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神は数学者か?―ー数学の不可思議な歴史: マリオ・リヴィオ

神は数学者か?―ー数学の不可思議な歴史: マリオ・リヴィオ」(Kindle版

内容紹介:
人間の純粋な思考の産物であるはずの数学。その数学がなぜ、宇宙構造や自然現象、遺伝の法則、株価の挙動など、現実の世界を説明するのにこれほどまでに役に立つのか?創造主は数学をもとにこの世界を創ったのか?ピタゴラスの定理から非ユークリッド幾何学、結び目理論まで数学の発展の歴史を追いながら、アインシュタインをも悩ませた「数学の不条理な有効性」の謎に迫るポピュラー・サイエンス。

2017年9月21日刊行、412ページ。(単行本の刊行は2011年10月21日)

著者について:
マリオ・リヴィオ
天体物理学者。アメリカにある宇宙望遠鏡科学研究所の科学部門長をつとめた経歴を持つ。宇宙の膨張からブラックホール近傍の物理現象、知的生命の起源など、関心は広い。著書に国際ピタゴラス賞とペアノ賞を受賞した『黄金比はすべてを美しくするか?』、『偉大なる失敗』(ともにハヤカワ・ノンフィクション文庫)など。

著者の本: 単行本を検索 Kindle版を検索


理数系書籍のレビュー記事は本書で442冊目。

本書はかねてより知りたいと思っていた「数学は発見か、それとも発明か」という謎について、ひとつの解答を与えてくれる本だ。僕もこのテーマで「数学の定理は「発見」か?それとも「発明」か?」というブログ記事を書いたことがある。

大学時代に数学専攻だったこともあり、僕自身はプラトンのように「数学は発見」だと思っているのだが、それでもすべての数学がそうだとは思っていない。応用数学に分類されるものは、どう考えても、人間が作り上げた「発明」だと思えるものがいくつもあるからだ。そのようなものの例としては統計学やオペレーションズ・リサーチなどのような分野がある。

本書は、数学の歴史をたどりながら、この深淵なテーマについて数学者だけでなく、認知科学、哲学の研究者の考えを紹介する。そして著者自身、それらの考えに対して感想や意見を述べていく。数学史を学びながら、読者は自然に数学とはいったい何なのか?なぜこのような学問ができあがっていったのか、思いを深めていくことになる。

章立ては次のとおりだ。

第1章 謎
第2章 神秘主義者たち―数秘術師と哲学者(ピタゴラスとプラトン)
第3章 魔術師たち―達人と異端者(アルキメデスとガリレオ)」
第4章 魔術師たち―懐疑主義者と巨人(デカルトとニュートン)
第5章 統計学者と確率学者―不確実性の科学
第6章 幾何学者たち―未来の衝撃
第7章 論理学者たち―論理を論理する
第8章 不条理な有効性?
第9章 人間の精神、数学、宇宙について

前半で特に印象に残っているのは、第3章「魔術師たち―達人と異端者(アルキメデスとガリレオ)」で紹介されているアルキメデスである。恥ずかしながらアルキメデスの生涯や業績を僕は、詳しく知らなかった。アルキメデスは紀元前287年に生まれ紀元前212年に亡くなった古代ギリシアの数学者、物理学者、技術者、発明家、天文学者であり、古典古代における第一級の科学者という評価を得ている。

特に本書では「アルキメデス・パリンプセスト」の詳細が解説されている。パリンプセストとは羊皮紙に書かれた写本のことで、ギリシャ語で書かれたアルキメデスの著作が発見されているのである。

アルキメデス・パリンプセストは、1922年に行方不明になった。写本は70年以上にわたり隠され、価値を高めるために偽造者によりページの一部に絵が加えられた。これらの捏造された絵の下にあるテキストや以前は読むことができなかった文は、1998年から2008年にかけて行われた紫外線、赤外線、可視光線、レーキングライトおよびX線による画像の科学的・学術的な研究により明らかとなったのだ。

全ての画像とメタデータ付きの学術的な校正を経た文字起こし版は、現在Archimedes Digital Palimpsestのウェブサイトで自由に利用できるようになっており、OPennや他のウェブサイトでもクリエイティブ・コモンズ・ライセンスCC-BYのもと、利用できるように提供されている。

Archimedes Digital Palimpsest (OPenn Library)
https://openn.library.upenn.edu/Data/0014/ArchimedesPalimpsest/

Archimedes Digital Palimpsest (Internet Archive Wayback Machine)
https://web.archive.org/web/20090221151641/http://archimedespalimpsest.net/

興味のある方は、この本をご覧になるとよい。(内容: アルキメデスの著作を収めた現存する唯一の写本、C写本。本書ではそこから解読された驚くべき発見の数々と、この奇蹟の写本がどのように幾世紀も生き延びたのかが語られる。空前の歴史ミステリー。)

解読! アルキメデス写本: ウィリアム・ノエル、リヴィエル・ネッツ
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また、アルキメデスの著作『方法』に関しては、次の本がでている。

アルキメデス方法: アルキメデス
アルキメデス『方法』の謎を解く: 斎藤 憲」(Kindle版
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第3章から第5章のガリレイ、デカルト、ニュートンについては、詳しく知っている方が多いと思うので、説明は割愛していただこう。近代科学の成立過程に数学がどのような役割を果たしたかが解説されている。ガリレイは「自然という書物は、数学という言葉で書かれている」と言っていたことは有名だ。

第5章の「統計学者と確率学者―不確実性の科学」では統計学や確率論をめぐる数学史である。この分野の歴史は、詳しく知らなかったのでためになった。

第6章の「幾何学者たち―未来の衝撃」では、非ユークリッド幾何学の誕生からリーマン幾何学、そしてその物理学への応用としての一般相対性理論についてである。詳しく知ってはいたものの、数学は発見か、発明かという視点で読むと、違ったものになる。これについては後述することにしよう。

第7章の「論理学者たち―論理を論理する」は、これまで学んでこなかった論理学とブール代数、ヒルベルト計画、ゲーデルの不完全性定理、集合論、をめぐる数学史である。論理学とブール代数の歴史的な発展は、詳しく知らなかったので、興味深く読めた。

第8章の「不条理な有効性?」あたりから、ますます面白くなってくる。数学としての結び目理論が、どのように超弦理論など物理学、DNAなどの生物学との関連が生じてきたかという話。プラトン主義派である僕には、この章がいちばん興奮した。ブレイクスルーの要はジョーンズ多項式にあった。

第9章の「人間の精神、数学、宇宙について」では、第8章までの内容を総括して、数学が発見か、発明家というテーマを形而上学、数学、物理学、認知科学の研究者の何人かがどのように考えているかが紹介される。また、著者自身がそれらに対し持論を展開する。

とどのつまり、「数学の不条理な有効性」がなぜおこるのかということだ。純粋数学と思われていたものが、見事に物理現象の解明や発見に結びついていることがある。アインシュタインの重力場の方程式によって計算される時空の曲がりが極めて高い精度で、水星の近日点移動や光線の湾曲を始めとする物理現象にあてはまっていること、繰り込み理論による計算により電子およびミュー粒子の持つ磁気能率を驚異的な精度で求めることなどが、その具体例である。

物理学史上、最も精密な理論計算値 -電子の磁気能率の大きさを1.3兆分の1の精度で決定-
https://www.riken.jp/press/2012/20120910/

アインシュタインの一般相対性理論(重力場の方程式)に対し、数学が有効に働いているということについては、次号のメルマガに書く予定である。

しかし、自然科学の中であっても数学が有効に働かないこともある。たとえば、それを「生物学における数学の不条理な非有効性」として本書では紹介している。これをどのように理解すればよいのだろうか?

ユークリッドやピタゴラスの数学のように、シンプルなものに対して、僕は発明としての数学をあまり感じない。反対に複雑で高度な数学理論が物理現象の解明に役立つと、数学の神秘性を感じてしまう。しかし数学で扱う対象の単純さや複雑さとは、本来数学が発見か、発明かを判断するよりどころになるのだろうか?人間にとって単純か複雑かという違いに過ぎないからである。数学が発見か、発明かを考察する対象は、ピタゴラスやプラトンの数学から現代数学まで、すべての時代の数学の中にある。

著者が最終的にどのような結論を下すのかは、ネタバレになるので、ここでは明かさないことにしておこう。ちなみに、僕は著者の出した結論に納得し、満足することができた。

日本語版の翻訳をされた千葉敏生さんは、数学基礎論を研究された方である。巻末の「訳者あとがき」が、本書の理解にものすごく役に立った。

知的興奮にひたることができる良書だと思う。ぜひ、お読みいただきたい。


関連記事:

数学の定理は「発見」か?それとも「発明」か?
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/dde18f50bc52f61699c84ff2f875d490

数学とは何か(原書第2版):R.クーラント、H.ロビンズ、I.スチュアート
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e2b02a51b73a9716b077da16a102aaff

数学 その形式と機能: ソーンダース・マックレーン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cbfc848dce6bf8ffa525a90026d5d4c6

数学とは何か―アティヤ 科学・数学論集
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b3ce277f0624f0adea8186a0168bcf99

数学の大統一に挑む:エドワード・フレンケル
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/43ca100e56e15427613b009af55c8f7d


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はじめに

第1章 謎
- 発見か、発明か?

第2章 神秘主義者たち―数秘術師と哲学者
- ピタゴラス
- プラトンの洞窟へ

第3章 魔術師たち―達人と異端者(アルキメデスとガリレオ)
- 我に足場を与えよ、さすれば地球を動かしてみせよう
- アルキメデスのパリンプセスト
- アルキメデスの方法
- アルキメデスの最高の弟子
- 星界の報告
- 偉大なる自然の書
- 科学と神学

第4章 魔術師たち―懐疑主義者と巨人(デカルトとニュートン)
- 夢見る人
- 現代人
- ニューヨーク市の地図に秘められた数学
- そこに光ありき
- 私は重力が月の軌道まで及ぶと考えるようになった
- 『プリンキピア』
- ニュートンとデカルトにとっての”神”という数学者

第5章 統計学者と確率学者―不確実性の科学
- 死と税金より確実なもの
- 平均的人間
- 偶然のゲーム
- データと予測

第6章 幾何学者たち―未来の衝撃
- ユークリッド幾何学の”真理”
- おかしな新世界
- 空間、数、人間について

第7章 論理学者たち―論理を論理する
- 論理学と数学
- 思考の法則
- ラッセルのパラドックス
- 非ユークリッド幾何学の危機、再来?
- 不完全な真実

第8章 不条理な有効性?
- 結び目
- 命の結び目
- ひもでできた宇宙?
- 驚くべき精度

第9章 人間の精神、数学、宇宙について
- 形而上学、物理学、認知科学
- 発明と発見
- アナタハ、スウガクを、ハナシマスカ
- ウィグナーの謎

訳者あとがき
文庫版に寄せて
図版/引用出典
参考文献
原注

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