「固体物理の基礎 下・2 固体の物性各論: アシュクロフト、マーミン」
内容紹介:
学部生にも大学院生にも使えるよう工夫され、内容の取捨選択がしやすく、種々の目的、異なる水準でもうまく使い分けられる。固体物理学の現象の記述と理論的解析による統一という著者の目標は完全に達成されている。本巻では固体が示す種々の興味ある性質が基礎理論の応用として詳述されている。まず均質な半導体および不均質な半導体の性質が論じられるが、これは固体エレクトロニクスの基礎をなすものである。ついで結晶格子の欠陥全般についての概説があり、続いて磁性体論が3章にわたって展開される。最後の超伝導体の章はこの難解な現象をわかり易く理解させてくれる他に類を見ない解説である。2008年刊行、274ページ。
著者について:
ニール・W・アシュクロフト(ウィキペディア、経歴詳細)
イギリスの物理学者(固体物理学)、1938年生。1958年ニュージーランド大学卒業。学位は1964年ケンブリッジ大学。シカゴ大学およびコーネル大学で博士研究員、1975年教授。1990年にHorace White Professor of Physics。2006年名誉教授。
デヴィッド・マーミン(ウィキペディア、ホームページ)
コーネル大学名誉教授(物理学)。米国物理学会のリリエンフェルト賞および米国物理教育学会のクロプステッグ賞を受賞。米国科学アカデミー、米国芸術科学アカデミーの会員。この数十年の間に、量子論の基礎的な問題に関する多くの著作を執筆しており、科学の啓蒙に関する明瞭さと機知には定評がある。
訳者について:
松原武生(まつばらたけお)
1921-2014 昭和後期-平成時代の理論物理学者。
大正10年4月3日生まれ。北大教授をへて昭和30年京大教授となる。61年岡山理大教授。誘電体、超伝導、超流動などを研究。「温度グリーン関数」の概念を提案した。36年仁科記念賞。日本物理学会会長をつとめた。平成26年12月15日死去。93歳。大阪府出身。大阪帝大卒。著作に「超流動と超伝導」「固体物理学」など。
町田一成(まちだかずしげ)
1968年東京教育大学理学部卒業。1973年同上理学研究科博士課程修了。京都大学理学部助手、岡山大学理学部助教授、教授を経て、岡山大学大学院自然科学研究科教授。
理数系書籍のレビュー記事は本書で282冊目。
本書の第1巻は3月末に読み始めたのだが、ようやく第4巻を読了。1000ページを超える大著でも地道に進めばなんとかなるものだ。
第4巻は章ごとに違うテーマなので飽きることなく読める。それはまた本書でも言及されていることだが各テーマの記述が「概論」にとどまっており、詳しく学ぶためにはそれぞれ専門書を読んだほうがよいということになる。特にそれは磁性、超伝導の章についていえる。
効率だけを考えれば第3巻まで読んで、あとは専門書を読むべきだったと思ったのは後の祭りりだ。
日本語版は第4巻だけ現代の研究成果を取り入れて2008年に改訂されたわけだが、それでも古臭さが残っていると感じた。
章立ては次のとおりだ。
下・2:半導体、磁性体、超伝導体論
第28章:均質な半導体
第29章:不均質な半導体
第30章:結晶中の欠陥
第31章:反磁性と常磁性
第32章:電子相互作用と磁気的構造
第33章:磁気的秩序
第34章:超伝導
付録
半導体のバンド理論は電子工学系の本で学んだり「基礎の固体物理学: 斯波弘行」では16ページ」ほどの記述で学んでいたので基礎的なことは知っていた。しかし本書の記述は66ページにもおよび、十分詳しく学ぶことができる。
興味深く読めたのは第30章の「結晶中の欠陥」、第31章から第33章までの「磁性」や「磁気」を扱った章だった。
第34章の「超伝導」の章は僕にはわかりにくく、専門書を読んだほうがよいという印象だった。(本のせいではなく僕の理解度が追いついていないだけなのかもしれないが。)
本書で特に重要なキーワードを解説しているページと短い説明を書いておこう。
半導体:
電気電導性の良い金属などの導体(良導体)と電気抵抗率の大きい絶縁体の中間的な抵抗率をもつ物質を言う。代表的なものとしては元素半導体のシリコン(Si)などがある。半導体は、熱や光、磁場、電圧、電流、放射線などの影響でその電導性が顕著に変わるという特徴を持つが、これら特徴は固体のバンド理論によって説明される。
バンド理論:
結晶などの固体物質中に分布する電子の量子力学的なエネルギーレベルに関する理論を言う。1920年代後半にフェリックス・ブロッホ、ルドルフ・パイエルス、レオン・ブリリアンらによって確立された。ブロッホの定理によると、結晶中の電子の波動関数(結晶中の電子の電子状態)は、波数と呼ばれる量子数によって指定される。このことが、エネルギーと波数の関係式が原理的に書き下せることを保障している。
また、結晶構造に応じた並進対称性の影響から、エネルギーバンドの間にギャップ(バンドギャップ)が生じることがある。
絶縁体と半導体ではエネルギーバンドは価電子帯と伝導帯に分かれ、フェルミ準位はそれらの間のギャップの中に存在するが、金属では少なくとも一つのエネルギーバンドの中にフェルミ準位が存在する。逆に、このエネルギーバンドの特徴によって、物質を金属と絶縁体に分類することができる。
このような金属、絶縁体の分類の描像は20世紀の半ばには確立されていた。しかし単純なバンド理論では説明できない絶縁状態(モット絶縁体)も存在し、強相関電子系と呼ばれる分野で研究されている。
サイクロトロン共鳴:
荷電粒子は磁場中でサイクロトロン運動 (円運動) をするが,これと同じ振動数の電磁波を加えると共鳴して,電磁波のエネルギーを吸収する。この現象をサイクロトロン共鳴という。プラズマ中の電子やイオンの加熱に応用される。
p-n接合:
半導体中でp型の領域とn型の領域が接している部分を言う。整流性、エレクトロルミネセンス、光起電力効果などの現象を示すほか、接合部には電子や正孔の不足する空乏層が発生する。これらの性質がダイオードやトランジスタを始めとする各種の半導体素子で様々な形で応用されている。またショットキー接合の示す整流性も、p-n接合と原理的に良く似る。
ショットキー欠陥:
結晶中において、格子点イオンが結晶の外に出た後に空孔が残った欠陥のこと。アルカリハライド結晶(NaCl、RbI、CsI など)にて観察される。ショットキー欠陥の生成により、密度が変化するが、電気伝導性は増加しない。その名はヴァルター・ショットキーにちなむ。
ショットキー欠陥の欠陥密度の式表現は、熱力学で知られているボルツマン分布や、より正確には統計力学のフェルミ・ディラック分布で表現される。
フレンケル欠陥:
結晶中において、格子点イオンが、格子間に移りその後に空孔が残った欠陥のこと。塩化銀 (AgCl) や臭化銀(AgBr)などのイオン結晶にて観察されやすい。フレンケル欠陥は、熱振動が原因で発生しやすい。このフレンケル欠陥の生成は、密度に関しては変化はない。電気伝導性を増加させる。電気伝導性が増える理由は、格子欠陥の生成と同時に電子の励起や、正電荷に帯電した空孔を生成し、それらが電流のキャリアになるためである。「フレンケル欠陥」の名称の由来は、ロシアの科学者のヤコヴ・フレンケルにちなむ。
フレンケル欠陥の欠陥密度の式表現は、熱力学で知られているボルツマン分布や、より正確には統計力学のフェルミ・ディラック分布で表現される。
色中心:
イオン結晶中の点欠陥に、電子や正孔が捕捉されたある種の格子欠陥のこと。
特定の波長の光を吸収して色が着くため、このように呼ばれる。このうち盛んに研究されたのがF中心である。(Fはドイツ語で色を意味するFarbeに由来する。)
ポーラロン:
準粒子のひとつで、電子と、分極した電場からなる。電子が誘電体の結晶の中をゆっくり動くとき、結晶格子のイオンと相互作用しながら周辺領域の結晶格子に分極と変形をもたらし、そのような領域も電子とともに動く。その状態を粒子に見立ててポーラロンと呼ぶ。
ラーマー(ラーモア)反磁性:
反磁性のひとつであり、古典的には原子に磁場をかけたときに、電子がレンツの法則に従い原子核のまわりでラーモア運動とよばれるサイクロトロン運動をする(より正確には、元の軌道半径は変わらずに角周波数が増える)ことによって生じる反磁性である。1905年にポール・ランジュバンによって理論的に求められた。このような電子の運動はジョセフ・ラーモアにより研究されたため、ラーモア反磁性とよばれる。また、理論により求めたランジュバンより、ランジュバンの反磁性と呼ばれることもある。
ラーモア反磁性の大きさは、温度に依存しない。また、原子番号Zが大きい元素では反磁性が大きくなる。更に、電子の軌道半径に依存するため、かつては磁化率の値から原子の大きさを求めるために利用されていた。
フントの規則:
原子の最安定な電子配置に関する経験則である。フリードリッヒ・フントにより提案された。原子に限らず、イオンや分子においても成り立つことが多い。同じエネルギーの軌道が N 個あるとき、これに k 個の電子を配置する場合の数は 2NCk 通りある。フントの規則によれば、これらの電子配置のうちで、許される限りスピンを平行にして異なる軌道に電子を入れる配置が、最も安定な電子配置である。
同じエネルギーの軌道が複数ある場合、二個の電子は同じ軌道に入るよりも互いに異なる軌道に入ったほうが、それらの電子同士が接近して存在する確率が低くなり、クーロン力による位置エネルギーが小さくなる。互いに異なる軌道に入っている電子のスピンが反平行であるときよりも平行であるときの方が安定になることについては、フェルミ孔を考えることにより定性的には説明できる。
ファン・ブレック常磁性:
基底状態での磁気モーメントの期待値がゼロであるようなイオンに磁場をかけたとき、磁場に比例した磁化が誘起される。このためには励起状態間の磁気モーメントの行列要素がゼロでないことが必要である。結晶場中のイオンで、十項基底状態をもつものにおいてしばしばみられる。
キューリー則:
常磁性物質においては、 その物質の磁化は、(ほぼ)かけられた磁場に正比例する。しかし、もし物質が熱せられていると、この線形性は消失する: 一定の磁場については、磁化は(ほぼ)温度に反比例する。
この関係は1895年にピエール・キュリーにより(実験結果が想定されるモデルに適合するように調整されつつ)実験的に発見された。その後、ポール・ランジュバンが理論的に導出した(以下を参照)。そのため、キュリー・ランジュバンの法則とも呼ばれる。
この法則は高温または弱い磁場についてのみ成り立つ。以下で導く通り、低温または強磁場のような反対側の極限では磁化は飽和する。
なお、強磁性体や反強磁性体では、キュリーの法則を拡張したキュリー・ワイスの法則が(ほぼ)成り立っている。
断熱消磁:
極低温領域での冷却法の一つ。液体ヘリウムでの冷却では冷やせないさらに低温の冷却を行う。以下に断熱消磁の原理について説明する。
常磁性体は内部の電子のスピンがばらばらな方向を向いている。今、常磁性体を1K程に冷却したのち強い磁場をかける。極低温では、常磁性体でもほとんどの電子スピンの向きは磁場方向に向く。断熱したまま磁場を切ると電子スピンは再びばらばらな方向を向き、エントロピーが上昇する。断熱されているので、このエントロピーの上昇を補償する分だけ常磁性体の温度が下がり10^(-3)K程度まで冷却される。
パウリ常磁性:
自由電子系における常磁性の一種で、キュリー常磁性に比べ磁化率は小さく、温度変化も少ない。磁場をかけることで、磁場に平行なスピンを持つ電子の数が反平行なものより増加することで発生する。
金属中の自由電子はフェルミ縮退を起こしている。そのため古典統計力学で考えた場合と異なり、磁場をかけた場合に電子がそのスピン状態を変えようとしても、変わる先の状態がすでに占有されているのでスピン状態が変わることができない(パウリの原理)。よって磁性に影響するのはフェルミ面付近の電子だけになってしまい、磁化率は古典粒子として考えた場合よりもずっと小さい値になる。また同様の原理により、フェルミ縮退している物質では、フェルミ縮退をしなくなる温度であるフェルミ温度程度までは温度によらない磁化率を示す。
核磁気共鳴:
外部静磁場に置かれた原子核が固有の周波数の電磁波と相互作用する現象である。原子番号と質量数がともに偶数でない原子核は0でない核スピン量子数 I と磁気双極子モーメントを持ち、その原子は小さな磁石と見なすことができる。磁石に対して磁場をかけると磁石は磁場ベクトルの周りを一定の周波数で歳差運動する。原子核も同様に磁気双極子モーメントが歳差運動を行なう。この原子核の磁気双極子モーメントの歳差運動の周波数はラーモア周波数 (Larmor frequency) と呼ばれる。この原子核に対してラーモア周波数と同じ周波数で回転する回転磁場をかけると磁場と原子核の間に共鳴が起こる。この共鳴現象が核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance、略してNMR)と呼ばれる。
ハバード・モデル: https://staff.aist.go.jp/t-yanagisawa/activity/hubbard.html
固体中を動いている電子間には距離に反比例するクーロン相互作用が働いているが、バックグラウンド(すなわち原子核の)の正の 電荷により遮蔽されて、長距離相互作用が有効的に短距離相互作用になっていると考えらる。 電子は、原子内にある時は原子内電子間でクーロン相互作用をおよぼしあっている。これは、オンサイトのクーロン相互作用とよばれるものだ。 ハバードモデルはオンサイトのクーロン相互作用のみを考えたものである。1/rで長距離まで働くクーロン相互作用に比べて、オンサイトのクーロン相互作用の方が重要であろうと考えたもので、固体中の電子系を記述する基本的なモデルの一つ。
近藤効果: https://staff.aist.go.jp/t-yanagisawa/activity/kondoeffect.html
磁性を持った極微量な不純物(普通磁性のある鉄原子など)がある金属では、温度を下げていくとある温度以下で電気抵抗が上昇に転じる現象である。これは通常の金属の、温度を下げていくとその電気抵抗も減少していくという一般的な性質とは異なっている。現象そのものは電気抵抗極小現象とよばれ、1930年頃から知られていたが、その物理的機構は1964年に日本の近藤淳が初めて理論的に解明した。
ハイゼンベルク強磁性:
統計力学に登場するモデル(模型)の一つで、強磁性やその他の現象を説明するために用いられる。nベクトル模型の n = 3 の場合に相当する。
平均場理論:
平均場近似は多体系を扱う場合、その多体の相互作用をまともに解くことが通常非常に困難であることから、多体の効果をある平均的なもの(平均場)とみなす近似である。そして、これを解くためのセルフコンシステント(自己無撞着)な方程式を導き出し、これを解くことにより求めるべき解が得られる。
強磁性に関するワイス理論(1907年)が、この近似(これは分子場近似と言われた)が使われた最も初期のもの。その後、平均場近似(分子場近似)を用いたものとして、ブラッグ‐ウィリアムス近似(二元合金の規則・不規則問題)、ハートリー近似(ハートリー‐フォック近似)などがある。バンド計算での一電子近似も平均場近似の一つである。
マイスナー効果:
超伝導体が持つ性質の1つであり、遮蔽電流(永久電流)の磁場が外部磁場に重なり合って超伝導体内部の正味の磁束密度をゼロにする現象である。マイスナー―オクセンフェルト効果(Meissner-Ochsenfeld effect)、あるいは完全反磁性(Perfect diamagnetism、Superdiamagnetism)とも呼ばれる。
外部磁場がない状態で超伝導物質を冷却し、超伝導状態になってから外部磁場を加え始めると、磁場は超伝導体の内部に侵入しない。これはマイスナー効果というものを考えなくても、電磁誘導の法則だけで説明できる。すなわち、超伝導体は電気抵抗がゼロであるから、外部磁場をかけた瞬間に誘導電流が発生して、その誘導電流がつくる磁場が外部磁場を打ち消すというものである。
しかし実際には、先に外部磁場をかけて物質内部に磁場がある状態にしてから、物質を冷却して超伝導状態にすると、超伝導状態になったとたんに磁場が物質外部に押し出される。この現象は電磁誘導の法則では説明できない。従ってマイスナー効果は、完全導電性(ゼロ抵抗)とは別の、超伝導体に固有の性質の1つである。
臨界磁場:
超伝導状態を破壊してしまう磁場の値のこと。外部からの磁場が臨界磁場より強くなければ、超伝導体はマイスナー効果により磁場を排除するが、磁場が臨界磁場を超えると超伝導状態ではなくなってしまう。磁場の反応の違いから超伝導体には第一種超伝導体と第二種超伝導体の二種類がある。第二種超伝導体はHc1とHc2の2つの臨界磁場を持つ。
臨界磁場は1913年にヘイケ・カメルリング・オネスによって発見された。彼は鉛(Pb、転移温度7.2K(ケルビン))線をコイル状に巻いて電磁石を作り、強力な磁場を発生させようと試みた。鉛合金線を長さ1cm、直径8mmの管に千回巻いてコイルにし、転移温度まで下げて電流を流したところ、0.8A(アンペア)以上の電流を流せなかった。それ以上の電流を流すと、超伝導状態が壊れてしまったからである。これにより、鉛コイルが作り出した磁場により超伝導状態が壊れたのだと考えられ、その磁場の値を臨界磁場とした。
ロンドン方程式:
超伝導の特徴の1つであるマイスナー効果に対して現象論的な解釈を与える方程式のことである。
ロンドン兄弟(フリッツ・ロンドンとハインツ・ロンドン)によって導きだされたのでロンドン方程式という。この方程式で使うλ(ラムダ)をロンドンの侵入長(しんにゅうちょう、London penetration depth)という。
BCS理論:
1911年の超伝導現象発見以来、初めてこの現象を微視的に解明した理論。1957年に米国、イリノイ大学のジョン・バーディーン、レオン・クーパー、ジョン・ロバート・シュリーファーの三人によって提唱された。三人の名前の頭文字からBCSと付けられた。この理論によると超伝導転移温度や比熱などが、式により表される。三人はこの業績により1972年のノーベル物理学賞を受賞した。
ギンツブルグ・ランダウ理論:
1950年にロシアで発表された超伝導を説明する現象論で、ランダウの相転移の理論と平均場理論を基にしている。Ψで表される秩序(オーダー)パラメータと呼ばれる超伝導の秩序の程度を表すパラメータを用いたのが特徴で、ベクトルポテンシャルAによるギンツブルグ-ランダウ方程式で表される。 この理論では、系のヘルムホルツの自由エネルギーについて、変分法によってその平衡状態を求めたとき、或る温度以下では電子対凝縮が起きた状態の方がエネルギーが低いことが示された。すなわち個々の電子として存在するよりも、もうひとつの電子と対を成す方がより安定である事を示した。この電子対は7年後に提唱されたBCS理論におけるクーパー対に相当する。またこの方程式から得られるパラメーターの比から第一種・第二種超伝導体の区別を与える。 この理論によって、それまでの現象論であるロンドン理論の不足が補われた。ギンツブルグは本業績により2003年ノーベル物理学賞を受賞。ミクロ理論は、J.バーディーンらによるBCS理論(1957)。
磁束の量子化:
リング状の超伝導体を考えたとき、超伝導体そのものはマイスナー効果により内部に磁束が入ることは出来ないが、リングの穴の部分を通ることは可能である。
超伝導リングを通ることができる磁束の量が離散的な値になることを「磁束の量子化」と呼び、その最小単位を磁束量子と呼ぶ。 超伝導を特徴づける重要な特性の一つに挙げられる。 リング状でなくとも、例えば第二種超伝導体の内部へ侵入した磁束は、量子化された磁束量子となる。
量子化した磁束は、1961年にディーバー、フェアバンクら、及びドール、ネーバーらによって独立に観察された。
ジョセフソン効果:
弱く結合した2つの超伝導体の間に、超伝導電子対のトンネル効果によって超伝導電流が流れる現象である。1962年に、当時ケンブリッジ大学の大学院生だったブライアン・ジョセフソンによって理論的に導かれ、ベル研究所のアンダーソンとローウェルによって実験的に検証された。1973年、ブライアン・ジョセフソンは江崎玲於奈らと共にジョゼフソン効果の研究によりノーベル物理学賞を受賞した。波動関数の位相というミクロな量をマクロに観測できるという点で、超伝導の特徴を最も端的に示す現象と言うことができる。超伝導量子干渉計(SQUID)のようなジョセフソン効果による量子力学回路の重要な実用例もある。
弱結合の種類としては、トンネル接合、サブミクロンサイズのブリッジ、ポイントコンタクト等がある。また、トンネル障壁としては厚さ2 nm程度の絶縁体、厚さ10 nm程度の常伝導金属あるいは半導体等が使われる。弱結合を介して流れる超伝導電流をジョセフソン電流、ジョセフソン効果を示すトンネル接合をジョセフソン接合と呼ぶ。電子デバイスとして扱われる場合はジョセフソン素子と呼ばれる。
以下、本書に掲載されている図版を載せておこう。
この教科書で学んでみようという方は、こちらからどうぞ。
「固体物理の基礎 上・1 固体電子論概論: アシュクロフト、マーミン」- 1981(紹介記事)
「固体物理の基礎 上・2 固体のバンド理論: アシュクロフト、マーミン」- 1981(紹介記事)
「固体物理の基礎 下・1 固体フォノンの諸問題: アシュクロフト、マーミン」- 1981(紹介記事)
「固体物理の基礎 下・2 固体の物性各論: アシュクロフト、マーミン」- 2008
翻訳のもとになった英語版はこの本だ。1976年刊行。
「Solid State Physics 1e: Neil W. Ashcroft, N.David Mermin」(ハードカバー)(ペーパーバック)
関連ページ: ネットで学びたい方はこちらからどうぞ。
目で見て操作する「分子の世界」-そのミクロ構造と物性-
http://rikanet2.jst.go.jp/contents/cp0200a/start.html
物性物理学(筑波大学物理学系 小野田雅重先生のページ)
http://www.px.tsukuba.ac.jp/~onoda/cmp/cmp.html
ときわ台学:物質・材料の掟 (公開版)
http://www.f-denshi.com/000okite/000matrl.html
磁石の不思議
http://www.ne.jp/asahi/shiga/home/Lecture/magnet.htm
強磁性体の性質
http://www.ne.jp/asahi/shiga/home/Lecture/ferromagnet.htm
金属の塑性変形と格子欠陥(転位)
http://ms-laboratory.jp/zai/part2/part2.htm
超伝導 --- マクロな量子現象
http://www.kh.phys.waseda.ac.jp/superconductivity@.html
超伝導の基礎
http://moniko.s26.xrea.com/cyoudendou_kiso.htm
関連記事:
固体物理の基礎 上・1 固体電子論概論: アシュクロフト、マーミン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/af3b66dbda3564a4c49f5d7f722ad777
固体物理の基礎 上・2 固体のバンド理論: アシュクロフト、マーミン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/8c12399f0dd9b78de128a9793502c3f3
固体物理の基礎 下・1 固体フォノンの諸問題: アシュクロフト、マーミン
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a60d3f080472a8472c462a02484743da
物性物理30講(物理学30講シリーズ):戸田盛和
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/00d399f545bc69dfa213015f153a312a
基礎の固体物理学: 斯波弘行
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d2287a9fdbc66eac443fe0888d835602
分子軌道法: 物理学と化学の境界
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/adb9c9e55a1ea2f1883b2a4bfced8f93
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下・2:半導体、磁性体、超伝導体論
第28章:均質な半導体
- 半導体の一般的な性質
- 半導体のバンド構造の例
- サイクロトロン共鳴
- 熱平衡におけるキャリアー統計
- 真正半導体と外来性半導体
- 熱平衡における不純物準位の統計
- 不純物半導体の熱平衡状態のキャリアー密度
- 不純物バンド伝導
- 非縮退半導体中の輸送現象
第29章:不均質な半導体
- 不均質な固体の半古典的取り扱い
- 平衡状態にあるp-n接合中の電場とキャリアー密度
- p-n接合による整流作用の初等的描像
- 移動および拡散の流れ
- 衝突時間と再結合時間
- 非平衡状態にあるp-n接合における電場、キャリアー密度および電流
第30章:結晶中の欠陥
- 結晶内の欠陥
- ショットキー欠陥とフレンケル欠陥
- 焼鈍
- イオン結晶の電気伝導度
- 色中心
- ポーラロンと励起子
- 転移
- 結晶の強度
- 積層欠陥と粒界
第31章:反磁性と常磁性
- 磁場と固体との相互作用
- ラーマー反磁性
- フントの規則
- ファン・ブレック常磁性
- 自由イオンのキューリー則
- 断熱消磁
- パウリ常磁性
- 伝導電子の反磁性
- 核磁気共鳴、ナイト・シフト
- ドープした半導体の電子反磁性
第32章:電子相互作用と磁気的構造
- 磁気的相互作用の静電的原因
- 2電子系の磁気的性質
- 独立電子近似の破綻
- スピン・ハミルトニアン
- 直接、超、間接、および遍歴交換相互作用
- ハバード・モデル
- 合金の局在モーメント
- 抵抗極小の近藤理論
第33章:磁気的秩序
- 磁気的構造の種類
- 磁気的構造の観測
- 磁気的秩序の出現温度での熱力学的性質
- ハイゼンベルグ強磁性と反強磁性体の基底状態
- 低温の性質:スピン波
- 高温の性質、キューリー法則の補正
- 臨界点の解析
- 平均場理論
- 双極子相互作用の効果、磁区、反磁場係数
第34章:超伝導
- 臨界温度
- 永久電流
- 熱電気効果
- マイスナー効果
- 臨界磁場
- 比熱
- エネルギー・ギャップ
- ロンドン方程式
- BCS理論の構造
- BCS理論の予測
- ギンツブルグ・ランダウ理論
- 磁束の量子化
- ジョセフソン効果
付録P:ランデのg因子の計算
その他の巻の章立て
上・1:固体電子論概論
第1章:金属のドゥルーデ(Drude)理論
第2章:金属のゾンマーフェルト理論
第3章:自由電子モデルの破綻
第4章:結晶格子
第5章:逆格子
第6章:X線回折による結晶構造の決定
第7章:ブラベー格子の分類と結晶構造の分類
第8章:周期ポテンシャル中の電子状態、一般的性質
第9章:弱い周期ポテンシャルの中の電子
第10章:強く束縛された方法
付録
上・2:固体のバンド理論
第11章:バンド構造を計算する他の方法
第12章:電子の動力学の半古典的モデル
第13章:金属伝導の半古典的理論
第14章:フェルミ面の測定
第15章:いくつかの金属のバンド構造
第16章:緩和時間近似を越えた近似
第17章:独立電子近似を越えた近似
第18章:表面効果
付録
下・1:固体フォノンの諸問題
第19章:固体の分類
第20章:凝集エネルギー
第21章:静止格子模型の破綻
第22章:調和結晶の古典論
第23章:調和結晶の量子論
第24章:フォノン分散関係の測定
第25章:結晶の非調和効果
第26章:金属中のフォノン
第27章:絶縁体の誘電的性質
付録