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量子物理学の発見: レオン・レーダーマン、クリストファー・ヒル

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量子物理学の発見: レオン・レーダーマン、クリストファー・ヒル」(Kindle版

内容紹介:
ギリシャ以来、物質の最小の構成単位への人類の探求は、原子核とそれをまわる電子というモデルまでいきつく。しかし、1912年のある日、物理学者のニールス・ボーアは気がつく。なぜ、電子は原子核に墜落しないのか?まったく新しい物理学が誕生した瞬間だった。人類の極小を探る旅は、加速器というものさしを得て進歩する。それは宇宙の始まりを解き明かす旅になった。アメリカのフェルミ研究所で加速器を使い、極小の世界を追い求めたノーベル賞物理学者が、この新しい物理学の誕生から現在そして未来を綴る。
2016年9月刊行、308ページ。

著者について:
レオン・レーダーマン
1922年、アメリカ生まれ。実験物理学者。ミューニュートリノの発見でレプトンの二重構造を実証し、1988年ノーベル物理学賞。1979年から1989年までフェルミ国立加速器研究所の所長を務め、半世紀にわたり、加速器実験によるアメリカの素粒子物理学を主導してきた。コロンビア大学教授、イリノイ工科大学教授などを歴任し、2012年に引退。著書を検索する

クリストファー・ヒル
1951年、アメリカ生まれ。理論物理学者。シカゴ大学、オックスフォード大学客員研究員などを経て、フェルミ国立加速器研究所理論物理学部長を2012年まで務める。

翻訳者について:
青木薫
翻訳家。1956年、山形県生まれ。京都大学理学部卒業、同大大学院博士課程修了。理学博士。訳書を検索する


理数系書籍のレビュー記事は本書で342冊目。

ひとつ前の記事で紹介した「物質のすべては光: フランク・ウィルチェック」が書かれたのはCERNのLHCがまだ無かった頃のこと。

そして2012年にヒッグス粒子が発見されて、その発表のことは「祝!:ヒッグス粒子発見」に書いておいた。

その後、LHCはパワーアップして稼働しているわけだが、つい先日「光子-光子散乱」の発表がなされたばかりだ。

CERN、光子・光子散乱をLHCアトラス検出器で観測 - 80年前のQED予言を実証
http://news.mynavi.jp/news/2017/08/17/080/

その他の素粒子の検出はその後どのように進んでいるのだろう?近いうちにまた大きな発見がなされるのだろうか?ヒッグス粒子発見から5年経っているので、その後の経過や今後の見込みを知っておきたいと思うのは僕だけではないだろう。

このような気持ちで昨年9月に刊行された本書を読んでみた。(英語版は2013年10月刊行)「物質のすべては光: フランク・ウィルチェック」と読み合わせるのにちょうどよい。本書を書いたのも実験系の素粒子物理学者で、ノーベル賞を1988年に授賞している。CERNのLHCのことも書かれているが、本書の中心テーマは次のような事がらだ。

- フェルミ研究所のSSCの中止(1993年)
- 素粒子物理の発展史(概要)
- パリティ対称性、カイラル対称性
- 質量獲得のメカニズム(ミュー粒子、W+,W-,Z0粒子)
- 弱い力
- ヒッグス粒子による質量獲得のメカニズム(ヒッグス機構)
- ニュートリノの質量獲得のメカニズム
- フェルミ研究所で現在進行中の計画
- LHCで現在進行中の計画

のようになる。「物質のすべては光: フランク・ウィルチェック」のほうが強い力、量子色力学を基軸とした陽子や中性子などの質量獲得を解説していたのに対し、本書は弱い力、ヒッグス機構による質量獲得の解説なので、ちょうどうまい具合に分かれている。ちなみにヒッグス粒子の質量は126GeVだということが観測されたわけだが、その質量獲得のメカニズムは解明されていないそうだ。

章立てはこのとおり。

第1章:宇宙の始まりを探る旅
第2章:その時、ニュートン物理学は崩れた
第3章:世界は右巻きか左巻きか
第4章:相対性理論の 合法的な抜け道
第5章:初めに質量あれ
第6章:何もないところになぜ何かが生まれたのか?
第7章:星が生まれた痕跡
第8章:加速器は語る
第9章:ヒッグス粒子を超えて


第1章から第3章までは知っていることばかりで面白くなかった。「強い力と弱い力:大栗博司」をお読みになった方なら、斜め読みしてよいと思う。本書でも詳しい解説は既刊の自著を読んでほしいと、その都度「対称性―レーダーマンが語る量子から宇宙まで」や「詩人のための量子力学―レーダーマンが語る不確定性原理から弦理論まで」を紹介している。本書と合わせてお読みになるとよいだろう。

面白く感じ始めたのは第4章からで、第6章から僕は気合いが入ってきた。パリティ対称性、カイラル対称性の説明は詳しいし、質量を獲得させるためのヒッグス機構についてはこれまでに見聞きしていた説明のどれとも違う。いちばんわかりやすい説明だと思う。(不評だった「水飴」によるたとえ話を思い出した。)本書の中で素晴らしい箇所なので、実際にお読みになってほしい。

質量獲得メカニズムのポイントとなるのはヒッグス粒子が弱い力の「弱荷」をもっていて空間を満たしてヒッグス場となっていること、そしてそれによって質量を獲得する粒子はヒッグス場と「弱荷」をやり取りしながら高速微細振動(ツィッターベヴェーグング)するということによる。電子もヒッグス機構により質量を獲得するわけだが、そのツィッターベヴェーグングもつい先日実験で観測されたばかりだ。(参考記事:「サクライ上級量子力学〈第1巻〉輻射と粒子:J.J.サクライ」)

電子の「震え現象」を検証、新たな揺らぎ現象を発見(東京大学)
https://research-er.jp/articles/view/61738


そして、現在フェルミ研究所で進行中なのが「プロジェクトX」である。適当な名前が思いつかないのでそのような名前になっているそうだ。LHCでは衝突させる陽子のエネルギーを大きくしていくわけだが、プロジェクトXでは陽子のビームの強さを増やす、つまり陽子の個数を増やすということで新発見できる確率を増やすそうだ。専門的には陽子のルミノシティを増やすことで、コストを抑えて実験をすることができるのだという。また、ニュートリノ振動を詳しく調べるための「NOvA」という計画も進行中である。それぞれホームページを載せておこう。

Fermilab | PIP-II | Home (Project X)
https://pip2.fnal.gov/

Fermilab | NOvA Neutrino Experiment | Home
https://www-nova.fnal.gov/

前回の「物質のすべては光: フランク・ウィルチェック」も今回の「量子物理学の発見: レオン・レーダーマン、クリストファー・ヒル」(Kindle版)も実験物理学者が書いたものだ。ウィルチェック博士のほうは超対称性の可能性について(時代的背景があるかもしれないが)意欲的だったが超弦理論についてはさほど積極的には書いていなかった。

そしてレーダーマン博士は超対称性や超弦理論については触れていなかった。それどころか素粒子実験によって「宇宙の誕生の瞬間を解明する」とか「余剰次元の証拠を見つける」などという誤解を招きかねない説明を慎むべきだと書いている。過去の地道な実験の歴史を熟知していること、予算を獲得するのがどれほど大変で慎重に事を進めなければならないかを身をもって知っているから、そのようにおっしゃるわけである。理論物理学者と実験物理学者の違いを著作を通じて知ることができた。


トランプ政権になってから科学予算が削られるというニュースを先月読んだばかりだ。素粒子物理学の予算はどうなるのだろうか?日本も科学予算が削られているそうなのでATLASKAGRAその先の計画はどうなるのだろうか?と気になっている。


翻訳のもとになった原書はこちら。

Beyond the God Particle: Leon M. Lederman, Christopher T. Hill」 (Kindle)




関連記事:

物質のすべては光: フランク・ウィルチェック
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d592b55383ccecae76959446c0292d7b

強い力と弱い力:大栗博司
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/06c3fdc3ed4e0908c75e3d7f20dd7177

「標準模型」の宇宙:ブルース・シューム
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/25297abb5d996b0c1e90b623a475d1aa

質量はどのように生まれるのか:橋本省二
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b0090a747cf0543c3b535fe175d76885

ヒッグス粒子の発見:イアン・サンプル
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/46c46f676c631634b83fb9616161ec4d

超対称性理論とは何か:小林富雄
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/365372dbf8716d6f57b67f58fbaf8722

番組告知:NHK-BS1「神の数式 完全版」全4回
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d763b4d8161efae445f37e05ab23f1e6

番組告知:NHK宇宙白熱教室(ローレンス・クラウス教授)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/fdcf3a5173e9f55fc37c9b8d85f4128b


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量子物理学の発見: レオン・レーダーマン、クリストファー・ヒル」(Kindle版



第1章:宇宙の始まりを探る旅
2012年に世界の新聞の一面を飾った「ヒッグス粒子」の発見。本書では、その発見にいたるまでの人類の歴史を、ノーベル賞量子物理学者が綴る。それは、この世界の極小の構成単位を探る旅でもあり、同時に宇宙の始まりを探る旅でもあった。

第2章:その時、ニュートン物理学は崩れた
ギリシャ以来、物質の最小の構成単位への人類の探求は、原子核とそれをまわる電子というモデルまでいきつく。しかし、1912年のある日、物理学者のニールス・ボーアは気がつく。なぜ、電子は原子核に墜落しないのか? 全く新しい物理学の誕生。

第3章:世界は右巻きか左巻きか
水の分子を鏡に写しても左右対称で変わらない。しかし、変わってしまう分子もある。例えば、われわれの世界の食べ物は右旋体の糖でできている。さてでは物理法則はどうだろうか? その対称性が破れていることを発見したのがこの本の著者だった。

第4章:相対性理論の 合法的な抜け道
エネルギーは光速の自乗にそのものの質量をかけたものに等しい。E=mc²。アインシュタインは、物質の質量はエネルギーに転換できることを示した。しかし、光に質量はないはずだ。とすれば、光はエネルギーに転換できないのか?

第5章:初めに質量あれ
宇宙が始まった時、すべてのものは無であり、質量はなかった。完全な対称性がなりたつ世界だった。その対称性が崩れ去る引き金をひいたものがいる。それが「ヒッグス粒子」だ。「ヒッグス粒子」が質量を生み出し、宇宙を生み出すことになった。

第6章:何もないところになぜ何かが生まれたのか?
ではどのようにして何もないところからヒッグス粒子が生まれ質量が生まれるのか?
10の マイナス25乗の非常に短い時間では不変と思われたエネルギー保存則がなりたたない瞬間がある。その「量子ゆらぎ」とよばれる時間のことから説明しよう。

第7章:星が生まれた痕跡
宇宙誕生時にできた原子星の内部で、炭素、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、鉄などの重い元素がつくられる。しかし、これらの元素があまねく宇宙に行き渡るためには、崩壊による解放が必要だ。その痕跡がいまもふりそそぐ「ニュートリノ」という粒子だ。

第8章:加速器は語る
著者らのフェルミ研究所は、標準理論のその先を探索する新加速器「プロジェクトX」を進めている。それは高エネルギー追求から転換してコストは抑え、膨大な数の粒子を観測して珍しい現象を探す新たなアプローチだ。

第9章:ヒッグス粒子を超えて
量子物理学はまだ道半ばだ。ヒッグス粒子は物質に質量を与えるが、それ自身の質量がどこから来るかはわかっていない。宇宙のほとんどを占める暗黒物質も検出できていない。未知の物理現象を求める実験は続く。

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