「少数例のまとめ方:増山元三郎」
僕が大学1年のときに必須教科だった「数理統計学」を担当されていた増山元三郎先生による教科書だ。学生時代に使っていた教科書は紛失していたので、中古で手ごろな価格のものが見つかったこともあり購入した。
増山先生は1970~88年に東京理科大学教授をされていた。1912年生まれなので先生が58歳から76歳の頃である。僕は1987年に卒業したので定年退官直前の先生に教えていただいたことになる。増山先生のご経歴は「ウィキペディアの記事」をお読みいただきたい。まったく凄い人物だったことがおわかりいただけるだろう。学生時代は数学専攻だったわけではなく東大の物理学科卒である。
購入したのは1964年初版の2分冊のもの。第1分冊は1978年の第8刷(増補改訂第1刷)で310ページ、第2分冊は1980年の第9刷(増補改訂第2刷)で428ページある。
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教科書としては医療統計学寄り、ご自身が確立に貢献された推測統計学を含めた専門的な本で「東京大学出版会の統計学シリーズ3冊」よりもはるかにレベルが高い。それは後に載せておく目次を見てもおわかりだろう。
「少数例のまとめ方」の1953年版はPDFで無料公開されている。これはまだ2巻構成になっていず、1964年版の第2分冊に対応している(僕が学生時代に購入した教科書も分冊になっていない1976年版である。)
「少数例のまとめ方(1953)」
http://ebsa.ism.ac.jp/ebooks/ebook/176
つまりこの教科書は高校数学、受験数学を終えたばかりの(そして世間を知らない)学生には読めるはずがない。先生には申し訳ないが統計学は僕の苦手教科になり、4年生の夏には就職が決まっていた状況で卒業できるかどうかを左右する運命を決める教科になっていた。ただし定期試験はごく一般的な問題だったので、先生の教科書ではなく普通の教科書や演習書で勉強してから試験に臨めばよかったと30年たった今頃になって気が付いたのは後の祭りだ。
今でもお付き合いしている同級生のI君は理科大を卒業してからスタンフォード大学で統計学を専攻した。卒業後も増山先生にはずいぶんお世話になったそうである。理科大の数学科(正確には応用数学科)の学生は当時120人ほどいて氏名の50音順にAクラスとBクラスに分かれていた。先日I君に聞いたところ彼のいたAクラスでは他の先生が統計学を担当していたので増山先生の教科書は使っていなかったという。難しいこの教科書を使っていたのは僕がいたBクラスだけだったそうだ。これもつい最近知った事実。
増山先生は2005年の夏に92歳で逝去された。葬儀で息子さんの増山明夫先生が配布した「増山元三郎伝説集」という冊子が以下に公開されている。増山元三郎先生の生い立ちから晩年まで。ご専門の事柄だけでなく、語学に堪能であったことも書かれている。このページによると7か国語で講義をすることができたそうだ。正義感が強く反骨精神にあふれたお人柄が偲ばれる。僕にとってはとても厳しい老教授で、学生だった当時は先生の生い立ちなど知るよしもなかったので、このページを読んであらためて自分の無学浅学を反省するきっかけにさせていただいた。
増山元三郎伝説集
http://www.i-younet.ne.jp/~masuyamaakio/0/mo.html
増山元三郎さんを悼む(ありがままの自分日記):木田盈四郎先生のブログ
http://kida.way-nifty.com/blog/2005/08/post_027e.html
増山先生の功績のうち忘れてはならないのは「サリドマイド事件」の裁判に統計学者の立場から多大な貢献をして、薬と薬害の因果関係があることを証明したことだ。理科大で教鞭をとられるようになって間もない頃のことである。
この薬害事件については今年の2月にNHKから「薬禍の歳月~サリドマイド事件・50年~」としてアンコール放送されたので記憶している方もいることだろう。またこの事件の裁判は「地獄の日本兵」の著者である飯田進さんが団長として原告団を率いていた。この薬のために世界中で奇形児が生まれているという事実がTBSによってスクープされ、朝日新聞からも報道された。被害者の親たちは駅前に立ち、ビラを配って事件のことを社会に訴え、この裁判への賛同を求めたのである。
当時の日本にはまだ障がい者福祉の考え方はほとんど浸透していず、たとえば車椅子障がい者は家に引きこもった状態の人がほとんどだったそうだ。サリドマイド被害者の親たちが行った街頭でのビラ配りの様子はテレビや新聞で報道され、全国で障がい者に対する福祉の必要性が認識されるようになったそうだ。
「あ、そうか!障がい者も自由に外出できるのが社会の当たり前のあり方なのか。」
と多くの人が気付いたのである。サリドマイド事件や裁判の報道をきっかけにして全国に障がい者支援団体、福祉団体が生まれていった。たとえば乙武洋匡さんをはじめとする車椅子障がい者が大学に行けるようになったのも、その源に1960年~70年代に始まったこのような市民活動があったからである。
サリドマイド裁判についてはウィキペディアの記事や以下のページで概要をお読みいただけるほか、裁判の全記録がKindle書籍として(低価格で)販売されていることをこのブログ記事を書くにあたって知った。
サリドマイド事件の概要/被害の実態: 解説ページ
サリドマイド事件: 詳細解説と裁判全記録の電子書籍へのリンク Kindle版購入ページ
また増山先生は「サリドマイド―科学者の証言(1971)」という本の編者でもある。この本には増山先生が1988年に退官された後、理科大工学部で1992年から2007年まで統計学(統計科学)を教えた吉村功先生がお書きになった文章も掲載されている。当時は名古屋大学の助教授だった吉村先生は被告である大日本製薬(株)から得られたデータのみを駆使して、それらの数値が持つ意味、あるいは数値の中に潜む歪み等を徹底的に分析された。そしてその結果、同じデータを使って行われた大日本製薬(株)や一部の学者の主張は間違いであることを証明したのである。吉村先生は定年退官後の2009年に「医学・薬学・健康の統計学―理論の実用に向けて」を出版されている。
サリドマイド―科学者の証言(1971)(内容): Amazonでこの本を確認する
Amazonで増山先生の著書をすべて検索
余談:僕が卒業した年には「コンピュータの部品になりたくない学生諸君へ」という本もお書きになっていたようだ。
サリドマイド裁判では被告側(厚生省と大日本製薬)は自己に都合のよい統計データを提出していたそうなので、増山先生のご尽力がなかったら原告側敗訴になっていたはずだ。
日本での被害者は309人。母親が薬を投与された期間や回数、分量はそれぞれ違うから、統計学的に因果関係を証明するのは非常に困難な人数だ。この記述によると検証に利用できたデータは100人分に満たない数であったことがわかる。増山先生の教科書の題名の「少数例の~」はそのように標本数の小さい状況でも使える方法を解説した本だという意味が込められている。原発の放射線と癌の発生との間の因果関係を知る上でも本書の価値は今でもじゅうぶんあるのだと僕は思っている。
コンピュータが処理能力の向上させたことやモバイル端末の普及で、とかくビッグデータの統計処理ばかりクローズアップされる昨今であるが、今後おきるかもしれない薬害訴訟、公害訴訟、放射線関連訴訟を思うとき、「少数例による検証」は統計学の本領が活かされるもうひとつの要であることを忘れてはならないと思うのだ。
それは上で紹介させていただいた「増山元三郎さんを悼む」という木田先生のブログ記事によると、増山先生は「精度の良い事例を集めれば、極めて僅かの対象の研究だけで、全体の支配法則を知ることができる」の大切さを述べたが、その考えは、EBM(vidence based medicin、証拠にもとずく医学)に繋がるのだという文からもわかる。
原告団を率いていた飯田進さんに僕は昨年11月にお会いすることができた。飯田さんはもちろん増山先生のことをご存知である。数学のことはあまりご存知ないと思ったので、裁判でご尽力いただいた増山先生のご専門のあらましと僕自身が学生時代に増山先生から4年間もご指導いただいたこと(つまり3回落第してしまったこと)を報告させていただいた。
本は読まなければただの紙。本書は表紙を眺めているだけで自分の無学浅学を反省する材料にはなるかもしれないが。しかし先生からいただいたご恩に報いるために、普通の統計学の教科書を読んでから本書に挑戦したいと思っている。
関連記事:
無料で学べる統計学入門サイトのリンク集
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bbc07d148199e963ac8a7ec60de2e7e1
悩めるみんなの統計学入門:中西達夫
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/da51039e6f55f5d55bdd7b700f761584
高校数学でわかる統計学:竹内淳
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ba393f6500440b20dd06c66dc2b800aa
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「少数例のまとめ方:増山元三郎」
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少数例のまとめ方1
序
数値表および雑誌一覧表
演習編
基礎
- 連続分布からの確率抽出法
- 積率の累積和による計算法
- 有限母集団からの抽出と、少数例での母平均、母標準偏差の推定法
- ヒストグラムのある大標本での分位点の求め方
- 母平均を分位数を用いて推定すること
分布の型
- 正規分布のあてはめ
- 対数正規分布のあてはめ、その1
- 対数正規分布のあてはめ、その2
- 対数正規分布のあてはめ、その3
- 対数正規分布のあてはめ、その4
- 対数正規分布のあてはめ、その5
- ガンマ分布のあてはめ
- 指数分布のあてはめ
- 適合度の検定
- 母出現率の一様性、その1
- 二項分布のあてはめ
- ポワソン分布のあてはめ、その1
- ポワソン分布のあてはめ、その2
- 負の二項分布のあてはめ
- 二峰性の検定
- 混合比の推定
正規分布 - 平均
- 標本平均の求め方
- 不偏分散の求め方
- 母分散未知の場合の母平均の信頼限界
- 母分散未知の場合の母平均と規準値との比較(片側検定)
- 母分散は未知だが共通の場合の二つの母平均の差の検定(両側検定)
- 母分散は未知だが共通の場合の平均値の差の信頼限界
- 母分散は未知で異なる場合の二つの母平均の差の検定(両側検定)
- 母分散が異なる場合、標本平均の母分散を推定する方法
- 正規型棄却検定(母分散未知)
- 一元配置法、その1
- 母平均の差の検出力(片側検定)
- 二つの母平均の差の検定、簡便法
- 丸めの誤差
- 分布関数の差の検定(分布型によらないもの)
- 母平均の差の検出力(両側検定)
- 実験の大きさの定め方
正規分布 - 分散
- 母分散と規準値との比較(両側検定)
- 自由度の大きいときのFの値
- 母分散の信頼限界
- 二つの母分散の比の検定(片側検定)
- 二つの母分散の比の検定(両側検定)
- 分散比の信頼限界
- 母分散の一様性の検定、その1
- 母分散の一様性の検定、その2(簡便法)
- 母分散の一様性の検定、その3
- 分散の合成
- 線型計画
正規分布 - 回帰
- 一次回帰での係数の点推定
- 一次回帰での係数の区間推定
- 係数間に制約条件のある一次回帰
- 一次式での回帰係数の検出力
- 実験公式の求め方、その1
- 実験公式の求め方、その2
- 回帰係数の一様性
- 各点での反復階数の等しくない場合の多項式のあてはめ
- 回帰係数の誤差項からの推定
- 順位の計量化
正規分布 - 実験配置
- 一元配置法、その2
- 一元配置法での検出力
- 最大母平均の選出
- 二元配置法
- 加法性の検討
- 欠測値の推定
- 多元配置法
- 分割法
- 一部実施法
正規分布 - 相関
- 相関係数 ρ=0 の検定
- 相関係数の信頼限界
- 二つの母相関係数の比較
- 偏相関係数
標本抽出の設計(連続型)
- 逐次検定、その1
- 地点抽出
二項分布
- 母出現率と規準値との比較、その1
- 母出現率の一様性、その2
- 両平方方眼紙
- 母出現率と規準値との比較、その2
- 母出現率の信頼限界
- 標本の大きさの定め方
- 二つの母出現率の比較、その1
- 二つの母出現率の比較、その2
- 出現率の検出力
- 最尤推定
- 出現数での二元配置法
- 出現数での多元配置法
- 符号検定
- 検定結果の併合
- 出現率の差の併合検定
- 出現数の傾向線
- 出現率の傾向線
- 同じ個体での応答の変更、その1
- 同じ個体での応答の変更、その2
- 出現数の対称性
- 尤度比検定
- 逐次検定、その2
- 有限母集団の大きさの推定、その1
- 有限母集団の大きさの推定、その2
ポワソン分布
- 母出現数の一様性
- 母出現数の信頼限界
- 小出現率の比の推定
分布の型によらない手法
- 順位相関
- 順位の一致性
- 順位での不完備型配置
- 水平の連、上下の連
生物学的検定
- 数値積分法
- 確率近似法
- 上げ下げ法
- 稀釈法
少数例のまとめ方2
講義編
第1章:序論
- 統計
- 母集団
- 標識化
- 等質化
- 数量化
- 母集団の構成状態
- 母数
- 確率化
- 推計的母集団
第2章:母数
- 集合算
- 測度
- 母集団全体での平均
- 母積率
- 積率母関数
- 特性関数
- 中心極限定理
- 回帰と相関
- 平均復帰時間
第3章:統計的決定方式
- 損失関数、残念関数
- 混合方略
- ベイズ方略
- 卓越性、許容性、完全類
- 統計的決定関数
- ベイズ方式
- 最尤方式
- 十分統計量
- 分解定理
- 最小十分統計量
第4章:母数推定論
- 母数推定
- 一致性
- 不偏性、完備性
- 不変性
- 有効性
- 情報不等式、指数族
- 最尤解
- BAN推定量
- 最良不偏推定量
第5章:仮説検定論
- 仮説検定
- 単純仮説
- 最強力検定
- 棄却域の大きさ
- 複合仮説
- 検定方式のよさ
- 一様最強力検定
- 尤度比検定
- 逐次検定
第6章:分布の型
- 正規分布 N(μ,ρ^2)
- ガンマ分布 G(a,p)
- 指数分布 G(a,1)
- カイ2乗分布
- 非心カイ2乗分布
- ベータ分布 Be(a,b)
- t-分布
- 非心t-分布
- F-分布
- 非心F-分布
- 順序統計量の分布
- 超幾何分布
- 二項分布 M(n;p,q)
- ポワソン分布 Po(μ)
- 負の二項分布
- 超幾何待時間分布
- 二項待時間分布
- 対数分布
- 多変正規分布 N(m,n)
- 多項分布 M(n;p1,p2,p3,...,pk)
- 負の多項分布
第7章:回帰
- 一変数の一次式
- 二変量間の一次式
- 最小二乗法
- 直交多項式
- 必ずしも線型独立でない多変数の一次式
- 実験配置のよさ
- 交互作用
第8章:特殊な問題
- 平方距離
- 線型判別関数
- 因子分析、重心法
- 主要成分
- 母平均に関する多重判定
- 有限母集団からの抽出
- 幾何学的調査法
- 重層法の基礎方程式
付録
- 付表1:正規分布の表
- 付表2:カイ2乗分布の表
- 非心カイ2乗分布の表
- 非心F-分布の表
- スチューデント化された範囲 q の分布の表(上側)
- n log n の表(logは自然対数)
- 正規確率紙
- 対数正規確率紙
補講1
補講2
- 生化学的個体差
補表
索引
僕が大学1年のときに必須教科だった「数理統計学」を担当されていた増山元三郎先生による教科書だ。学生時代に使っていた教科書は紛失していたので、中古で手ごろな価格のものが見つかったこともあり購入した。
増山先生は1970~88年に東京理科大学教授をされていた。1912年生まれなので先生が58歳から76歳の頃である。僕は1987年に卒業したので定年退官直前の先生に教えていただいたことになる。増山先生のご経歴は「ウィキペディアの記事」をお読みいただきたい。まったく凄い人物だったことがおわかりいただけるだろう。学生時代は数学専攻だったわけではなく東大の物理学科卒である。
購入したのは1964年初版の2分冊のもの。第1分冊は1978年の第8刷(増補改訂第1刷)で310ページ、第2分冊は1980年の第9刷(増補改訂第2刷)で428ページある。
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教科書としては医療統計学寄り、ご自身が確立に貢献された推測統計学を含めた専門的な本で「東京大学出版会の統計学シリーズ3冊」よりもはるかにレベルが高い。それは後に載せておく目次を見てもおわかりだろう。
「少数例のまとめ方」の1953年版はPDFで無料公開されている。これはまだ2巻構成になっていず、1964年版の第2分冊に対応している(僕が学生時代に購入した教科書も分冊になっていない1976年版である。)
「少数例のまとめ方(1953)」
http://ebsa.ism.ac.jp/ebooks/ebook/176
つまりこの教科書は高校数学、受験数学を終えたばかりの(そして世間を知らない)学生には読めるはずがない。先生には申し訳ないが統計学は僕の苦手教科になり、4年生の夏には就職が決まっていた状況で卒業できるかどうかを左右する運命を決める教科になっていた。ただし定期試験はごく一般的な問題だったので、先生の教科書ではなく普通の教科書や演習書で勉強してから試験に臨めばよかったと30年たった今頃になって気が付いたのは後の祭りだ。
今でもお付き合いしている同級生のI君は理科大を卒業してからスタンフォード大学で統計学を専攻した。卒業後も増山先生にはずいぶんお世話になったそうである。理科大の数学科(正確には応用数学科)の学生は当時120人ほどいて氏名の50音順にAクラスとBクラスに分かれていた。先日I君に聞いたところ彼のいたAクラスでは他の先生が統計学を担当していたので増山先生の教科書は使っていなかったという。難しいこの教科書を使っていたのは僕がいたBクラスだけだったそうだ。これもつい最近知った事実。
増山先生は2005年の夏に92歳で逝去された。葬儀で息子さんの増山明夫先生が配布した「増山元三郎伝説集」という冊子が以下に公開されている。増山元三郎先生の生い立ちから晩年まで。ご専門の事柄だけでなく、語学に堪能であったことも書かれている。このページによると7か国語で講義をすることができたそうだ。正義感が強く反骨精神にあふれたお人柄が偲ばれる。僕にとってはとても厳しい老教授で、学生だった当時は先生の生い立ちなど知るよしもなかったので、このページを読んであらためて自分の無学浅学を反省するきっかけにさせていただいた。
増山元三郎伝説集
http://www.i-younet.ne.jp/~masuyamaakio/0/mo.html
増山元三郎さんを悼む(ありがままの自分日記):木田盈四郎先生のブログ
http://kida.way-nifty.com/blog/2005/08/post_027e.html
増山先生の功績のうち忘れてはならないのは「サリドマイド事件」の裁判に統計学者の立場から多大な貢献をして、薬と薬害の因果関係があることを証明したことだ。理科大で教鞭をとられるようになって間もない頃のことである。
この薬害事件については今年の2月にNHKから「薬禍の歳月~サリドマイド事件・50年~」としてアンコール放送されたので記憶している方もいることだろう。またこの事件の裁判は「地獄の日本兵」の著者である飯田進さんが団長として原告団を率いていた。この薬のために世界中で奇形児が生まれているという事実がTBSによってスクープされ、朝日新聞からも報道された。被害者の親たちは駅前に立ち、ビラを配って事件のことを社会に訴え、この裁判への賛同を求めたのである。
当時の日本にはまだ障がい者福祉の考え方はほとんど浸透していず、たとえば車椅子障がい者は家に引きこもった状態の人がほとんどだったそうだ。サリドマイド被害者の親たちが行った街頭でのビラ配りの様子はテレビや新聞で報道され、全国で障がい者に対する福祉の必要性が認識されるようになったそうだ。
「あ、そうか!障がい者も自由に外出できるのが社会の当たり前のあり方なのか。」
と多くの人が気付いたのである。サリドマイド事件や裁判の報道をきっかけにして全国に障がい者支援団体、福祉団体が生まれていった。たとえば乙武洋匡さんをはじめとする車椅子障がい者が大学に行けるようになったのも、その源に1960年~70年代に始まったこのような市民活動があったからである。
サリドマイド裁判についてはウィキペディアの記事や以下のページで概要をお読みいただけるほか、裁判の全記録がKindle書籍として(低価格で)販売されていることをこのブログ記事を書くにあたって知った。
サリドマイド事件の概要/被害の実態: 解説ページ
サリドマイド事件: 詳細解説と裁判全記録の電子書籍へのリンク Kindle版購入ページ
また増山先生は「サリドマイド―科学者の証言(1971)」という本の編者でもある。この本には増山先生が1988年に退官された後、理科大工学部で1992年から2007年まで統計学(統計科学)を教えた吉村功先生がお書きになった文章も掲載されている。当時は名古屋大学の助教授だった吉村先生は被告である大日本製薬(株)から得られたデータのみを駆使して、それらの数値が持つ意味、あるいは数値の中に潜む歪み等を徹底的に分析された。そしてその結果、同じデータを使って行われた大日本製薬(株)や一部の学者の主張は間違いであることを証明したのである。吉村先生は定年退官後の2009年に「医学・薬学・健康の統計学―理論の実用に向けて」を出版されている。
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余談:僕が卒業した年には「コンピュータの部品になりたくない学生諸君へ」という本もお書きになっていたようだ。
サリドマイド裁判では被告側(厚生省と大日本製薬)は自己に都合のよい統計データを提出していたそうなので、増山先生のご尽力がなかったら原告側敗訴になっていたはずだ。
日本での被害者は309人。母親が薬を投与された期間や回数、分量はそれぞれ違うから、統計学的に因果関係を証明するのは非常に困難な人数だ。この記述によると検証に利用できたデータは100人分に満たない数であったことがわかる。増山先生の教科書の題名の「少数例の~」はそのように標本数の小さい状況でも使える方法を解説した本だという意味が込められている。原発の放射線と癌の発生との間の因果関係を知る上でも本書の価値は今でもじゅうぶんあるのだと僕は思っている。
コンピュータが処理能力の向上させたことやモバイル端末の普及で、とかくビッグデータの統計処理ばかりクローズアップされる昨今であるが、今後おきるかもしれない薬害訴訟、公害訴訟、放射線関連訴訟を思うとき、「少数例による検証」は統計学の本領が活かされるもうひとつの要であることを忘れてはならないと思うのだ。
それは上で紹介させていただいた「増山元三郎さんを悼む」という木田先生のブログ記事によると、増山先生は「精度の良い事例を集めれば、極めて僅かの対象の研究だけで、全体の支配法則を知ることができる」の大切さを述べたが、その考えは、EBM(vidence based medicin、証拠にもとずく医学)に繋がるのだという文からもわかる。
原告団を率いていた飯田進さんに僕は昨年11月にお会いすることができた。飯田さんはもちろん増山先生のことをご存知である。数学のことはあまりご存知ないと思ったので、裁判でご尽力いただいた増山先生のご専門のあらましと僕自身が学生時代に増山先生から4年間もご指導いただいたこと(つまり3回落第してしまったこと)を報告させていただいた。
本は読まなければただの紙。本書は表紙を眺めているだけで自分の無学浅学を反省する材料にはなるかもしれないが。しかし先生からいただいたご恩に報いるために、普通の統計学の教科書を読んでから本書に挑戦したいと思っている。
関連記事:
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高校数学でわかる統計学:竹内淳
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少数例のまとめ方1
序
数値表および雑誌一覧表
演習編
基礎
- 連続分布からの確率抽出法
- 積率の累積和による計算法
- 有限母集団からの抽出と、少数例での母平均、母標準偏差の推定法
- ヒストグラムのある大標本での分位点の求め方
- 母平均を分位数を用いて推定すること
分布の型
- 正規分布のあてはめ
- 対数正規分布のあてはめ、その1
- 対数正規分布のあてはめ、その2
- 対数正規分布のあてはめ、その3
- 対数正規分布のあてはめ、その4
- 対数正規分布のあてはめ、その5
- ガンマ分布のあてはめ
- 指数分布のあてはめ
- 適合度の検定
- 母出現率の一様性、その1
- 二項分布のあてはめ
- ポワソン分布のあてはめ、その1
- ポワソン分布のあてはめ、その2
- 負の二項分布のあてはめ
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- 混合比の推定
正規分布 - 平均
- 標本平均の求め方
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- 母分散未知の場合の母平均と規準値との比較(片側検定)
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- 母分散は未知だが共通の場合の平均値の差の信頼限界
- 母分散は未知で異なる場合の二つの母平均の差の検定(両側検定)
- 母分散が異なる場合、標本平均の母分散を推定する方法
- 正規型棄却検定(母分散未知)
- 一元配置法、その1
- 母平均の差の検出力(片側検定)
- 二つの母平均の差の検定、簡便法
- 丸めの誤差
- 分布関数の差の検定(分布型によらないもの)
- 母平均の差の検出力(両側検定)
- 実験の大きさの定め方
正規分布 - 分散
- 母分散と規準値との比較(両側検定)
- 自由度の大きいときのFの値
- 母分散の信頼限界
- 二つの母分散の比の検定(片側検定)
- 二つの母分散の比の検定(両側検定)
- 分散比の信頼限界
- 母分散の一様性の検定、その1
- 母分散の一様性の検定、その2(簡便法)
- 母分散の一様性の検定、その3
- 分散の合成
- 線型計画
正規分布 - 回帰
- 一次回帰での係数の点推定
- 一次回帰での係数の区間推定
- 係数間に制約条件のある一次回帰
- 一次式での回帰係数の検出力
- 実験公式の求め方、その1
- 実験公式の求め方、その2
- 回帰係数の一様性
- 各点での反復階数の等しくない場合の多項式のあてはめ
- 回帰係数の誤差項からの推定
- 順位の計量化
正規分布 - 実験配置
- 一元配置法、その2
- 一元配置法での検出力
- 最大母平均の選出
- 二元配置法
- 加法性の検討
- 欠測値の推定
- 多元配置法
- 分割法
- 一部実施法
正規分布 - 相関
- 相関係数 ρ=0 の検定
- 相関係数の信頼限界
- 二つの母相関係数の比較
- 偏相関係数
標本抽出の設計(連続型)
- 逐次検定、その1
- 地点抽出
二項分布
- 母出現率と規準値との比較、その1
- 母出現率の一様性、その2
- 両平方方眼紙
- 母出現率と規準値との比較、その2
- 母出現率の信頼限界
- 標本の大きさの定め方
- 二つの母出現率の比較、その1
- 二つの母出現率の比較、その2
- 出現率の検出力
- 最尤推定
- 出現数での二元配置法
- 出現数での多元配置法
- 符号検定
- 検定結果の併合
- 出現率の差の併合検定
- 出現数の傾向線
- 出現率の傾向線
- 同じ個体での応答の変更、その1
- 同じ個体での応答の変更、その2
- 出現数の対称性
- 尤度比検定
- 逐次検定、その2
- 有限母集団の大きさの推定、その1
- 有限母集団の大きさの推定、その2
ポワソン分布
- 母出現数の一様性
- 母出現数の信頼限界
- 小出現率の比の推定
分布の型によらない手法
- 順位相関
- 順位の一致性
- 順位での不完備型配置
- 水平の連、上下の連
生物学的検定
- 数値積分法
- 確率近似法
- 上げ下げ法
- 稀釈法
少数例のまとめ方2
講義編
第1章:序論
- 統計
- 母集団
- 標識化
- 等質化
- 数量化
- 母集団の構成状態
- 母数
- 確率化
- 推計的母集団
第2章:母数
- 集合算
- 測度
- 母集団全体での平均
- 母積率
- 積率母関数
- 特性関数
- 中心極限定理
- 回帰と相関
- 平均復帰時間
第3章:統計的決定方式
- 損失関数、残念関数
- 混合方略
- ベイズ方略
- 卓越性、許容性、完全類
- 統計的決定関数
- ベイズ方式
- 最尤方式
- 十分統計量
- 分解定理
- 最小十分統計量
第4章:母数推定論
- 母数推定
- 一致性
- 不偏性、完備性
- 不変性
- 有効性
- 情報不等式、指数族
- 最尤解
- BAN推定量
- 最良不偏推定量
第5章:仮説検定論
- 仮説検定
- 単純仮説
- 最強力検定
- 棄却域の大きさ
- 複合仮説
- 検定方式のよさ
- 一様最強力検定
- 尤度比検定
- 逐次検定
第6章:分布の型
- 正規分布 N(μ,ρ^2)
- ガンマ分布 G(a,p)
- 指数分布 G(a,1)
- カイ2乗分布
- 非心カイ2乗分布
- ベータ分布 Be(a,b)
- t-分布
- 非心t-分布
- F-分布
- 非心F-分布
- 順序統計量の分布
- 超幾何分布
- 二項分布 M(n;p,q)
- ポワソン分布 Po(μ)
- 負の二項分布
- 超幾何待時間分布
- 二項待時間分布
- 対数分布
- 多変正規分布 N(m,n)
- 多項分布 M(n;p1,p2,p3,...,pk)
- 負の多項分布
第7章:回帰
- 一変数の一次式
- 二変量間の一次式
- 最小二乗法
- 直交多項式
- 必ずしも線型独立でない多変数の一次式
- 実験配置のよさ
- 交互作用
第8章:特殊な問題
- 平方距離
- 線型判別関数
- 因子分析、重心法
- 主要成分
- 母平均に関する多重判定
- 有限母集団からの抽出
- 幾何学的調査法
- 重層法の基礎方程式
付録
- 付表1:正規分布の表
- 付表2:カイ2乗分布の表
- 非心カイ2乗分布の表
- 非心F-分布の表
- スチューデント化された範囲 q の分布の表(上側)
- n log n の表(logは自然対数)
- 正規確率紙
- 対数正規確率紙
補講1
補講2
- 生化学的個体差
補表
索引