「宇宙創世はじめの3分間 (ちくま学芸文庫):S. ワインバーグ」
内容
本書は、宇宙輻射背景や軽い元素の存在量についての最近の観測結果と素粒子物理学の知識を駆使して、開闢してまもない宇宙を本格的に分析し解明した、初めての一般書である。ここには、宇宙が爆発的に開闢してから100分の一秒で、輻射のなかに電子と陽電子とわずかな陽子、中性子がとけていた1000億度の熱い宇宙スープが、膨張につれて急速に冷えてゆき、ついに10億度で、今日われわれが見ている物質が形をとりはじめたところまでの約三分間が、感動的に描かれている。さらにワインバーグは、素粒子についての最新の考え方にもとづいて、より以前のより熱い宇宙を理論の目をもって探っている。宇宙の極大温度とか、宇宙の相転移といった考えは、人間の知的推理活動の限界を示すひとつとして、読む人の興奮をさそわずにはおかないだろう。
有史以来、強烈なイメージを伴って人類が語り続けてきた宇宙誕生の物語。物理学の知識や天体観測の技術が飛躍的に向上した現在、われわれが「見る」ことのできる天地創造はどのようなストーリーだろうか?読者はワインバーグの易しく明快な語り口をガイドに、開闢間もない宇宙の姿を目の当たりにするだろう。文庫化にあたり、原著が出版されてからCOBE衛星による最近の観測までを概観した原著者自らによる追補を新たに収録、「ビッグバン宇宙論」を一躍有名にした古典的名著の決定版。2008年9月刊行、327ページ。
著者略歴
スティーブン・ワインバーグ
1933年、ニューヨーク生まれ。コーネル大学を卒業し、コロンビア大学でPh.D.を取得。現在テキサス大学教授。専門は素粒子物理学。1979年にS.グラショウ、A.サラムとともに電弱理論への貢献でノーベル物理学賞を受賞
翻訳者略歴
小尾信彌
1925年、東京生まれ。東京帝国大学理学部天文学科卒業。東京大学名誉教授。理学博士。専門は天体物理学
理数系書籍のレビュー記事は本書で256冊目。
ビッグバン宇宙論を一躍有名にし、現代も読み続けられている古典的名著である。英語版は1977年初版、1988年改訂第1版、1993年改訂第2版が刊行され、それぞれに対応する日本語版は1977年、1995年、2008年に刊行された。翻訳は天体物理学者の小尾信彌先生。数多くの啓蒙書を翻訳または著述し天文ファンの間で広く親しまれている研究者だ。現在89歳。
この本は中学生のときすでに僕は書店で見て知っていた。「最初の3分間」というタイトルはインパクトがある。宇宙の始まりの最初の3分間なのだ。そんなことがいったいどうしてわかるのだろう?
僕はそういう高尚な疑問を持ったわけではない。その当時の僕にとって「3分間」という言葉で思い浮かぶのはカップ麺ができあがるまでの時間だった。
「著者は本が売れるように、カップ麺の「3分間」という言葉をわざとキャッチコピーとして使ったに違いない。」
これが僕の第一印象だった。そういう安易なタイトルをつけるのは好ましくないと思い切り勘違いしていたので購入には結びつかなかった。
当時の僕は素粒子物理学のことなど全く知らなかったし、外国人のノーベル物理学賞はアインシュタインしか知らなかったから無理もない。ワインバーグという名前で想像できたのはハンバーグだけだった。この本のことよりもむしろ当時の僕は「ニュートンはなぜノーベル賞を受賞していないのだろう?」という疑問ほうが気になっていた。当時の「とんちんかんぶり」を思うと恥ずかしくて仕方がない。(と言いつつ書いてしまったが。)
そして30年ぶりに本書と出会い、今度こそはと真面目に読んだわけなのだ。
文庫本として出版された一般向け科学教養書とはいえ、本書は文字がぎっしり詰まっているだけでなく内容も高度だ。2〜3回読まないと頭に入っていかないと思った。もし中学生や高校生の頃に読んだとしても、きっと途中で投げ出していただろう。読み解くためには科学教養書レベルであっても素粒子物理学の歴史とあらましを知っていることが前提となる。一般相対論や量子力学は知らなくても読めると思う。
初版が出版された1977年当時、本書は一般の科学愛好者に広く読まれただけでなく天文学や物理学の専門家にも大きな影響を与えた。特に素粒子物理学者の関心を宇宙論に向けさせたという点で科学史の上でも大きな役割を果たしている。宇宙始まりの謎は素粒子物理学そのものと言ってよいからだ。そして巨大素粒子加速器が必要な理由を明確にし、建設予算承認のための大きな推進力となった。
「宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス」は主にこの20年の成果を知るのにうってつけで「科学教養書初心者」でも読みやすい。それに対して本書では1977年頃までに解明された宇宙誕生後100分の1秒から34分後までを6つのフレームに分け、宇宙を構成する素粒子(原子はまだ構成されていない)がどのような割合で、どのような状態であったかがとても詳しく解説されている。
僕は読む順番が逆になってしまったが、専門書の「ワインバーグの宇宙論(上巻)」にチャレンジするのであれば本書を先に読んでおいたほうがよいとあらためて思った。
巻末に添えられている14ページほどの「数学ノート」は特に有益だ。「NHK宇宙白熱教室」で紹介されたドップラー効果や宇宙膨張の計算も含めて、次のようなことを高校、大学初年度レベルの数式で計算して見せてくれている。
- ドップラー効果
- 臨界密度
- 膨張の時間スケール
- 黒体輻射
- ジーンズ質量
- ニュートリノの温度と密度
翻訳のもとになったのはこちらの英語版だ。改訂第2版(1993年)である。
「The First Three Minutes (2nd Updated Edition, 1993: S.Weinb)erg」(Kindle版)
関連記事:
発売情報:ワインバーグの宇宙論(上)(下)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3aab4560e20f675285c35002fc96dfab
宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b6f36e8eedba5ee63a4f919d30a2cb20
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「宇宙創世はじめの3分間 (ちくま学芸文庫):S. ワインバーグ」
訳者まえがき(1995年、小尾信彌)
序(1976年、S.ワインバーグ)
ペーパーバック第2版の序(1993年、S.ワインバーグ)
序章:巨人と雌牛
宇宙の膨張
宇宙マイクロ波輻射背景
熱い宇宙の処方
最初の3分間
歴史的なよりみち
最初の100分の1秒間
エピローグ:これからの展望
原著者追補1:1976年以降の宇宙論
原著者追補2:1977年以降の宇宙論
解題『宇宙創成はじめの3分間』(佐藤文隆)
補遺
- 表1:いくつかの素粒子の性質
- 表2:いくつかの輻射の性質
- 用語解説
- 数学ノート
- もっと勉強したい人のために
文庫版あとがき
索引
内容
本書は、宇宙輻射背景や軽い元素の存在量についての最近の観測結果と素粒子物理学の知識を駆使して、開闢してまもない宇宙を本格的に分析し解明した、初めての一般書である。ここには、宇宙が爆発的に開闢してから100分の一秒で、輻射のなかに電子と陽電子とわずかな陽子、中性子がとけていた1000億度の熱い宇宙スープが、膨張につれて急速に冷えてゆき、ついに10億度で、今日われわれが見ている物質が形をとりはじめたところまでの約三分間が、感動的に描かれている。さらにワインバーグは、素粒子についての最新の考え方にもとづいて、より以前のより熱い宇宙を理論の目をもって探っている。宇宙の極大温度とか、宇宙の相転移といった考えは、人間の知的推理活動の限界を示すひとつとして、読む人の興奮をさそわずにはおかないだろう。
有史以来、強烈なイメージを伴って人類が語り続けてきた宇宙誕生の物語。物理学の知識や天体観測の技術が飛躍的に向上した現在、われわれが「見る」ことのできる天地創造はどのようなストーリーだろうか?読者はワインバーグの易しく明快な語り口をガイドに、開闢間もない宇宙の姿を目の当たりにするだろう。文庫化にあたり、原著が出版されてからCOBE衛星による最近の観測までを概観した原著者自らによる追補を新たに収録、「ビッグバン宇宙論」を一躍有名にした古典的名著の決定版。2008年9月刊行、327ページ。
著者略歴
スティーブン・ワインバーグ
1933年、ニューヨーク生まれ。コーネル大学を卒業し、コロンビア大学でPh.D.を取得。現在テキサス大学教授。専門は素粒子物理学。1979年にS.グラショウ、A.サラムとともに電弱理論への貢献でノーベル物理学賞を受賞
翻訳者略歴
小尾信彌
1925年、東京生まれ。東京帝国大学理学部天文学科卒業。東京大学名誉教授。理学博士。専門は天体物理学
理数系書籍のレビュー記事は本書で256冊目。
ビッグバン宇宙論を一躍有名にし、現代も読み続けられている古典的名著である。英語版は1977年初版、1988年改訂第1版、1993年改訂第2版が刊行され、それぞれに対応する日本語版は1977年、1995年、2008年に刊行された。翻訳は天体物理学者の小尾信彌先生。数多くの啓蒙書を翻訳または著述し天文ファンの間で広く親しまれている研究者だ。現在89歳。
この本は中学生のときすでに僕は書店で見て知っていた。「最初の3分間」というタイトルはインパクトがある。宇宙の始まりの最初の3分間なのだ。そんなことがいったいどうしてわかるのだろう?
僕はそういう高尚な疑問を持ったわけではない。その当時の僕にとって「3分間」という言葉で思い浮かぶのはカップ麺ができあがるまでの時間だった。
「著者は本が売れるように、カップ麺の「3分間」という言葉をわざとキャッチコピーとして使ったに違いない。」
これが僕の第一印象だった。そういう安易なタイトルをつけるのは好ましくないと思い切り勘違いしていたので購入には結びつかなかった。
当時の僕は素粒子物理学のことなど全く知らなかったし、外国人のノーベル物理学賞はアインシュタインしか知らなかったから無理もない。ワインバーグという名前で想像できたのはハンバーグだけだった。この本のことよりもむしろ当時の僕は「ニュートンはなぜノーベル賞を受賞していないのだろう?」という疑問ほうが気になっていた。当時の「とんちんかんぶり」を思うと恥ずかしくて仕方がない。(と言いつつ書いてしまったが。)
そして30年ぶりに本書と出会い、今度こそはと真面目に読んだわけなのだ。
文庫本として出版された一般向け科学教養書とはいえ、本書は文字がぎっしり詰まっているだけでなく内容も高度だ。2〜3回読まないと頭に入っていかないと思った。もし中学生や高校生の頃に読んだとしても、きっと途中で投げ出していただろう。読み解くためには科学教養書レベルであっても素粒子物理学の歴史とあらましを知っていることが前提となる。一般相対論や量子力学は知らなくても読めると思う。
初版が出版された1977年当時、本書は一般の科学愛好者に広く読まれただけでなく天文学や物理学の専門家にも大きな影響を与えた。特に素粒子物理学者の関心を宇宙論に向けさせたという点で科学史の上でも大きな役割を果たしている。宇宙始まりの謎は素粒子物理学そのものと言ってよいからだ。そして巨大素粒子加速器が必要な理由を明確にし、建設予算承認のための大きな推進力となった。
「宇宙が始まる前には何があったのか?: ローレンス・クラウス」は主にこの20年の成果を知るのにうってつけで「科学教養書初心者」でも読みやすい。それに対して本書では1977年頃までに解明された宇宙誕生後100分の1秒から34分後までを6つのフレームに分け、宇宙を構成する素粒子(原子はまだ構成されていない)がどのような割合で、どのような状態であったかがとても詳しく解説されている。
僕は読む順番が逆になってしまったが、専門書の「ワインバーグの宇宙論(上巻)」にチャレンジするのであれば本書を先に読んでおいたほうがよいとあらためて思った。
巻末に添えられている14ページほどの「数学ノート」は特に有益だ。「NHK宇宙白熱教室」で紹介されたドップラー効果や宇宙膨張の計算も含めて、次のようなことを高校、大学初年度レベルの数式で計算して見せてくれている。
- ドップラー効果
- 臨界密度
- 膨張の時間スケール
- 黒体輻射
- ジーンズ質量
- ニュートリノの温度と密度
翻訳のもとになったのはこちらの英語版だ。改訂第2版(1993年)である。
「The First Three Minutes (2nd Updated Edition, 1993: S.Weinb)erg」(Kindle版)
関連記事:
発売情報:ワインバーグの宇宙論(上)(下)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3aab4560e20f675285c35002fc96dfab
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訳者まえがき(1995年、小尾信彌)
序(1976年、S.ワインバーグ)
ペーパーバック第2版の序(1993年、S.ワインバーグ)
序章:巨人と雌牛
宇宙の膨張
宇宙マイクロ波輻射背景
熱い宇宙の処方
最初の3分間
歴史的なよりみち
最初の100分の1秒間
エピローグ:これからの展望
原著者追補1:1976年以降の宇宙論
原著者追補2:1977年以降の宇宙論
解題『宇宙創成はじめの3分間』(佐藤文隆)
補遺
- 表1:いくつかの素粒子の性質
- 表2:いくつかの輻射の性質
- 用語解説
- 数学ノート
- もっと勉強したい人のために
文庫版あとがき
索引