくつかの章は理解できたので「まぁ、今回はこれでよし。」ということにしておこう。


そのようなわけで目次レベル、概要レベルでもここに書いておくことはこの本を読んでみようかと思っている方に対して少なからず意味があると思う。

圏論の歩き方(日本評論社)



第1章:[座談会]圏論と異分野協働

- Adventures of Categoriesプロジェクト
- 「暗黙の知」を伝える
- 「暗黙の知」を伝えるための戦術論
- 圏論と「暗黙の知」
- 圏とは何か?
- なぜ圏なのか?--「使える共通言語」として
- (思ったよりも)ローコスト、(経験的に)ハイリターン
- 本書について--異文化協働、やってみよう

第2章:圏の定義(矢印でいろいろ書いてみる)

蓮尾一郎(東京大学大学院情報理工学系研究科)

圏論を「使う」うえで必要になる暗黙の知識を、教科書的でなく、ざっくばらんに伝えようというのが本書の目的です。とはいってもやはり数学ですから、最初は定義からはじめます。できるだけ気持が伝わるようがんばりますが、やっぱりむずかしいので、わからなくても気にせずに後の章に進んでください。

第3章:タングルの圏

鈴木咲衣(京都大学数理解析研究所/白眉センター)
葉廣和夫(京都大学数理解析研究所)

トポロジーとよばれる数学の分野での、圏論の使い方のはなしです。第2章に出てきた例とはまったく違って、「ひもがくるくるもつれている」のが射で、「もつれたひもを連結する」のが射の合成ですね。圏論で重要な関手の概念も初登場です。

第4章:プログラム意味論と圏論(計算の「不変量」を圏論で捉える)

長谷川真人(京都大学数理解析研究所)

情報科学、特にプログラミング言語の研究における圏論の使い方のはなしです。関数型プログラミングを通して圏論に興味を持った読者の方も多いかもしれませんね。なんとびっくりすることに、話の構造が第3章の「もつれたひも」の話とおなじになるのです。圏論の抽象力って、すごいですね。

第5章:モナドと計算効果

勝股審也(京都大学数理解析研究所)

第4章から引き続いてプログラムの話です。プログラムって関数のようでいて、しかし関数でない側面(計算効果)を持っているんですね。これを表現するのが圏論のモナドという概念です。圏論の主役の一人である自然変換も初登場します。プログラミング経験がなくても(たぶん)大丈夫!

第6章:モナドのクライスリ圏(圏論による一般化とは?)

蓮尾一郎(東京大学大学院情報理工学系研究科)

本章は第5章と同じモナドという概念を使いながら、また別の現象(状態推移系の分岐)を数学的にモデルします。いろいろな種類の分岐が統一的に扱えることや、第5章の計算効果との共通点など、圏論の「旨味」が伝わるといいのですが。

第7章:表現をする話(ミクロ・マクロ双対性(1))

小嶋泉(元・京都大学数理解析研究所)
西郷甲矢人(長崎バイオ大学)

警告:この章はむずかしいです!作用素環論を基礎にした数理物理学(とくに量子力学)の話なのですが、これまでの章に出てこなかった概念がバシバシ出てきます。読者におかれましては次のことのご留意ください。
(1)全然わからなくても気に病む必要はありません。
(2)逆にわからないからこそ頭に残って、数年後、数十年後に何かの役に立つかもしれません。
(3)咀嚼に長い時間かかるものに触れることって、すばらしいことだと思いませんか。

第8章:[座談会]歩き方の使い方

第7章のあまりの飛ばしっぷりは『数セミ』編集部を戦慄させ、急遽第1章のゆかいな仲間たちが再度招集されることになったのだった…!

- なんだか全然わからないじゃないか
- 文献の「取扱説明書」
- 数学における「理解」とは?
- 圏論の気持ち・代数学の気持ち
- 圏論のできること・できないこと
- 『圏論の歩き方』の使い方

第9章:ガロア理論と物理学(ミクロ・マクロ双対性(2))

小嶋泉(元・京都大学数理解析研究所)
西郷甲矢人(長崎バイオ大学)

第7章と第8章をご覧になった人なら、この章をどのように読めばいいのか、もうお分かりですよね。ガロア理論と物理学、一見なかなか関連しなさそうなこの二つがどのような共通点を持つのか?そこで圏論の果たす役割とは?これから数十年噛み続けてもまだまだ味のするような思考の糧、はじまりはじまり!

第10章:圏論的双対性の「論理」(圏論における抽象と捨象、あるいは不条理)

丸山善宏(オックスフォード大学数理・物理・生命科学部門)

第7、9章とよく似た数学的構造が、この章では論理学の文脈で「実体」と「性質」の双対性として現れます。たとえば、「えー理想の彼氏?身体がタフで~、運動が得意で~、マメに家に来てくれて~、キッチンにも立ってくれる人がいいな」というふうに性質を列挙することで、「ゴキブリ」という実体が特定されるわけです。(ツイッターで見かけたネタです。)

第11章:圏論的論理学:トポス理論を越えて

丸山善宏(オックスフォード大学数理・物理・生命科学部門)

第7、9、10章と続いてきた「ちょっとヘビーな章シリーズ」の最後がこの章です。(量子力学や計算機科学もやるけど)哲学者でもある丸山さんは、最終的に「論理とは何か?」という問いに行き着いています。その文章の真剣さと迫力ゆえに、Q&Aで二条さんが少し腰が引けてしまっているところも見どころです。実際に話してみると、丸山さんは全然真剣じゃなかったりするのですが。

第12章:すべての人に矢印を(圏論と教育をめぐる冒険)

西郷甲矢人(長崎バイオ大学)

この本の目的の一つは「圏論が使われる現場の実況中継」ですが、著者の多くが大学の教員だという事情で、教育もそのような「現場」の重要な一風景です。学部1年生の講義内容に圏論的考え方が潜んでいることを知るのは、講義する教員の側にもいろいろなことを考えさせてくれます。まさに「教うるは学ぶの半ば」ですね。

第13章:ホモロジー代数からアーベル圏、三角圏へ

阿部弘樹(東京経済大学コミュニケーション学部)
中岡宏行(鹿児島大学学術研究院理工学域理学系)

これまでの章とはうってかわって、この章はホモロジー代数と位相幾何学という「純粋数学」的な話です。そもそも圏論が生まれる母体になった分野ですね。位相幾何学におけるホモロジー群を最初のとっかかりにして"ホモロジー"を合言葉にアーベル圏、三角圏、導来圏が構成される様子をご覧ください。

第14章:表現論と圏論化

土岡俊介(東京大学大学院数理科学研究科)

第13章に続き「純粋数学」における圏論の話ですね。「量子化」「圏論化」という近年注目のキーワードが、少ない字数の中で説明されています。また、Q&Aあたりからは代数学における「インフォーマルな気持ち」が伝わってくるように思います。こういう気持ち、特に代数学の外にいると、なかなかわからないんですよね。

第15章:圏論と生物のネットワーク

春名太一(神戸大学大学院理学研究科)

この章ではまた応用数学に戻ります。しかもその対象はなんとシステム生物学です。大腸菌の遺伝子networkの解析に圏論が応用できるなんて、圏論のイメージが少し変わって来ませんか。

第16章:[座談会]「数学本流」にはなりたくない

- あやしいプロジェクトに巻き込みやがって
- やっぱりわからなかった
- (執筆後に判明した)この本の取り扱い説明書
- 数学の舞台裏
- 使えない圏論
- 圏の定義のAha!的でないありがたさ
- プログラミング言語」としての圏論
- 「数学本流」にはなりたくない

第17章:圏論のつまづき方

この本の最後に、連載時にはなかったボーナストラックをお届けしますね。この本を読んで圏論に興味をもって「よし一つ本気で勉強してみるか!」という読者のために、圏論のテクニカルな詳細を追うにあたっての落とし穴をいくつか説明しておきます。二条さんのモデルになった一宮さんが実際にはまった落とし穴です(あはは)。

- 可換図式の「筆順」
- 圏としてのモノイド
- 自然変換:いろいろなレベルの「射」
- 図式を省略せずに書こう
- 「便利な道具」としての自然変換


圏論が影響をもつ分野は多岐に渡っているから入門するのなら自分の得意な分野から入るのがよいと思う。日本語で読める本とコメントを書いておくので参考にしてほしい。

圏論の基礎:S.マックレーン」(英語版)(英語Kindle版



コメント: 「基礎」と銘打っているものの原書のタイトルが示すとおり「数学者向け」の入門書である。少なくとも数学基礎論、代数学(群論)、トポロジーを専門書で学んでから挑戦するべきだ。本書には「サポートページ」がある。


圏論 原著第2版:スティーブ・アウディ」(英語版



コメント: これも専門家向けの入門書である。アマゾンのレビューを読むと日本語訳に難があるようなので原書で読んだほうがよいのかもしれない。本書には「解説ページ」で「正誤表」が公開されている。


理工系のためのトポロジー・圏論・微分幾何:谷村省吾」(電子版



コメント: 日本語で読むのだとしたら今のところこの本がいちばん易しい本のようだ。紙の本はすでに絶版で高値でしか買えないから、サイエンス社からでているPDFの「電子版」をお買い求めなるとよいだろう。上の「電子版」というリンクをクリックすると目次やサンプルページを読むことができる。


圏論の技法:中岡宏行



コメント: 「圏論の歩き方(日本評論社)」の「第13章:ホモロジー代数からアーベル圏、三角圏へ」を執筆された中岡先生がお書きになった入門書で、今月発売されたばかりである。内容説明には「数学諸分野で基本的な道具・言語として用いられる 圏論・ホモロジー代数、待望の現代的入門書。関手、普遍性、双対性をはじめとする基本的な概念から、森田の定理など重要な結果、導来圏の基礎までを、徹底してやさしく解説します。」とある。これを信じてよいのかどうかはまだわからないが、チャレンジできそうな気がしている。目次は「解説ページ」をご覧いただきたい。


すごいHaskellたのしく学ぼう!」(Kindle版



コメント: プログラミングに習熟している方はHaskellという関数型言語を通じて圏論を具体的に学ぶのもよいかもしれない。Haskellの入門書はここをクリックしていただくとわかるように何種類か出ているが、この本で入門するのがいちばんよいと思う。ネット上には感想記事がいくつか投稿されているのでここをクリックしてお読みいただけるようにしておいた。


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