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『ファインマン物理学』の名講義のオーディオが公開されている

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1961~1963年に行われた名講義:拡大

リチャード・ファインマン、ファインマン物理学

20世紀でいちばん有名な物理学者は誰か?と聞かれれば、それはもちろんアインシュタインだ。しかし、20世紀でいちばん人気のあった物理学者は誰か?と聞かれれば、たいていの物理学徒は「リチャード・ファインマン!」と答えるだろう。ファインマン先生を知らない方は、ウィキペディアの紹介記事を読んでほしい。

ファインマン先生が1961年から1963年にカリフォルニア工科大学の1、2年生に対して行った2年間の名講義をもとに編纂された『ファインマン物理学』は、とてもユニークな教科書として知られ、日本語だけでなく各国語に翻訳されているそして2013年暮れには英語版のニュー・ミレニアム・エディションがオンラインで無料公開された。(参考記事:「ファインマン物理学(英語版)が全巻ネット公開されました。


ファインマン先生の教え子たちの同窓会

今回、僕がこの記事を書くことになったきっかけは、この動画だった。ファインマン先生の名講義を聴講した当時の学生たち(1965年の卒業生)が集い、講義やファインマン先生の思い出を語り合おうという2015年5月に行われた集いを録画したおよそ1時間半の動画だ。

Remembering Richard P. Feynman - Reunion Weekend - 5/14/2015


この催しはこのような流れに従って進む。



ファインマン先生の名講義を再現して教科書にまとめたおひとりのロバート・レイトン教授のご子息、ファインマン先生の友人でもあるラルフ・レイトン氏が登壇している。またファインマン先生の友人で2017年にノーベル物理学賞を受賞(参考記事)し、映画『インターステラー(2014)』を理論物理学の面から監修したキップ・ソーン博士も登壇している。(再生開始から1時間19分26秒)そして前列にはファインマン先生の娘のミシェル・ファインマンさん(参考動画)がいらっしゃるのがわかる。とても貴重な動画だ。

この動画の中のれレイトン氏のコーナーで、彼が紹介していたのがファインマン先生の講義の音声だ。何か新しい取り組みをしているように見える。50年前に行われた講義の音声を何らかの形で発表するに違いない。レイトン氏はまた、ファインマン先生の講義をアニメで表現するこことにも取り組まれているようだ。


公開された講義のオーディオ

レイトン氏の取り組みが実現したのが今回紹介するファインマン先生の講義のオーディオ公開である。『ファインマン物理学』の公開ページにその入口が設けられた。

The Feynman Lectures on Physics (カリフォルニア工科大学のサイト)
http://www.feynmanlectures.caltech.edu/

オーディオの入口: Lecture Recordings 1961-64

PCからでもスマホからでも再生できる。スクロールバーを下げていくと、117回の講義が収録されていることがわかる。



『ファインマン物理学』の各巻とオーディオの大まかな対応関係は次のようになる。

The Feynman Lectures on Physics Volume I : #1~#26、#27~#52(日本語版のIII
The Feynman Lectures on Physics Volume II : #S1~#S21、#S22~#S42(日本語版のIIIIV
The Feynman Lectures on Physics Volume III: #S42~#S64(日本語版のV

聴きたい講義を選択して再生中に下のほうの「Take me to the FLP chapter」をクリックすると、対応する章のテキストが開くしくみである。

残念なことに最初の「#1 Atoms in motion」だけは、テープがダメージを受けて録音状態が悪い。しかし、どうにか聴きとれる音質だ。「#2 Basic physics」以降はクリアに聞こえるから問題ない。

このオーディオが公開されるまで、ファインマン先生の講義音声はカセットテープやCDで販売されていた。全部揃えるとそこそこの値段になるので、無料公開されて本当によかったと思う。

黒板の板書を見たければ、公開ページの「Lecture Photos 1961-62」や「Lecture Photos 1962-64」から簡単に探せるので、まるでその場にいたかのようにファインマン先生の講義を受けることができる。またハンズアウトは「Original Course Handouts 1961-63」で公開されている。

1962年2月20日に行われた講義「#30 干渉」(「#30 Interference」)は、歴史的に興味深いものになった。ファインマン先生は、その日の朝早くに宇宙飛行士のジョン・グレンが地球を周回する最初のアメリカ人(そしてユーリ・ガガーリンに続く2番目の男)になったため、6分遅れて講義を開始した。ジョン・グレンの着水のために録音では「講義前の議論」が長引いていることがわかる。録音にはグレンの帰還を心配する生徒たちの興奮したどよめきが聞こえている。ファインマン先生は、「グレン氏は軌道に乗っており、おそらくこの講義中に降りてくるでしょう。そこから何かニュースが得られるかどうかを確認します。」と講義を開始した。

できれば、音声を書き起こしたテキストや和訳したテキストがあればよいのだが、それは今後に期待しよう。現代のAI技術を使ってファインマン先生の声による『ファインマン物理学』の日本語による朗読、公開された講義オーディオの日本語版が作成される日もくるかもしれない。日本語版『ファインマン物理学』の版権をもつ岩波書店には、ぜひお願いしたい。


公開された講演のビデオ

これまでYouTubeに非公式にアップロードされていたファインマン先生の講演ビデオも公式サイトの「Feynman's Messenger Lectures」というページから正式に公開された。これは1964年、コーネル大学で一般市民向けに行われた以下の7つの講義である。ありがたいことに音声を文字に書き起こしたテキストを見ながら聴講できるようになっている。そしてファインマン先生が話している箇所が黄色でハイライトされる。テキストは自動的にスクロールするので、まったく手を離した状態で最後まで見ることができる。

PCでの再生画面



スマートフォンだと、このような画面で再生できる。



The Law of Gravitation: an example of physical law(重力の法則 - 物理法則の一例として)
The Relation of Mathematics and Physics(数学の物理学に対する関係)
The Great Conservation Principles(保存という名の大法則)
Symmetry in Physical Law(物理法則のもつ対称性)
The Distinction of Past and Future(過去と未来の区別)
Probability and Uncertainty: the quantum mechanical view of nature(確率と不確定性 - 量子力学的の自然観)
Seeking New Laws(新しい法則を求めて)

この7つの講義はすでに和訳されていて「物理法則はいかにして発見されたか:R.P.ファインマン」という文庫本で読むことができる。ファインマン先生の自伝「Surely You're Joking, Mr. Feynman!(ご冗談でしょう、ファインマンさん)」を読んで、物理学に興味を持った人が読むのにふさわしい本だ。


『ファインマン物理学』の日本語版

『ファインマン物理学』の日本語版の単行本は手頃な価格で入手可能だ。これらの翻訳に使われた英語版は1965年版である。購入される方は、こちらからどうぞ。

ファインマン物理学 I 力学」(1986)(紹介記事
ファインマン物理学 II 光・熱・波動」(1986)(紹介記事
ファインマン物理学 III 電磁気学」(1986)(紹介記事
ファインマン物理学 IV 電磁波と物性〔増補版〕」(2002)(紹介記事
ファインマン物理学 V 量子力学」(1986)(紹介記事





発売情報: ファインマン物理学 問題集 1、2
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/39bf04d9f360ce6359561126a4d7c01a

発売情報:ファインマン流 物理がわかるコツ 増補版:リチャード・P.ファインマン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/83a568c20b540ef2a55bed0d7929dcc2


AIファインマン

最近の話題として「AIファインマン」という論文が紹介された。これは機械学習を利用して物理法則を発見することができるかという試みだ。ファインマン先生が亡くなった日、彼の教室の黒板にはこう書かれていたという。

「わたしは自分につくれないものは、理解できない」

同様に

「AIがつくり出せないものは、AIは理解できない」

と言うことができるのだろうか?

もしAIが世界をこと細かくリアルに描き、リアルな画像やリアルな音をイメージする方法を学ぶことができれば、AIがこの現実世界の構造を学習できるようになる。つまり、AIが認識した画像や聞いた音を、『理解』できるようになるのだ。

「AIファインマン」と名付けたことには、多少の抵抗感があるが、要点は「AIは物理学者になり得るか?」ということである。この話題について、以下の2つのページを紹介しておこう。

物理法則を”発見”できる機械学習モデルAI Feynman
https://akichan-f.medium.com/物理法則を”発見”できる機械学習モデルai-feynman-f57112e7e87d

AI-Feynman: A physics-inspired method for symbolic regression(日本語訳)
https://k-ptl.hatenablog.com/entry/ai-feynman-theory


関連記事:

#Feynman100: ファインマン先生、生誕100周年セレモニー&シンポジウム
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/11dd9238ebcbc37915920a2dab553c82

ファインマン先生の自伝本と講演本(お勧め記事)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9bf47cf51085c74caf34a11068a17285

光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学: R.P.ファインマン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4b34cd4e7d077d037022e62734d1ee76

The Feynman Lectures on Physics: The New Millennium Edition
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cb58141ade509fb63952d49ef57c70c7

ファインマン物理学(英語版)が全巻ネット公開されました。
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e94dd49d7d8cc395e29d37927e30173d

発売情報:ファインマン流 物理がわかるコツ 増補版:リチャード・P.ファインマン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/83a568c20b540ef2a55bed0d7929dcc2

発売情報: ファインマン物理学 問題集 1、2
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/39bf04d9f360ce6359561126a4d7c01a

ファインマン物理学: 英語版とフランス語版
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1dbcd1e1b02616ef1363ced99a912072

ファインマンの経路積分に入門しよう!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0f47de5854daf4eb38339a73791544a8

発売情報:【新版】 量子力学と経路積分:R.P.ファインマン、A.R.ヒッブス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/300a29769f773a609ea3560e86952e60

ファインマン計算機科学:ファインマン, A.ヘイ, R.アレン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4f7f453019fd463ed2bfdeaa7b288d79

開平と開立(第5回): ファインマン先生に立方根計算の雪辱を果たそう
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/89a0b907577f03ef6132cf9664bdcddb


 

 

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