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深層学習と時空:橋本幸士先生 #MathPower

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三連休の中日の日曜は、午前中にフランス語の授業を済ませ、午後から橋本先生の1時間の講演を聞きに六本木ニコファーレに行ってきた。この講演はMATH POWER 2018という土日の2日間ぶっ通しで行われる数学イベントの一部である。

MATH POWER 2018(Twitterで #MathPower を検索する
https://mathpower.sugakubunka.com/



10月7日(日)15:00~16:00
深層学習と時空(講演) #Mathpower
橋本幸士(大阪大学大学院理学研究科教授)


宇宙の始まりの話。そもそも何もないところから時空がどのように生まれるのか?(創発するのか?)これを説明するために使われるのが超弦理論から導かれる「ホログラフィー原理」と「AdS/CFT対応」である。理論物理としてはこれで十分なのだが、実際に解くのが難しい。そこで利用するのがコンピュータ、特にAIの分野でブームとなっている深層学習なのである。

8月に「「AI(人工知能)と物理学」:1日目」という催しで、橋本先生は同じ講演をされていたが、このときは時間が押していたために十分詳しく理解することができなかった。今回の講演は期待を裏切らなかった。ニコ生でも生中継されていたが、直接足を運んでよかったと思う。(先生にもご挨拶できたし。)

専門的な論文はArXivに『深層学習とホログラフィックQCD』として先日投稿されたばかりである。

Deep Learning and Holographic QCD
https://arxiv.org/abs/1809.10536

また、このテーマは先日紹介した「ブラックホール戦争:レオナルド・サスキンド」での「空間は幻想である。」の具体的な解説でもある。

理解のカギとなるのが「AdS/CFT対応(ウィキペディア)」。反ド・ジッター空間(AdS)と共形場(CFT)との間の対応関係のことで、マルダセナ双対やゲージ/重力双対とも呼ばれる。ホログラフィ原理とは「4次元の量子色力学=5次元の量子重力理論」の等価性のことだ。つまり異なる次元で異なる物理法則に対応関係があること。詳しくは次のPDF資料でお読みいただける。

非専門家のためのAdS/CFT対応入門(京都大学大学院理学研究科 中村真)
http://quattro.phys.sci.kobe-u.ac.jp/dmrg/Kyoto2011/Proc/Nakamura.pdf


会場となった六本木ニコファーレは近未来空間といってよい。数学のイベントがこのような場所で行われるうようになったのは50代の僕には隔世の感がある。聴講している人も若い人がほとんどで女性も目立っている。「だってこれは数学イベントでしょ?何これ?」と、ジェネレーションギャップなのか、カルチャーギャップなのかわからないまま、そこにあるすべてを受け入れた。おそらくインテリジェンスギャップもあったかもしれない。

橋本先生が登壇。いつもと勝手が違うのが聴講者が「数学の人たち」であることだ。同じγでも物理では光子、数学ではオイラー数、Q.E.D.は物理では量子電磁気学、数学では「証明終了」である。物理でCFTは共形場だが数学では類体論。言葉の違いは文化の違い。先生は「今日はみなさんに親近感を持ってもらいたいから大阪弁でやります。」とおっしゃり、大阪弁と標準語のバイリンガルであることを何度か強調されて笑いをとっていた。

今回の講演内容は「数学的にスピンネットワークという物理模型と深層学習のニューラルネットワークが等価の(似ている)ことがある」というアイデアによるものであることをまず説明された。

講演内容は3つのパートに区切って行われた。

1)基礎物理学の宿題:量子+重力
2)解決提案:超ひも理論とホログラフィー
3)進行中:深層学習と時空創発

1)基礎物理学の宿題:量子+重力

まず「時空とは?」という切り口で、アインシュタインの一般相対性理論100年目に検出された重力波(参考記事)のことを取り上げた。一般相対性理論(=重力理論)は「物理法則は座標系によらない」という要請から導かれた美しい理論である。人がこれを美しいと感じるのは外界の認識が、そもそも座標不変であるからだ。

「宿題」というのは量子力学とアインシュタインの重力理論が矛盾していること。そのためには統一量子重力理論が必要である。量子重力理論の歴史は次のとおり。

1970年:ハドロンの弦理論(南部、サスキンド、ニールセン)
1974年:弦理論が重力の理論を含む(米谷、シャーク、シュワルツ)
1976年:ホーキングの情報喪失(情報パラドックス)
1988年:ループ量子重力
1997年:AdS/CFT対応、ホログラフィック原理による量子重力理論の定義(マルダセナ)
2002年:ホログラフィックQCD
2006年:エンタングルメント公式(笠-高柳公式
2008年:ホログラフィック超伝導
2009年:量子重力創発条件
2015年:量子エラー訂正符号による空間創発
2017年:創発空間のアインシュタイン方程式の導出

Newton(ニュートン)2018年10月号」(詳細)では「空間は幻なのか!?「ホログラフィー原理」が示す新しい宇宙観」という記事でホログラフィー原理や時空の創発が特集されたばかりだ。つまり、近年になって「空間は幻想である」ということが示唆されるようになったのだ。

次は論文にも掲載されている図版。ホログラフィック原理による時空の創発をあらわしている。五角形は量子重力的な理由からくるもので、いちばん小さい〇どうしのつながりは量子エンタングルメントだという説明。グラフを見ると空間分割が創発空間のように見えるのだという。つまりグラフが創発空間であるということが、深層学習における(多層)ニューラルネットワークと似ているというアイデアが生まれる。



量子系の実験結果をグラフにして深層学習させて計算した結果がこれ。右のグラフが計算前はギザギザだったのが滑らかになったということで、時空が創発したとみなされるという。




2)解決提案:超ひも理論とホログラフィー

素粒子はひも?という話から始まった。17種類の素粒子の表を紹介し、ゲージ粒子のひとつとしてγであらわされるのが光子であることを解説。

1970年に提唱されたひも理論(南部、サスキンド、ニールセン)によって光子の方程式からマクスウェルの方程式が導出されることを解説。次に重力子(縦横に偏光)が超ひもから得られることを解説。

次にファインマン図を示しながら電子が繰り込み可能であること(量子電磁気学)、重力は繰り込み不可能であることを解説。なぜなら重力はE=mc^2に従うとエネルギーがプロセスごとに異なるから。しかし、超ひもを使えば発散しない。光や重力が超ひも理論から導出できる。超ひも理論は量子重力理論のうちのひとつだ。

ホログラフィー原理の解説に進む。マルダセナによるAdS/CFT対応のことだ。この理論によって偏光素粒子が創発重力であることを導くことができる。(つまり「4次元の量子色力学=5次元の量子重力理論」であることが示される。)

ここで著書2冊を紹介された。

- 「超ひも理論をパパに習ってみた」(紹介記事
- 「マンガ 超ひも理論をパパに習ってみた


3)進行中:深層学習と時空創発

ホログラフィック原理と深層学習の対応関係は次のとおり。



量子系の実験結果から創発時空を得る。創発された時空と深層学習のニューラルネットワークの類似性を使う。

ホログラフィー原理には次の問題がある。

a) 証明がない。
b) 実験データからどうやって時空を創発するか?

これらについて深層学習には、次のように対応するメリットがある。

A) 技術革新がある。
B) 逆問題を解くのに適している。


大ざっぱには、このような流れだった。よく伝わらない部分があると思うので、すでに無料公開される動画で、橋本先生の講演をご覧いただきたい。

橋本先生、ようやく僕は(大まかに)理解することができました。楽しくてためになる講演をしていただき、ありがとうございました!


橋本先生の講演の動画

なんと動画はこちらから無料で視聴できる。(2日間全部で32時間31分!橋本先生の講演は27時間20分12秒から始まる。27:20:12を画面の左下隅に直接入力して再生するとよい。

数学の祭典 MATH POWER 2018
http://live.nicovideo.jp/gate/lv314662902




関連記事:

超ひも理論をパパに習ってみた: 橋本幸士
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/05d22e7299a4b30b24efb05cf01176a2

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Dブレーン―超弦理論の高次元物体が描く世界像:橋本幸士
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