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トポロジー入門: 松本幸夫

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トポロジー入門:松本幸夫」(オンデマンド版

内容紹介:
高校数学程度の素養をもった読者にトポロジーの初歩からその基本事項をていねいに紹介した最適の入門書。論理的理解と直観的理解が並行して進むよう、親切な工夫が凝らしてある。章末に練習問題,巻末に解答を付す。1985年刊行、308ページ。

著者について:
松本幸夫(まつもとゆきお)
1944年、埼玉県生まれ。東京大学理学部数学科卒業(1967)、学習院大学教授、東京大学名誉教授。日本数学会弥永賞受賞。
ホームページ: 
http://www.math.gakushuin.ac.jp/Staff/matsumoto_pr.html
インタビューのページ:
http://www.gakushuin.ac.jp/univ/sci/top/kagakusanpo/matsumoto/matsumoto.html


理数系書籍のレビュー記事は本書で283冊目。

本書は5年ほど前に5000円ほどで購入していてそのまま手つかずになっていた。いま中古価格を見ると1万円を超えていることに驚いたがオンデマンド版がでているので品切れになることはない。とはいえオンデマンド版は8千円以上する。それだけ人気が高い名著だということなのだ。

トポロジー(位相幾何学)の本は「トポロジー とね日記でGoogle検索」すればわかるように、これまでたくさんの本を読んで紹介してきた。けれどもそれらはすべて数学の教科書ではない教養書であり「証明」はあまり重視されていない。教科書として読んだのはこれが最初の本である。いつか読みたいと思いつつそのままになっていたのだ。本は読まなければただの紙である。

表題は「トポロジー入門」。しかし証明をかなり厳密にしているスタイルをとっているので扱っているテーマは「ホモトピー」に限られている。「ホモトピーって何?」という段階の方は本書を読むのはきついと思う。もっと易しい入門書、たとえば次の4冊をまず読んだほうがよい。特に最初の2冊が初心者向け。

「トポロジー万華鏡〈1〉:小竹義朗、瀬山士郎、村上斉」(紹介記事
「トポロジー万華鏡〈2〉:玉野研一、深石博夫、根上生也」(紹介記事
「トポロジーの世界: 野口廣」(紹介記事
「トポロジー―基礎と方法: 野口廣」(紹介記事


また本書と同じく厳密な証明を含んだレベルの教科書で「ホモロジー」を学びたいののであれば次の本をお勧めする。これも名著なので近いうちに読みたい。

「トポロジー:田村一郎」(オリジナル版)(オンデマンド版


前置きが長くなったが「トポロジー入門:松本幸夫」の紹介を始めよう。

本書は9月上旬に読み始めた。Amazonの内容紹介では「高校数学程度の素養をもった読者に」と書かれていたので「シルバーウィークの終わりまでには読めるだろう。」とたかをくくっていたのだが、そうは問屋が卸さなかった。章立ては次のとおりなのだが、すらすら読めたのは第4章の基本群まで。シルバーウィークが始まった頃に第5章を読み始めたのだが5日間の休暇中読みふけっていたにもかかわらず付録Bを読み終えたのが昨夜のこと。第5章と第6章はページ数もあり、難儀だった。(優秀な)高校生が読めるのは第4章までだというのが僕の持った感触だ。

第1章:空間と連続写像
第2章:位相
第3章:連結性
第4章:基本群
第5章:ファンカンペンの定理
第6章:いくつかの応用
付録A:距離空間について、点列によるコンパクト性と開被覆による定義とが同等なことの証明
付録B:まつわり数

第1章から第4章までは位相や位相空間、連結性、群論の入門書など現代数学の入門領域をとても分かり易く教えている。僕はこれらを他の本で学んでいるので、効率的な復習になった。本書全体に通じて言えることだが、定理の紹介や証明など難しい部分と図示やたとえ話、具体的な例をもちだした直観的な解説が交互にバランス良く書かれているのが特長だ。

第4章の「基本群」を理解するのがトポロジー(ホモトピー理論)の第1歩である。コーヒーカップとドーナツが同じだとみなすのがトポロジーだというのはよく聞く話だと思うが。トポロジーは物や空間の「形」を研究するのが目的だ。「形」を数のパターンや穴の数やオイラー数など「位相不変量」と呼ばれる「空間や物体の形を特徴づける数」であらわし、実際に見たり触ったりできない状況でもその形をあらわし、他の人に伝えることができる手法なのである。「数のパターン」というのが「群論」であり、基本群というのはそれぞれの形に対応している群のことだ。

たとえば正方形や三角形、円の形をした2次元の面の基本群は「e」とよばれる群の単位元そのものでり、1次元の円周(つまり円環)の基本群は加法群「Z」である。加法群Zとはつまり整数のことだ。これは1次元の円周にホモトピー理論ではひもを巻きつけるとき、右回りに巻ける回数が1、2、3...と正の整数であることに対応し、左周りに巻ける回数が-1、-2、-3と負の整数にであることに対応していることを意味している。

自分は目が見えるし手も使えるから形なんてそんな難しいことをやらなくてもと思うかもしれない。けれども超弦理論の余剰次元はコンパクトに丸められた6次元空間で、私たちには見ることも触ることも、そしてその形を想像することすらできない。このような状況で形をあらわす有効な手段となるのが基本群であり、トポロジーである。先日の朝日カルチャーセンターの講座で大栗博司先生は「カラビ・ヤウ空間は計量が定義できないので距離すらわからない。」とおっしゃっていた。距離を気にしないのがトポロジーである。「形」という幾何学の世界を「数や群」という代数学の世界に結びつけることで何次元の形であっても私たちは理解できるようになるわけだ。

第5章で長々と厳密な形で証明するのが「ファンカンペンの定理」だ。形があるものはくっつけて複雑な形にすることができる。この定理は円環と円環をくっつけてできる8の字形のリングの基本群を表すためのものだ。円環の基本群はわかっているがそれを2つもってきてどのような計算をすれば8の字形の基本群になるのだろうか。その計算がいわゆる「融合積」と呼ばれているものになる。詳しくは本書で学ぶか、次のPDF資料を参考にしてほしい。

トポロジー(ファンカンペンの定理)
http://mathmatica.web.fc2.com/college/topology/PDF/topology05.pdf

円環を2つくっつけるのはトポロジーの世界の2歩目である。いろいろな形の物体をくっつけて基本群を求めることができるわけだが、それは第6章でたっぷり学ぶことになる。この章はページ数も多く、難しくなってきたので本当にきつかった。特に被覆空間あたりから特にきつかった。

とはいえすごく面白いと思ったのが閉曲面(閉じた2次元の面)の分類をしている箇所。どうしてそう分類されているのかは証明されていなかったけれどそれについては本が紹介されていた。「トポロジー(サイエンスライブラリ理工系の数学):加藤十吉」という本だそうである。

なんと2次元の閉曲面は3種類に分類され、第1グループは「向き付け可能」であり、第2グループは「向き付け不可能」であるという。

第1グループ)S^2またはnT^2(n≧1)

第2グループ)nP^2(n≧1)

つまり第1グループの最初のは円や正方形のような形、後のほうは種数(穴の数)がn個のトーラス(ドーナツ形の表面)のことで、第2グループは種数n個の射影平面のことである。射影平面は2次元の空間(面)あるいは物体であるが3次元空間には埋め込むことはできず4次元以上の空間にしか埋め込むことができない「2次元の形」である。

僕がなぜこれが面白いと感じたかといえば「トポロジカル宇宙(完全版):根上生也著」の記事で紹介した「サーストンの幾何化予想」(ペレルマンがもう証明してしまったので「サーストンの幾何化定理」なのもしれない)を思い出したからだ。この予想は3次元の空間の分類についてのもので、いわば上の2次元の閉曲面の場合から1つ次元を増やした世界に相当する。つまり僕らの住んでいる3次元空間のとりうる種類を述べたものだ。記事に含まれている図を見てわかるように8種類あるというのがその答だ。8種類それぞれの形の横に書かれている英数字の記号が形をあらわしている。次元を1つ上げただけで、問題はずいぶん難しくなるのだ。

このような感じで本書をなんとか最後まで読み終えることができた。


このほかにも松本先生はトポロジーの本をお書きになっている。それは次の2冊でリンクをクリックしていただあくとそれぞれの紹介記事をお読みいただける。

「トポロジーへの誘い―多様体と次元をめぐって:松本幸夫著」(紹介記事

初学者はまずこの本をお読みになるとよい。とはいえ後半は高度な話題なので、記事の上のほうで紹介した入門書4冊よりはずっと難度が高い。理解できないながらも最先端のトポロジーの不思議と凄さを垣間見ることができる小型本である。

「増補新版 4次元のトポロジー:松本幸夫」(紹介記事

大型本。初心者から専門家まで楽しめる科学教養書と教科書の中間的な本である。最先端の定理まで紹介してあるのと、証明をかなり省いて数多くの話題を提供するので、難しいと感じる方も多いだろう。今回紹介した「トポロジー入門:松本幸夫」には触れていない話題がたくさんあるので両方お読みになることをお勧めする。


お知らせ:

ところで松本先生は今月朝日カルチャーセンター新宿教室で2つの講座を教えられるそうだ。ひとつは土曜日1日(2時間)の講座でもうひとつは金曜夕方(2時間を3回)の講座である。都内近郊にお住まいの方はぜひ受講していただきたい。(僕は差し当たり土曜日の1日講座を予約しておいた。楽しみである。金曜の3回の講座は残業があるかもしれないので未定。)

「多様体」超入門:現代幾何学が解き明かす「曲がった空間」
土曜 15:30-17:30 10/10 1回:(講座詳細)(学生会員はこちら

現代幾何学入門:多様体とトポロジー
金曜 18:30-20:30 10/23~11/13 3回:(講座詳細)(学生会員はこちら
なおこちらの講座の参考書は「トポロジーへの誘い―多様体と次元をめぐって:松本幸夫著」だそうである。


関連記事:

トポロジーへの誘い―多様体と次元をめぐって:松本幸夫著
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/fc45854ef67aafbff51ce9432bd6184c

増補新版 4次元のトポロジー:松本幸夫
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/286e47e23e3dc4d1c6596d19c78720e5

多様体の基礎: 松本幸夫
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a372a9ed92d55474cdbbb707922dc353


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トポロジー入門:松本幸夫」(オンデマンド版



まえがき

第1章:空間と連続写像
- いろいろな図形
- 連続曲線
- ユークリッド空間と距離空間
- 連続写像と同相写像

第2章:位相
- 閉集合、開集合、位相空間
- コンパクト空間

第3章:連結性
- 連結性
- 弧状連結性

第4章:基本群
- 道の変形
- 群
- 基本群
- 写像のホモトピー

第5章:ファンカンペンの定理
- 自由積と融合積
- ファンカンペンの定理

第6章:いくつかの応用
- 群の表示
- 空間の工作と閉局面の基本群
- 被覆空間
- 結び目

付録A:距離空間について、点列によるコンパクト性と開被覆による定義とが同等なことの証明
付録B:まつわり数
演習問題解答

あとがき
索引

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