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はてしない物語:ミヒャエル・エンデ

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はてしない物語:ミヒャエル・エンデ

内容紹介:
バスチアンはあかがね色の本を読んでいた――ファンタージエン国は正体不明の〈虚無〉におかされ滅亡寸前。その国を救うには、人間界から子どもを連れてくるほかない。その子はあかがね色の本を読んでいる10歳の少年――ぼくのことだ! 叫んだとたんバスチアンは本の中にすいこまれ、この国の滅亡と再生を体験する。

1982年6月7日刊行、589ページ。

著者について:
ミヒャエル・エンデ: ウィキペディア
1929‐95年。南ドイツ・ガルミッシュ生まれ。小説家。著書は各国で訳出され、幅広い年齢層に支持されている。

ミヒャエル・エンデについて
https://douwakan.com/dowakan/ende_about


7月初めに知り合いになった女性にプレゼントしたのが、ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』だった。こういう分厚い本は児童書であってもよく考えてから贈ったほうがよい。昨今は物語や小説などを読まない人が増えているから、ありがた迷惑にならないよう注意したい。

幸いこの方は読書好きだということが話しているうちにわかった。「ハリーポッターシリーズ」は全巻読んだのだという。(映画のほうは観ていないそうなので、本好きだということは間違いない。)ミヒャエル・エンデの本は読んだことがないというので、この本を贈ることにした。「本の中の本」、「本好きにはたまらない本」だということが、読み始めるとすぐわかる。

主人公はバスチアン・バルタザール・ブックスというチビでデブの少年。勉強はできず、スポーツも苦手。いつも友達からからかわれ、笑い者にされている。その雨の日も、彼のことをいじめるグループから逃げ、飛び込んだのがとある古めかしい本屋だった。本屋の店主は子供が大嫌いだった。歓迎されない場所に来てしまったバスチアンは店主に事情を説明する。

この本屋でバスチアンは、1冊の本とめぐり会う。店主が読んでいた赤がね色の表紙の分厚い本、2匹の蛇が互いの尻尾を噛んで楕円形になっている姿が印刷されていた。バスチアンはこの本から発せられる得も知れぬ力に引き寄せられた。たまたま電話がかかってきて店主は応対していたとき、あろうことかバスチアンはこの本を盗み、一目散に店から飛び出したのだ。生まれて初めて盗みを働いたのだった。

その日は平日である。学校へ戻って授業を受けることもできず、家へ帰ることもできない。仕方なくバスチアンは学校の物置きにもぐりこみ居場所を確保した。そして、おそるおそるその本を読み始めたのだ。

読者は本屋でのくだりを読んだところで、あることに気がつくはずだ。バスチアンが盗んだ本は、いま自分が手にしている講談社の単行本と同じだからである。表紙は赤がね色、よく見ると2匹の蛇が描かれている。自分が読んでいる本が、この本の中の物語に登場していることで、読者は自分がバスチアンと同じ読書体験をすることになるのだと気づく。

バスチアンは何の取り柄もない少年というわけではなかった。彼には人には真似することができないある才能があった。それは一人でいるとき、物語をいくつも作り出すという才能である。いじめられることが多いバスチアンにとって、本は厳しい現実から逃れ、別世界に行くことができる心のオアシスだった。

この本は『はてしない物語』である。けして終わることがない物語、永遠に終わらない本なのだ。本好きのバスチアンにとって、それは究極の本、本の王様、「本の中の本」なのだ。そして文字どおりこの本の中にはこの本自身が登場している。

この本はえんじ色の文字と緑色の文字の2色刷りで印刷されている。現実の世界で本を読んでいるバスチアンのことはえんじ色、そしてその本の物語の部分、ファンタージェンという幻想の国で進行する話は緑色の文字で印刷されている。

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読み進むにつれて、バスチアンはこの物語が「自分に向けて」書かれていることに気づくようになる。とんでもないことだ。本というのは不特定多数の人が読むように書かれるのが普通だからである。さらに読み進むとバスチアンは怖くなってきた。本の中の登場人物たちが、自分のことを話題にし、本の中に引き入れようとしていることがわかるからだ。ヤバイ本だとバスチアンは思った。このまま読み進んで大丈夫なのだろうか?読者はバスチアンの気持ちをくみとると同時に、自分もこの物語の登場人物になっていることに気がつく。

「本の中に本が登場する」のであれば、「本の中に登場するその本の中にも、同じ本が登場する」ことになる。それは無限に続く繰り返しだ。無限回の階層を降りていく中、それぞれの世界に登場する本に無限回の物語が展開される。この不思議な無限回の再帰的な繰り返しは、この本の中でどのように書き表されているのだろうか。本書を半分くらいまで読めば、その謎は解決する。ここは理数系読者がいちばん萌える箇所だと思う。

ゲーデル、エッシャー、バッハ―あるいは不思議の環: ダグラス・R. ホフスタッター」という本では、無限回の再帰的繰り返しが生み出す不思議な環(リング)について説明している。これは自然現象、生命現象、社会現象に共通して見られる構造なのだ著者は主張している。DNAの複製過程、脳の思考、蟻塚を作る蟻の集団などは、究極的には原子や分子など単純な物質であり、反応したり相互作用したりするのはシンプルな規則に基づいている。多様性のないそれらの物質や規則から、なぜ多様性が生じてくるのか。この無限回の再帰的繰り返しが生み出す不思議な環は、その謎を解き明かすひとつの説なのである。

とはいえ、この分厚くて難解な本は残念ながら非理数系の読者には難し過ぎて歯が立たない。しかしこの『はてしない物語』であれば、そのような読者であっても「不思議な環」を疑似体験することができる。無限回の再帰的繰り返しから出現する多様な世界とは、ファンタージェンという幻想世界であり、バスチアンが取り込まれてしまうもうひとつの舞台なのだ。この不思議な醍醐味を、ぜひ数学が苦手な読者にも体験してほしい。無限を取り込んだ数学の世界の不思議な一面を感じてほしい。それが、今回僕がこの本の紹介記事を書きたいと思った最大の理由である。


装丁の世界】エンデ『はてしない物語』岩波書店


お買い求めになるのであれば、ぜひ2色刷の単行本がお勧め。

はてしない物語:ミヒャエル・エンデ


通勤電車で読むのであれば、上下巻に分かれている文庫版、Kindle版、Audible版がよい。ただし文庫版とKindle版は単色刷りで、表紙は赤がね色ではない。

はてしない物語 上:ミヒャエル・エンデ」(Kindle版)(Audible版
はてしない物語 下:ミヒャエル・エンデ」(Kindle版)(Audible版)
 

日本語版の紹介動画:




なお、原書はドイツ語だが、英語版とフランス語版は、以下のリンクから購入できる。

The Neverending Story: Michael Ende」(Kindle版
L'Histoire Sans Fin: Michael Ende」(Amazon.fr
 

英語版の朗読動画:このプレイリストからすべて聴くことができる


英語版の紹介動画:



フランス語版の紹介動画:




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モモ: ミヒャエル・エンデ
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贈り物にできる本を2冊紹介
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