「時間は存在しない: カルロ・ロヴェッリ」(Kindle版)
内容紹介:
◎イタリアで18万部発行、35か国で刊行決定の世界的ベストセラー
◎タイム誌の「ベスト10ノンフィクション」
◎HONZで紹介! (2019年9月5日): 開く
時間はいつでもどこでも同じように経過するわけではなく、過去から未来へと流れるわけでもない。
“ホーキングの再来"と評される天才物理学者が、本書の前半で「物理学的に時間は存在しない」という驚くべき考察を展開する。後半では、それにもかかわらず私たちはなぜ時間が存在するように感じるのかを、哲学や脳科学などの知見を援用して論じる。
詩情あふれる筆致で時間の本質を明らかにする、独創的かつエレガントな科学エッセイ。
【レビュー】
●きわめて独創的。現代物理学が時間に関する私たちの理解を壊滅させていく様を紹介している。――「ニューヨーク・タイムズ」紙
●わかりやすく目を見開かせてくれるとともに、われわれの時間・空間・現実の見方を覆すような読書体験をもたらす。――「タイム」誌
●時間の本質へと向かう、実に面白くて深い探求。この作品を読む人すべての想像力をとらえて離さない詩情と魅力がある。――「フィナンシャル・タイムズ」紙
●スティーヴン・ホーキングの『ホーキング、宇宙を語る』以来、これほどみごとに物理学と哲学とを融合した著作はない。――「ガーディアン」紙
2019年8月29日刊行、240ページ。原書イタリア語版刊行は2017年4月。
著者について:
カルロ・ロヴェッリ Carlo Rovelli
ホームページ: http://www.cpt.univ-mrs.fr/~rovelli/
Twitter: @carlorovelli
理論物理学者。1956年、イタリアのヴェローナ生まれ。ボローニャ大学卒業後、パドヴァ大学大学院で博士号取得。イタリアやアメリカの大学勤務を経て、現在はフランスのエクス=マルセイユ大学の理論物理学研究室で、量子重力理論の研究チームを率いる。「ループ量子重力理論」の提唱者の一人。『すごい物理学講義』(河出書房新社)で「メルク・セローノ文学賞」「ガリレオ文学賞」を受賞。『世の中ががらりと変わって見える物理の本』(同)は世界で100万部超を売り上げ、大反響を呼んだ。『時間は存在しない』はイタリアで18万部発行、35か国で刊行決定の世界的ベストセラー。タイム誌の「ベスト10ノンフィクション(2018年)」にも選ばれている。
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理数系書籍のレビュー記事は本書で426冊目。
読む前の印象
「時間は存在しない」だなんて、何て大げさな邦題をつけたものだというのが第一印象だった。原題を調べるとイタリア語で「L'ordine del tempo」、英語だと「The Order of Time」つまり「時間の秩序」とか「時間の順序」という意味だ。本書を読んでみると「順序」という意味でタイトルをつけたことがわかる。せめて「時間は幻想だ」くらいの邦題にしておけばよかったのにと思った。
はたして時間は本当に存在するのだろうか?それとも存在しないのか?あるいは幻想として存在するのだろうか?そしてその答は、この3択のうちの1つなのだろうか?
もし時間が存在しないというのならば、物理法則にあらわれる時間変数の「t」 とは、いったい何なのだろうか?つい先日紹介したばかりの「光と物質のふしぎな理論:リチャードP.ファインマン」で語られていることは、時間なしには成り立たない。
理論物理学者の大栗先生は著書「大栗先生の超弦理論入門:大栗博司」の最後のほうで「空間は幻想だ」とお書きになっているが、時間が幻想かどうかはまだ解明されていないと慎重な立場を表明されている。また、理論物理学者の橋本幸士先生は「時空の創発」を研究されているから時間と空間は(幻想かどうかは別として)存在するとお考えになっているようだ。(参考記事:「深層学習と時空:橋本幸士先生 #MathPower」)
時間論をテーマにした本は当たりはずれが極端だ。そのことは「時:渡辺慧」という記事にも書いた。相対性理論によれば時の流れは重力や物体の運動によって遅くなる。しかし、人間の生理的な感覚で感じる時間の流れは、それとは別だとも考えれる。人間がいなくなれば時間は存在しなくなるのか?いや、そんなはずはあるまい。物理現象と生理現象、心理現象的側面が絡み合っていて、本質がなかなかつかめないのが「時間」である。本書は当たりなのだろうか?はずれなのだろうか?
著者のロヴェッリ博士はループ量子重力理論の研究者だ。この難解な理論をもとにして時間の謎を解き明かしたというのだろうか?そうだとしたら、本書は相当難しい物理学の教養書となるはずだ。
そのような気持ちで、本書に臨んでみた。
本書の構成と紹介
読み始めてすぐ、本書は「大当たり」だと気がついた。数ページ読むうちにぐいぐいと引き込まれていく。そしてペースが速い。僕が思索に浸りながら読書をした経過はこの連投ツイートをご覧になるとわかる。
構成と章立ては、次のとおりだ。
第1部 時間の崩壊
第1章:所変われば時間も変わる
第2章:時間には方向がない
第3章:「現在」の終わり
第4章:時間と事物は切り離せない
第5章:時間の最小単位
第2部 時間のない世界
第6章:この世界は、物ではなく出来事でできている
第7章:語法がうまく合っていない
第8章:関係としての力学
第3部 時間の源へ
第9章:時とは無知なり
第10章:視点
第11章:特殊性から生じるもの
第12章:マドレーヌの香り
第13章:時の起源
「第1部 時間の崩壊」では、ニュートンの絶対時間からアインシュタインの重力による遅延する時間の話、つまり場所が違うと時間の流れが違うから、この世界で「同時」という概念は意味をなさないことが解説される。そしてあらゆる物理法則の中で、時間の流れ(時間の矢)を説明するのは「熱力学第二法則(エントロピー増大則)」だけであること。エントロピーとは「乱雑さ」を測る尺度で、宇宙は誕生したときのエントロピーが低い状態だったから、それが増大し続けることで、やがて「熱死」という状態で終焉を迎えるという話。これはずいぶん昔に本で読んでいたことだ。
けれども、エントロピーというのは私たちがこの世界を粗視化された視点で、すなわち「ぼやけた」視点でとらえているというものであり、時間の流れはそのために生じているように見えているのだと本書は主張している。つまり、ミクロな視点で見れば、熱力学・統計力学・量子力学も含めて、あらゆる物理法則には、時間の非対称性(過去と未来の区別)は存在しないという。
それは時間が現在を中心とした対称性をもっているのだから、ミクロな世界には過去と未来に区別はないということだ。過去の事象の記憶や痕跡がありそれがひと通りであることは、未来についても同様であるはずだ。しかし、マクロな世界に生きる私たちは未来の記憶や痕跡を持っていない。
また現代物理学には、あらゆる物理法則は因果律を保つという鉄則がある。物事は原因があって後に結果が生じるということである。しかし、そもそも原因と結果とというものは、マクロな視点でとらえる概念だ。ミクロの世界で因果関係は意味を失う。力学的な運動、生命現象、化学反応はすべてマクロな世界の現象だ。
また、量子力学によるとミクロな時空は泡立っており、時間は粒状になっているかもしれないと考える科学者がいる。そして時間自体も量子的に重ね合わせの状態になっているのかもしれない。
ここまではすでに知っていたことだが、少し飛ばし過ぎではないかと感じた。他に何か説明することがあるのだろうか?
この段階で、直観的な意味での時間は壊滅する。
「第2部 時間のない世界」では、第1部での結論、予想をさらに発展させて考察が進む。量子力学が私たちにもたらしたのは「モノからコトへ」、あるいは「物から出来事へ」という大変革だった。数式上は位置や運動量、時間などの物理量がそれぞれ位置演算子、運動量演算子、時間演算子など「演算子(数学としては作用素)」に置き換えられることに象徴されている。
ニュートンの力学やマクスウェルの方程式や量子力学などが私たちに教えてくれるのは、物の状態ではなく出来事の起き方なのだ。
量子力学を学んでいない方は、2や3などの数字を物理量、そして+、-、×、÷、微分する、交換するなどの計算操作のことを「演算子(数学としては作用素)」だと考えると、その違いがおわかりになると思う。:参考ページ
これはマクロな古典的世界観での「実在性」が喪失したと考えることもできる。そもそも「実在する」とか「存在する」とはどういうことだろうか?実は定義されていないのである。
ここで博士はご自身の研究テーマであるループ量子重力理論を紹介する。物理学で「場」は、素粒子、光子、重力量子のように粒のような形であらわれる。これらの粒子の量子事象としての相互作用のネットワークから世界が構成されるという理論だ。この理論には時間変数 t は用いられず、この理論によって時間が生まれることを示せるのだという。
このようなタイプの理論で存在するのは、出来事と関係だけだ。本書のこの段階で時間は消滅してしまう。邦題の「時間は存在しない」は、大げさとは言えない。
「第3部 時間の源へ」では時間の根源に迫る。本来存在しないはずなのに、なぜ私たちは時間の流れを感じているのだろうか?数学と物理学、そして哲学を行き来しながら博士独自の見解が語られる。本書は物理学書にはめずらしく、全体的に詩情豊かであるが、それがもっとも強く出ているのが第3部だ。
第3部の冒頭で、ミクロな視点で見た粒子には時間がないものの、包括的にマクロな視点から見るぼやけた世界には「時間の流れ」が認識されることを解説する。博士はマクロな状態によって定められた時間を「熱時間」と呼んだ。しかし、この熱時間はマクロな状態によって定まる「ぼやけ」、つまり記述の不完全さによって定まるものだから、普遍的な時間ではない。時間はぼやけによる近似として見えているだけなのだ。
量子世界を特徴づけるのは粒子と粒子の相互作用による粒子の位置や速度などの状態変化だ。しかし、位置の状態変化が先に起こり、速度の状態変化が後におこる場合と、その逆の順番でおこる場合とでは違う状態になる。これを量子変数の「非可換性」という。
フランスの数学者アラン・コンヌは、粒子どうしの相互作用の結果がその順序に左右されるという事実こそが、この世界における時間の順序のひとつの根っこだと着想した。そしてこれを優美な数学、「非可換フォンノイマン環」という数学的構造として提示した。この数学によりある種の時間的な流れが定義できるのである。(参照:「アラン・コンヌ博士の非可換幾何学とは?」)
驚くべきなのは、コンヌ博士が定義した量子系に付随する流れと、ロヴェッリ博士が論じている熱時間には、極めて密接な関係があるということだ。コンヌ博士が示したのは、ある量子系において異なるマクロ状態によって定まる熱流が、いくつかの内部対称性の自由度を別にして等価であり、まさしくコンヌ・フローを形成するという事実だった。簡単に言えば、マクロな状態によって定められる時間と、量子の非可換性によって定められる時間は、同じ現象の別の側面だったのだ。
時間の核には、2つのぼやけの起源、「物理系がおびただしい数の粒子からなっているという事実」と、「量子的な不確定性」がある。時間の存在性は、ぼやけと深く結びついている。そしてそのようなぼやけが生じるのは、私たちがこの世界のミクロな詳細を知らないからなのだ。物理学における「時間」は結局のところ、私たちがこの世界について無知であることの表れなのである。
次に博士は「過去と未来の差」について解説を始める。熱時間は熱力学、つまり熱と関係があるが、それでもまだ、私たちが経験する時間とは似ていない。なぜなら過去と未来は区別されず、方向もなく、私たちが時の流れと呼んでいるものもないからだ。
ここでは時間の流れを決定づけるエントロピーが取り上げられ、熱力学第二法則の再発見とでもいうべき博士のアイデアが紹介される。
天動説がコペルニクスによって覆され、地動説が提唱された理由を思い起こしてほしい。それは視点の転換だった。天空が回るという視点から、地球の外に出て宇宙から地球を見るという視点への転換だった。同じことがこれまで私たちが行ってきた実験、観測に基づいて得られた物理現象の認識についてもあてはまるというのだ。
私たちは、これまでに発見した物理パラメータだけを使って粒子どうしの相互作用を実験や観測して認識いるに過ぎない。宇宙全体には未知の物理パラメータが数多くあるはずだ。エントロピーが増大しているように見えるのは、たまたま私たちの捉え方が、無数にある物理パラメータの組み合わせのうち特殊なものであるからだろうと博士は考えている。別の言い方をすれば、「内側から」見ているだけでは本当の姿は見えない、すべてのパラメータを使って「外側から」見ることで、全体像が見えるという着想である。
ハッブル望遠鏡を使って私たちが130億光年先の宇宙を見ていたとしても、その場所で他の物理パラメータによって規定される物理法則では、エントロピー減少、すなわち時間の逆行があるのかもしれない。博士は私たちの宇宙の始まりが、たまたまエントロピーが少ない状態だったから、私たちには増大していると見えているだけなのだと主張する。文字どおり「コペルニクス的転回」である。
この箇所を読んだとき、僕はニュートンとはまったく違う視点からニュートン力学を批判した「マッハの力学」的な発想だと思った。(参照:「マッハ力学―力学の批判的発展史:伏見譲訳」)
未来と過去の違いについていえば、なぜ過去の痕跡はあるのに未来の痕跡は存在しないのだろうか?という問題がある。過去の痕跡が豊富だからこそ、「過去は定まっている」というお馴染みの感覚が生じる。未来に関しては、そのような痕跡がいっさいないので、「未来は定まっていない」と感じる。この事実から、自分たちはこの世界で自由に動ける、たとえ過去には働きかけられなくても、さまざまな未来のどれかを選ぶことができる、という印象が生まれるのだ。過去と未来の非対称性がここで解説される。
本書は、古代ギリシアを始めとする哲学者たちが考えていた時間に対する考察が、折に触れて紹介され考察を深めてくれる。現代を生きる私たちは、実験や数理の裏付けがなく思索だけを頼りに進められる哲学的な論証を軽んじがちだ。しかし、本書ではそのような態度が浅はかだということを気がつかせてくれる。また、文学性に富み、詩情豊かに引用される古代の文献は、神秘的で豊饒な本書の魅力を高めていると感じた。マハーバーラタやブッタ、シェイクスピア、『オイディプス王』など、神話から宗教、古典文学まで幅広いトピックをたとえ話として織り込みながら時間の物理学が展開される。物理や科学の専門性はさることながら、歴史や人文学に及ぶ博士の教養の高さに驚かされる。
かいつまんで紹介させていただいた。ここまで書いても実はネタバレはしていない。というのもこの紹介記事では物理学的側面だけをいくつか取り上げて紹介しただけだからである。本書ではこのような物理学に加えて、人間の脳の働きや哲学的考察を加えることで納得のいく説明が行われている。
このように本書は、時間論についてのさまざまな説を並列して紹介するものではなく、1冊まるごとひとつの説を系統立てて解説していく本である。一般の読者にとっても、物理学を学んだ専門家にとっても魅力的な内容だ。ぜひお読みいただきたい。
また、日本語版には原書や英語版にはない特典がある。「明解量子重力理論入門:吉田伸夫」や数々の中級者向け物理学教養書をお書きになった吉田伸夫さんによる「日本語版解説」と、本書を訳された冨永星さんによる「訳者あとがき」のことだ。お二人とも物理学を専門的に学ばれた方なので、本書の理解を助けてくれる内容だ。翻訳は素晴らしく、文学的、詩的な文章も見事に訳された技量の高さには感服せざるを得ない。
時間について博士が語る動画
ロヴェッリ博士のインタビューや講演の動画は、YouTubeにたくさん見つかる。このうち「時間について英語でお話しになっている動画」をピックアップした。ただし字幕はない。リスニングの練習用としてご覧になってもよいだろう。(ロヴェッリ博士の動画: YouTubeで検索)
Carlo Rovelli on The Order of Time
The Physics and Philosophy of Time - with Carlo Rovelli
Q&A The Physics and Philosophy of Time - with Carlo Rovelli
著書と訳書(科学教養書)
本書の原書はイタリア語で書かれている。原書のほか英語版とフランス語版を載せておく。
「時間は存在しない: カルロ・ロヴェッリ」(Kindle版)
「L'ordine del tempo: Carlo Rovelli」
「The Order of Time: Carlo Rovelli」(Kindle版)
「L'ordre du temps: Carlo Rovelli」
博士はこのほかにも何冊か一般向けの教養書をお書きになっている。現時点で日本語に翻訳されているものを外国語版とともに載せておこう。日本語版のタイトルは原書とまったく違うが、対応関係はこれで正しいことを確認した。
「すごい物理学講義: カルロ・ロヴェッリ」(Kindle版)
「La realtà non è come ci appare: Carlo Rovelli」
「Reality Is Not What It Seems: Carlo Rovelli」(Kindle版)
「Par delà le visible La réalité du monde: Carlo Rovelli」
「世の中ががらりと変わって見える物理の本: カルロ・ロヴェッリ」(Kindle版)
「Sette brevi lezioni di fisica: Carlo Rovelli」
「Seven Brief Lessons on Physics: Carlo Rovelli」(Kindle版)
「Sept brèves leçons de physique: Carlo Rovelli」
ループ量子重力の本
博士のご専門は量子重力理論のうちのひとつ、ループ量子重力理論だ。博士による入門者向け専門書(英語)、他の著者による教養書と入門者向け専門書を紹介しておこう。
「Covariant Loop Quantum Gravity: Carlo Rovelli, Francesca Vidotto」(Kindle版)
「繰り返される宇宙: マーチン・ボジョワルド」(ドイツ語原書)(原書Kindle版)
「初級講座 ループ量子重力: R. ガムビーニ、J. プリン」(原書)(原書Kindle版)
関連記事:
時:渡辺慧
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d149cf16bb9dd319f572e4228fdfe241
アラン・コンヌ博士の非可換幾何学とは?
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5f5fc6fd565dbd789d1129c23986c849
深層学習と時空:橋本幸士先生 #MathPower
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bf7e7e661246866943c765bdd371248f
ディープラーニングと物理学 原理がわかる、応用ができる:田中章詞、富谷昭夫、橋本幸士
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5edea35c359ead77cf30915e9dd28bce
明解量子重力理論入門:吉田伸夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e0ab2fd9fafe3568c24ed358dd4ea92c
量子重力には対称性はない ― 大栗機構長らが証明
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f3873800958a91cedc050075c14d303c
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「時間は存在しない: カルロ・ロヴェッリ」(Kindle版)
もっとも大きな謎、それはおそらく時間
第1部 時間の崩壊
第1章:所変われば時間も変わる
- 時間の減速
- 1万の踊るシヴァ神
第2章:時間には方向がない
- この永遠の流れはどこから来ているのか
- 熱の正体
- エントロピーとぼやけ
第3章:「現在」の終わり
- 速度も時間の流れを遅らせる
- 「今」には何の意味もない
- 「現在」がない時間の構造
第4章:時間と事物は切り離せない
- 何も起こらないときに、何が起きるのか
- 何もないところに、何があるのか
- 三人の巨人によるダンス
第5章:時間の最小単位
- 粒状の時間
- 時間の量子的な重ね合わせ
- 現実は関係によって定まる
第2部 時間のない世界
第6章:この世界は、物ではなく出来事でできている
第7章:語法がうまく合っていない
第8章:関係としての力学
- 基本的な量子事象とスピンのネットワーク
第3部 時間の源へ
第9章:時とは無知なり
- 非可換だから生まれる時間
第10章:視点
- 回っているのはわたしたちのほうだ!
- 記述には視点がついてまわる
第11章:特殊性から生じるもの
- エネルギーではなくエントロピーがこの世界を動かす
- 痕跡と原因
第12章:マドレーヌの香り
第13章:時の起源
眠りの姉
日本語版解説(吉田伸夫)
- ループ量子重力理論
- 現代物理学が時間の概念を覆した
- 量子論で重力を扱う難しさ
- 時間のない世界をいかに記述するか
- 時間のない世界に生まれる時間意識
訳者あとがき(冨永星)
原注
内容紹介:
◎イタリアで18万部発行、35か国で刊行決定の世界的ベストセラー
◎タイム誌の「ベスト10ノンフィクション」
◎HONZで紹介! (2019年9月5日): 開く
時間はいつでもどこでも同じように経過するわけではなく、過去から未来へと流れるわけでもない。
“ホーキングの再来"と評される天才物理学者が、本書の前半で「物理学的に時間は存在しない」という驚くべき考察を展開する。後半では、それにもかかわらず私たちはなぜ時間が存在するように感じるのかを、哲学や脳科学などの知見を援用して論じる。
詩情あふれる筆致で時間の本質を明らかにする、独創的かつエレガントな科学エッセイ。
【レビュー】
●きわめて独創的。現代物理学が時間に関する私たちの理解を壊滅させていく様を紹介している。――「ニューヨーク・タイムズ」紙
●わかりやすく目を見開かせてくれるとともに、われわれの時間・空間・現実の見方を覆すような読書体験をもたらす。――「タイム」誌
●時間の本質へと向かう、実に面白くて深い探求。この作品を読む人すべての想像力をとらえて離さない詩情と魅力がある。――「フィナンシャル・タイムズ」紙
●スティーヴン・ホーキングの『ホーキング、宇宙を語る』以来、これほどみごとに物理学と哲学とを融合した著作はない。――「ガーディアン」紙
2019年8月29日刊行、240ページ。原書イタリア語版刊行は2017年4月。
著者について:
カルロ・ロヴェッリ Carlo Rovelli
ホームページ: http://www.cpt.univ-mrs.fr/~rovelli/
Twitter: @carlorovelli
理論物理学者。1956年、イタリアのヴェローナ生まれ。ボローニャ大学卒業後、パドヴァ大学大学院で博士号取得。イタリアやアメリカの大学勤務を経て、現在はフランスのエクス=マルセイユ大学の理論物理学研究室で、量子重力理論の研究チームを率いる。「ループ量子重力理論」の提唱者の一人。『すごい物理学講義』(河出書房新社)で「メルク・セローノ文学賞」「ガリレオ文学賞」を受賞。『世の中ががらりと変わって見える物理の本』(同)は世界で100万部超を売り上げ、大反響を呼んだ。『時間は存在しない』はイタリアで18万部発行、35か国で刊行決定の世界的ベストセラー。タイム誌の「ベスト10ノンフィクション(2018年)」にも選ばれている。
ロヴェッリ博士の日本語著書を検索: 書籍版 Kindle版
ロヴェッリ博士の外国語著書を検索: 書籍版 Kindle版
理数系書籍のレビュー記事は本書で426冊目。
読む前の印象
「時間は存在しない」だなんて、何て大げさな邦題をつけたものだというのが第一印象だった。原題を調べるとイタリア語で「L'ordine del tempo」、英語だと「The Order of Time」つまり「時間の秩序」とか「時間の順序」という意味だ。本書を読んでみると「順序」という意味でタイトルをつけたことがわかる。せめて「時間は幻想だ」くらいの邦題にしておけばよかったのにと思った。
はたして時間は本当に存在するのだろうか?それとも存在しないのか?あるいは幻想として存在するのだろうか?そしてその答は、この3択のうちの1つなのだろうか?
もし時間が存在しないというのならば、物理法則にあらわれる時間変数の「t」 とは、いったい何なのだろうか?つい先日紹介したばかりの「光と物質のふしぎな理論:リチャードP.ファインマン」で語られていることは、時間なしには成り立たない。
理論物理学者の大栗先生は著書「大栗先生の超弦理論入門:大栗博司」の最後のほうで「空間は幻想だ」とお書きになっているが、時間が幻想かどうかはまだ解明されていないと慎重な立場を表明されている。また、理論物理学者の橋本幸士先生は「時空の創発」を研究されているから時間と空間は(幻想かどうかは別として)存在するとお考えになっているようだ。(参考記事:「深層学習と時空:橋本幸士先生 #MathPower」)
時間論をテーマにした本は当たりはずれが極端だ。そのことは「時:渡辺慧」という記事にも書いた。相対性理論によれば時の流れは重力や物体の運動によって遅くなる。しかし、人間の生理的な感覚で感じる時間の流れは、それとは別だとも考えれる。人間がいなくなれば時間は存在しなくなるのか?いや、そんなはずはあるまい。物理現象と生理現象、心理現象的側面が絡み合っていて、本質がなかなかつかめないのが「時間」である。本書は当たりなのだろうか?はずれなのだろうか?
著者のロヴェッリ博士はループ量子重力理論の研究者だ。この難解な理論をもとにして時間の謎を解き明かしたというのだろうか?そうだとしたら、本書は相当難しい物理学の教養書となるはずだ。
そのような気持ちで、本書に臨んでみた。
本書の構成と紹介
読み始めてすぐ、本書は「大当たり」だと気がついた。数ページ読むうちにぐいぐいと引き込まれていく。そしてペースが速い。僕が思索に浸りながら読書をした経過はこの連投ツイートをご覧になるとわかる。
構成と章立ては、次のとおりだ。
第1部 時間の崩壊
第1章:所変われば時間も変わる
第2章:時間には方向がない
第3章:「現在」の終わり
第4章:時間と事物は切り離せない
第5章:時間の最小単位
第2部 時間のない世界
第6章:この世界は、物ではなく出来事でできている
第7章:語法がうまく合っていない
第8章:関係としての力学
第3部 時間の源へ
第9章:時とは無知なり
第10章:視点
第11章:特殊性から生じるもの
第12章:マドレーヌの香り
第13章:時の起源
「第1部 時間の崩壊」では、ニュートンの絶対時間からアインシュタインの重力による遅延する時間の話、つまり場所が違うと時間の流れが違うから、この世界で「同時」という概念は意味をなさないことが解説される。そしてあらゆる物理法則の中で、時間の流れ(時間の矢)を説明するのは「熱力学第二法則(エントロピー増大則)」だけであること。エントロピーとは「乱雑さ」を測る尺度で、宇宙は誕生したときのエントロピーが低い状態だったから、それが増大し続けることで、やがて「熱死」という状態で終焉を迎えるという話。これはずいぶん昔に本で読んでいたことだ。
けれども、エントロピーというのは私たちがこの世界を粗視化された視点で、すなわち「ぼやけた」視点でとらえているというものであり、時間の流れはそのために生じているように見えているのだと本書は主張している。つまり、ミクロな視点で見れば、熱力学・統計力学・量子力学も含めて、あらゆる物理法則には、時間の非対称性(過去と未来の区別)は存在しないという。
それは時間が現在を中心とした対称性をもっているのだから、ミクロな世界には過去と未来に区別はないということだ。過去の事象の記憶や痕跡がありそれがひと通りであることは、未来についても同様であるはずだ。しかし、マクロな世界に生きる私たちは未来の記憶や痕跡を持っていない。
また現代物理学には、あらゆる物理法則は因果律を保つという鉄則がある。物事は原因があって後に結果が生じるということである。しかし、そもそも原因と結果とというものは、マクロな視点でとらえる概念だ。ミクロの世界で因果関係は意味を失う。力学的な運動、生命現象、化学反応はすべてマクロな世界の現象だ。
また、量子力学によるとミクロな時空は泡立っており、時間は粒状になっているかもしれないと考える科学者がいる。そして時間自体も量子的に重ね合わせの状態になっているのかもしれない。
ここまではすでに知っていたことだが、少し飛ばし過ぎではないかと感じた。他に何か説明することがあるのだろうか?
この段階で、直観的な意味での時間は壊滅する。
「第2部 時間のない世界」では、第1部での結論、予想をさらに発展させて考察が進む。量子力学が私たちにもたらしたのは「モノからコトへ」、あるいは「物から出来事へ」という大変革だった。数式上は位置や運動量、時間などの物理量がそれぞれ位置演算子、運動量演算子、時間演算子など「演算子(数学としては作用素)」に置き換えられることに象徴されている。
ニュートンの力学やマクスウェルの方程式や量子力学などが私たちに教えてくれるのは、物の状態ではなく出来事の起き方なのだ。
量子力学を学んでいない方は、2や3などの数字を物理量、そして+、-、×、÷、微分する、交換するなどの計算操作のことを「演算子(数学としては作用素)」だと考えると、その違いがおわかりになると思う。:参考ページ
これはマクロな古典的世界観での「実在性」が喪失したと考えることもできる。そもそも「実在する」とか「存在する」とはどういうことだろうか?実は定義されていないのである。
ここで博士はご自身の研究テーマであるループ量子重力理論を紹介する。物理学で「場」は、素粒子、光子、重力量子のように粒のような形であらわれる。これらの粒子の量子事象としての相互作用のネットワークから世界が構成されるという理論だ。この理論には時間変数 t は用いられず、この理論によって時間が生まれることを示せるのだという。
このようなタイプの理論で存在するのは、出来事と関係だけだ。本書のこの段階で時間は消滅してしまう。邦題の「時間は存在しない」は、大げさとは言えない。
「第3部 時間の源へ」では時間の根源に迫る。本来存在しないはずなのに、なぜ私たちは時間の流れを感じているのだろうか?数学と物理学、そして哲学を行き来しながら博士独自の見解が語られる。本書は物理学書にはめずらしく、全体的に詩情豊かであるが、それがもっとも強く出ているのが第3部だ。
第3部の冒頭で、ミクロな視点で見た粒子には時間がないものの、包括的にマクロな視点から見るぼやけた世界には「時間の流れ」が認識されることを解説する。博士はマクロな状態によって定められた時間を「熱時間」と呼んだ。しかし、この熱時間はマクロな状態によって定まる「ぼやけ」、つまり記述の不完全さによって定まるものだから、普遍的な時間ではない。時間はぼやけによる近似として見えているだけなのだ。
量子世界を特徴づけるのは粒子と粒子の相互作用による粒子の位置や速度などの状態変化だ。しかし、位置の状態変化が先に起こり、速度の状態変化が後におこる場合と、その逆の順番でおこる場合とでは違う状態になる。これを量子変数の「非可換性」という。
フランスの数学者アラン・コンヌは、粒子どうしの相互作用の結果がその順序に左右されるという事実こそが、この世界における時間の順序のひとつの根っこだと着想した。そしてこれを優美な数学、「非可換フォンノイマン環」という数学的構造として提示した。この数学によりある種の時間的な流れが定義できるのである。(参照:「アラン・コンヌ博士の非可換幾何学とは?」)
驚くべきなのは、コンヌ博士が定義した量子系に付随する流れと、ロヴェッリ博士が論じている熱時間には、極めて密接な関係があるということだ。コンヌ博士が示したのは、ある量子系において異なるマクロ状態によって定まる熱流が、いくつかの内部対称性の自由度を別にして等価であり、まさしくコンヌ・フローを形成するという事実だった。簡単に言えば、マクロな状態によって定められる時間と、量子の非可換性によって定められる時間は、同じ現象の別の側面だったのだ。
時間の核には、2つのぼやけの起源、「物理系がおびただしい数の粒子からなっているという事実」と、「量子的な不確定性」がある。時間の存在性は、ぼやけと深く結びついている。そしてそのようなぼやけが生じるのは、私たちがこの世界のミクロな詳細を知らないからなのだ。物理学における「時間」は結局のところ、私たちがこの世界について無知であることの表れなのである。
次に博士は「過去と未来の差」について解説を始める。熱時間は熱力学、つまり熱と関係があるが、それでもまだ、私たちが経験する時間とは似ていない。なぜなら過去と未来は区別されず、方向もなく、私たちが時の流れと呼んでいるものもないからだ。
ここでは時間の流れを決定づけるエントロピーが取り上げられ、熱力学第二法則の再発見とでもいうべき博士のアイデアが紹介される。
天動説がコペルニクスによって覆され、地動説が提唱された理由を思い起こしてほしい。それは視点の転換だった。天空が回るという視点から、地球の外に出て宇宙から地球を見るという視点への転換だった。同じことがこれまで私たちが行ってきた実験、観測に基づいて得られた物理現象の認識についてもあてはまるというのだ。
私たちは、これまでに発見した物理パラメータだけを使って粒子どうしの相互作用を実験や観測して認識いるに過ぎない。宇宙全体には未知の物理パラメータが数多くあるはずだ。エントロピーが増大しているように見えるのは、たまたま私たちの捉え方が、無数にある物理パラメータの組み合わせのうち特殊なものであるからだろうと博士は考えている。別の言い方をすれば、「内側から」見ているだけでは本当の姿は見えない、すべてのパラメータを使って「外側から」見ることで、全体像が見えるという着想である。
ハッブル望遠鏡を使って私たちが130億光年先の宇宙を見ていたとしても、その場所で他の物理パラメータによって規定される物理法則では、エントロピー減少、すなわち時間の逆行があるのかもしれない。博士は私たちの宇宙の始まりが、たまたまエントロピーが少ない状態だったから、私たちには増大していると見えているだけなのだと主張する。文字どおり「コペルニクス的転回」である。
この箇所を読んだとき、僕はニュートンとはまったく違う視点からニュートン力学を批判した「マッハの力学」的な発想だと思った。(参照:「マッハ力学―力学の批判的発展史:伏見譲訳」)
未来と過去の違いについていえば、なぜ過去の痕跡はあるのに未来の痕跡は存在しないのだろうか?という問題がある。過去の痕跡が豊富だからこそ、「過去は定まっている」というお馴染みの感覚が生じる。未来に関しては、そのような痕跡がいっさいないので、「未来は定まっていない」と感じる。この事実から、自分たちはこの世界で自由に動ける、たとえ過去には働きかけられなくても、さまざまな未来のどれかを選ぶことができる、という印象が生まれるのだ。過去と未来の非対称性がここで解説される。
本書は、古代ギリシアを始めとする哲学者たちが考えていた時間に対する考察が、折に触れて紹介され考察を深めてくれる。現代を生きる私たちは、実験や数理の裏付けがなく思索だけを頼りに進められる哲学的な論証を軽んじがちだ。しかし、本書ではそのような態度が浅はかだということを気がつかせてくれる。また、文学性に富み、詩情豊かに引用される古代の文献は、神秘的で豊饒な本書の魅力を高めていると感じた。マハーバーラタやブッタ、シェイクスピア、『オイディプス王』など、神話から宗教、古典文学まで幅広いトピックをたとえ話として織り込みながら時間の物理学が展開される。物理や科学の専門性はさることながら、歴史や人文学に及ぶ博士の教養の高さに驚かされる。
かいつまんで紹介させていただいた。ここまで書いても実はネタバレはしていない。というのもこの紹介記事では物理学的側面だけをいくつか取り上げて紹介しただけだからである。本書ではこのような物理学に加えて、人間の脳の働きや哲学的考察を加えることで納得のいく説明が行われている。
このように本書は、時間論についてのさまざまな説を並列して紹介するものではなく、1冊まるごとひとつの説を系統立てて解説していく本である。一般の読者にとっても、物理学を学んだ専門家にとっても魅力的な内容だ。ぜひお読みいただきたい。
また、日本語版には原書や英語版にはない特典がある。「明解量子重力理論入門:吉田伸夫」や数々の中級者向け物理学教養書をお書きになった吉田伸夫さんによる「日本語版解説」と、本書を訳された冨永星さんによる「訳者あとがき」のことだ。お二人とも物理学を専門的に学ばれた方なので、本書の理解を助けてくれる内容だ。翻訳は素晴らしく、文学的、詩的な文章も見事に訳された技量の高さには感服せざるを得ない。
時間について博士が語る動画
ロヴェッリ博士のインタビューや講演の動画は、YouTubeにたくさん見つかる。このうち「時間について英語でお話しになっている動画」をピックアップした。ただし字幕はない。リスニングの練習用としてご覧になってもよいだろう。(ロヴェッリ博士の動画: YouTubeで検索)
Carlo Rovelli on The Order of Time
The Physics and Philosophy of Time - with Carlo Rovelli
Q&A The Physics and Philosophy of Time - with Carlo Rovelli
著書と訳書(科学教養書)
本書の原書はイタリア語で書かれている。原書のほか英語版とフランス語版を載せておく。
「時間は存在しない: カルロ・ロヴェッリ」(Kindle版)
「L'ordine del tempo: Carlo Rovelli」
「The Order of Time: Carlo Rovelli」(Kindle版)
「L'ordre du temps: Carlo Rovelli」
博士はこのほかにも何冊か一般向けの教養書をお書きになっている。現時点で日本語に翻訳されているものを外国語版とともに載せておこう。日本語版のタイトルは原書とまったく違うが、対応関係はこれで正しいことを確認した。
「すごい物理学講義: カルロ・ロヴェッリ」(Kindle版)
「La realtà non è come ci appare: Carlo Rovelli」
「Reality Is Not What It Seems: Carlo Rovelli」(Kindle版)
「Par delà le visible La réalité du monde: Carlo Rovelli」
「世の中ががらりと変わって見える物理の本: カルロ・ロヴェッリ」(Kindle版)
「Sette brevi lezioni di fisica: Carlo Rovelli」
「Seven Brief Lessons on Physics: Carlo Rovelli」(Kindle版)
「Sept brèves leçons de physique: Carlo Rovelli」
ループ量子重力の本
博士のご専門は量子重力理論のうちのひとつ、ループ量子重力理論だ。博士による入門者向け専門書(英語)、他の著者による教養書と入門者向け専門書を紹介しておこう。
「Covariant Loop Quantum Gravity: Carlo Rovelli, Francesca Vidotto」(Kindle版)
「繰り返される宇宙: マーチン・ボジョワルド」(ドイツ語原書)(原書Kindle版)
「初級講座 ループ量子重力: R. ガムビーニ、J. プリン」(原書)(原書Kindle版)
関連記事:
時:渡辺慧
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d149cf16bb9dd319f572e4228fdfe241
アラン・コンヌ博士の非可換幾何学とは?
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5f5fc6fd565dbd789d1129c23986c849
深層学習と時空:橋本幸士先生 #MathPower
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bf7e7e661246866943c765bdd371248f
ディープラーニングと物理学 原理がわかる、応用ができる:田中章詞、富谷昭夫、橋本幸士
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5edea35c359ead77cf30915e9dd28bce
明解量子重力理論入門:吉田伸夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e0ab2fd9fafe3568c24ed358dd4ea92c
量子重力には対称性はない ― 大栗機構長らが証明
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f3873800958a91cedc050075c14d303c
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「時間は存在しない: カルロ・ロヴェッリ」(Kindle版)
もっとも大きな謎、それはおそらく時間
第1部 時間の崩壊
第1章:所変われば時間も変わる
- 時間の減速
- 1万の踊るシヴァ神
第2章:時間には方向がない
- この永遠の流れはどこから来ているのか
- 熱の正体
- エントロピーとぼやけ
第3章:「現在」の終わり
- 速度も時間の流れを遅らせる
- 「今」には何の意味もない
- 「現在」がない時間の構造
第4章:時間と事物は切り離せない
- 何も起こらないときに、何が起きるのか
- 何もないところに、何があるのか
- 三人の巨人によるダンス
第5章:時間の最小単位
- 粒状の時間
- 時間の量子的な重ね合わせ
- 現実は関係によって定まる
第2部 時間のない世界
第6章:この世界は、物ではなく出来事でできている
第7章:語法がうまく合っていない
第8章:関係としての力学
- 基本的な量子事象とスピンのネットワーク
第3部 時間の源へ
第9章:時とは無知なり
- 非可換だから生まれる時間
第10章:視点
- 回っているのはわたしたちのほうだ!
- 記述には視点がついてまわる
第11章:特殊性から生じるもの
- エネルギーではなくエントロピーがこの世界を動かす
- 痕跡と原因
第12章:マドレーヌの香り
第13章:時の起源
眠りの姉
日本語版解説(吉田伸夫)
- ループ量子重力理論
- 現代物理学が時間の概念を覆した
- 量子論で重力を扱う難しさ
- 時間のない世界をいかに記述するか
- 時間のない世界に生まれる時間意識
訳者あとがき(冨永星)
原注