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極低温の世界 (1982年) : 長岡洋介

極低温の世界 (1982年) : 長岡洋介

内容紹介:
本書の目的は、極低温で物質に現れる現象を通して、現代物理学のひとつの側面を描くことになる。低温物理学と呼ばれるこの分野の研究は、ものの冷凍のための低温生成という、きわめて技術的な要請から出発したといわれる。しかし今日では、それは物質の性質をミクロな立場から解明することを目指す物性物理学の基礎として、重要な役割を担うに至っている。
本書は大きく分けるとふたつの部分から成り立っている。前半の1章から4章までは、温度とは何か、低温にすることは物質にとって何を意味するかが述べられる。そして後半の5章以下では、極低温で見られる特異な現象(超流動・超伝導)に焦点を当て、それが理論的な立場からどのように理解されるかが明らかにされる。
必要に応じて数式を活用することにより、読者に結論を押し付けることをできるだけ避けて、その結論が理論的に導かれる道筋を明らかにするように努力したつもりである。そのため、読者には高校で学ぶ程度の物理と数学のひととおりの知識を期待している。

1982年1月22日刊行、266ページ。B6判の小型本。

長岡先生の著書: 単行本を検索 Kindle版を検索

著者について:
長岡洋介(ながおか ようすけ)
1933年盛岡市に生まれる。1956年東京大学理学部卒業。1961年同大学院博士課程修了。京都大学教授、名古屋大学教授、京都大学基礎物理学研究所長、関西大学教授をへて、京都大学名誉教授、名古屋大学名誉教授。理学博士。


理数系書籍のレビュー記事は本書で437冊目。

本書は何人かの方がお勧めしていた本だ。Amazonではそこそこの値段がついていたので「読むときに買えばいいか」と思っていたところ、たまたま友人の「なかみつさん(@mitsushinakada)」が古書店で格安のものを見つけ、僕のためにと買い置いてくださっていたのだ。彼は大学時代に物性物理を専攻していて、本書を勧めていたうちのお一人だった。

「極低温」は「ごくていおん」ではなく「きょくていおん」と読む。絶対零度に近い温度になると、「超流動」や「超伝導」など不思議な現象を示す物質がある。物性物理、固体物理学の教科書では、たいてい終わりのほうで学ぶ事柄である。今回調べたところ、この分野の科学教養書、準専門書は1960年代から1980年代にかけて数多く刊行されていたことがわかった。本書もそのうちの1冊である。

この時代の本は、Amazonでは中古本を買うことができるものの、古書店ではめったにお目にかかれないから立ち読みして内容を確認できない。読者レビューが読めることも期待できないから、どれを買ってよいのかわからない。だから直接お勧めしていただいたのは、とてもありがたかったのだ。

高校レベルの物理、数学の知識が必要であるが、量子力学も教科書レベルの本で学んでおいた方がよいと思った。言葉を尽くした解説の分量が多いので、とてもわかりやすい。教養書と専門書の中間に位置する難易度だ。本書を読んでから専門書に挑戦すると、敷居をとても下げることができるだろう。本書は「名著」といってよいと思う。

章立ては次のとおり。

1 温度とは何か
2 エントロピー--秩序と無秩序
3 量子論--ミクロな世界の法則
4 ボース粒子とフェルミ粒子
5 液体ヘリウム4の超流動
6 金属の伝導電子
7 金属の超伝導
8 ヘリウム3の液体と固体


章別に概説してみよう。

1 温度とは何か

古典物理の範囲での解説である。小学校や中学校の理科で学ぶ、シャルルの法則によると絶対零度の存在が予想される。気体の分子運動により熱運動や温度が導かれるわけだが、統計力学的手法を使って、気体の比熱が求められることを解説する。

2 エントロピー--秩序と無秩序

古典物理、特に熱力学第2法則の解説が中心である。そして、気体の温度を下げていったとき、その極限ではどのようになるのだろうか?極低温の世界では理論的には熱力学第3法則(ネルンストの定理)と呼ばれる完全に秩序のある状態になることが予言される。しかし、現実にはそうならない。磁性体およびその相転移を紹介しながら、理論どおりにならないことが紹介される。

3 量子論--ミクロな世界の法則

極限の状況で熱力学第3法則が破れるのは、量子力学による効果である。この章では量子論の誕生から波動関数、不確定性原理、振動子の量子力学、量子論と統計力学、量子論を使った比熱の計算などを解説する。

4 ボース粒子とフェルミ粒子

統計力学での粒子の取り扱いが古典力学と量子力学で違うのは、ボース粒子とフェルミ粒子のもつ性質による。この章ではこれらの粒子の違いを解説した後、ボース粒子の理想気体、フェルミ粒子の理想気体(絶対零度)、フェルミ粒子の理想気体(有限温度)がどのようになるかを解説する。

5 液体ヘリウム4の超流動

さて、超流動の紹介である。ヘリウム4はボース粒子として振る舞う。この章では、低温にすることによってヘリウム4を液化すること、ボース粒子が示すボース凝縮、液体ヘリウムはなぜ超流動になるか、超流動の性質などが解説される。

6 金属の伝導電子

超伝導の解説を始める前に、通常温度での金属に流れる電流のしくみが古典物理、量子物理の観点から解説される。そして金属中を動く電子は理想気体のように振る舞うことが示される。さらに、電気抵抗がどのようなしくみで生じるのかが解説される。

7 金属の超伝導

そして、極低温の金属を流れる電子が見せる超伝導についての解説がこの章のテーマだ。マイスナー効果、臨海磁場、電子間の引力、電子対(クーパーペア)とその凝縮、磁場と超伝導、ジョセフソン効果などが解説される。

8 ヘリウム3の液体と固体

超流動はヘリウム4だけでなくヘリウム3でも起こる。この章ではヘリウム3について解説した後、液体ヘリウム3の超流動、固体ヘリウム3についての解説をする。


本書のおおまかな流れはこのようなものだ。古典物理は私たちの五感で捉えられるマクロな世界の現象を扱い、量子力学は五感で捉えられないミクロの世界の現象だというのが、一般的に思われていることだ。けれども、超流動、超伝導は量子現象が、マクロの世界で観察できる、めずらしい例である。

単に不思議なというだけでなく、マクロな世界であらわれる現象なので、私たちの生活に役立てることができる。リニアモーターカーの技術に活かされていることは、その代表例である。超流動、超伝導の発見と、その後の発展については、次のPDF資料をお読みになるとよいだろう。

超流動・超伝導研究の発展
https://staff.aist.go.jp/t-yanagisawa/activity/superfl2.pdf


最後に超流動、超伝導に関して、それぞれ動画を紹介しておこう。

ヘリウムの超流動


【リニア技術を発展させた次世代鉄道 超伝導浮上列車】



なかみつさん、このように素晴らしい本を紹介していただき、ありがとうございました。


関連書籍:

本書でお勧めされているのは、次の2冊だ。本書が刊行されたのが1982年であるから、お勧め本は中古書でしか手に入らない。

絶対零度への挑戦―低温の世界を求めた科学のドラマ (1971年): K.メンデルスゾーン
量子の世界―極低温の物理 (1975年): 中嶋貞雄」(検索2
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専門書では、樺沢先生(@adx50150)の訳書2冊を紹介しておこう。

シュリーファー 超伝導の理論」 : J.R. シュリーファー」(詳細)(原書Kindle版
ザゴスキン 多体系の量子論 : A.M. ザゴスキン」(詳細)(原書Kindle版
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このほか、次のようなキーワードで関連書籍を検索できるようにしておいた。

超流動で検索: 単行本 Kindle版
超伝導で検索: 単行本 Kindle版
極低温で検索: 単行本 Kindle版


関連記事:

次の3冊は、「超伝導」の解説を含んでいる。最初の2冊は理論的な解説で最終章が「超伝導」の解説にあてられている。3冊目の外村先生の本では写真(そして動画)を紹介しながら実験的な立場から解説している。

基礎の固体物理学: 斯波弘行
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d2287a9fdbc66eac443fe0888d835602

固体物理の基礎 下・2 固体の物性各論: アシュクロフト、マーミン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/16c5344f47d2da648e2efabf8c020303

目で見る美しい量子力学:外村彰
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1a00adb6963673d7a434b57cc58c0c81

超伝導を学ぶ前段階で、金属などの導体の中を電流が流れるしくみを理解する必要がある。これは半導体に関する本だが、僕はこの本で理解した。第3章「均一な半導体におけるキャリヤの挙動」で「オームの法則」が導かれている。

半導体デバイスの基礎 (上) 半導体物性
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ef603af1cd207a1b80be4110b91066b3


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はしがき
はじめに--マクロからミクロへ

1 温度とは何か
- 温度を測る
- 気体温度計と絶対温度
- 温度・熱・仕事
- 分子の熱運動
- 熱運動と温度
- 気体の分子運動と理想気体の法則
- 気体の比熱
- 気体分子の速度分布
- 統計力学の考え方
- 振動子
- 振動子の統計力学
- 固体の比熱
- 比熱の謎

2 エントロピー--秩序と無秩序
- 不可逆な変化
- 無秩序さとエントロピー
- 気体の断熱変化
- 熱力学の法則
- 無秩序から秩序へ
- 熱力学の第3法則
- 磁性体
- 磁性体の相転移

3 量子論--ミクロな世界の法則
- 空洞放射
- 量子論の誕生
- 波動関数
- 位置と運動量
- 不確定性原理
- 箱の中の粒子(1次元の場合)
- 輪の中の粒子
- 振動子の量子力学
- 状態の遷移
- 量子論と統計力学
- 比熱の謎を解く

4 ボース粒子とフェルミ粒子
- 区別できない粒子
- 2種類の粒子
- 粒子の自転--スピン
- 箱の中の粒子(3次元の場合)
- ボース粒子の理想気体
- フォトンとフォノン
- フェルミ粒子の理想気体(絶対0度)
- フェルミ粒子の理想気体(絶対温度)

まとめ--"低温"の意味するもの

5 液体ヘリウム4の超流動
- ヘリウムの液化
- ヘリウムの相図
- 秩序ある液体
- 粘性のない液体
- ボース凝縮と2流体模型
- 原子間力の役割
- 液体ヘリウムのボース凝縮
- フォノンとロトン
- 液体ヘリウムはなぜ超流動になるか
- 超流動の性質
- 回転するヘリウム

6 金属の伝導電子
- 動き回る電子
- 伝導電子の波
- クーロン力とプラズマ振動
- 電子の個別運動
- 金属電子はなぜ理想気体のように見えるか
- 金属の電気抵抗

7 金属の超伝導
- 超伝導の発見
- マイスナー効果
- 臨界磁場
- 電子間の引力
- 電子対の形成
- 電子対のボース凝縮
- 磁場と超伝導
- 2種類の超伝導体
- ジョセフソン効果

8 ヘリウム3の液体と固体
- 軽いヘリウム原子
- 液体ヘリウム3のフェルミ球
- 液体ヘリウム3の超流動
- 固体ヘリウム
- 固体ヘリウム3の核スピン

おわりに--超低温から高エネルギーへ
参考文献

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