「超ひも理論をパパに習ってみた 天才物理学者・浪速阪教授の70分講義:橋本幸士」(Kindle版)
内容紹介:
平凡な女子高生・美咲のパパは、なんと超ひも理論が専門の天才物理学者(そして関西人)。「理解のカギは『異次元空間』や!」と最先端物理学を嬉々として語りだすパパに、美咲は最初辟易するが…!? 物理ファン垂涎の名講義、堂々開講! 2015年2月刊行、160ページ。
著者について:
橋本幸士(はしもとこうじ)
ホームページ: http://kabuto.phys.sci.osaka-u.ac.jp/~koji/youkoso.html
1973年生まれ、大阪育ち。1995年京都大学理学部卒業、2000年京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。サンタバーバラ理論物理学研究所、東京大学、理化学研究所などを経て、現在、大阪大学大学院理学研究科教授。専門は理論物理学、弦理論。著書に『Dブレーン 超弦理論の高次元物体が描く世界像』(東京大学出版会)がある。Twitterアカウントは@hashimotostring
理数系書籍のレビュー記事は本書で273冊目。
「同じような時期に物理学者の橋本先生も娘さんのために本をお書きになったのか!」これが本書の第一印象だった。先日、大栗先生が娘さんのためにお書きになった「数学の言葉で世界を見たら: 大栗博司」を紹介したばかりだ。たまたまなのだろうなぁと思いつつ、あまりのタイミングのよさが僕には可笑しかった。そして男親にとって娘というのは特別な存在なんだろうなと。
大栗先生と同じく本書の著者の橋本幸士先生も超弦理論を研究されている。一般向けの本として「大栗先生の超弦理論入門:大栗博司」の評判がすでに定着しているので、同じ超弦理論をテーマにどのようなことを橋本先生はお書きになったのだろう?僕の興味はその1点に集中していた。
本書の章立ては次のとおりだ。
【予習】 異次元パパ
【第0講義】 一日10分で異次元がわかる、ってウマい話
【第1講義】 陽子の謎と、1億円
【第2講義】 異次元が見えていないワケ
【第3講義】 空間の次元を力で数えよう
【第4講義】 陽子の兄弟が多すぎる、という謎
【休憩】 科学者の世界を覗いてみた
【第5講義】 異次元を使って陽子の兄弟を説明する
【第6講義】 超ひも理論によると「次元はまやかし」!
【第7講義】 陽子の謎とブラックホール
【復習】 結局、異次元はあるんでも無いんでも、ない
第0講義から第7講義はそれぞれ中身が次の3つの部分に分かれている。
1)橋本先生こと浪速阪教授と娘さんの対話形式で進む部分:この部分がいちばんやさしい。娘さんの日記として書かれている。
2)浪速阪教授の日記:教授の仕事日記である。物理学者の研究生活の様子がよくわかる。
3)「おまけの異次元」と題した中級者向けの解説: 数式も遠慮なく使った解説。
物理学をほとんど理解していない読者は1)の部分だけ読んでもよいし、大学で物理学を専攻している学生くらいの知識があっても3)の部分はじゅうぶんためになるのだ。
「高校生の娘に書いた」と銘打っているわりに対象読者はかなり広いレベルをカバーしている。これまでにない科学教養書のスタイルだと僕は思った。
本書は全部で160ページ。すぐ読めてしまう分量だ。だとするとあらましだけを紹介するにしても、超ひも理論の歴史や理論全体をカバーするのは無理というもの。いったいどの部分にフォーカスを当てるのだろう?一部分だけ紹介しても理論の必然性がわかりにくくなってしまいがちだ。そのように思いながら読み進める。
橋本先生の娘さん(名前は美咲さん)は高校で物理を学んでいるそうなので理数系だ。とはいえ父親がふだんどんな仕事をしているのかは理解できていない。学校で「異次元」のことが話題になり、それはSFの世界だと思っていたのに実はそうではないらしい。そんなことを父から聞いて唖然とする。これがきっかけで親子による物理学講義が始まったのだ。
NHKの「神の数式」でも紹介されたこの「異次元」は「余剰次元」とも呼ばれ、超ひも理論では実際に存在するとされる多次元空間である。
橋本先生(浪速阪教授)は娘さんに「7日間かけて教える。」と約束し、次のようにきちんとした筋道をたどって説明が繰り広げられる。
- 異次元のこと、陽子をはじめクォークなど素粒子の話、
- 素粒子の質量は一般常識では考えられられないほど不思議なからくりで計算されること
- なぜ陽子や中間子は兄弟のようにたくさんの種類があるのか、
- クォークの基礎方程式について、
- グルーオンについて
- ファインマン図
- マルダセナのホログラフィー理論、マルダセナ予想
- 超ひも理論
- ブレーン
- ブラックホールと超ひも理論の関係
- 重イオン衝突の実験
中級者向けの部分で、特によかったと思えたのは次のような事柄だった。今後、専門の教科書で学ぶ際に大いに助けとなりそうだと思った。
- ミレニアム問題のひとつ「量子ヤン-ミルズ問題の数学的な定式化と質量ギャップの存在」について詳しく解説されていること。
- 異次元空間(多次元空間)での力の伝わり方についての解説。
- ヒッグス機構により質量が生じることを、比較的シンプルな数式を使って説明している箇所。
- 超弦理論と量子重力、超弦理論のモジュラー不変性についての解説。
- マルダセナ予想の応用例:マルダセナ予想を詳しく解説しているだけでなく、その応用例、たとえばクォークとグルーオンの理論、物性物理、量子情報理論など今後の研究の方向性が紹介されている。マルダセナ予想とは「AdS/CFT対応」のことだ。
紹介されている数式は物理学科の学生ならば理解できるレベルのもので、込み入った数式の導出はないので安心して読むことができる。
「大栗先生の超弦理論入門:大栗博司」と内容が重複しているところは少ししかないので、大栗先生の本をお読みになった方でもじゅうぶん楽しめるし、超弦理論への知見を大きく広げることができる本なのだ。
ページ数が少ないにもかかわらず、得るものがきわめて多い良書である。ぜひお読みいただきたい。
関連記事:
Dブレーン―超弦理論の高次元物体が描く世界像:橋本幸士
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e18ed1e00f1c877cf3e7926a564f01ae
大栗先生の超弦理論入門:大栗博司
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/75dfba6307d01a5d522d174ea3e13863
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「超ひも理論をパパに習ってみた 天才物理学者・浪速阪教授の70分講義:橋本幸士」(Kindle版)
【予習】 異次元パパ
【第0講義】 一日10分で異次元がわかる、ってウマい話
【第1講義】 陽子の謎と、1億円
【第2講義】 異次元が見えていないワケ
【第3講義】 空間の次元を力で数えよう
【第4講義】 陽子の兄弟が多すぎる、という謎
【休憩】 科学者の世界を覗いてみた
【第5講義】 異次元を使って陽子の兄弟を説明する
【第6講義】 超ひも理論によると「次元はまやかし」!
【第7講義】 陽子の謎とブラックホール
【復習】 結局、異次元はあるんでも無いんでも、ない
おわりに
内容紹介:
平凡な女子高生・美咲のパパは、なんと超ひも理論が専門の天才物理学者(そして関西人)。「理解のカギは『異次元空間』や!」と最先端物理学を嬉々として語りだすパパに、美咲は最初辟易するが…!? 物理ファン垂涎の名講義、堂々開講! 2015年2月刊行、160ページ。
著者について:
橋本幸士(はしもとこうじ)
ホームページ: http://kabuto.phys.sci.osaka-u.ac.jp/~koji/youkoso.html
1973年生まれ、大阪育ち。1995年京都大学理学部卒業、2000年京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。サンタバーバラ理論物理学研究所、東京大学、理化学研究所などを経て、現在、大阪大学大学院理学研究科教授。専門は理論物理学、弦理論。著書に『Dブレーン 超弦理論の高次元物体が描く世界像』(東京大学出版会)がある。Twitterアカウントは@hashimotostring
理数系書籍のレビュー記事は本書で273冊目。
「同じような時期に物理学者の橋本先生も娘さんのために本をお書きになったのか!」これが本書の第一印象だった。先日、大栗先生が娘さんのためにお書きになった「数学の言葉で世界を見たら: 大栗博司」を紹介したばかりだ。たまたまなのだろうなぁと思いつつ、あまりのタイミングのよさが僕には可笑しかった。そして男親にとって娘というのは特別な存在なんだろうなと。
大栗先生と同じく本書の著者の橋本幸士先生も超弦理論を研究されている。一般向けの本として「大栗先生の超弦理論入門:大栗博司」の評判がすでに定着しているので、同じ超弦理論をテーマにどのようなことを橋本先生はお書きになったのだろう?僕の興味はその1点に集中していた。
本書の章立ては次のとおりだ。
【予習】 異次元パパ
【第0講義】 一日10分で異次元がわかる、ってウマい話
【第1講義】 陽子の謎と、1億円
【第2講義】 異次元が見えていないワケ
【第3講義】 空間の次元を力で数えよう
【第4講義】 陽子の兄弟が多すぎる、という謎
【休憩】 科学者の世界を覗いてみた
【第5講義】 異次元を使って陽子の兄弟を説明する
【第6講義】 超ひも理論によると「次元はまやかし」!
【第7講義】 陽子の謎とブラックホール
【復習】 結局、異次元はあるんでも無いんでも、ない
第0講義から第7講義はそれぞれ中身が次の3つの部分に分かれている。
1)橋本先生こと浪速阪教授と娘さんの対話形式で進む部分:この部分がいちばんやさしい。娘さんの日記として書かれている。
2)浪速阪教授の日記:教授の仕事日記である。物理学者の研究生活の様子がよくわかる。
3)「おまけの異次元」と題した中級者向けの解説: 数式も遠慮なく使った解説。
物理学をほとんど理解していない読者は1)の部分だけ読んでもよいし、大学で物理学を専攻している学生くらいの知識があっても3)の部分はじゅうぶんためになるのだ。
「高校生の娘に書いた」と銘打っているわりに対象読者はかなり広いレベルをカバーしている。これまでにない科学教養書のスタイルだと僕は思った。
本書は全部で160ページ。すぐ読めてしまう分量だ。だとするとあらましだけを紹介するにしても、超ひも理論の歴史や理論全体をカバーするのは無理というもの。いったいどの部分にフォーカスを当てるのだろう?一部分だけ紹介しても理論の必然性がわかりにくくなってしまいがちだ。そのように思いながら読み進める。
橋本先生の娘さん(名前は美咲さん)は高校で物理を学んでいるそうなので理数系だ。とはいえ父親がふだんどんな仕事をしているのかは理解できていない。学校で「異次元」のことが話題になり、それはSFの世界だと思っていたのに実はそうではないらしい。そんなことを父から聞いて唖然とする。これがきっかけで親子による物理学講義が始まったのだ。
NHKの「神の数式」でも紹介されたこの「異次元」は「余剰次元」とも呼ばれ、超ひも理論では実際に存在するとされる多次元空間である。
橋本先生(浪速阪教授)は娘さんに「7日間かけて教える。」と約束し、次のようにきちんとした筋道をたどって説明が繰り広げられる。
- 異次元のこと、陽子をはじめクォークなど素粒子の話、
- 素粒子の質量は一般常識では考えられられないほど不思議なからくりで計算されること
- なぜ陽子や中間子は兄弟のようにたくさんの種類があるのか、
- クォークの基礎方程式について、
- グルーオンについて
- ファインマン図
- マルダセナのホログラフィー理論、マルダセナ予想
- 超ひも理論
- ブレーン
- ブラックホールと超ひも理論の関係
- 重イオン衝突の実験
中級者向けの部分で、特によかったと思えたのは次のような事柄だった。今後、専門の教科書で学ぶ際に大いに助けとなりそうだと思った。
- ミレニアム問題のひとつ「量子ヤン-ミルズ問題の数学的な定式化と質量ギャップの存在」について詳しく解説されていること。
- 異次元空間(多次元空間)での力の伝わり方についての解説。
- ヒッグス機構により質量が生じることを、比較的シンプルな数式を使って説明している箇所。
- 超弦理論と量子重力、超弦理論のモジュラー不変性についての解説。
- マルダセナ予想の応用例:マルダセナ予想を詳しく解説しているだけでなく、その応用例、たとえばクォークとグルーオンの理論、物性物理、量子情報理論など今後の研究の方向性が紹介されている。マルダセナ予想とは「AdS/CFT対応」のことだ。
紹介されている数式は物理学科の学生ならば理解できるレベルのもので、込み入った数式の導出はないので安心して読むことができる。
「大栗先生の超弦理論入門:大栗博司」と内容が重複しているところは少ししかないので、大栗先生の本をお読みになった方でもじゅうぶん楽しめるし、超弦理論への知見を大きく広げることができる本なのだ。
ページ数が少ないにもかかわらず、得るものがきわめて多い良書である。ぜひお読みいただきたい。
関連記事:
Dブレーン―超弦理論の高次元物体が描く世界像:橋本幸士
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e18ed1e00f1c877cf3e7926a564f01ae
大栗先生の超弦理論入門:大栗博司
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/75dfba6307d01a5d522d174ea3e13863
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【予習】 異次元パパ
【第0講義】 一日10分で異次元がわかる、ってウマい話
【第1講義】 陽子の謎と、1億円
【第2講義】 異次元が見えていないワケ
【第3講義】 空間の次元を力で数えよう
【第4講義】 陽子の兄弟が多すぎる、という謎
【休憩】 科学者の世界を覗いてみた
【第5講義】 異次元を使って陽子の兄弟を説明する
【第6講義】 超ひも理論によると「次元はまやかし」!
【第7講義】 陽子の謎とブラックホール
【復習】 結局、異次元はあるんでも無いんでも、ない
おわりに