昨日から今日にかけてTwitterで流れていた2つのニュース。自然法則の根幹にかかわる事がらなので、どちらもゾクゾクさせられる。ひとつは「解明への大きな一歩」そしてもうひとつは「解明」である。
最初に紹介する成果は熱力学第二法則を量子力学から導出、2つめに紹介する成果は古典電磁気学での問題を量子力学で解明したというもの。どちらも量子力学による古典物理学の謎の解明、自然現象をより深いレベルで理解できたという成果なのだ。
あとでじっくり論文を読んで理解しておきたい。自分のためのメモとして記事にしておこう。
量子力学から熱力学第二法則を導出することに成功 ~「時間の矢」の起源の解明へ大きな一歩 ~:物理工学専攻 伊與田英輝助教、金子和哉さん(D1)、沙川貴大准教授
プレスリリース:
http://www.t.u-tokyo.ac.jp/foe/press/setnws_201709061614152431248138.html
論文(英語)
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.119.100601
arXiv
https://arxiv.org/abs/1603.07857
東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻の伊與田英輝助教、金子和哉大学院生、沙川貴大准教授は、マクロ(巨視的)な世界の基本法則で、不可逆な変化に関する熱力学第二法則を、ミクロな世界の基本法則である量子力学から、理論的に導出することに成功しました。これは、極微の世界を支配する「量子力学」と、私達の日常を支配する「熱力学」という、二つの大きく隔たった体系を直接に結び付けるものです。本研究では、量子多体系の理論に基づき、単一の波動関数(注4)で表される量子力学系において、熱力学第二法則を理論的に導きました。従来の研究とは異なり、カノニカル分布などの統計力学の概念を使うことなく、多体系の量子力学に基づいて第二法則を導出したことが、本研究の大きな特徴です。さらに、ゆらぎの定理と呼ばれる熱力学第二法則の一般化を、同様の設定で証明することにも成功しました。本研究の成果は、量子力学だけに基づいて不可逆性の起源を理解する大きな一歩となるのみならず、冷却原子気体など高度に制御された量子多体系の非平衡ダイナミクスの理解にもつながると期待されます。
以下は本件について伊與田英輝先生がツイートされた文面である。
共著者の沙川から伝言です。「量子力学から第二法則を導出」の意味を、少し詳しく(プロ向きに)説明させてください。
「量子力学から」は「(等重率の原理などの)統計力学の仮定を使わずに」という意味です。カノニカル分布などは確率モデル(つまりマクロな物理量を計算するための処方箋)であり、実際のミクロな量子状態がそうなっている保証はありません(詳しくは田崎さんの『統計力学』などを参照)。
この研究では熱浴がカノニカル分布であると仮定せず、単一のエネルギー固有状態の性質として、第二法則を証明しています。エネルギー固有状態は純粋に量子力学の概念なので、「量子力学から」と言えます。ここから、固有状態の重ね合わせや混合についても第二法則が示せます。
第二法則を満たさない例外的な固有状態もありえますが、その数が少ないことも証明しています。これはdisorderのない量子多体系の性質として証明できます(弱い形のETH)。(等重率の原理の強い表現である)ヒルベルト空間のtypicalityとは全く異なるものです。
「第二法則を」の部分は、「ゆらぎの定理」と呼ばれる熱ゆらぎの性質まで導出した点、つまり熱力学第二法則の背後にある構造も含めて量子力学から出ることを示した点が重要です。Random waiting timeと呼ばれる先行研究の手法では、これを示すことはできませんでした。
ちなみにこの「量子力学から第二法則を導く」という方向性は、早くも2000年ごろに田崎さん @Hal_Tasaki が言い始めて、最近になってようやく世界的に重要性が認知されてきた話です。今回の結果はこの方向性で初めて満足のいくものだと(僭越ながら)思っています。
余談:小学生女子が「量子力学から熱力学第二法則を導出」という東大工学部の発表をRTするのがTwitter
https://togetter.com/li/1148275
ファインマンも解けなかった問題を解明 ~ファラデーの電磁誘導の法則とローレンツ力はなぜ同じ起電力を与えるのか~(筑波大学)
プレスリリース:
https://research-er.jp/articles/view/62558
国立大学法人筑波大学 計算科学研究センター小泉裕康准教授は、磁場を横切る導線に生じる誘導起電力が「ファラデーの電磁誘導の法則」と「ローレンツ力」という2つの本質的に異なる方法で求めることができるのはなぜかを明らかにしました。この誘導起電力を求める問題は高等学校の物理の教科書にも載っており、馴染み深い問題です。しかしそれにもかかわらず、2つの本質的に異なる方法で結果がなぜ一致するのか、これまで明らかにされていませんでした。
1. 磁場を横切る導線に生じる誘導起電力が2つの本質的に異なる方法、「ファラデーの電磁誘導の法則」と「ローレンツ力」で求めることができるのはなぜかを明らかにしました。
2. 電子の運動を量子力学的な波動関数で記述すると同時に、電磁場をゲージ場とし、電場、磁場の代わりにゲージポテンシャルを用いることにより、この問題を解きました。
3. 高等学校の物理の教科書にも記載されていた奇妙な一致に対する理論的な回答が得られると同時に、量子コンピュータの開発にも貢献する成果です。
「ファインマンも解けなかった奇妙な一致」については無料公開されている「英語版のファインマン物理学」ではVolume II、Mainly Electromagnetism and Matterの「Chapter 17: The Laws of Induction」の冒頭に書かれている。また日本語版では「第3巻:電磁気学」の「第17章: 誘導法則」の最初の3ページに書かれている。
この中でファインマンは次のように書いている。
We know of no other place in physics where such a simple and accurate general principle requires for its real understanding an analysis in terms of two different phenomena. Usually such a beautiful generalization is found to stem from a single deep underlying principle. Nevertheless, in this case there does not appear to be any such profound implication. We have to understand the “rule” as the combined effects of two quite separate phenomena.
われわれは物理学のほかの所ではどこにも、このように単純で正確な一般法則がほんとうの理解のために二つのちがった現象による分析を必要とする場合を知らない。普通にはこのような美しい一般化は唯一の深い、基礎原理から導かれることがわかる。しかるに、今の場合にはこのような深い意味は見られない。われわれは“規則”を二つの全く別の現象を結び合わせた効果と理解するより仕方がない。
この奇妙な一致の謎は、もちろんファインマンだけでなく、誰にも解けていなかった。
樺沢宇紀先生によると「古典電磁気学で見られた2つの本質的に異なる方法での奇妙な一致は、電子の量子状態を表す波動関数の位相因子の2重性により繋がっていた結果」だということである。
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